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(フィリップ) アリアーヌ、本気になれよ。当時は、きみが治るかどうかも分からなかったんだよ。そういう情況で、離婚や、別居さえ、考えることが、人間として彼にできただろうか? だけど今は、きみの健康はともかく回復している… きみは依然として脆弱だということは承知しているが、それは無数の人々だって同様で、標高千八百メートルの地で生活のほとんどを過ごしに行くということができないんだ。ぼくに言わせれば、解決は至極はっきりしていて、きみに、普通の生活を再開する決心がつかないのであればだよ、ここにいつも帰着するんだが、きみは、ジェロームを、きみの生活とは分かれた彼自身の生活をするように促さねばならないよ。そして、彼に新しい家庭を築くようにさせねばならないだろう。
(アリアーヌ) なんてとんでもないことを! だいいち、よく知ってるじゃないの、彼には個人的財産が全然ないことを。彼が生活してゆけるのは、彼の書く批評によってではないわ。そしてもしほんとうに、彼が兄さんの思い描くような、自尊心の敏感な人間なら、私たちが離婚した後でも、私が彼を経済的に援助するままにしておくものか、すこしでも想像してる? ともかく兄さんが、これについてどう言おうと、そういう金銭上の問題は、ジェロームのような人間にとっては、まったく第二義的な問題だわ…
(フィリップ) それについては、ぼくはきみのようには確信していない。
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(アリアーヌ) 兄さんが完全に見逃していることがあるわ。それは私たちの関係の本質よ。(うわずった声で。)兄さんに打ち明ける権利が私にはない秘密の話があるの… でも、兄さんは以前、気づくことができたのよ、私が病気になる前にだって、私たちが、兄さんの絶えず言う、その、普通の生活をしていた頃にだって、以前… (言うのをやめる。)
(フィリップ) その頃でさえ、きみたちは夫と妻ではなかったことを、理解すべきであると?
(アリアーヌ) フィリップ!
(フィリップ) 反対のことを信じていたよ。でも、いいかい、ぼくはこう思っているんだよ、きみたちの結婚後、何か月かして、きみには異変があったのだと!… どうだい?
(アリアーヌ) 兄さんに断言できることは、ジェロームには私が必要だということ、そして、遠くからでも、私は、この世の誰も彼にしてあげることのできないことを、彼にしてあげられる、ということよ。
(フィリップ) そうあってほしいよ。でも、きみの言うことがほんとうなら、それは、彼と一緒に生活することによってこそ…
(アリアーヌ) いいえ、それは私たち、もうないでしょう。(誰かがドアを叩く。) 何なの? (掃除婦が入ってくる。)
(掃除婦) 奥さま、男性の方と女性の方が、(つづく)
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(つづき)奥さまとお会いする約束があると申しております。(アリアーヌに名刺を渡す。)
(アリアーヌ) ありがとう。(フィリップに。)フランシャール夫妻だわ。でも彼女も来るとは思ってなかったわ。
(フィリップ) フランシャール夫妻?
(アリアーヌ) 彼は昔、師範学校で私と一緒だったピアニストよ。
(フィリップ) 思い出さないな。
(アリアーヌ、掃除婦に。) お入りになるよう言ってちょうだい、エリーズ。
(掃除婦) はい、奥さま。(出てゆく。)
第二場
同上の人物、セルジュ、シュザンヌ
(セルジュ) こんにちわ、マダム。妻と参らせていただきました。あなたにとても会いたがっているものですから。
(アリアーヌ) それはどうも… お会いできて嬉しいですわ、奥さま。
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