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JORDANESQUE

2007年06月01日 | '06-07 プレーオフ

「This is Jordanesque(まるでジョーダンのようだ)」
これはTNTの解説をしていたダグ・コリンズの言葉だ。
コリンズは、フィル・ジャクソンの前にブルズでジョーダンのHCを務めていた人物。
ジョーダンとの親交は厚く、ジョーダンがウィザーズで現役復帰した時には、わざわざジョーダンが自分のHCにと指名したほどだ。
そのコリンズをして、「まるでジョーダンのようだ」と言わしめたのは、やはりこの男、ルブロン・ジェームズであった。

この日のルブロンはとにかくスゴかった。
神がかったように、クラッチシュートを次々と沈めていった。
ピストンズ5人vs.ルブロン1人という状況をものともせず、力で東の雄をねじ伏せたパフォーマンスは圧巻だった。
この男が本気になったら、持てるポテンシャルを十二分に発揮したら、止められる術はあるのだろうか?
そんな思いさえ抱かせるようなスーパーパフォーマンスだった。
長年NBAを実況している第一人者のマーブ・アルバートも、試合直後に「one of the greatest performances in NBA playoff history(NBAプレーオフ史に残る最高のパフォーマンスの一つだ)」と賞賛した。

しかしこのシリーズ、最初はルブロンに対するバッシングから始まった。

GAME1ではショットのタッチが悪く、同点を狙った最後の場面で消極的になり、2度あったチャンスを両方パスに逃げてしまった。
もちろんアンセルフィッシュなプレーの結果であり、たまたまチームメイトが外してしまっただけとも言える。
だがこのチームは誰が見てもルブロンのチームであり、相手もルブロンに打たれることを一番警戒して嫌がっているわけだ。
完全に裏をかけるならまだしも、最後の大事なシュートの成否を他人に任せていては、真のエースとは呼べない。
試合を通じてフリースロー獲得数がゼロだったという結果からも、いかに消極的だったかがわかる。
外れてもいいからルブロンに打って欲しい、誰もがそう思うからこそ、「なんで自分で打たないんだ」という批判が出てくるのだ。

くしくも次のGAME2は、終盤GAME1と全く同じような局面が訪れた。
今度は前戦の反省を生かし、ルブロンは自らドライブで強引に打って出た。
マークするハミルトンが何度もルブロンを叩いたように見えたものの、ファールは吹かれない。
シュートはリムを弾き、こぼれ球を拾ったヒューズの短いシュートも外れ、そのリバウンドを押し込んだバレジャオのティップインも外れた。
結果はGAME1と同じ敗戦。
だが積極的にドライブインで攻めたのは大正解だ。
ルブロンのパワフルなドライブインはどうやっても止められないし、たとえ決まらなくてもファールを吹いてもらえる確率は高い。
ただこのゲームに関しては、たまたま笛を吹いてもらえなかっただけだった。
結果はいい方に転ばなかったが、その過程はOKだった。

そんな流れで始まったこのシリーズだけに、ルブロンに対する評価はまだどこか定まらない印象が残っていた。
スーパースターであることは誰もが認めているのだが、チームを一つ上のレベルの高みへと導くには、まだ経験不足ではないか、と。
GAME3とGAME4も、ホームで連勝したものの、キャブズの強さが目立ったというよりも、ピストンズのチームリーダー、ビラップスの不調によって勝たせてもらったという雰囲気があった。
それだけに、2勝2敗のタイで迎えたGAME5は、シリーズの運命を決める天王山として、真の実力が試される正念場となる予感がヒシヒシと感じられた。

そしてその予感に違わぬ、いやその想像も軽く超えるようなスゴイ戦いが繰り広げられた。
やはり接戦で迎えた第4Q残り30秒。
1点差を追うキャブズは、ルブロンにボールを託す。
「とにかくアグレッシブに行くことだけを考えていた」と話すルブロンは、トップ・オブ・ザ・キーからマークマンをあっさりと抜き去ると、右手を思いっきり広げてワンハンドダンクを叩き込んだ。
スローで見ると、頭は優にリングの上に出ていたほどの凄まじいダンク。

「おぉ~これで逆転だー」と思ったのもつかの間、数秒後にはあっさりとビラップスにスリーを決められ、逆に2点にリードを広げられる。
さすが百戦錬磨のビラップス。
当然という表情で喜びもしない。
やっぱりピストンズの方が一枚上手なのか・・・・

そして試合は残り20秒。
2点を追うキャブズは再びルブロンにボールを託す。
「アグレッシブに行く」
ルブロンの頭にはリングに突っ込むことしかない。
マークをひきずりながらドライブインを始めると、リーグ屈指のプリンスのディフェンスをいとも簡単に振り切り、再びワンハンドダンクを叩き込んだ。
残り9秒、同点。
もう同じ過ちは繰り返さない。
そんな意気込みを感じる、渾身のダンク2連発だった。

そしてオーバータイムへ。
OTでもアグレッシブを貫くルブロンは、フィジカルなプレーで地道にフリースローを稼ぎ、得点を重ねていく。
既に第4Qの序盤以降、ルブロン以外のFGはなくなっている。
ほぼ全て1人でチームを背負っている。

