NBA INS 'N' OUTS

かんたん解説 NBAなんでもとーく

小さな戦士

2007年08月25日 | 特集

皆さん、NBAの歴史上で最も背の小さい選手は知っていますか?
マグジー・ボーグズという選手で、身長はわずか160cmでした。
シャーロットにエキスパンションチームとして新設されたホーネッツが、LJやモーニングを擁して“フューチャー・ブルズ”と呼ばれていた頃の司令塔として活躍しました。
最初はワシントン・ブレッツからドラフト指名されましたが、その時NBA最長身のマヌート・ボル(231cm)とチームメイトになり、その差71cmのデコボココンビとして注目されたりしました。(ビデオ

ちなみにボルはスーダン出身で、以前紹介したルオル・デン(ブログ)がバスケに出会うキッカケを作った人物でした。
231cmという身長は、ルーマニア出身のジョージ・ミュアサンと並んで、NBAの歴史上でも最長身の記録です。
マッチ棒みたいなガリガリの体型に、異常に長い手足がくっついていて、ハエ叩きブロックが大の得意技でした。
ルーキーシーズンのスタッツは、平均3.7点、6.0リバウンド、5.0ブロックとその体つき同様にアンバランスな数字。
得点よりもブロックの数の方が多い選手なんて、そうそういません。
でも、たまーに3ポイントなんかを決めちゃったりする意外性もウケたりしていました。(ビデオ
4連続ブロックなんてことも。(ビデオ

もう一人小さい選手で有名なのは、スパッド・ウェッブ。
170cmの身長でオールスターのスラムダンクコンテストを制した、驚くべき超人です。(ビデオ
あまりにも衝撃的だったので、当時では珍しく日本のCMにも起用され、「小さかったら高く跳べ」というキャッチコピーで知られました。

では、現役の選手で最も背が低いのは誰でしょうか?
答えは、身長165cmのアール・ボイキンスです。
165cmという身長は、最初に紹介したマグジーに次いで歴代でも2番目に小さい選手ということになります。
真ん丸なお目メをパチクリさせてる顔は、かわいいスズメにしか見えません。(←勝手に言ってます)
しかしボイキンスは、そんなかわいらしい外見からは想像できないほど、強靭なハートを備えた戦士です。
ベンチプレスも143kgを上げちゃうぐらい、体だってツオイんです。
165cm、60kgの小さな体のどこにそんな力があるんでしょ。

まずボイキンスがNBAにいることが、どれだけありえないかってとこからお話ししましょう。
NBAの世界で、6フット(183cm)未満の選手が生き残るのは至難の業です。
ものすごくスピードがあって、ものすごくアシストパスがうまくないと無理です。
しかもポジションはPGに限られます。
アイバーソンのように183cmでSGをやったりするのは、唯一アイバーソンだからできることであって、彼を基準にして考えてはいけません。
スコアリングガードを目指すなら、せめて190cm台の身長がないと難しいです。
191cmアリーナスですらNBA入りしてからPG転向を命じられ、193cmのウェイドも身長が低いせいでドラフト順位を落としました。

ボイキンスがすごいのは、彼がスコアリングガードだということです。
もちろんポジションはPGなんですが、役割的にはパス出しではなく、点取り屋なんです。
大学4年生の時には、25.7点という驚異的なアベレージを残しています。
これは全米2位にランクされる成績でした。
しかしそれでも、ドラフトで指名するチームはありませんでした。
身長が小さすぎる上に、パスが売りの司令塔タイプではなかったためです。
「カレッジでいくら点取ったって、NBAじゃ通用しない」
それがNBAチームの一般的な考え方だったからです。

やむなくボイキンスは、最初のシーズンをCBAという下部リーグで過ごしました。
続く2年目と3年目のシーズンは、CBAとNBAを行ったり来たり。
その2年間で、ネッツ、キャブズ、マジック、再びキャブズと渡り歩きましたが、全て10日間契約などの一時的な契約でした。
ただキャブズに在籍した時は、クリーブランド生まれの地元っ子だったため、大声援を受けてプレーしていました。
アメリカは、ローカルヒーローを本当に忘れないんです。
こういうところは見習うべきだなと思ってしまいます。

