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「11の国のアメリカ史」その1〜アメリカを理解する為に今読むべき本〜

2019年11月21日 03時33分18秒 | 読書

 私達は世界一の超大国アメリカに対して、知ってるようで何も知らない。そういう私も、”アメリカ=ニューヨーク=ハリウッド”というイメージしかない。

 ”世界の警察”という代名詞はずっと後になってから付いたものだ。
 今ではすっかり、戦争仕掛け屋的なペテン国家に成り下がった印象が強いが、独立時は様々な文化圏の人種が、夢と希望と自由を抱いて入植し、建国した”11の国”が合併したアメリカだったのだ。


”11の国”のアメリカとは?

 私達が高校の世界史でアメリカについて学ぶのは、独立革命と南北戦争、それに大恐慌と第2次世界大戦くらいだろうか。
 しかしこの本では、植民地成立の時代の”11のネイション(文化圏)”の対立を追う。

 
 最初の西欧からの入植は、西部へのスペインの進出だが、これが今のヒスパニック問題へと繋がる。東部への入植は少し遅れ、フランスのケベックへの入植はインディアンとの融和的な性格を帯びた。
 ピューリタンのボストンへの入植は理想郷の建設に燃えた人々によるものだった。

 一方、カリブ海のバルバドス島の奴隷制砂糖プランテーションから入植した紳士達はチャールストンを建設し、奴隷によるタバコプランテーションを確立した。
 オランダの開明的な人たちはニューヨークを(ニューネザーランド)、クエーカー教徒はペンシルバニアを作った(その後内陸へ拡張しミッドランドとなる)。

 これこそが東部にあった5つの異なるネーションとされる。このネーションがさらに内陸に拡張し勢力圏を拡大あるいは新たな2つのネーションを生み出す。深南部(チャールストン)とアパラチアである。
 チャールストンは深南部を生み出し、アパラチアはスコットランドとイングランドの国境地帯の人々が、山岳地帯に打ち立てた国である。


 独立戦争は、東部13州が結束してイギリスと戦った訳ではなく、革命というより仕方なく連合体を作ったと著者は言う。

 イギリスと税をめぐり対立したヤンキー(ピューリタン)が、イギリスによる奴隷制の崩壊を図る策動から自らを守る為に、連合に参加したチャールストンの紳士達を、戦争に引き込んだのが独立軍の中核だった。勿論、対英忠誠派との内戦もあった。

 因みに、前者(ヤンキー)に属する人物が2代目の大統領ジョン•アダムスで、後者(チャールストン)の代表格がジョージ•ワシントンだ。ワシントンやジェファーソンがバージニアの農場主で奴隷を抱えていた事はこれで明らかだろう。

 よく言って今のEU程度である”緩い”連合体は、存続すら危ぶまれ、成立後の分離運動も何回かあった。それに対し、アメリカは”堅い”連合体とも言えようか。
 しかし、そのアメリカも今や分裂する危機に直面する。


 この上巻だけでも、アメリカという国の成り立ちについて理解するに斬新な書物だ。

 下巻は西部とカリフォルニアの成立を扱う。上の10のネーションにインディアンを加え、11になる。
 これらのネーションは合衆国のみではなく、カナダとメキシコにもまたがっている。
 インディアンのネーションは領土としてはカナダの北部でしか残っていない。アメリカの多様な顔と見えたものは、実は成立そのものが異なる、異質なものが見え隠れしていただけだった。

 以上、アマゾンレビューより抜粋&編集しました。

 

アメリカ分断の根拠とは?
 
