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ケニチのブログ

ケニチが日々のことを綴っています

宮坂宥洪「インド留学僧の記」

2020-05-14 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.宮坂宥洪・著『インド留学僧の記』.

 プーナ市へ留学した著者が,サンスクリット研究と,日々の暮らしを通して体験した,インド社会の風俗や身分制度,宗教,教育にまつわる現況を,つぶさに紹介するエッセイ集.そこでは,インドの人々が,急速な近代化の波に圧されつつもなお,質素でかつ,独特の秩序に徹底した,伝統的な生活スタイルを保っていることが語られる.その整然ながらもリアルな文体から,現地の活気と大らかな情景が手に取るように伝わってくるのは魅力.言葉の節々にどうしても,氏のインド贔屓がにじみ出ているのは,気にならないではないが.


宮坂宥洪: インド留学僧の記
人文書院,1984,
ISBN4-409-41024-5

吉見義明「買春する帝国」

2020-04-28 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.吉見義明・著『買春する帝国』.

 膨大な各記録と文献を参照しながら,帝政日本およびその植民地で,国・軍隊によって売春業がいかに「公的に」整備され,多くの女性の人権を蹂躙していったかをつぶさに紹介する,圧倒の研究報告.また,これらの制度が,国内外の批判の高まりを受けるたび,外見上の形式を取り繕うことで巧みに隠蔽され,むしろ強化・保護されていったこと,さらにはその特有の偽装体質が,戦後にも脈々と受け継がれ,一見は近代化された私たちの時代にまでも,人身売買を許容する土壌を形成していることが,併せて述べられる.資料の散逸も進んでいるであろう,これらさまざまの推移を,きわめて詳細なデータで追った一連の記述には感服するしかないが,数値や史実のみをひたすら並べた文体はいささか抑揚に乏しく,読み手は大きな流れを把握するのが難しいという一面も.


吉見義明: 買春する帝国 日本軍「慰安婦」問題の基底
岩波書店,2019,
ISBN 978-4-00-028390-8

加藤直樹「九月、東京の路上で」

2020-04-20 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.加藤直樹・著『九月、東京の路上で』.

 1923年関東大震災のさなか,現地の軍隊および警察と,流言を信じた民衆によって,在京朝鮮人らがどのような目に遭わされたかを,当時の文献・証言を引きながら,事件一つ一つの経緯にまで掘り下げて備に記録した膨大な資料集.その描写は,地図や跡地の写真を駆使し,被害者と加害者たちの職業から個人名,生い立ち,そのとき何を叫んでどのような行動に出たのかに及んでおり,まるで現場で目撃するようなリアルさだ.あまりに凄惨な内容に,休み休みに読まないと滅入ってくる.また,一連の虐殺・リンチは,非常時の過剰な防衛意識によって偶然に起こったハプニングでは決してなく,韓国併合の折から脈々と培われてきた朝鮮人への差別感情と,「三一独立運動」を始めとする彼らの抵抗姿勢への恐怖や憎悪が,一挙に噴き出した格好で人々を突き動かしたことを強調する.その間,大衆を煽情する役割を演じたマスメディアへの追及も,もちろん忘れていない.以後,東京は,私たちの国は,毎年9月1日になると臆面もなく形ばかりの「防災」のポーズを取り,過去の犯罪に目を瞑ったまま来てしまっていること,それのみならず,為政者やレイシスト団体によるヘイトスピーチの類いは後を絶たないのであり,来たるべき次の悲劇を静かな語調で警告して,大著は結ばれる.とりわけ,迫害される側から発せられた「日本人は豹変するから怖い」との訴えは,ただでさえ何を考えているのか分からない不気味なこの国の群衆のなかの,間違いなく一員である身にとって,憂鬱に響く言葉である.


加藤直樹: 九月、東京の路上で 1923年関東大震災 ジェノサイドの残響
ころから,2014,
ISBN 978-4-907239-05-3

岩本努ら「これからの天皇制と道徳教育を考える」

2020-04-15 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.岩本努&丸山重威・著『これからの天皇制と道徳教育を考える』.

 平成天皇の退位や自由な発言,大がかりな神事の実施を始め,常軌を逸しつつある近ごろの「象徴天皇制」を批判し,その源流にある戦前の天皇制政府のありようと,当時の「教育勅語」中心の学校教育が形成していった,この国の大衆のカルト的服従性,またその悲惨な結末について,改めて検討する.個々の内容に深入りしないながらも,各要点が整理された文体は読みやすく,資料も十分である.とりわけ,いま急速に導入が進められる道徳教育が持つ,「修身」の復興としての性格に,私たちは警戒しなければならない.ある研究授業で子どもがつぶやいたという,「今日は,ホントのこと言っていいんだっけ?」の一言は,すでに後戻りしがたいところまで,教室が風通しの悪い場所になっていることを表わす,危険信号だ.


岩本努,丸山重威: これからの天皇制と道徳教育を考える
あけび書房,2019,
ISBN978-4-87154-163-3

浅川千尋&有馬めぐむ「動物保護入門」

2020-04-05 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.浅川千尋&有馬めぐむ・著『動物保護入門』.

 動物保護先進国であるドイツはもちろん,近年急速に動物との共生社会を実現しつつあるギリシャを例に,動物保護の歴史や行政・民間における取組みを具体的に紹介する.ペットの流通と飼育をめぐる徹底したルール作り,畜産動物から野生動物にいたるまで,彼らの生活を最大限に改善していくことが,現代の市民社会をより豊かにするための要件であると,改めて実感される.動物に優しい社会は,そのことで十分に意味があるだけでなく,結局は人間にも優しいのだ.残念なのは,著者がいちばん言いたいはずの,日本での実態やその問題点が,終章で駆け足に指摘されるのみで,議論がやや不足であること.


浅川千尋・有馬めぐむ: 動物保護入門 ドイツとギリシャに学ぶ共生の未来
世界思想社,2018,
ISBN978-4-7907-1718-8