4年目のシーズンは、クリッパーズで10試合に出ただけでしたが、ここでいい成績を残し、翌年の1年契約を勝ち取りました。
ボイキンスにとって、これが初めての年間契約になりました。
そして初めてフルシーズンをプレーした5年目を終えると、6年目はウォリアーズとやはり1年契約を結びます。
ボイキンスがNBA選手として認められたのは、このウォリアーズでプレーした頃です。
平均20分にも満たない限られた出場機会にもかかわらず、平均8.8点、3.3アシストという成績を残し、選手としての評価をグッと上げました。

この活躍によって、ボイキンスはNBA人生初の大きなチャンスをつかみます。
ナゲッツから初の複数年契約をオファーされたのです。
しかも4年契約という願ってもない条件でした。
安定した地位を確立したボイキンスは、第2PGという立場ながら毎年2ケタの得点アベレージを残し続け、“リーグベストのバックアップPG”と評価する声も挙がりました。

しかし彼を特別な存在にしたのは、数字よりも、その活躍の仕方でした。
最終の第4Qや接戦の終盤になるとお助けマンのように現れ、表情を変えずにビッグショットを決めてしまうのです。
2mの大男たちがビビッてミスするそばで、子供みたいなチビっ子が度胸満点のクラッチショットを沈めていく姿は、ファンを熱狂させました。
ナゲッツで、メロの次に声援が大きかったのも納得です。
彼が出てくるだけで地元の観客は大歓声で迎え、子供たちは自分たちのヒーローを見るように大喜びしました。

04-05シーズンには、オーバータイムに1人で15点を叩き出すというNBA新記録を作りました。
ボイキンスは一度ショットを決めだすと、ポンポンと小気味よく連続得点をしていきます。
それがどんな緊迫した場面でも、リズムに乗り出したら止まりません。
コート上にいる一番小さな選手が、躊躇することもなく、自信を持ってショットを決めていく。
勝負がかかった場面で、大きな男が小さくなり、小さな男が大きくプレーする。
集まったファンは、そんな“小よく大を制す”の痛快な姿に魅了されるのです。

ナゲッツで大成功していたボイキンスに転機が訪れたのは、アイバーソンの電撃移籍でした。
アイバーソンを獲るということは、イコール、ボイキンスを手放すということを意味します。
それは、183cmと165cmのスコアリングガードを共存させることはできないからです。
ボイキンスを出す場合には、周りにサイズのある選手を置いてディフェンス面などのディスアドバンテージをフォローする必要があります。
しかし、毎試合40分近くをプレーするスーパースターのアイバーソンを獲ることになれば、一緒には出せないボイキンスの出場時間が自ずと犠牲にされるのは明らかです。
ナゲッツとしてもボイキンスは残しておきたかったでしょうが、アイバーソンと天秤にかけろと言われたらやむをえません。

だがここで一つ事件が起きます。
ニックス戦で乱闘騒ぎが起こり、チームの得点トップ2だったメロとJR・スミスが長期の出場停止処分を受けてしまったのです。
プレーオフを狙うナゲッツにとっては、彼らが出場停止の間も星を落とすわけにはいきません。
被害を最小限に食い止めるためには、どんな形であれ得点力が必要でした。
アイバーソンがナゲッツにやってきたのは、くしくもこのニックス戦から数えて次の次のゲームからでした。

ナゲッツはここで一つの決断をします。
ほぼ放出を決めていたボイキンスのトレードを一旦保留にし、得点力を確保するためにアイバーソンと共に出場させることにしたのです。
これは非常に危険な賭けでしたが、背に腹は代えられません。
そうまでしても得点力が必要だったのです。
ボイキンスはその期待に見事に応え、20点台のスコアを上げ続けました。
ニックス戦の次の試合からの11試合で、平均36.3分も出場し、23.2点のアベレージでチームを引っ張りました。
同じ期間のアイバーソンの平均得点が26.7点だったことから考えてみても、全く遜色のない数字でした。

しかし、JR・スミスの出場停止が解け、もうすぐメロも帰ってくるというタイミングになった時、ボイキンスは遂にトレードに出されました。
得点力をキープする急用性がなくなったので、お役御免となったわけです。
交換相手はスティーブ・ブレイク。
191cmとサイズがあるためアイバーソンと一緒に出すことができ、司令塔タイプなのでパスの配給役を務めてくれることもあって、アイバーソン体制のナゲッツには打ってつけの選手でした。

