(※『牡牛座のための恋愛劇場』ネタバレ)
午前七時、麦倉ナオトは公衆電話の前にいた。
何故そんなところにいるかといえば、昨日大野家のおばあちゃん、しのさんが、軽い心臓発作で病院に入院してしまったからだった。そのことをアメリカはロサンゼルスにいるしのさんの息子、つまりノリミの父親に連絡しなければならないのだが。
日本とアメリカの時差は約十一時間。今向こうは午後七時のはずで、多分ノリミの父親も家にいるだろう。
それはまあ、いい。幸いおばあちゃんの命に別状はなかった。
問題は、電話に出るだろう、ノリミの弟、もしくは父親だった。
(ノリミちゃんのお父さんと初めて話をする内容が、おばあちゃんが入院したことなんて……)
もっと別の話で話したかった、とノリミが書いてくれたロスの家の電話番号のメモ用紙を見やって考える。どんな、と聞かれたら、それはまあ色々と困るのだが。
何せ、相手は恋人の父親である。別に<お嬢さんをください>をするわけではないのだから、緊張する必要はないのだが。
「……先生……?」
そっと呼んでくる声に振り返ると、いつもより元気のない顔でノリミがナオトを見上げていた。
「パパ、なんて言ってました?」
う、と呻いてナオトは長い前髪をかきあげた。
「いやその、まだかけてないんだ……」
ノリミはちょっと笑って、
「もしかして、緊張してるんですか……? 大丈夫ですよ、そんな怖い人じゃないから……」
それじゃわたしおばーちゃんのところに戻るね、と言って病室に戻るノリミを見送って、ナオトは再び公衆電話に向き直った。
よし、と気合いを入れる。
更にひとつ大きく深呼吸して、ナオトは受話器を手に取った。
午前七時、麦倉ナオトは公衆電話の前にいた。
何故そんなところにいるかといえば、昨日大野家のおばあちゃん、しのさんが、軽い心臓発作で病院に入院してしまったからだった。そのことをアメリカはロサンゼルスにいるしのさんの息子、つまりノリミの父親に連絡しなければならないのだが。
日本とアメリカの時差は約十一時間。今向こうは午後七時のはずで、多分ノリミの父親も家にいるだろう。
それはまあ、いい。幸いおばあちゃんの命に別状はなかった。
問題は、電話に出るだろう、ノリミの弟、もしくは父親だった。
(ノリミちゃんのお父さんと初めて話をする内容が、おばあちゃんが入院したことなんて……)
もっと別の話で話したかった、とノリミが書いてくれたロスの家の電話番号のメモ用紙を見やって考える。どんな、と聞かれたら、それはまあ色々と困るのだが。
何せ、相手は恋人の父親である。別に<お嬢さんをください>をするわけではないのだから、緊張する必要はないのだが。
「……先生……?」
そっと呼んでくる声に振り返ると、いつもより元気のない顔でノリミがナオトを見上げていた。
「パパ、なんて言ってました?」
う、と呻いてナオトは長い前髪をかきあげた。
「いやその、まだかけてないんだ……」
ノリミはちょっと笑って、
「もしかして、緊張してるんですか……? 大丈夫ですよ、そんな怖い人じゃないから……」
それじゃわたしおばーちゃんのところに戻るね、と言って病室に戻るノリミを見送って、ナオトは再び公衆電話に向き直った。
よし、と気合いを入れる。
更にひとつ大きく深呼吸して、ナオトは受話器を手に取った。
麦倉×ノリミ@星座シリーズ/日向章一郎