音次郎の夏炉冬扇

思ふこと考えること感じることを、徒然なるままに綴ります。

日大サッカー部の不正乗車

2006-10-14 17:36:28 | 事件
朝、自宅に配達された産経新聞を手に取ると、目に飛び込んできたのが一面トップの「日大サッカー部」の白抜き文字。またまた性暴力事件か、さもなくは流行の飲酒運転かと思いきや、学割定期を不正取得して長期間使っていたというもので、ちょっと拍子抜けしました。いや、もちろんイケナイことなんですが・・・。京王電鉄が、調査依頼した当の日大のバックレに業を煮やした末、新聞にリークしたんでしょうね。他の大学運動部でも、同様の手口が使われていることも十分考えられるので、一罰百戒の効果を狙ったものなのかもしれません。

手口としては、さほど複雑なものではない。サッカー部の練習場のある京王相模原線・若葉台駅の近くに住んでいる学生の名義を借りて、学割定期券を不正取得していたというのです。これは地方の方にはピンと来ないかも知れませんね。都心型大学は、キャンパスは校舎だけで、グランドを併設する余裕はありませんから、運動施設は郊外にあるのです。日大はタコ足キャンパスですが、例えば法学部の学生は水道橋の校舎で授業を受けた後、練習のために若葉台まで行く時に、不正取得した「若葉台-水道橋」の定期を使っていたと。毎日のように練習場に通うのであれば、通勤定期を購入してもいいのですが、京王電鉄の学割定期は通勤定期の65%OFFという割引がありますから、少しでも節約しようとしたんでしょう。

今年の8月に部員の一人が渋谷駅で改札を強引に通り抜けようとして、駅員に取り押さえられ、そこで他人名義を含む複数の定期が出てきたことから、部ぐるみでの「不正乗車システム」が発覚した。(産経新聞)

京王電鉄から不正部員への割り増し請求額は3000万円近くに上る可能性もあり、場合によっては刑事告訴もということなので、穏やかでありません。同様の不正乗車をしていたOBにも波及する可能性もあり、岐阜県庁の裏金問題ではありませんが、慣習を疑うことなく卒業していったOBたちも、当分枕を高くして眠れないのではないでしょうか。

私にもキセル(不正)乗車には苦い思い出があります。もう20年近く前なので、若気の至りとしかいいようがないのですが、警察に連行されたことがあるのです。まだ自動改札というものがなかった時代です。

浪人時代は船橋の寮から御茶ノ水の予備校に通う毎日でした。当時、黄色い電車と呼ばれていた総武線です。普段は、自分の通う予備校の授業の予習・復習に追いまくられ、他のことをする余裕がなかったのですが、通常の授業のない夏休みだけは自分でメニューを組み立てられるのです。何せ「夏を制する者は受験を制す」ですから、実家に長期間帰省するような人はあまりいませんでした。私も実家には一度も帰らずに臨戦体制を敷き、必要な夏期講習をチョイスして、それ以外は自習の毎日でした。というわけで、8月分は定期券を買わなかったのです。

夏休みも終わろうかというある日、同じ階に住む寮生から代々木ゼミナールの古典の講座を覗きに行かないかと誘われました。私は定期がないので、都内まで出ていくのに、顔見知りの寮生から定期を借りて行くことにしました。もちろん他人の定期を使用するのは立派な犯罪ですが、下車したのが御茶ノ水駅であれば、不正はまず露見しなかったでしょうし、その後のシンジラレナイ悲劇もなかった。我々が降りたのは代々木駅でした。連れはちゃんと窓口で精算しているのに、片割れの私はそのまま待っている。いかにもアヤシイ・・・。さすがに御茶ノ水~代々木間は超過だという自覚はありましたから、どこか落ち着かない風情だったんでしょう。改札の駅員さんは、何も全員のを見るわけじゃなくて、マークした挙動不審の人だけチェックするんだそうですね。私が何食わぬ顔で、定期をかざして改札を通過しようとしたその瞬間、

