城壁の街で : At The Walled City Blog

カナダ・ケベックシティ在住、ラヴァル大学院生の生活雑記
Université Laval, Québec City

Chromalveolata

2008-11-26 | おいてけぼりシリーズ
久々の「おいてけぼりシリーズ」。

クダラナイ生活の愚痴やら、ヘタクソな素人写真ばっかりではなく、たまには教養溢れるエントリーで、読者の方々に「城壁の街は理系研究者が書いている知的なブログである」ということを思いだしてもらいたかった。

ただ、今回は自分の専門外のことを扱っているので、ちょっと内容に自信がありません。ので、その道の方が間違いを発見した場合には、「ちょっと違うんじゃないか」ということをやんわりと伝えていただければ素直に勉強しなおして書き直します。でも、僕は小動物のように気が小さいので「わかっていない奴は黙っとけ」みたいな攻撃的なコメントは勘弁してください。いじめないでください。





ここ二週間くらい、地球上の生物の進化・分類について集中的に勉強する機会があった。自分の博士論文には全く必要のない内容なのだけれど、その方面の知識が欠落しているために、きまぐれに読もうとしていたネイチャーのニュース記事が理解できなかったのが悔しかったからだ。

それにしても・・・・・・



最近は、分類学ってすごいことになってんのな



ここ20年くらいはDNAとかの遺伝子解析系の研究の進歩の影響で、生物の進化の道筋の理解とか、それに準じた生物の分類の仕方がものすごい勢いで進んでんのな。大枠をつかむだけでもかなりの労力を要したよ・・・・


以下、その超テキトーな概説


さて、多くの人にとって、もっとも大きな生物のくくりといえば「動物」と「植物」の二種類のみになるかとおもう。これは、リンネの二界説といってかなり長い間(200年くらい?)信じられてきていた考え方だ。あまりに長く信じられ続けてきたせいで、「そんな単純なわけ方では到底説明が付かない」と専門家たちが支持しなくなった今でも、それ以外の一般の人々にはフツーに受け入れらてしまっている考え方になるかとおもう。

ちなみに、手元にある僕が高校生の頃(15年前)の生物の教科書をみると、進化の説明に関してはこの名残が色濃く残っていて、生物の系統樹の項では「動物の系統樹」と「植物の系統樹」という二つの系統樹で生物の進化が説明されている。その教科書は1992年発行の三省堂図説生物。で、リンネの二界説が世に出たのが18世紀の中頃らしい。日本の高校教育は大丈夫なのか?

さて、この二界説なんだけれど、19世紀の終わりから20世紀のはじめくらいの顕微鏡が発達した時期に、そのわけ方では「細菌」、「キノコなんかの菌類」、あと湖なんかによくいる「うようよ動くくせに光合成をしたりする奴ら」あたりの説明が全く付かないことがわかってきた。で、その辺の事情を考え合わせて作られたのが五界説というやつで、生物を

動物
植物
菌類(キノコとかカビ)
原生生物
モネラ(細菌とか)

の五つの「界(Kingdom)」という大きなグループに分けたものだ。まぁ、ある程度歳をとっていたとしても理学、農学系の学部を卒業した方なら、この辺までは知っているかと思う。自分も大学1回生のときに一般教養の授業で何度かお目にかかった覚えがある。しかも、恥ずかしい話だが、つい最近まで生物の分類に関してはこのレベルの理解しかなかった。ちなみに、この説が発表されたのが1950年代のことらしいので、実はこの説も結構古い。

さて、ここまでは「界 (Kingdom)」というのが、最上位の分類単位だったのだけれど、「どうもそれよりも大きな分類を考えないといけないらしい」といわれだしたのが1970年以降で、そこからは「真核生物がどうの」、「原核生物がどうの」、「つうか原核生物って遺伝子的に見て大きく二つのグループに分けられるんじゃね?」ってな感じで議論が進んでいって、「じゃぁ、とりあえず生物を三つの大きなグループに分けましょう」「で、それをドメインと名付けちゃおう」ってな感じで出来たのが3ドメイン説。これに従うと、

古細菌 (Archaea)
真正細菌 (Eubacteria)
真核生物(Eukaryota)

