goo blog サービス終了のお知らせ 

ケニチのブログ

ケニチが日々のことを綴っています

齊藤真「関西電力反原発町長暗殺指令」

2019-12-30 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.齊藤真・著『関西電力「反原発町長」暗殺指令』.

 プルサーマル計画の実現をねらう関西電力が,反対勢力にあった高浜町長の暗殺を企てたとする「週刊現代」スクープ記事をめぐって,その執筆者である齊藤が,関係者たちへの念入りな取材を振り返った記録.巨大な利権にかけては大企業が邪魔な市民を殺すなどたやすいものであること,その証拠を残さぬための準備と責任分散の周到さ(仮に明るみに出たとしても,末端の社員や下請け業者が単独で行なったことにされる),そして,裏切り者たちへの陰湿かつ巧妙な報復から,警察はもちろんマスメディアの大半さえもが「向こう側」の味方であるに至るまで,現代社会のゆがんだ権力構造をまさに典型的に再現したような顛末に,改めて暗然となる.また,事件はまったく解決することなく突然もみ消されており,決死の告発に臨んだ二氏がその後どうなったのか,気がかりである.


齊藤真: 『関西電力「反原発町長」暗殺指令』
宝島社,2011,
ISBN978-4-8966-8869-7

横塚晃一「母よ!殺すな」

2018-09-29 | 政治・社会


「ケニチのブログ」が通算30万IPアクセスを達成しました.いつもご覧くださり有難うございます.



 先日買った本を読み終えた.横塚晃一・著『母よ!殺すな』.

 脳性マヒ者として生きる著者が,社会を構成する大多数である健常者,およびそこに介在する障害者差別へ種々の疑問を投げかける書簡集.その文章に一貫するのは,健常者・障害者間の理解というものはあり得ず,互いの主張をぶつけ合うなかで,自分たちが相手に「どう見えているか」を確認し自覚するところから,然るべき関係性は始められるとする,徹底した「抵抗路線」である.もちろん,障害者運動とは,当時から現在にいたるまで,そのあり方を模索する大きな混乱状態にあるのであり,横塚氏の論調もところどころでやや煽動的にすぎたり,焦点の定まらない感じがないではない.しかし,安易な解決は自身の目指すところではなく,問題提起に専念することが本意であり,また「青い芝」のポリシーなのだとも言う.いっぽう,親による障害児殺しや,もしくは障害のある胎児の中絶をめぐっては,「殺される側」からの,簡明かつ合理的な批判を行なっており,その説得力は圧倒的である.とくに後者については,このごろも茨城県の教育委が障害児の産前排除を口にして物議を呼んだことは記憶に新しく,その露骨な選民思想に直感として嫌悪しながらも,じゅうぶんに反論する言葉を私たち大衆とマスメディアは持たなかったように思われ,障害者の生存権は依然脅かされ続けていることに,改めて暗然とするのである.



横塚晃一:『母よ!殺すな』
生活書院,2007,
ISBN 978-4-903690-14-8

清水潔『「南京事件」を調査せよ』

2018-08-13 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.清水潔・著『「南京事件」を調査せよ』.

 清水記者が,日本テレビの特集番組の取材として,ほぼ単独で日中双方の関係者のあいだを往き来し,その成果をまとめあげた南京虐殺レポート.近代史の専門家でもなく,そもそも個人的には事件に関心すらなかったという氏が,「調査報道」の手法だけを頼りに一から聞込みと資料の検証を始め,その入念な裏取りに奔走するという,ごく単純なプロセスは分かりやすく,読み手が少なからず持つであろう政治的ポリシーや予備知識に対しても,清々しいくらいに冷淡である.何しろ戦中,私たちのマスメディアは日本軍の非道行為を目撃しながらも報道しなかったわけで,それがようやく純粋に,すなわち,南京や他の都市で何が起こり,人々がどんな目に遭ったのかが,時を超えて生々しく伝わり,まるでリアルタイムに速報記事を読んでいるような感覚になる.
 なお,清水氏の文章はあいかわらず世間話や個人的な述懐など無駄口が多く,また,日本語が適切に使えていない箇所もあり,そのことがせっかくの良質の研究に傷を付けていないとは言いがたいのは心底残念.いっぽう,文中には,上記番組への視聴者と他メディアの反応を紹介しており,それにさらに著者がコメント・反論するという,奇妙な「対話」が成立している点は,ユニークである.


清水潔:「南京事件」を調査せよ
文藝春秋,2017,
ISBN978-4-16-790986-4

小田周二「524人の命乞い」

2018-08-03 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.小田周二・著『524人の命乞い』.

