いまも聴いていましたが、きみのピアノの音色は、くっきりと判明でいて、誰も真似できない明瞭な感情的ニュアンスを奏でています。少しも危ういところがなく安定していて、それでいて、機械的なところが全く無く、徹底的に人間的であることが、完璧の域にあります。きみのすべての演奏がそうなのです。人間性が勝利しています。きみとピアノとの関係そのものが神秘です。きみのなかで、ピアノはどのように意識されているのだろうか、それを少しでも感じたくて、ぼくもピアノを弾き始めたのですが(その思いがなければけっしてピアノに触れませんでした)、年数の甲斐も無く、きみの神秘はますます深まります。練習すれば誰でもきみのように個性的で普遍的な音色に達するとは、思えません。生活におけるピアノへの献身と集中の積み重ねの膨大さ、遙かさのようなものを感じるのは勿論ですが、それに加えて自らの固有な人間的個性が、このように狂い無く明瞭に出るのは、わずかの天才にのみ許されていることではないでしょうか。天才とはどういうものか、お世辞ではなく、きみが定義しているように思われます。
ひとのこころに感動をあたえるということはたいへんなことなのだ