の三つに分けるところから、全ての分類が始まり、今まで最上位の分類単位だった界はその下に位置することになる。(動物、植物、菌、原生生物やらはみんな真核生物の枠内)。この考え方が発表されて、専門家たちに間で認知されるようになったのが1990年代にはいってからなので、ここまで知っていたらアンタもその道の人ということになる。ちなみに、自分は今の研究室に来てからこの話を知った。


この時点で、城壁の街で読者の誰一人としてついて来れなくなっているのは百も承知なんだけれど、本番はここから。冒頭でも言ったけれど、ここ10-20年で遺伝子解析関連の知識が急速に蓄積していった結果、この三つのドメインの下にあった界の部分で、かなり大きな変更が山ほどあったようなのだ。まず目に付く大きな変化が、原生生物という枠でくくられていた「ちっさくて、うようよ動いている奴ら」の分類、系統立てがかなり進んだこと。あと、真核生物ドメインのなかでの類縁関係というか、進化の道筋がかなりわかってきたことにある。それを、比較的わかりやすく描いてあるのが、下のWikipediaでめっけてきた絵だとおもう。




誰も望んでいないと思うけれど、順番に見て行こう(現在進行中の研究なので、ほとんど全てが仮説です。悪しからず)。

まずはじめに、The Last Universal Common Ancestor (LUCA: 地球上の生命の起源)となる生物がいて(これが図の真ん中一番下の系統樹の根元)、そこから「真正細菌」と「古細菌と真核生物」へ行くグループが分かれる。そして、その後で「古細菌」と「真核生物」が枝分かれする。これが、現在考えられているもっとも上位の分類単位であるドメインレベルでの分岐で、この絵では下の方のうすいブルーで塗られている辺りの話になる。で、それぞれのドメイン内でさらにガンガンと分岐していっているわけだけれど、ここからは「真核生物 Eukaryota」の方面を追っていく。

さて、古細菌から分かれた真核生物だけど、最近のもっとも"ナウい説"によると、まず動物、菌類、アメーバなんかを含んだユニコンタというグループと、そのた植物とか色々含まれているバイコンタの二つに分かれたということになるらしい。

で、ユニコンタのほうをみると、オピストコンタとアメーバ的な奴らのアメーボゾアに分かれた後、そのオピストコンタが動物と菌類が分かれるという按配らしい。この辺、動物と菌類が近縁っつうのが結構面白いと思うんだけれどどうですかね。

バイコンタのほうはまずエクカバータ(ミドリムシとかが含まれるらしい)とリザリア(有孔虫とからしいがよくわからん)が含まれるグループと、植物、渦ペンモウ虫やらがばらばらと含まれるグループに分かれた後(絵の中央部の分岐)、クロムアルベオラータというグループと、陸上植物やらワカメやらの本格的に植物っぽいものがふくまれるアーケプラスチーダというグループに分かれたらしい。で、このアーケプラスチーダは、緑っぽい奴ら(クロロプラスティーダ)、赤っぽい奴ら(ロドファイタ)、なんか青っぽい奴ら(グラウコファイタ)に分かれたと、まぁそういうことらしい。



さて、ここまで読んだところで読者の皆さんはさっぱり何のことかわからないと思う。でも、心配しなくてもいい、結局のところ僕も全くわからない



要は、200年以上前の考え方である「植物と動物」という分け方は、今となっては全くもって意味を成さないということ(だって、動物と菌類が近縁なんだぜ)。そして、その後に出てきた五界説ですら、生物分類を説明し切れていないということ。さらに、色々とわかってきた今、ここまでにいたる進化の分岐が結構複雑な関係上、ドメイン-界と段階を追って順番に分類してゆくだけのやり方がかなり難しくなっているということ。ま、その辺がわかっていればいいんじゃないかというのが、今の自分の中での結論かな(弱気)。ま、あと3,40年もすれば、もっと正確な系統樹(っつうか系統網になるだろうな)が完成しているだろうから、それを楽しみにしましょうかね。



いやぁ、生物学たのしいよね





個人的に面白かったのが、クロムアルベオラータ(Chromalveolata)というグループで、このグループの単一起源説が本当なら、渦べん毛虫やら、珪藻やら、ミズカビやらがおんなじグループになるという話らしい。ただ、このグループはその妥当性が未だ審議中で、つい3,4年前にもネイチャー誌上で有名な先生たちが文字で殴り合いのケンカしていた。