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(フェルナンド) 変な心情ね。(沈黙。)さっそく言うけど、ここで起こっていることに私はもう長くつき合っている気はないの。この窮状からあなたを脱出させるためにバシニーを当てにしてたのよ。
(ヴィオレット) はっきり言って。
(フェルナンド) あなたはかなりしっかりしているから、バシニーのような男の好意が、あなたにとってどんな幸運を意味するか、理解してくれるものと思ってたわ。
(ヴィオレット) 正直に。あなたが期待していたのは…
(フェルナンド) 全然何も。でも、それが来たら、そう、私は享受したでしょうね。だいいち、私が認識するかぎりでのあなたは、このなさけない縁を断ち切ったでしょう。繰りかえすけど、彼はしまいにはあなたと結婚したでしょうに… (ヴィオレット、フェルナンドをぞっとするような仰天の表情で見つめる。) どうしてそういうふうに私を見るの?
(ヴィオレット) あなたって恥ずかしい。
(フェルナンド) 私からすれば、その恥ずかしさはあなたにお返しするものだわ。(子どものモニクが、ママ! と、隣の寝室から呼ぶのが聞こえる。)
(ヴィオレット) はい、はい、いま来ますよ。(奥を通って出る。)
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第八場
フェルナンド、それからジェローム
フェルナンド、独り残っており、書きもの机のところへ行き、それを開き、そこから一枚の絵葉書を取り出して注意深く再読する。彼女は座るが、その絵葉書を持ったままである。そして深い物思いに沈んだようである。その時、外のドアで呼び鈴が鳴る。彼女は絵葉書を書きもの机の中に再び仕舞い、書きもの机を再び閉じる。そしてドアのところへ行き、ドアを開ける。そして殆ど直ちにジェロームを後に連れて再び現われる。
(フェルナンド) ヴィオレットはあなたを待っているのですか?
(ジェローム) いえ… 私は知りません… 私は彼女に話さなければならない。
(フェルナンド) この間のように彼女を仰天させないようにしてください。鎮静催眠薬を使ってしか、彼女は眠りに入れたことがありません。それは彼女にとってとてもよくないことです。そうでなくても彼女はこのところまったく元気ではないのです。私たちの友人のひとりは、さっきまでここにいたのですが、彼女の顔色の良くないのにびっくりしていました。
(ジェローム) 彼女はどこですか?
(フェルナンド) 娘のところです。娘もこのところ、はつらつとしていません。
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(ジェローム) どうして彼女を田舎に送らないのですか?
(フェルナンド) 言うは簡単ですが… 誰のところへ? 誰と?
(ジェローム) たとえば、あなたが、一緒に行ってやれないのですか?
(フェルナンド) のんきなお考えですね。あの子は十五分間私とのみいるだけで、泣いて、じぶんの母親をもとめます。どうしようもない生活をしているんです。
(ジェローム) じぶんを習慣づける必要がありますね。
(フェルナンド) おどろいた方ですこと。
(ジェローム) 私の理解全部を申しますと、ヴィオレットは子どもの世話で消耗しているのです。子どものせいで血の状態がとてもよくないのです。
(フェルナンド) あなたは、彼女が、モニクと離れていれば、もっと落ち着くと、思ってらっしゃるのですか?
(ジェローム) 子どもが整った環境のなかで、あなたと良い雰囲気で一緒に暮らしていると、彼女が思うなら…
(フェルナンド) 南仏の保養地は、高くて。そのことを分かってらっしゃらないようですね。旅行のことしか…
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