黒猫亭日乗

題名は横溝氏の「黒猫亭事件」と永井荷風氏の「断腸亭日乗」から拝借しました。尚掲示板が本宅にあります。コメント等はそちらへ

怪談~その1

2015年08月09日 | 夏向きの話
時は夏。カンカン照りの猛暑である。私が子供の頃には夏ともなれば怪談の類が真っ盛りであった。怪奇十三夜なんて番組があった事は子供心にも記憶している。今日び毎年待っているといえば「ほんこわ」くらいなものだろうか。
というわけで、とりあえず記憶にある怪談めいた記憶を書いておくのもこの際いいかと思う。何、たいした話ではない。もし存在意義があるとすれば、実体験に基づいた盛りのない話というだけの事だ。

私が生まれたのは神戸市の長田区である。しかしながら幼時に転居したのでそこで住んでいた記憶はまるきり無い。年に一度親に連れられて行っていた事だけは覚えている。母親が懇意にしていた友人に会っていたからである。ある時、その人に「ここがあんたらの住んでた家やで」と言われた事がある。ボロボロに立ち腐れていた。その家の所有権はとっくに売却されていたのは知っていたから奇異に思った。取り壊されて新しい家が建つなり、別の人が住むなりしているのが普通だと、子供にでも理解できていたからである。
その理由はある年わかった。そこを訪れた時にいつも挨拶に寄る、懇意にしていた雑貨店のおばさんが帰り際にすっと寄ってきて言ったのだ。「あんたのおかあさんが化けてうろついている」と。その時以来、長田区に行く事は無くなった。
子供心にもすぐにおかしいとわかった事だ。おそらく薄々とは母親も感づいていたのだろうが、それをはっきりと指摘されてしまっては、さすがに二度と懐かしい場所に行く事は出来なくなってしまったのだろう。

さて、本編は実はここからである。
何歳だったかは覚えていないが、おそらく高校生の頃だったと思う。ある夜、ふと目が覚めた。初老にすっかり足を突っ込んだこの年齢ならちょっとしたことで夜中に目も覚めるが、若い頃は一度寝ればまず朝まで目は覚めなかったものである。
「?」
と、すぐにずしっとした重みを感じた。・・・あれ、もしかしてこれが金縛りというヤツなのかな?と思っている間にその重みはすっとなくなり、私はまた眠りについた。そして朝にはそんな事もわすれていた。
普通の日常に戻って日々は流れた。と、ある日再び夜中に目が覚めた。そしてまたずっしりとした重みを感じた。初めていや~な感じに襲われたのはその時である。なぜなら前回金縛りにあったのとちょうど同じ日だったからだ。なぜ同じ日だとわかったのか。それは覚えやすい日だったからである。彼岸の中日。それが二年連続して金縛られたその日だった。
翌朝、親にその事を告げると、母親の顔が強張るのがわかった。その彼岸の中日というのが母の母の命日だったのだそうだ。母の母というのはもちろん冒頭で「化けて出る」とうわさになっていた当の本人である。

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