徒然なるままに。

徒然に小話を載せたり載せなかったり。

hold up ~ (~を遅らせる)

2006年08月18日 | ゴーストハント
 カランコロン、と軽やかな音をたててドアを開けると、応接用のソファに座って読書中の人物と目があった。
「あ。ナル――」
「遅い」
「~~~っ、すみませんねえっ!」
 酌量の余地もない一言に、予想はまあ、していたんだけれど、思わず声を張り上げる。
「誠意を感じられませんね、バイトの谷山さん?」
「人身事故があって、電車が遅れたの!」
 投げやりにそう言って、麻衣は眉根をよせた。いくら厚顔不遜でナルシストで冷酷無情な奴だとは思っても、相手は上司で雇い主である。神妙に続ける。
「――遅れてすみませんでした、所長。……ナル?」
 いつもの場所に荷物を置いて振り返る。本から顔を上げた彼と再び目が合った。
「人身事故?」
「え。あ、うん。その場に居合わせた訳じゃないけど」
「――そう」
 呟いて、ナルは本を片手に立ち上がる。
「ナル?」
「麻衣」
「うん?」
「――お茶」
「はーい」