 2011年に出版されたこの本は、2016年大統領選の折、トランプやバーニー•サンダースの予想外の台頭を説明する為の1冊として話題になっていた。
 何がアメリカに分断をもたらしているのか?その理解を促すものとして紹介されていた。

 原題は、“American Nations〜A History of the Eleven Rival Regional Cultures of North America”であり、直訳すれば”アメリカのネイション〜北米にある11の競合する地域文化の歴史”となる。
 ここから想像がつくようにこの本の鍵は、「ネイション」という言葉である。

 ここでいうネイションとは、主権をもたないものの、特有の歴史•民族•文化を共有する地域的な文化圏と定義される。著者のウッダードは、アメリカを50の州ではなく、”11のネイション”からなると論じる。
 つまり、ウッダードのいうネイションとは、大雑把に言えば”文化圏”の事である。

 そして、この”文化”とは、北米大陸の初期入植者たちが出身地から、意識的か無意識的かを問わず、北米大陸に持ち込んだものだ。
 ウッダードは、この初期入植者の文化がその入植地の文化基盤を、その後も継続して定める、という仮説に従って、今日の”分断されたアメリカ”の行く末を想像できるよう、”11ネイション”の誕生の経緯を論じていく。

 以下、「超大国を考える必読書」から紹介です。

 

アメリカの起源となる4つのネイション

 ”11のネイション”とは、①ヤンキーダム、②ミッドランド、③大アパラチア、④ディープ•サウス(深南部)、⑤ニューネザーランド、⑥タイドウォーター、⑦レフト•コースト、⑧ファー•ウエスト(極西部)、⑨エル•ノルテ、⑩ニューフランス、⑪ファーストネイション(インディアン)。

 最初に、西部開拓の起源となる4つのネイションから紹介です。


 まず①のヤンキーダムは、いわゆる”ニューイングランド”への入植者が移り住んだ荒野。
 イギリスを追われたピューリタンが、自分たちの教義(カルヴァン主義)に沿ったユートピアを築く為、マサチューセッツ湾岸地域に創設した。故に、良くも悪くも宗教的情熱を色濃く帯びた集団的特性を持つ。

 善き社会の実現が、個人の自由よりも優先しがちな傾向がある為、他のネイションからその過激さを疎まれる事も少なくない。故に、連邦政府の支配を巡り、深南部との永続的な闘争に巻き込まれる。


 ②のミッドランドは、フィラデルフィア州ペンシルヴァニアが出発点。
 創始者のウィリアム•ペンが、クェーカー教の教えである寛容な精神を実現すべく始めた街だ。故に当初から、多文化•多民族•多言語の様々なバックグランドをもった人たちが欧州から渡ってきた。

 中でもドイツ系移民が多く、今では西方に拡大した”ミッドランド”の文化的特性の多くは、ドイツ系移民に由来する。
 土地に根ざした生活を尊び、農業か工業かを問わず、職人的勤勉さが尊ばれるネイションが築かれた。


 ③のグレート•アパラチア(大アパラチア)は、今日のヴァージニアにあたるタイドウォーター経由し、上陸しながら低地ヴァージニアには留まらず、そのままアパラチア山脈にまで移動し入植した人びと。
 多くは、”ボーダランダー”と呼ばれるイングランドとスコットランドの国境に住んでいた人々だった。

 ”スコッチアイリッシュ”と呼ばれる北アイルランドのスコットランド人もこの地に移ってきた。母国の過酷な生活環境に嫌気が差し、逃げ出すように移民してきたからか、自らを他でもない”アメリカ人”と認識する人がグレートアパラチアには多い。
 総じて気性が荒く戦闘的、社会よりも個人を優先し、反政府の傾向が強い。故に、共同繁栄する伝統に欠け、今日でも貧困が常態化した地域が多い。


 ④のディープ•サウス(深南部)は、カリブ海の英領バルバドスから移り住んだ、砂糖プランテーションの経営者が始めた。
 同時に、バルバドスからアフリカ人を使役する”奴隷制度”をアメリカに持ち込んだ。
 サウスカロライナ州チャールストンへの上陸から始まり、今日ではメキシコ湾岸沿いに拡大し、テキサスにまで至る。

