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ケニチのブログ

ケニチが日々のことを綴っています

小出裕章「100年後の人々へ」

2020-08-21 | 政治・社会
 先日買った本を読んだ.小出裕章・著『100年後の人々へ』.

 改めて福島の原発事故の被害の大きさを振り返る(といっても事故は今なお進行中である)とともに,戦後日本で脈々と続けられてきた原子力開発の,組織的な欺瞞・犯罪性を断じる.また,それは私たちの社会が抱える戦争の暴力や差別,貧困,国際問題などの数多くの暗部と,一繋がりのものであることが重ねて述べられる.大きな利権を取巻くコミュニティが暴走し,そのために人々を犠牲にしようというときに,科学者は,市民一人一人は,彼らにどう向き合いたたかうべきかについての,社会的あるいはヒューマニスティックな助言にも豊富である.ただし,全編は小出氏が口頭で述べたものから書き起こされたためか,平易な文体が親しみやすいいっぽうで,トピックによってはいくらか説明が足らなかったり,前後の脈絡が滑らかでないなど,一冊のまとまったレポートとしては弱点あり.


小出裕章: 100年後の人々へ
集英社,2014,
ISBN 978-08-720726-2

小出裕章「原発と憲法9条」

2020-08-20 | 政治・社会
 先日買った本を読んだ.小出裕章・著『原発と憲法9条』.

 小出氏の講演とインタビューを書き起こしたもので,福島の事故のみでなく原子力発電一般のもつ問題が,社会現象としての戦争や貧困,環境汚染などとの関連で語られる.核開発の原動力がいつでも軍事産業に裏付けられていること,また,放射能の後始末を社会的弱者に押し付ける,差別の構造がその前提になっていることが,改めて強調される.なお,全体に一貫する,控えめかつ明快な文体は魅力であるいっぽうで,膨大な内容をやや早足に駆け抜けた感じがあり,読み手はより進んだ専門知識やデータへ自らアクセスし,理解を深める必要があるだろう.


小出裕章: 原発と憲法9条
遊絲社,2014,
ISBN978-4-946550-31-7

E.スノーデン他「スノーデン 日本への警告」

2020-07-12 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.E.スノーデン他の対談集『スノーデン 日本への警告』.

 2013年「スノーデン・リーク」の張本人であるスノーデン氏を囲み,情報社会における政府や警察の監視活動について,日米両国の法律家・ジャーナリストらが行なったパネルディスカッションを記録したもの.ネットワーク技術の急速な進歩と普及により,市民のプライバシーが安価に集約できる時代が到来していること,また,公権力・マスメディアによってテロリズムの脅威が誇張され,ひいては無差別な監視を正当化している現状が,具体的な実例を交えて語られる.とりわけ,たびたび彼らの話題に上る,この危機的な状況への日本の大衆の無関心には,本当に今さらながら頭の痛い思いだ.なお,亡命先のロシアからテレビ電話でインタビューに応じるスノーデンであるが,特段のメッセージを発するでもなく,告発のあらましを改めて述べるに終始し,現状を打開するための新たなヒントを得たい読み手としては,やや肩透かしの感じも.


エドワード・スノーデン,青木理,井桁大介,金昌浩,ベン・ワイズナー,マリコ・ヒロセ,宮下紘: スノーデン 日本への警告
2017,集英社,
ISBN 978-4-08-720876-4

森達也「死刑」

2020-05-27 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.森達也・著『死刑』.

 日本の司法制度に残る死刑について,その実態と是非,意義を,被害・加害者の双方はもちろん,彼らを取巻く弁護士,刑務官らへの取材を通して,いま一度考える.この特殊な刑罰を前に,当事者たちも大きく混乱しており,当然ながら個々のケースによって彼らのスタンスはまったく異なることや,それが犯罪への抑止力になっているとは言えないこと,さらに,国家のシステムとして機能している以上は,ほかでもない僕たち全員の意志として執行されることが,著者自身の葛藤とともに,半ば独り言のように綴られる.なかでも,「被害者感情を考えろ!」との喚声は,いつも決まって被害者でない周囲の人間から発せられるのであり,言わば社会正義を笠に着たヤジウマたちの懲罰欲が,実際に法廷の判断に影響を与えつつある現状には,本当にぞっとする思いだ.また,冤罪に関しては,刑の存廃とは問題が別であるにしても,そのリスクは決してなくせないことをも指摘する.大いに残念なのは,終章での結論が,それまでの尻込みするような文体から,突然飛躍したような威勢のよい意見表明に変わり,ちょっと読み手は付いていけない点である(内容はともかく「どこからその結論になった?」と戸惑う).

 世論調査によれば,多くの日本人が存置を支持するとのことだが,文中にも触れられているとおり,死刑をめぐる可視化が進めば,この数字は変わっていくだろう.もっとも,比較対象としての「死刑のない社会」を経験したことのない人々に対して,「このままでいいですか」と質問して得るデータ自体に,どれほどの意味があるのかと,つねづね疑問に思うのだが.


森達也: 死刑
角川書店,2013,
ISBN978-4-04-100881-2

森達也「いのちの食べかた」

2020-05-23 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.森達也・著『いのちの食べかた』.

 私たちの食肉の習慣について,場の実態を始め,動物保護や被差別地域のこと,マスメディア,宗教,戦争責任といった幅広いトピックから,その問題点を述べるライトエッセイ.子ども向けに書かれているだけあって,平明な文体は読みやすく,かつ世の中の暗部をもごまかすことなく率直に語っているのに好感.また,結論もしくは解決策をある程度には示しながらも,何より,矛盾した現状を多くの人々がまずは認識することで,近代社会は前進できることを強調しており,やたらに自説を押し付けたりしない,独特の穏やかさは印象に残る.


森達也: いのちの食べかた
KADOKAWA,2014,
ISBN978-4-04-101332-8