徒然なるままに。

徒然に小話を載せたり載せなかったり。

go with~ (~と調和する)

2006年03月31日 | ゴーストハント
 渋谷サイキックリサーチ、通称SPR所長の日本名渋谷一也、本名オリヴァー・デイヴィスことナルといえば、真っ先に思い浮かぶのは黒、だ。
 春だろうが秋だろうが冬だろうが、過ごしにくいことで評判の真夏の真昼でも、上から下まで黒一色。見てるこっちが暑苦しくて仕方がない。
 黒以外の服を着たナルを見たことなんて、片手にも満たない。PKを使って入院したときと、美山邸のときのパジャマと、ナルがあたしの手に『落として』いった写真の中の、ナル。
 以前は、どうして黒い服ばかり着てるんだろうって、不思議だったけど。
 今は、その理由を知っている。
 ナルが直接、そう言ったわけではないけれど。

 喪服、なのだ。
 双子の片割れ、ジーンへの。

 カチャリ、と所長室のドアが開いて、その当の本人が顔を出した。
「麻衣。お茶」
「はーい」
 言うだけ言って、奴は再び部屋に籠もってしまった。
 高価いお茶っぱで淹れても美味しく淹れても「美味しい」の一言も言わない、本当にお茶の淹れ甲斐のない奴だけど、無反応でも最初の頃よりはマシな反応だから、あたしは美味しく紅茶を淹れる。ついでに自分の分も淹れちゃおうっと。

 オフィスの給湯室は、今ではあたしの第二の城だ。お茶くみはあたしの仕事の一つだから、当然とも言える。
 ゴールデンタイムで美味しい紅茶を淹れながら、さきほどのナルの姿を思い出す。
 今日もナルは上から下まで黒一色。
 でも、写真を見る限りでは、前は黒一色って訳でもなかったんだろうな。
 そういえば、男の子って服はどうしてるんだろう。自分で選ぶのかな。でもナルがお店で自分で着る服を選んでるところって………ちょっと、想像がつかない。色は基本的に、あまり派手じゃなくて着れさえすればなんでもいいってタイプだと思うけど。
 お母さんが、買ってきてくれるのかな。一度だけ見た――というか会った、ナルのお養母さん。優しそうな人だった。それが一番ありえそうだ。ジーンと一緒に、二人仲良くナルの服を見繕って来て、それでナルは文句を言えなくて。

 ――ジーン。

 ごく当たり前に、彼の存在が思考に入り込んできている。そのことに気がついて、あたしは緩みかけていた頬が強張るのを感じた。
 夢でしか会ったことのない、現実では決して会うことのない、もういない人なのに。
 どうして当たり前のように、こんな風に思えるんだろう。
 切なさがこみ上げてきて、目を閉じた。