ナゲッツもボイキンスの行き先として最適なチームを選びました。
モー・ウィリアムズをケガで欠き、先発PGと得点力を同時に欲しがっていたバックスです。
ボイキンスの出場機会や活躍の場ということで考えれば、彼にとって格好の環境と言えました。
ナゲッツを去ることはもちろん残念なのですが、ナゲッツにとっても、ボイキンスにとっても、これが最適なチョイスでした。
バックス移籍後は、35試合中19試合も先発の機会を得、36点、9アシストをマークしたゲームもありました。

今年の夏、ボイキンスはナゲッツ入りした時に結んだ4年契約が満了し、FAとなりました。
まだ来シーズンの所属先は決まっていません。
バックスに残るかどうかもわかりません。
でも彼の力は十分証明されています。
必ずいいチームにめぐり合ってくれるでしょう。

ボイキンスの存在は、単にバスケの世界にとどまらず、多くの人に勇気を与えています。
ボイキンスの元には、よく子供を持つ親御さんからのファンレターが届くそうです。
背が小さくて悩んでいるお子さんを持つ親たちから、「いつも勇気をもらっている」という内容の感謝の手紙です。
週に50通以上届くことすらあるそうです。

そんなボイキンス自身は、実際お父さん(172cm)よりも、お姉さん(170cm)よりも背が小さいそうです。
でもそんなことは一切気にかけていません。
「僕は背が小さいのを不利だと考えたことはないよ。ただユニークなだけなんだ。それはシャックだって同じことだ。彼だってただユニークなだけなんだよ」
彼はこれからも、みんなに勇気を与え続けてくれるに違いありません。



ユニーク同士



倍?



やっぱ倍?



それでもブローック!(のつもり)



ん? 障害物?



壁?



やっぱ壁?



わっ!



うわぁ~



囲まれると見えない



やっぱ見えない



見えない・・・・



それでもシューッ!



とーうッ!



みにフーック!



ヒョイっと



ボール大きめ?



やっぱボールが大き・・・・



「ちっちゃいオジちゃん頑張って~」



「頑張れ、アール!」



「ビッグEだあー!」



とーぉうっ!



「うわぁ~、飛んだぁ!」



クラッチシュートも決める!



「結構やるじゃ~ん」



こうなったら必殺“通せんぼ作戦”!



秘儀“いないいないバア作戦”!



「俺はアレンだ、よろしくな」



2人で50点を叩き出すミニミニバックコート



ウォームアップ姿はさらにかわいい♪



ブレビン・ナイト(178cm)も大きく見える



「アタシ、同じぐらい?」



背後霊?



やっぱ背後霊?



会場入りするボイキンスは・・・・



無名の頃選手だと思われず、よく警備に止められたらしい



「メロ、足長いのはわかるけどさあ・・・・僕の陣地。。」



ホラ、たかい、たかーい



「キミと話せると首が痛くならんよ」



なんで寝てんの?



寝る子は育つ(笑)



下からだと180ぐらいに見えない?



「新チームでも頑張れよ」




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14 コメント

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Unknown (G-boy)
2007-08-25 23:00:36
私も学生時代は小さかったPGでして、小さな選手たちの特集の"Below the rim"ってビデオを何回も繰り返し見てました。ボーグスの他にティム・ハーダウェイとか、アーチボルトとか好きになりました。今は結構小さな選手が増えてきた感があるのですが、ボイキンスは小ささも存在感もすごいありますよねー。

ゲームとかでは、(今は分かりませんが)細かさに限度があって、アイバーソン使ってブロックされまくってちょっとアイバーソン自体が嫌いになりつつあった若かりし私...。でも、コートに出てエネルギーを与えたり、チームケミストリーを高めたりするのはゲームでは決して表現できないですよね。

特に何か言いたかったわけではなく、記事を読んで思い出したことを勝手に書くカタチになっちゃいました。すみません。

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Unknown (G-boy)
2007-08-25 23:12:48
あっ、すいません。続けてになりますが。

エネルギーで思い出したのですが、来年のルーキーの中ではノア兄が圧倒的な気がするんですが、ボブキャッツが指名したJared DudleyというSF、NBADraft.netではintangibleが10という評価になってます(過去を調べても他に10の選手は見当たりません)。

この選手の何か情報があればお願いします。ずっと気になっていたもので...。関係なくてすみません。
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小さくても… (メロブロン)
2007-08-26 00:27:12
ボイキンスは、立派にNBAで通用してますよね!



やはり、シュートの確率が高いから生き残れてる部分もあると思いますが、ハートがかなり強いんでしょうね!

