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五月二十七日(現在の暦でいくと七月十三日なんだそうです。梅雨明けしたかな?)、芭蕉さんは清風さん(尾花沢の商家さん)の好意により、鶴岡まで馬で送ってもらうことになりました。途中で立石寺に寄ることになります。
山形領に立石寺(りゅうしゃくじ)といふ山寺あり。慈覚大師(じかくだいし)の開基にして、ことに清閑(せいかん)の地なり。一見すべきよし、人々の勧むるによりて、尾花沢よりとつて返し、その間七里ばかりなり。
山形領内に立石寺という山寺があります。慈覚大師という方がお開きになったお寺で、格別に清閑の地です。一度行ってみたらよいという皆さんが勧めてくれるので、尾花沢から予定とは逆方向に引き返し、立石寺に向かいましたが、その間は七里ばかり(二十数キロ)でした。
山形領というのは、松平直矩(なおのり)さんの十万石の土地だったそうです。この直矩さんは、姫路(五才)→越後村上(六才)→姫路(二十四才)→豊後日田(二十九才)→山形(三十三才)→白河(三十九才)と、ずっと引っ越しをさせられたそうです。というので、芭蕉さんが山形領まで来た時には、松平さんが山形におられたということでした。小説やら映画の原作にもなったそうで、「引っ越し大名」というあだ名ももらってたようです。
あの、寛政の改革の松平定信さんも白河藩の殿様だったので、子孫の方かなと思ったのですが、また別の松平さんだったようです。幕府の政策とはいえ、罪作りなことでした。この何度も引っ越しさせられて、藩の借金は相当なものだったということですが、大名を続けていく限り、幕府の命令には従わねばならなかったでしょうね。
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日いまだ暮れず。麓の坊に宿借り置きて、山上の堂にのぼる。岩に巖(いわお)を重ねて山とし、松柏(しょうはく)年旧(ふ)り、土石老いて苔滑らかに、岩上(がんしょう)の院々扉を閉ぢて物の音聞こえず。
たどり着いた時には、日もまだ暮れていませんでした。ふもとの宿坊に宿をとっておいて、山の上のお堂にのぼることにします。岩に巨岩を重ねて山にしたような地形で、松や柏も年数を経ていて、土や石も年老いていて(というのも変な表現だけど)コケがなめらかにおおっていて、岩の上の建物は扉を閉め切って物音ひとつ聞こえてこないのです。
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岸をめぐり、岩を這(は)ひて、仏閣を拝し、佳景寂寞(かけいじゃくまく)として心澄みゆくのみおぼゆ。
閑(しず)かさや岩にしみ入る蝉の声
崖のふちをめぐり、岩の上にはいつくばり、仏閣を拝み、まわりの美しい景色はただひっそりと静まりかえって、自分の心が澄んでいくのを感じるのでした。
何という静けさでしょうか。その中でセミの鳴き声がするのが、まるであたりの苔むした岩石の中にしみ透ってゆくような気がします。セミの声だけではなくて、それを聞いている私の心も岩の中に入り込んでいくような、そんな透きとおる静かな気持ちです。
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5年前の夏に、この立石寺に行かせてもらいました。ずっと「りっしゃくじ」だと思っていましたが、芭蕉さんは「りゅうしゃくじ」というふうにされているようです。
「吉祥寺」を関東では「きちじょうじ」といい、関西では「きっしょうじ」という。それと同じようなものでしょうか。どっちだっていいんです。地元の方が「りゅうしゃくじ」と呼んでるのならそれでいいし、「やまでら」と抽象的に何もかも含めて呼んでたら、それでいいです。
(関西は促音で読んでしまうのに、関東ではのびやかに読む、そこがまた癪で、東京弁の伸びやかさが腹立つんですよね。それがまた関西人のせっかちさで、そんなせっかちにカリカリしているから、いつの間にか持っていた豊かさを失ったところがありますね、言葉でさえそうなんだから。)
ものすごく高いところにあるのに、私みたいな軟弱野郎でも、どうにか登れました。それはもう仏様の励ましのおかげなんでしょう。またチャンスがあれば行きたいです。
芭蕉さん、南に下がりましたね。めざすは秋田の象潟なのに、次はどこへ行くんだろう。
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