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Heartful Return

2008年03月20日 | 特集

"the City of Brotherly Love"
人々はこの街をそう呼ぶ
「兄弟愛」
そう直訳すると陳腐に聞こえるが
つまり、家族や恋人だけでなく
周りの人みんなに愛を
という温かい言葉だ

そんな“Brotherly Love”を体現する1人の男が
フィラデルフィアに帰ってきた
「アレン・アイバーソン」
彼はこの街の誇りであり、象徴だった
街中の人誰もが、彼を愛した
そして、誰よりも熱いハートを持つ彼もまた
この街とこの街の人々を愛した

デンバーにトレードされて以来
アイバーソンがフィリーに戻るのは初めてのこと
ブーイングか?
それとも歓迎ムードか?
さまざまな憶測が飛んだ
しかし、フタを開けてみると
やはりこの街は“Brotherly Love”だった

ゲーム前の選手紹介
ホームチームを何よりも大事にするアメリカ文化は
敵チームと自チームの扱いにこれでもかと差をつける
自チームの紹介の時は、照明を真っ暗にして
派手なライトの演出や大画面での紹介をして盛り上げる
時には場内で花火まで打ち上げるほどだ

それに対して、その前に行なわれる敵チームの紹介は
照明も落とさず、場内がまだざわつく中で
淡々と小声で選手名をアナウンスするだけで終わる
それが通例だ
どこのアリーナでも同じ光景
それがホームコートという考え方

しかしこの日
フィラデルフィアのコートで行われた
敵チーム・デンバーの紹介は
まず場内の照明が全部消され
1人の男にスポットライトが当たる

"Ladies and gentlemen, let's welcome back, from Georgetown University ..."

場内にアナウンスが聞こえたのはそこまで
あとはうねりのような歓声に全ての音がかき消される
この日のために押し寄せた
20674人の超満員のスタンディング・オーベーションが
永遠のように続く

1人の紹介に30秒かかろうが
1分かかろうが
誰も気にしない
それがアメリカ流
それが“Brotherly Love”

その歓声を一身に浴びる男も
熱い気持ちで応える
両手を広げ
キスを贈る
四方のスタンドに向かって指を指し
胸をこぶしで叩く

「みんなの気持ちは受け取ったぞ」と

冗談まじりに
得意の耳に手をあてる
「聞こえないぞ?」というポーズを取ると
歓声は手をつけられないほどに大きくなった

アイバーソンは
これだけ多くのフィラデルフィア市民が
自分のことを想い
声援を贈ってくれることに
心を動かされた

「ある程度こんな感じかなっていうのは想像したけど
まったく想像以上だった・・・・」

アイバーソン自身も
フィラデルフィアへの感謝と
愛する気持ちを
自ら表現していた

試合前
センターコートにかがみこみ
シクサーズのロゴマークにキスをする
今日だけのために
シューズに

“THXPHILA”
(ありがとう、フィラデルフィア)

の文字を縫いこむ

そんな男が本当に
世間が言う不器用で無愛想な人間なのか?
ワルでどうしようもない人間なのか?
誰よりも熱いハートとソウルを持った
素晴らしい人間にしか見えない

ゲームは大接戦となり
一時はアイバーソンが同点スリーをねじこみ
スコアを113-113に持ち込む
しかし最後に逆転を狙ったスリーが外れ
2点差でホームのシクサーズが勝利する

いつものアイバーソンなら
最後のプレーで得意のペネトレイトでファールをもらうか
ミドルシュートを狙っていただろう
しかし本人は
「19フッターで終わらせたくはなかった」
と振り返る

勝っても負けても潔く
この特別なゲームだけは中途半端に終わらせたくない
そんな想いがにじむ

普段なら人一倍負けを悔しがるアイバーソンも
この日だけはちょっと違っていた

「もちろん負けてもいいなんて思ってない
俺はそんな人間じゃない」

「でも正直・・・・このゲームが終わってくれてホッとしてる
これが俺にとってツライ試合になるのはわかってたから」

そしてあらためて
チームを去った自分を温かく迎え入れてくれた
フィラデルフィアのファンに
感謝の気持ちを贈る

「全てがエモーショナルな体験だった
そしてやっぱり
ここで過ごした日々が決して無駄ではなかった
間違ってはいなかった
ということが再認識できた」

選手紹介の時、泣いてたか?と問われると

「泣いてないよ!
でも時々、涙が出ないように上を向いてたよ」

と笑う

「でも、今晩ホテルに帰って1人になったら・・・・
たぶん泣くだろうね」

そこにはスーパースターでも選手でもない
1人の“人間”アレン・アイバーソンがいた
































ゲームハイライト(ビデオ


『Hide』 by Creed
from the album 「weathered」


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18 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
感動しました! (Baron)
2008-03-21 00:29:13
はじめまして!