個人的には、クリッパーズ時代が好きでした。当時のヤング・クリッパーズは、見てて面白かったですから。





しかし、マグジー・ボーグスも、かなりのお気に入りでした!彼のプレーと性格が良かったです。

高校時代のチームは、凄いメンバーでプレーしてて、有名でしたねぇ。



いずれにしても、我々日本人には、小さな選手の活躍は、応援したくなりますよね!
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G-boyさんへ (manu)
2007-08-26 02:29:20
僕もよくは知りませんが、ダドリーはバティエとかに比較されてるみたいですね。
身体能力ではなく、バスケIQや気持ちの強さでプレーするような。
よくあるアンダーサイズのPFみたいですけど、NBAでSFになりきれるかどうかでしょうね。
ライアン・ゴメスみたいに、最近は成功例が多いので大丈夫かとは思いますが。

NBA Draft.netをよく研究されてるんですね。
intangibleが10の選手はいなかったんですか。
へぇ~
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メロブロンさんへ (manu)
2007-08-26 02:51:21
クリッパーズ時代のボイキンスを覚えている人は、そうそういないと思いますよ。
でも良かったですよねえ~
オドム、マイルズ、Q、ブランド、マゲッティと揃ってましたからねえ~
あのまま黄金時代を築いて欲しかったです。

マグジーは、こういう小さい選手のパイオニアみたいな存在ですよね。
マグジーが活躍したことで、小さい選手が見直された部分っていうのはあると思います。
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ボイキンス♪ (rinn)
2007-08-26 11:58:59
PC故障中なのでネカフェでようやく見れましたーー!!
画像劇場に再び感涙です。
スズメ。。ネカフェで吹き出しちゃいましたw
背後霊とか「いないいないばぁ」とかコメント読んで笑いを堪えるの必死ですww

ボイキンスは大好きな選手の一人なのですごく楽しんで読みました。
いっつも次はなに見せてくれる?とワクワクさせてくれる選手ですよね♪
また活躍してほしいなと応援してます。
ちなみにブレイクも大好きです!あのパスはなんなんですか。。。

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Unknown (bbb)
2007-08-26 19:03:42
「キミと話せると首が痛くならんよ」になぜか
かなりウケました(笑) 
画像の多さにビックリしました。ありがとうございます!
僕はボイキンスとほぼ同じ身長です。(当然PGにまわされる)
だから彼がコートでプレーしているのを見ると感動や勇気が湧いてきます。
彼は相当な努力していると思いますし(FTは高確率!)
30歳を過ぎてもまだまだ成長しそうでものすごい
存在ですよね。
これから先も成長しつつ健康な状態で
いて欲しいです。
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Earl (れい)
2007-08-27 00:25:06
とっても気になる選手です。常に活躍して欲しい!と思わずにいられないのですよね。

早く彼の居場所が見つかるといいのに、って思います。
NuggetsのKarl HCはあのBigトレードで自分の気に入った選手を泣く泣く手放したのだろうと思います。
Andre Miller, そしてEarl Boykins。
それ以降、私は元Nuggetの向かった新しいチームを応援していたのでした。彼らと共に。

写真の配置等、私がわかることであればなんなりと。
うちのBlogにメッセージを書ける場所がありますので、そこからくだされば、お答えをかけると思います。でも、お役に立てるでしょうか?
私は、文のまずさを写真で誤魔化しているって感じです(笑)

Rasheedの記事、拝見しました。楽しく読ませていただきました♪ありがとうございます。
近いうちに時間を見つけて、manuさんのBlogを最初から読ませていただくことにしますね。
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rinnさんへ (manu)
2007-08-27 02:10:37
今回はどの写真を切ったらいいかに迷い、「ええーい、全部載せてしまえ~」と投げやりになったために、ものすごく写真の枚数が多くなってしまいました。。。

ボイキンスは、僕の中では完全にスズメちゃんです。
お目メがかわいいので。

マジメな話、こういう選手がNBAで活躍してくれることは、いろんな人にとって勇気になります。
門戸を広げて、どんな体格でもやれるんだってことを示したことは、とても意義深いことだと思います。
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bbbさんへ (manu)
2007-08-27 02:16:55
こんな感じでよかったでしょうか??
知りたかったことをお伝えできていればいいのですが・・・

写真はみなさん笑いのツボが違うかもしれませんので、いろんなパターンを載せようとしてるつもりです。

アベレージは年を追うごとに上がってますので、まだまだこれからもやってくれるでしょう。
応援しましょう。
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