maidoの”やたけた”(ブログ版)

ジジイの身辺雑記。今日も生きてまっせ!

舷灯 赤玉ポートワイン?

2021-05-29 10:48:37 | 支離滅裂-妄言虚説

2021/05/27の夜、愛媛県沖の瀬戸内海で来島海峡西で日本の貨物船(RO-RO船、英: roll-on/roll-off ship)1万1000トンと外国船籍の船(ケミカル・タンカー)2700トンが衝突。
日本の貨物船は転覆し、水深約30mの改定に横倒しで沈没しているそうです。
衝突の詳しい経緯は未だ報道されてませんが、旧HPに船舶の衝突事故に関連した記事が有ったので再録しました。
2021/05/29

近頃船舶の衝突事故が多いですねぇ。
衝突事故があると「何故見通しのよい広い海の上でぶつかるのか?」とよく聞かれるんです。
「たるんでるからや」としか言いようがおませんわ。

確かに陸上と違い、見通しの悪い交差点で出会い頭にガッシャンなんてな事故は起こりようが有りません。
ただ、船にはブレーキがついていませんし、小型の船や一部の特殊な船舶以外は舵を切っても直ぐには曲りません。
ブレーキの代わりにはスクリューを逆転させるのですが、簡単には止まりません。

マンモスタンカーと呼ばれるような巨大船が15~16ノット(約28~30Km/h)で走っていた場合、風や波の影響が無いと仮定して、大阪で逆転を始めると京都にほぼ近いあたりまで行ってやっと止まるといわれています。
インド洋や太平洋のど真中ならいざ知らず、マンモスタンカーのように小回りが効かない船に、混みあった海を勝手気侭に走られると危なくて仕方ありません。

そこで、海域によっては航行を禁止したり、色々な安全措置を講じます。
例えば、やっと舵が効くくらいまで速度を落とし、危険防止の為に露払いの船を先行させ、その上タグボートを数隻伴走させます。
いざとなれば、タグボートが横から押したり、後ろへ引っぱたりして舵やブレーキの役目をするんですよ。

船の大小によって程度の差こそあれ、大洋を走る船は曲がるにしても止るにしてもパッパッとは出来ません。
タイヤがガッチリ地面を噛んでいる自動車と違って、水に浮かんでいるので風や潮流で流されます。
そういう諸々の条件を計算に入れて操船するのは中々大変でっせ。

機敏に動けないだけ、曲がるにしても止るにしても、相当余裕を持って操作しないと間に合いません。
相手の船に気付くのが遅れたら一大事、衝突事故を起こさない為には周りの状況を常に把握するしか無いんですよ。
昔なら双眼鏡だけが頼りだった小型の船にもレーダ等の機器が普及し、船の運動性能も良くなっているというのに、衝突事故は無くならないんですねぇ。

> 原因は何かといえば、ほとんどは相も変わらず、発見の遅れ、判断操船のミス。
正直なところ、仕事とはいえ午前0時~午前4時までの夜半直(Midle Watch)の間緊張感を持続するのは大変でっせ。
凪の波に揺られ、巡航速度の単調なエンジン音を聞きながら、ブリッジで何んにも無い暗い海を見ていると実に眠いもんです。
レーダーのモニターなんぞは、まるで催眠術を掛けてるみたいやしねぇ。

装備が良くなったけど機械に頼りすぎるのも考え物で、一人よりも二人、二人よりも三人で確り見張るほうが有効な場合もあるんです。
例えばお互いの針路が交差する場合、相手の前を突っ切れるか、後ろを廻らねばならないかは角度θの変化で判ります。
勿論レーダーでも解析できるんですが、旧型人間はホンマかいな?とつい目で確かめたくなるんですよ。

それに相手の船の船首の白波の変わり方で、舵をどちらに切ったかを瞬時に判断できるのは人間の目じゃないでしょうかねぇ。

さて、表題の舷灯を含む航海灯なんですが、今も変わらず海上での事故防止の要です。
海は世界中につながっていますから、船同士の取り決めは全世界同じでないといけません。
そこで、海上衝突予防法の法定灯火として万国共通の規格と運用法が決められています。

一部を要約して紹介すると、

航海灯(「法定灯火」)は日没から日出までの間表示(=点灯)しなければならない。
視界制限状態(霧などで視界が効かない状態)においては、日出から日没までの間にあつてもこれを表示しなければならない。