 プランテーション経営による成功体験から生まれた貴族意識と階級制度が、今日までこのネイションの社会に影を落とす。イギリスよりも英領時代のカリブ海の文化の影響が濃い。


 以上の4つのネイション(文化圏)は、19世紀前半にアメリカが大陸国家に向かって西方拡大を成し遂げる過程で、常に互いを牽制しあう存在だった。

 これに対し、以後紹介するネイションはその様なダイナミクスは欠けるが、その地で今に至るまで文化的連続性を保っている。
 


ニューヨークは単体で君臨

 ⑤ニューネザーランドは、ほぼ今日のニューヨーク市。元々はオランダ領ニューアムステルダムとして始まった。
 17世紀のアムステルダム同様、宗教や文化的差異に寛容な商都として始まり、その伝統は今日まで続く。多文化に寛容という点ではミッドランドの気質とも共振する。

 周辺をヤンキーダムとミッドランドに囲われ、直接的には西方に拡大できなかったが、お陰でニューヨーク単体では全米最大の文化発信地、金融都市として君臨する事になる。


 ⑥タイドウォーターは主に現在のヴァージニア。歴史は古く、北米における最初の入植先のジェームズタウンから始まる。

 ヤンキーダムに入植したピューリタンが、イギリス本国における改革派であったのに対し、こちらは王党派の貴族たちが、元々はスペインの様に新大陸の富を獲得するつもりで始めた(その為、入植も最初は”会社”として始まった)。その様な経緯から、ヤンキーダムとは常に張り合う存在であった。

 背後にはアパラチア山脈が控え、またそのアパラチアの西部には早期に”グレート•アパラチア”を形成するボーダーランダー(スコッチアイリッシュ)が陣取ってしまった為、西方に拡大する事はなかった。


 長くなったので、今日はここ迄です。まだ前半だけですが、アメリカと言ってもこれだけの文化圏と、それぞれにまつわる深い歴史が混在してんです。

 こうしてみると、アメリカが世界一の超大国に君臨するのも当然と言えば当然ですが。
 ヨーロッパと違う所は、全く異なる文化圏(ネイション=国)でありながら、独立する事なく、対立しながらも融合し、融合しながらも自立してるという摩訶不思議なある意味実験的国家なんですね。

 結局、私達は知ってるようで何にも知らない。こんな情報化社会の真っ只中にいてもです。



4 コメント

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分断するアメリカ (paulkuroneko)
2019-11-21 07:55:22
51の州ではなく、5つのネイションからなるアメリカ。
ウッダード氏の本は非常にユニークだと思います。歴史が地理学的なものと密接に繋がってることをこの本ででも暗示してます。

革新派のヤンキーと保守派の南部ヴァージニアの対立も実に興味深いです。それに彼らがタッグを組んで独立戦争に至ったこと。南北戦争では真っ向から対立して戦ったこと。

今やアメリカは南北に分裂しようとしてますが、歴史は繰り返すんでしょうか。
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paulさんへ (象が転んだ)
2019-11-21 14:25:16
個人的には、ヤンキーダムとミッドランドの対決になるかもですが(多分)。
第アパラチアや南のエルノルテがどう動くか?も興味深いんですが。

でも来年の大統領選挙がどうなるのか?見ものですね。
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アメリカの最後 (hitman)
2019-11-22 05:54:37
アメリカはカルヴァン主義が癌なのかな?
国家にユートピアとか存在しないはずなんだけど。
ヤンキーダムとディープサウスが潰れ、ドイツ移民のミッドランドが支配しそうな気もするけどどうなんだろ〜
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hitmanさんへその2 (象が転んだ)
2019-11-22 07:10:59
確かにカルヴァン主義は意外に脆いかもですね。ヤンキーダムとミッドランドが潰し合いをすれば、大アパラチア辺りが出てきそうですが、そうなればエルノルテにどう対処するかですが。

でもこうしてみると、アメリカとても意外に単純なんですよね。
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