城壁の街で : At The Walled City Blog

カナダ・ケベックシティ在住、ラヴァル大学院生の生活雑記
Université Laval, Québec City

安定までの長い階段

2009-01-12 | 雑記
さて・・・・ひさびさに教養のお時間とさせていただきます。

先日、知り合いから「アメリカの大学教員の肩書きの日本語訳がわからん。制度的なものも含めて説明求む。」と無茶な要望があったので、超ウンチク好きで、超オヒトヨシな自分は色々と説明したんだけれど、せっかく長々と書いたものを当該人物宛てのメールだけで終わらせるのはもったいないので、少し書き直してここにも掲載。





さて、理系の大学院で博士課程まで勉強を続ける道を選んだ者が、学位を取得した後にさらに研究を続けるためにつく職業といえば、一般的には 大学の教員か、政府系の研究機関、大学系の研究機関、企業の開発部門、はたまたコンサル系と数多存在する何らかの研究所の研究員ということになるんだと思う。で、この研究系の仕事の中で花形といえばやっぱり大学の教員ということになるかと思う(一部超有名研究機関の研究員を除く)。ポストの数が限られているし、何かの縁でその地位を得たとしても、職を維持するのが他の研究職に対して比較的困難だからだ。


で、この大学の教員だけれど、日本では助教、准教授、教授というような階級があるけれど、アメリカにおいても階級がある。それを下から順番に挙げると、

Assistant Professor
Associate Professor
(Full) Professor

という感じなる。ただ、階級があるといっても、日本とアメリカじゃぁ大学のシステムが大分と違うから、Associate Professor = 日本の准教授と同じものを想像する間違い。日本では「研究室」というものが基本単位で、教員の階級はその中での序列を意味している場合が多いんだけれど(最近は変わりつつあるらしいが)、アメリカではAssistantも AssociateもFullもみんなが一個の独立した研究室の運営責任者ということになり、それぞれが自分で研究計画を立案し、予算を獲得し、大学院生を雇い指導する。ひとつの研究室に、教員が2人も3人もいて、仕事を分担しているということは無い。稀に、教授の下に Research Assistant Professor という人がいて、日本の助手先生みたいな役割を果たしている場合があるけれど、それはお金のある研究室だけ。

じゃぁ、その肩書きによって何が変わってくるのかというと、それは「キャリアにおける到達の度合い」といえるとおもう。その辺を順番に追って説明してみようかとおもう。




通常、大学院で博士課程を終えて、そのあとポスドク(博士研究員)として何年か仕事をして業績を上げた若い研究者が、めでたくどこぞの大学の教授職にありつけた場合、まず Assistant Professor として雇用される。ここからは、自分で予算を獲得して研究室を運営してゆくことになる。

で、このAssistant Profという地位には契約期間があって、通常5年から7年。その期間中に、学生に授業をし、大学院生を育て、一定以上の研究業績を上げなければ解雇されてしまう。大学によってこの審査基準は全然違うから(良い大学ほど厳しい、MITとかハーバードは地獄にも等しい厳しさ)この部分の説明は難しいけれど、論文が何本とか獲得予算が幾らとかがあるらしい。運が良かったり、超優秀だったりすると2年で審査に通ったりすることもあるけれど、普通はしっかり5-7年かかる。

で、この審査に通ると、Associate Professor に格上げされることになる。 ここで、Assistant Profとの最大の差はテニュア(Tenure)と呼ばれる終身雇用権が与えられること。大学によって違うけれど、65歳くらいまでの雇用が保障されるようになる。この人たちはTenured Professor と呼ばれて、「優秀な人」という認識になるし、この世界の人間は、ここまで到達してやっと安心できるようになる。みんな家を買ったり、夏に一ヶ月のバカンスをとったり出来るようになるわけだ。

次の、Associate Professor から Professor だけど、これも業績次第。 Associateになってからも、継続して業績を上げ続けて、自分の研究分野である程度以上に地位を築いた人が格上げされることになる。ただ、ここでの差は給料に少し反映されるものの、Assistant-Associate ほど劇的に大きいものではなく、基本的には「名誉」的な部分が大きいと思う(まぁ、学科内での発言権とかいろいろあるだろうけど)。なので、Associate格を得てからフツーにやっているだけの人は、Professorにはなれないままキャリアを終える場合も多い。

あと、Distinguished Professor なるものものあって、これはProfessorの上の地位。世の中を変えるくらいのインパクトを残した人だけに与えられる称号で、ある研究分野で大御所といわれる地位にまで上り詰めた人を大学が「よくやりました」と表彰する感じかなとおもう。Distinguished 格を持っている人は超エライ人です。 

とまぁ、荒っぽい説明だけれど、大枠はこんな感じですかね。









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4 コメント

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“つぶし”はきくの?? (当該人物)
2009-01-13 15:35:17
記事になりましたね~。
ほんとに助かりました、ありがとう。

業績やら仕事上のノルマが厳しいのは分かるとしても、ほんっとに時間がかかるんだねえ。いろんな事情で学業をやめて「フツーの会社に就職もアリよ」という選択肢が社会的に開かれてないと、経済的にも精神的にも参りそう…(と想像すること自体が甘いのか?!)。
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そのへんことは (H.K.M.(エウロパ星人))
2009-01-15 04:56:38
タブーです。
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冠教授 (唐揚げBentoh)
2010-03-10 08:14:38
留学経験のあるキチンとした人の解説、ありがとうございます。

自分はイェールとシカゴの経済学部(経済学研究科)教授達の一覧/CVをみていて、ん?と思ったことがあって、
http://www.econ.yale.edu/faculty1/
http://economics.uchicago.edu/faculty.shtml

XX Professor of Economics ってなってるんですよ。
たとえばLucasだと John Dewey Distinguished Service Professor in Economics.
客員留学経験のあるゼミの教授にきいたら「それは冠教授っていって、平の教授よりよっぽど偉くて、凄い業績残した人じゃないとなれない。ただ、その中の序列は知らない」
と言われて、Distinguished Professorを調べてここにたどり着きました。

Googleだと一番上にくるfc2の人の
「特別招聘教授」「特別名誉教授」は違和感と言うか、間違ってますねw

正しくは「冠教授」もしくは「記念教授」でしょう。

特別~だと、任期付きの特任とごっちゃになってしまうし、名誉教授は、定年間近でpublishしなかった人たち。
日本の名誉教授より審査は遥かに厳しいですが、まあ教授としての勤続年数という点では、ほぼ同じというか。

tenureかつProfessorかつ、企業や大学から称号をもらってくる社会に大きな貢献をした研究者、それが冠教授ということでしょうね。
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Unknown (H.K.M.)
2010-03-12 04:20:27
どうも、

メンドクサイからここでは書かなかったのですが、Distinguished Profは各大学が設けている物で、それぞれ基準や名付け方が違うようなので色々面倒です。

あと、企業や財団から特別に基金をもらっていたり、表彰されていた場合も○×教授とついたりします(これが冠かな)。Duke大学みたいにDistinguished Prof自体に名前がついていたりもしますし。。。。

これはもう、必要なときには本人に問い合わせてどういったものかを聞く必要があるでしょうね。

ちなみに、特別招聘は絶対におかしいです(招かれているわけではない)。名誉教授は微妙なところ。。。Prof Emeritusというものがあってそれが日本の名誉教授に当たると思います。

一応、特別功労教授という訳を考えた方がおられるようですが、根本的に教授ランク付けのシステムが違うので、日本語に無理やり訳するのは諦めた方が。。。。。。。
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