ぐいっ!と右の手首を捕まれました。

「やばい」と思った私は、その手をふりほどこうとしましたが、今度はTシャツに手をかけてきました。ちょうどボールを持ったラグビー選手が、ジャージを引っ張られながら進んでいく感じです。駅員さんも必死で、上半身が改札ボックスから乗り出すような格好になりましたが、私の着ていたTシャツが、首周りだけを残してビリビリと音を立てて破れ、その瞬間、私は一目散に駆け出していました。予備校方面に行けば目立つので、線路下をくぐって千駄ヶ谷方面に向かったのですが、駅員ではないサラリーマンみたいな男が「待てー!」と叫びながら追って来るではありませんか???! じぐざぐに走ってそのリーマンをまいて、代々木裏の古い民家の密集地あたりでしばらく身を潜めていたのですが、ふと気付くと自分の出で立ちがいかにも胡散臭いことに気付きました。首のあたりに白いTシャツを僅かに残すのみの、ほぼ半裸のような格好になっています。

服の状態がこのようになっていなければ、ほとぼりが冷めるまで、しばらく隠れているか、もしくは千駄ヶ谷か新宿御苑前まで廻って、電車に乗りエスケープしたのでしょうが、この時は変質者扱いされかねない格好を、先に何とかしなくてはなりませんでした。そこで新宿のスポーツショップにでも駆け込んで、Tシャツを購入しようと明治通りにふらふらと出てしまったのがまずかったんですね。派出所の前を通り過ぎる時は、ちょっとどきどきしましたが特に何事もなく(東京は露出過多のファッションも珍しくありませんから)足は新宿方面に向かっていました。

後ろで何か声がしているので振り返ると、何と先ほど駅から私を追ってきたサラリーマンが、私を指さし「こいつです」みたいなことを言っているではありませんか!! 事件からもう20分以上経っていたのですが、なんと情熱的で正義感あふれる人がいるものでしょう。日本の治安もまだまだ捨てたもんじゃありません。

こうして派出所に連れ込まれた私は、即座に所持品を徹底的に調べられました。どうも追ってきたサラリーマンは、私を引ったくり犯かなんかと勘違いしていたようなんですね。だから執念深かったのです。自分は品行方正な予備校生のつもりでしたが、この時だけは非常にマズイものが財布に入っていました。案の定、学生証とは違う名前の定期券が出てきたときに、巡査の顔色がはっきり変わりました。

それから手錠こそかけられませんでしたが、まずは代々木駅に戻って現場検証です。運悪く午後の3時頃は、かの地のマンモス予備校から、駅に向かって大量の学生たちが吐き出されてくる時間帯です。何事かと、皆こちらを見ています。まあ、地元じゃなくて知り合いがいないからいいんですが・・・。代々木駅の駅員さんも、先ほどキセルで逃げた学生が半裸の格好で、けたたましいサイレンを鳴らしたパトカーから降りてきて、両脇を刑事に抱えられている様を見て、ぎょっとしていました。

パン1個を盗んだがために(空腹の子ども達のためですが)流転の人生を歩むことになった『ああ無情』のジャン・バルジャンではありませんが、そのまま私は四谷警察署に連行されました。余談ですが、この四谷警察署は、あの三浦和義が逮捕されたことで有名なところです。パトカーから降ろされるとき、後部座席の内側はロックされているものなんだと初めて知りました。

窃盗ではないこと、定期券の所有者が寮の同期生であることが確認されたのと、未成年なので実家の親元に連絡がついたことから、反省文と説諭で釈放されましたが、もう外は真っ暗になっていました。定期を借りた友人が、警察署まで替えの上着を持って迎えに来てくれていました。改札で離ればなれになった相棒が、「音次郎逃亡」を寮長やこの所有者にすばやく連絡して、根回しをしておいてくれたので話が早かったようです。


今日の新聞で日大サッカー部のニュースに触れて、久しぶりにこのことを思い出しました。今でも覚えているのは、取調室で私を説教した刑事さんが、強調していたこと。

「学生に特権が付与されている意味をよく考えろ」

各鉄道会社が学生に「学割」という破格のディスカウントを認めていることの意味を考えなさいということでした。特権というのは学割定期だけでなく、何か事件を起こしても警察沙汰にならずに学校に守られることなども含まれると思うのですが、

「予備校だって、最初から学割適用されたわけじゃないんだ。先人達の努力を無にするつもりか」

「君らに特典を与えるのは、学生は一生懸命勉強して、将来立派な大人になって活躍して、そこで社会に還元してもらいたいと願うからなんだよ」

これに懲りて、それからの私はキセルに手を染めることはありませんでした。やがて自動改札がほぼ全ての駅に普及したので、こういう不正はなくなったと思っていたのですが・・・。

