ひとり井戸端会議

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国会での事前承認は不要

2009年04月20日 | 憲法9条
海賊法案21日修正協議入り 国会事前承認に与党難色(共同通信) - goo ニュース

 与党と民主、国民新両党は19日、ソマリア沖などでの海賊対策のため自衛隊派遣を随時可能にする海賊対処法案について、21日から修正協議に入ることを決めた。これに関連し19日のNHK番組では、民主党が自衛隊派遣をめぐり国会の事前承認を求めたのに対し、与党は応じられないとの考えを表明した。修正協議は、国会事前承認のほか、海上保安庁の位置付けなどが焦点となる。



 結論から言えば、海賊対策のための自衛隊派遣について、国家での事前承認は不要でいいと思っている。この見解に対して、投げかけられる批判は「それでは文民統制が蔑ろにされかねない」というものであろう。なので以下、この批判について応えていくことにする。



 まず、文民統制(シビリアン・コントロール)とは一言でいえば、軍事組織を議会に責任を負う文民たる大臣によってコントロールし、軍の独走を防ぐ原則のことである。民主主義国家において軍事力を有する場合、須らくどこの国もこの文民統制の原則によって、軍人ではない文民が軍の統制を行っている。

 文民統制とはこのように、文民たる大臣が軍事の統制権を掌握できていれば、基本的には作用しているといえる。したがって、自衛隊の海賊対策にあたり、内閣が国会による事前承認を経てから派遣しなくとも、文民統制の原則には何の影響も及ぼすことはない。

 だいたい、ソマリア沖の海賊対策のために自衛隊を派遣するにせよ、インド洋での補給活動のために派遣するにせよ、自衛隊のほうから内閣に頼み込んで派遣を要請することはできないし、仮にそのようなことがあっても、これを決定するのは文民で組織される内閣である。内閣がノーと言えば自衛隊がどう懇願しようと、海賊対策も給油活動もできない。この意味においても文民統制が作用していると言える。

 文民で組織される内閣が自衛隊の行動について指揮して統制する権限を有している以上、内閣の決定のみで、国会に通さず自衛隊を派遣しても、文民統制の原則からして問題になることはない。

 そして、文民統制の憲法上の根拠とされる66条2項には、「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。」と規定されているだけで、国会までも文民統制の原則に従って自衛隊を統制せよとは書いていない。あくまでも憲法が想定している文民統制とは、内閣による自衛隊の統制である。

 したがって、文民統制の主体は文民で組織される内閣であって、国会はそれを補強するに過ぎないとも読める。よって、内閣が自衛隊を派遣すると決定すれば、その決定が文民統制に反することにはならない。しかも内閣は行政権の行使について、国会に対して連帯して責任を追っている(憲法66条3項)ので、内閣の決定で自衛隊を海外派遣しても、国会も自衛隊派遣について間接的に文民統制を行えている。

 以上のことから、文民統制上、海賊対策のための自衛隊派遣は、内閣による国会での事後報告のみで足りると考える。



 次に文民統制から離れて、政治的観点から海賊対策法案への国会の事前承認盛り込みについて考えてみる。

 これについては、公明党の山口那津男政調会長が、「ねじれ国会の下、国会の事前承認に委ねられると、非常に不安定な制度になる」と懸念を示したというが、私も同感だ。「ねじれ」が解消されない状態で事前承認条項を設けても、国益のため、迅速かつ適切に自衛隊を派遣できるだろうか。

 もし現在のような議院の政党構成において事前承認条項を設けてしまったならば、社民・共産との協調を重視する民主は昔の社会党のように「反対のための反対」闘争を行うに決まっている。社民・共産などお話にならない売国政党だから(売国度でいえば、公明も変わらないが)、このような「諸悪」との協調を試みる民主と自衛隊派遣についてコンセンサスが得られるわけがなく、徒に時間が浪費され、国益が毀損されていく。

 必要なのは速やかな意思決定である。安全保障は国家の最重要課題かつ不可欠の仕事であるにもかかわらず、これにおいてでさえも党内に巣食う旧社会党系議員らに配慮して共通した認識を持てない民主が、自衛隊の海外派遣について速やかな意思決定ができるわけがない。民主が海賊対策法案において国会の事前承認をどうしても入れたいのであれば、最低でも前原氏レベルの認識を持った者で党執行部を組織することだ。



 ところで、ソマリア沖に自衛隊を派遣することに反対論を主張する人たちは、自衛隊の派遣よりもソマリアの治安改善のほうが先だという。

 しかし、現在のソマリアは、あのタリバーンと同じように過激なイスラム主義を住民に強制し、国際社会から人権侵害を再三指摘されている原理主義組織の「イスラム法廷会議」の支配下にあり、ソマリアの暫定政府を支えていた頼みのエチオピア軍も撤退している。

 しかも現在のソマリアは、1998年7月にソマリア北東部の氏族が自治宣言をし、ガローウェを首都として樹立した自治政府であるプントランドという自治政府が存在し、ここがソマリア沖の海賊の拠点となっていると言われる。国内がこのような状態のソマリアの治安改善は当面の間、望めないのではないだろうか。

 しかし、日本にとってソマリアの治安回復によってソマリア沖の船舶の航行の安全が向上するのであれば、国益に適うことである。よって、ソマリアに存在する現在の脅威から船舶を守るために自衛隊を派遣しつつ、ソマリアの治安改善のためにも行動をする。これはどちらかニ者択一の問題ではなく、並行して可能なことだ。したがって、ソマリア沖への自衛隊派遣反対のためにこのことを持ち出したところで意味はない。



 話が逸れてしまったが、文民統制の観点からも、現在の政情からも、海賊対策法に国会の事前承認条項を設ける必要はないと思われる。

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