ひとり井戸端会議

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国籍法改正について(違憲判決の効力)

2008年11月16日 | 憲法関係
 今年6月4日、最高裁において国籍法違憲判決が出されたことにより、今国会において国籍法の改正が成立しそうだ。そこで当ブログでは数回に分けて、国籍法改正について論じていきたいと思う、まず第一回目の今回は、違憲判決の効力について述べてみたい。



 まず、国家行為の憲法適合性を判断する違憲審査制について憲法上、「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」(憲法81条)と規定されている。つまり、憲法に適合しない(違憲)と判断された国家行為は、その効力を失うのである。なお、もちろんであるが、違憲判決は下級審でも下せる。

 違憲とされた法令の効力については学説が対立しているが、通説的見解である個別的効力説によれば、違憲とされた法律は当該事件(今回の場合で言えば、このケースのみ)限って適用が制限される。ということは、別の事件において同じ法律が問題となった場合、この法律がその事件においては有効に作用することになる。

 これは、わが国の違憲審査制は、具体的事件の解決において必要な限度でのみ効力を生じさせるということを理由とする。そして、全てのケースにおいて当該法律が違憲無効となってしまえば、それはすなわち裁判所による法律の廃止と同じことになり、これは41条で国会を唯一の立法機関と定めていることに反することになる。

 次に、違憲とされた法律の取り扱いについてであるが、尊属殺重罰規定違憲判決(最高裁昭和48年4月4日)では、行政は既に裁判所に係属している尊属殺事件については普通殺人(刑法199条)として扱い、過去に尊属殺規定が適用されて服役している者については個別恩赦で刑を普通殺と同じにしたりして救済を図っている。その意味では、このような行政の行為は結果として個別効力説に反したものとなっているとも言えるはずだ。



 以上のことを踏まえて今回の国籍法改正について検討すると、尊属殺重罰規定違憲判決が出てから20年以上して、ようやく刑法から尊属殺規定(199条)が削除されたのが、判決から20年以上経過した1995年の刑法改正のときであったことを考えると、速やかな法改正であると言える。違憲判決が出された以上、国会や内閣がそれを無視し法改正を怠るようでは三権分立に反するし、これでは裁判所に違憲審査制を憲法が付与した意味がなくなってしまうため、速やかな改正は当然である。

 しかし、今回国会は最高裁の国籍法違憲判決を受けて決定的なミスを犯していると思われる。それは、読売新聞の記事にある、最高裁が「遅くとも(原告が国籍取得届を提出した)2003年当時には、婚姻要件は憲法に違反するものであった」としたため、改正案でも、2003年1月までさかのぼって婚姻要件を満たさなくても国籍取得を認めることを付則で定めることである。これは明らかに見当違いの判断だ。

 通説である個別的効力説に立てって解釈すれば、2003年の時点で違憲であったのは、〝今回問題となった親子について適用された国籍法〟であって、国籍法一般ではない。よって、2003年時点で違憲と判断されたのは国籍法一般ではなく、当該事件の原告になった親子について適用された国籍法にとどまり、2003年時点にまで遡り無効が決定したことによりその利益を受けるのは、当該親子のみとなるはずである。ところが今回の改正法では、この利益を当該親子以外にも拡大して享受させようとしているので、これは違憲審査制の趣旨からして許されない違憲判決の拡大解釈ではないだろうか。

 厳密に個別的効力説に立つならば、裁判所が「2003年当時すでに違憲であった」と判断したのを、当該事件における原告に適用された国籍法であると解釈しなければ、それは裁判所が事実上訴訟によって争っていない別の人間までも救済してしまうことになる。これはすなわち裁判所の越権行為であって、立法行為によらずして立法をなしたのと同じ効果を与えており、憲法41条の趣旨に反する。今回の判決についてはその効力の及ぶ範囲は、あくまでも当事者間にとどめるべきであった。

 違憲とされた法律等の改正は憲法を頂点とする立憲主義を採用する以上当然であるが、違憲判決の効力はあくまでもその当事者にのみ及ぶのであって、本来ならばこのような附則は不要のはずであったと思う。

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4 コメント

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弾劾・罷免 (ハイ)
2008-11-21 00:49:17
その判決を下した裁判官を辞めさせる方法を教えて下さい。
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ハイさん (管理人)
2008-11-21 02:47:32
コメントありがとうございます。

個人的には国籍法違憲判決を示した最高裁に理論上多くの問題点を感じており、それは以前にもここで述べさせてもらいましたが、違憲という判断自体は、致し方ないものだと思っています。

もし罷免をしたいのであれば、最高裁判所裁判官の国民審査(憲法79条2項)しかないですね。国民審査の目的は、裁判官のものの考え方と民意との間の齟齬を是正することにあります。そして国民審査の法的性質について判例・通説は、解職(リコール)と考えています。

もし最高裁の裁判官に不服があるのならば、次回行われる選挙のときに同時に行われる国民審査で「×」印をつけることですね。
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義務教育を受ける権利 (ハイ)
2008-11-22 00:12:37
で、今回の子だけど、不法滞在者の子供でも義務教育を受けれる法的根拠ってあるんですか?
あと公立の学校に通っていると云う事は、この子にも戸籍があり住民票があると言うことですよね?
不法滞在者の出生届を受理する義務が役場にはあるものなのですか?

特別在留許可がおり、このまま不法滞在者の娘として日本で生きていくことが本当にこの子にとって幸せなのですかね。この間のイラン人の時もそうだけど、俺なら後ろめたくてフィリピンに、まだ見ぬ母国に帰りたいと思うけどな。
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ハイさん (管理人)
2008-11-22 02:11:14
不法滞在者の子息が義務教育を受けれる権利についてですが、そのようなものが法的に保障されているということは一切聞いたことがありませんので、おそらくはないでしょう。

そうですね、日本国籍を有する父親が認知をした以上、無戸籍であるとは考えにくいですし、住民票もしくはそれに相当する何かはあるものだと推測できます(回答になっていなくてすみません)。

出生届の受理は、申請者の社会的背景まで調べて行うものではなく、単に出生届提出時における要件を具備していれば行政の側としては受理せざるを得ないのが現状ではないかと思います。

不法滞在者である以上、彼らはその時点でわが国の法を破っているのですから、何らかの制裁は受けて当然です。それを、子供が可哀そうみたいなお涙頂戴的な論調に持っていこうとする報道に姿勢にも大いに疑問を感じますし、何よりもまず、「不法に」日本に入国してきた=犯罪者、という事実を前提に置き考えていくべき問題であると思います。
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