 日航123便墜落事故の遺族の一人である小田氏が,「事故調査報告書」の矛盾点を改めて指摘し,真相解明をめざして関係者や資料をつぶさに取材した渾身の研究.あの夜,事故機と墜落現場に何が起こっていたのか,政府・自衛隊は未だに多くのことを隠蔽していると見られ,これに対して氏が独自に提案する仮説は大胆かつ具体的であるが,残念ながら裏付けにはとことん欠いており,やはり作り話の域を出ない.いっぽう,残された数少ない客観的資料であるコクピットの会話記録とフライトデータを分析し,垂直尾翼の破損から墜落直前までの三十分余りのあいだ,操縦士たちの高い技術と適切な判断によって機体はじゅうぶんにコントロールされていたこと,迷走しているかのように見える飛行経路も,実はあちこちで不時着を試みた結果であること,さらには,最後の瞬間,正体不明の衝撃と急降下が突然発生していることを見抜いている.僕も全くのシロウトながら,今まで幾度となく地図上で123便の軌跡をたどったけれども,この視点は考えもよらなかったもので,はなはだショッキングだ.そして著者は,事故当日に複数の目撃証言があったという,御巣鷹の尾根へ向かうジャンボを追尾して飛んでいた軍用機が何者であったのか,世にも怖ろしい推理を行なっている.
 三十年以上が経つ今もなお,航空局は事故の原因と経緯,救難活動のあり方をめぐって遺族らを納得させることができていないばかりか,調査のやり直しへの根強い請願を頑なにシャットアウトし,相模湾の海底に眠るはずの機体の破片の回収すらしない.疑惑を払拭することに背を向け続けるその姿勢は,不都合な事実が時間の経過とともに風化し,忘れ去られるのをただ待っているようにすら感じられる.もっとも,当時の首相で,「123便の真相は墓場まで持って行く」と放言した中曽根氏が今後亡くなったら(この人存命とは知らなかった.現在100歳.),事態は動くかもしれないと囁かれてもいるのだという.権力を監視する一市民として,そのわずかな可能性に希望を見出したい思いと,為政者の死を待たねば何も分からない民主社会とはいったい,という疑問とが綯交ぜになる.

 巻末に,犠牲者・生還者を合わせた乗客乗員524名全員の氏名がリストアップされている.5ページにも亘る厖大な名簿を眺めて,単に数字で見るよりもずっとリアルな一人ひとりの存在に胸が痛むとともに,彼らがどんな目に遭い,幸運な四人を除いてはついに死に追いやられたのかが,未解決のままになっていることがいっそう悔やまれてならない.


小田周二: 524人の命乞い ―日航123便乗客乗員怪死の謎―
文芸社,2017,
ISBN978-4-286-18207-0

鴻上尚史「不死身の特攻兵」

2017-12-23 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.鴻上尚史・著『不死身の特攻兵』.

 大戦末期の在フィリピン航空軍にあって,十回近くにおよぶ「特攻」出撃にも係わらずことごとく生還し,パイロットとしてのプライドを守り続けた佐々木伍長の,詳細な生立ちと後年の本人へのインタビューによって構成.上官との緊張感あるやり取りや軍隊内の理不尽な権力構造に関する記述は圧倒的で,また,「体当たり作戦」はそもそも,有効な戦法として発案されたのではなく,たんに話題性の高さを狙ったもので,これを受けた天皇の戦意喪失を期待した「狂言自滅」であったという証言は,その後実際にそうはならなかったことを考えると,とても衝撃的で,重い事実である.なお,終章では著者自身による総括が述べられるが,日本人の社会的未熟さなどに言及するあたり本題にほとんど関係のない持論を展開しているにすぎず,独り善がりも甚だしい.とくに,無謀な戦略によって海上に散った無数の命は僕が思うに間違いなく「犬死に」であり,これを戦死者への冒涜と言う鴻上氏の死への転倒した絶対視は,彼当人が嫌う日本特有の「精神主義」と何ら変わらない妄論,あるいは思考停止である.
 それはそうと,著者の質問攻めに応じる90歳超の佐々木さんは,拍子抜けするほど穏やかでのん気な返答で,当時何か非凡な信念に燃え,反抗的な青年だったというよりは,飛行機で滑空するのがとにかく好きで,軍の指令の非効率的な内容に共感できず,まさに「ふらふらと帰ってきてしまった」,実に人間臭くちっぽけな一個人であったことを思わせて,僕たち従順な現代人にとっても一筋の光である.


鴻上尚史: 『不死身の特攻兵 —軍神はなぜ上官に反抗したか—』
講談社,2017,
ISBN978-4-06-288451-8