2点をリードした残り30秒。
当然もうルブロン1人に的を絞っているピストンズディフェンスは、トップ・オブ・ザ・キーでピック&ロールをし、斜め45度のウィングへ流れようとするルブロンに対し、スクリーナーを放ったまま2人がかりでルブロンを追いかける。
前に進ませてもらえず、リングから遠く離れた位置で苦しい体勢に追い込まれる。
やむなく、3ポイントラインをわずかに踏み越えた場所からフェイダウェイジャンパー。
距離も遠く、しかもフェイダウェイ。
確率的には褒められないシュートだ。
しかし、これをねじ込んだ。
リードは4点に広がる。

これでいけるぞ、と思った瞬間、再びピストンズの老獪さが発揮される。
まずラシードがファールを誘い、FTを確実に2本決める。
そして残り時間がほとんどないところでビラップスが再びファールを誘う。
こんな絶体絶命の場面でも慌てず、冷静にファールをもらいにいくプレーをするピストンズは、やはり只者ではない。
しかもビラップスが、残りわずか3秒で2本決めなければ負けというプレッシャーの中で、憎いほど冷静にFTを決めてみせた。
さすが・・・・という言葉しか出てこない。

激戦の死闘はダブルオーバータイムへ。
長引けば長引くほど、試合巧者のピストンズの方が有利になる。
サッカーでも、入れる時に入れとかないと(絶好機にシュートを外したりしてると)、勝利の運に見放されてしまう。
そんな思いがよぎり、せっかく巡ってきた勝機を逃してしまったキャブズに、何となく暗い影が漂う。

そして同点で迎えた残り1分半。
ウェバーが値千金のスリーポイントプレーを決め、しかもイルガウスカスをファールアウトに追いやった。
既にヒューズをケガをしている状態で、インサイドの柱までをも欠き、本当に得点源がいなくなった。
しかもこの大事なところにきて、3点のリードを奪われた。
もはやここまでか。。

しかしその数秒後、何のためらいもなくルブロンがあっさりとスリーを放つ。
「あ、打っちゃった」
正直そう思った。
だが、これが決まる。
同点。

放送席からも似たような反応。
感嘆の声とうなり声しか聞こえない。
理屈を超えた執念、才能、運命。
そんなものを目の当たりにし、言葉にならない。

「ショットクロックが残ってるし、時間もまだあるんだから、安易にスリーで同点を狙ったりしちゃダメだ」
たぶんそう言いたかったと思うが、そんな月並みなセリフを言ったら逆に文句を言われそうな、えもいわれぬ雰囲気があった。
そう、ジョーダンの選択したプレーにケチをつけられないのと同じように。
既にアンタッチャブルで、アンストッパブルな状態にあった。

そして試合時間は残り10秒を切る。
同点で最後のワンプレー。
決めれば勝利。
ルブロンの手にボールが渡る。
再びトップ・オブ・ザ・キーからドライブ開始。

ピストンズディフェンスが中央に収縮してくる。
4人のディフェンダーに囲まれるも、構わず中央突破。
ゴール下でブロックの手が伸びる。
それを見て少し右に流れながらジャンプ。
さらにクラッチを入れてブロックをかわす。
バックボードを使ってレイアップ。
逆転。

2OTの9点、OTの9点、4Q終盤の7点を全て1人で叩き出し、25連続得点。
途中グッデンのFTを1本挟んだ以外は、キャブズの最後の30点中29点を稼いだ。
4Q残り約7分のところから、ほぼルブロンしか得点を挙げていないわけだ。
しかもそれを、リーグ有数のディフェンス力を誇るピストンズに対して、そして相手もルブロンしかないとわかっている集中マークの中で成し遂げ、そして勝った。
48点、9リバウンド、7アシスト。
1人で、アウェイで、イースタンNo.1の強豪を、大一番で破った。

ゲーム終了直後のルブロンは、倒れこまんばかりにガックリとヒザに手を突き、精根尽き果てたという表情を見せた。
まるで体に残っていたエネルギーを全て使い果たしたかのように。
喜ぶ余裕もない。
それだけ「アグレッシブに行った」結果なのだ。

そりゃそうだ。
このとてつもないプレッシャーの中で、1人で何人分もの重りを背負ってプレーしているのだ。
しかし、それでもやり遂げてしまうところに、この男のスゴさがある。

試合後のインタビューでは、
「もう体もボロボロだし、息も上がってるし、とにかく疲れた・・・・」
と漏らした。

しかしその後、
「でも明日は1日自由に使える。・・・・ただ家でじっくり休むのは難しいんだよなあ。2才のクレイジーなチビが家中を走り回ってるからね。できれば、バアちゃん宅で預かってもらえねえかなあ~。」

コートの怪物が、ようやく人間らしい表情を取り戻した。


「明日は休むぞぉ~」


「あ、でもガキんちょがいるんだった・・・」


「そうだ、いい案思いついたぜい」


「お~い、いいトコ連れてくぞぉ~」


「ママ、頼むよ~。1日でいいから預かってくれよぉ~」


「しめしめ、作戦成功だぜい」


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