早い話が、暗くなったら航海灯を点灯しなさい、視界が悪い時には昼間でも点灯しなさい、という事なんです。

代表的な航海灯といえば舷灯(Side lamp)、船橋(ブリッジ)下部の左舷(ポート)に赤、右舷(スターボード)に緑がついています。
どちらが赤か緑かが中々覚えられず「赤玉ポートワイン」と覚えたもんです。
図でで表しているのが舷灯で、大変重要な役割をしているんですよ。
港で船の赤や緑の灯りを見ると中々風情がありますが、あれは伊達や酔狂で点けているのでは有りません。

さて、海の交通規則は実に簡単で、交差したりすれ違ったりする場合は、相手に赤い舷灯を見せるように操船すればいいんです。
ただし追い越すときは相手の左がわを、青い灯を見せながら追い越します。
数年前に九州の姫島で、夜間に航海灯を点灯していなかってぶつかった、という言語道断な衝突事故が起きてましたが全く嘆かわしい。
ま、こんなのは論外として、赤い舷灯を見せている相手には航路を譲るというのが原則です。

相手に赤い舷灯を見せるという事は、右に舵を切って自分の左舷を見せるという事です。
逆に、緑の舷灯を見せている船は航路を譲ってくれるもの、と考えて良いという事になります。
したがって、擦違う時は左舷同士の赤い灯を見せ合っての右側通行です。
追い越す場合は相手に緑の舷灯を見せているのですから、追い越される船の進路を妨げてはいけません。

さて、仮に同格の3隻の船が左の図のように行き交う場合はどうなるか?

CはAに対して優先権があり、AはBに対して優先権がありますから、矢印で示したように進路を変えて衝突を避けます。
あえて同格と言ったのは帆船は別格で、動力船(エンジンで走る船)は帆船に無条件に航路を譲る事になっています。
動力船でも長さ20m未満の船は自分より大きい船の航行の邪魔をしてはいけない事になっているんですねぇ。

面白い事に、空は海の取り決めを基にしているので、航空機も船と全く同じように左翼に赤、右翼に緑の標識灯を点けています。
航空機の場合は昼夜にかかわらず点灯していますね。

ん?エスカレーターで大阪の連中が左側を歩くのはこの法則に従ってるのか?
関東は陸上交通の法則通り、エスカレーターで歩くのは右側ですねぇ。

帆船同士の場合は上記の原則に、帆に対する風の受け方、どちらが撚り風上かという位置関係が加わります。

1.2隻の帆船の風を受けるげんが異なる場合は、左げんに風を受ける帆船(ポート・タック:左舷開き)は、右げんに風を受ける帆船(スターボード・タック:右舷開き)の進路を避けなければならない。
2.2隻の帆船の風を受けるげんが同じである場合は、風上の帆船は、風下の帆船の進路を避けなければならない。
3.左げんに風を受ける帆船は、風上に他の帆船を見る場合において、当該他の帆船の風を受けるげんが左げんであるか右げんであるかを確かめることができないときは、当該他の帆船の進路を避けなければならない。
 前項第2号及び第3号の規定の適用については、風上は、メインスル(横帆船にあつては、最大の縦帆)の張つている側の反対側とする。
☆( )内は補注。

法律というのは、実にややっこしい書き方をしますねぇ。
早い話が、スターボード・タックの船が優先権を持つ、双方が同じタックの場合はより風下に位置する船が優先権を持つという事です。

左の図で上が風上とすると、Cは右げんに風を受け右舷開き(スターボード・タック)、A、Bは、左げんに風を受け左舷開き(ポート・タック)です。
したがってCはA、Bに対して航路優先権を持っています。
双方が同じタックのAとBに関していえば、AはBより風下にいますから航路優先権を持っている事になります。
この3隻で一番立場が弱いのはBなんですねぇ。

優先権をどちらの船が持っていたのかというのは、海難事故では重要な点です。
しかし、様々な要因が絡むので、事はそう簡単では有りません。
船の自動化が進み運航経費合理化の波を喰らって、乗組員の人数が極限まで少なくなったのにも事故が減らない原因があると思うんですが、何しろコスト競争が厳しいもんなぁ。

無駄を削ぎ落とされ、何かにつけて余裕が無くなって、海や船の夢や浪漫は水平線に消えてしもたねぇ。

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妄言虚説



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