ついこの間このブログを見つけて、気付けば8ヶ月分ほどをいっきに読んでしったほどに気に入ってます。これからもがんばって更新してください。楽しみにしています。

読むだけで十分楽しめていたので、書き込みをするつもりはなかったのですが、この話には本当に感動したので思い切って書き込んでみました。

私はNBAを見始めて一年ちょっとなのですが、いままではスター選手のプレイばかりに注目していたのですが、このブログを見つけてからいろんな角度から試合を見れるようになって、NBAを見るのが数段楽しくなりました。

私は小さいガードの選手がすきなので、アイバーソンも好きな選手の一人なのですが、アイバーソンの熱いところと人間っぽいところを同時に知ることができて、また一段と好きになりそうです。

ひとつ質問ですが、スパーズの選手の年俸ってどれくらいなんですか?
メンツだけみると完全にサラリー無視な気がするんですけど(本文と関係ないことですみません)

返信する
さすが・・・ (ぱんこちゃん)
2008-03-21 00:52:02
昨シーズンのフィラデルフィアでのゲームは
なかったんですね。

移籍して1年。
フィリーに戻るとき
果たしてファンはどういう反応をするのか
アイバーソンはいろいろ考えていたのでしょうね

フィラデルフィアで10年以上過ごし
ファイナルまで導いたヒーロー
点取りやで派手なイメージが先行しがちだが
幼いころから家族や仲間を大事にする人柄
私生活で問題もあったが
それでもファンは見守ってくれた

それがあのスタンディングオベーションと
選手紹介になったんでしょうね。

アメリカのスポーツ界って
フランチャイズビルダーでも
いざとなったら放出するビジネス優先な
考え方がありますが
ホントのヒーローには敵味方関係なく
どこに行っても応援してくれるところってありますよね
そんなところにもアメリカスポーツに惹きつけさせる
魅力があると思います

アイバーソンはこの試合前、どうなることかと思っていたと思いますが
フィリーのファンが「THE ANSWER」を
アイバーソンに示してくれたと思います。
返信する
アイバーソン (3P)
2008-03-21 11:10:58
かっこいい・・・

その言葉が一番似合う人間だと思いました。

また、フィリーのファンの人々もすばらしいと思います。アメリカって銃の所持とかで危険なところもありますがアメリカのスポーツファンってあたたかくてホントいいですね。

・・・でもカーターがネッツに移籍した時ってトロントでブーイングうけてましたよね、たしか。

返信する
無になる瞬間 (Halu)
2008-03-21 13:56:26
manuさん

まいど。ほんと、このブログはNBAについて多彩ですねー。この試合ほんとに見たかったです。

A.I.最後の3ポイントうった瞬間は何考えていたんでしょうね?
恐らく、雑念などなく、無の境地だったんじゃないかな?と推測します。

感動したNBAのスピーチと言えば、元LA Lakersのカリームアブドールジャバーのスピーチも感動しました。
あれから18年。時がたつのは早いですねー。

その時の、対戦相手が、ポートランドトレイルブレイザーズ。クライドドレックスラー・テリーポーター・ジェロームカーシー・バックウイリアムス・ケビンダックワース。控えに、ダニー・エインジと。。。ロビンソンといて、結構いいチームでした。2度ほど、finalに出場し、ピストンズとブルズに負けちゃいましたが。その時の、監督が今のロケッツのリック(ひげダンディー)エイデルマンでした。

話がだいぶ脱線しましたが、AIこのまま行くと、再びファイナル行くの厳しそうですが、manuさんブログの、ロケッツのように、バンガンディーが1,2年ヘッドコーチやって、その後、エイデルマンヘッドコーチがくれば、花開きますかねー。

私も個人的にA.I.大好きなので、チャンピオンリングを手にして欲しい。
返信する
まいりました・・ (コニスくん)
2008-03-21 23:36:44
初めまして
最近楽しく拝見させてもらってます♪

いやー思わず何か書きたくなっちゃう話ですね・・
少しうるうるしてしまいました

・・何か文章からそのシーンが浮かんできます
暗闇の中、押し殺したような、でもはちきれんばかりの沈黙
アナウンスと共に爆発する歓声
それに答えるAI・・
AIがあのつぶらな?瞳で上を見上げているところ
何か想像するだけで胸が熱くなります。。