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6 コメント

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心こそ大切ですね (鉄旅)
2006-10-14 21:13:01
音次郎さん、こんばんは。

はじめまして、鉄旅と申\します。

すごいことになってしまった経験をされているんですね。鉄旅は喫煙をお巡りさんに指摘され逃げて捕まって、交番に連れて行かれたことがありましたが。とやかく言われたくない年ごろだったのかもしれませんね。そういう問題じゃないにしても。



今回の事件の根底には「拝金主義」があるのでしょうか、それともゲーム感覚なのか?

いずれにしても生きていく上での規範や哲学の欠如が起因しているような気がしてなりません。

音次郎さんのような経験をされると、正しいことに目を向け、不正に厳然と立ち向かう生き方をされているように感じます。

一番大切なのは正邪を見抜く心だと思っています。心こそ大切だと思いませんか?

一人の人間との関わりから、すべてが始まると思います。

自分で書いていて、ちと難しくなっちゃいました。

みんなが明るく楽しく生きられる世の中にしたいですね!

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コメントありがとうございます (音次郎)
2006-10-14 21:54:55
>鉄旅さん、ありがとうございました。

拝金主義というよりも、慣習だから無自覚でやってたんでしょうね。どうせ体育会中心の生活なんでしょうから、学校と練習場の延長線上に部屋を借りれば良かったのにと思います。多摩センターとか。そうすれば通学定期で堂々と授業にも練習にも通えたと思うのですが・・・。
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ほら、そこに悪魔が。。。 (黒田哲也)
2006-10-15 00:35:07
私は学生時代、代々木上原駅というところでアルバイト駅員をしておりましたが、確かに不正している、しようとしているやつはわかりますねぇ。ご自身でもそのときのことをおもいだしていらっしゃるように、「あやしい」と顔に書いてあります。



私は仕事で記者をしていたことがありまして、裁判担当なんて時期もありましたから、犯罪者(正確には犯罪者かどうかを裁かれている人)をたくさん目の前で見てきました。



中には根っからの悪人っていう人もいないわけではないけれど、取材をした凶悪事件・著名事件の被告って、ほとんどが、見た目は普通の人でした。



どんな人の中にも悪魔がひそんでいるとでも言いましょうか。

その悪魔が私達の足を落とし穴に向けるきっかけをいろいろ作ってくれるんです。

音次郎さんは、まだ抜けられ得る落とし穴で、次は気をつけよう、もう落とし穴にははまるまいとの教訓を得られてよかったのではないでしょうか。

僕が見てきた人は、抜けることのできない落とし穴にはまった人たちばかりでしたから。



僕だっていつ落とし穴にはまってしまうかわかりません。

みんな大なり小なり自分だけは大丈夫…みたいなこと思っているんですよね。

最近問題になっている飲酒運転で事故をおこしているヤツらなんて多分にそうだと思います。

そんな大仰なことにならずとも、自動車が来ていないからといって赤信号を渡ってしまう…そんな時であれその悪魔がちょっとだけでもニヤリとしているに違いありません。
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本当にその通りです (音次郎)
2006-10-15 01:35:23
>黒田さん、いつも「暫定委員長のひとりごと」は楽しく拝読させていただいています。単に中山寮つながりでTBしただけですが、味のあるコメントをありがとうございます。



悪魔に足を絡め取られないようにしたいものです。
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学生の特権 (VEM)
2006-10-17 10:10:08
本質の部分で議論のコメントが続いているなかで、傍論にコメントをするのは野暮ですが、学生の特権って素晴らしい概念だと思います。私が学生時代に、市場原理の説明に、学生は価格弾力性が高いので学割が存在すると例に出した教授がいました。

宮内議長の規制改革で市場原理万能となり、ノブレスオブリッジが力を失いつつあるなかで、学生の特権には生き延びて欲しいと思います。
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そうなんです (音次郎)
2006-10-18 00:14:58
>VEMさん、毎度です。

決して傍論ではなく、これが言いたかったことなんです。拾っていただいて嬉しいです。ありがとうございました。
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