いや~NBAって本当にいいですね

ちなみにAIはムチョンボおじさんとの牛若・弁慶コンビから知りました
大好きな選手の一人です♪

若干PO厳しそうだけど、最後まで頑張って欲しいです
&USA代表での彼の情熱を見てみたいです!!
どうして選ばれないんだ~
返信する
景気と選手たちの年俸 (すーさん)
2008-03-22 09:21:49
 アイバーソン親方、移籍後初の凱旋だったんですね。
 やっぱりアイバーソンと言えばラリーブラウンとファイナルに行ったときのことを思い出すわけですが、あそこでの炎の中に飛び込んでいくような闘志の輝きはMJの試合を見るときとはまた違った感動を覚えたもんです。
 
 ところで、まにゅさん、このところのアメリカの景気の悪化が及ぼすNBAへの影響について不安を覚えませんか。
 俺は選手たちの年俸の高騰が球団の経営に近いうちに悪影響を与える気がしてならないんですよ。球団の倒産はもちろん、不景気時に高額の年俸をもらう選手たちへのファンの反感、こんなものが出てきてNBAへの支持を落とすようなことにはならないでしょうか?。
 選手の年俸減らしといったネガティブな捉え方でなくリーグの健全な発展と言った視点で選手たちも経営者たちも行動して欲しいと切に願います。
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Baronさんへ (manu)
2008-03-22 11:52:26
はじめまして~
コメントありがとうございます!

8ヶ月分を一気に・・・・
スゴイ!
ちなみに僕は途中で飽きて読み返せません(笑)

>このブログを見つけてからいろんな角度から試合を見れるようになって、NBAを見るのが数段楽しくなりました。

これはとっても嬉しいです。
僕がこのブログで伝えたいことは、まさにコレなんですね。
一部のスター選手の活躍や、特定のチームの勝ち負けだけがNBAのすべてじゃないんで。
いろんな見方、いろんな楽しみ方を広げていただいて、もっともっとNBAの魅力を知ることができると思うんです。
なので、そのポイントに気付いていただけたことがとっても嬉しいですね。

スパーズは今でこそラグジュアリータックスぎりぎりなんですが、2年前ぐらい?にトニーPとまにゅ~の延長契約をするまでは、リーグ平均よりちょっと上ぐらいのチーム年俸で優勝してた、超省エネチームでした。
カネでいい選手を集めるといったタイプのチームではなくて、無名の選手を発掘してくるのがとてもうまいチームですね。

サラリー無視は、ニックスやマブズ、ナゲッツといったあたりのチームですね。
必ずしも成績とは比例しませんね。
参考にこちらのサイトを。
http://hoopshype.com/salaries.htm
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ぱんこちゃんへ (manu)
2008-03-22 12:29:21
アイバーソンも熱い人間ですが
フィリーの人たちも負けずに熱いですね

スポーツを通じて心を通わせる
一心同体
そんな魅力がアメリカンスポーツからは感じられます

アイバーソンとフィリーの関係はそんな好例です
そんな人間模様や心のつながりみたいな部分にも注目して見たりすると
また違った見方ができておもしろいですね
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3Pさんへ (manu)
2008-03-22 12:46:48
そうですね~
心意気が男前ですよね~

アメリカ人は愛国心や家族愛がとても強いですから、ホームチームへの声援やヒーローである選手を愛する気持ちなどは本当に強いです。
それが特別な雰囲気を作り出していると思います。

カーターがブーイングされるのは、普段から流すように楽なプレーに逃げる傾向や、うまくいかなくなった時に真っ先にトレードを希望したり、それですぐに願いがかなわないと見るや、まったくヤル気のないプレーに終始したりしたためです。

アイバーソンは、最終的にはトレードを要求しましたが、それまはチームの方がトレードを何度も画策していました。
それにアイバーソンはいつでも100%のプレーをしていましたから、彼の真摯な姿を見てきたファンは、どっちが悪いのかよくわかっているわけです。
だからこそのあの声援なんですね。
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Haluさんへ (manu)
2008-03-22 13:21:29
アイバーソンは複雑な想いのままずっとプレーしてたみたいですね。
勝っても負けても複雑、みたいな。
だから最後も、入っても外しても納得できるショットで終わらせたかったんでしょうね。
中途半端を嫌う男です。

ジャバーにブレイザーズ・・・・さすがにオンタイムじゃないんでわからないですが、よく鮮明に覚えてますね~
スゴイ!

うーん、僕もAIがいいチームに行ってくれたらなあと思って見ていたんですが、ナゲッツだと厳しいでしょうね。
あのディフェンスのザルさでは、プレーオフに行くこと自体危ういですし、出ても安定して勝つのは難しいですね。
もう一回トレード!?
それしかないような・・・・
返信する