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ああ、なんか嫌な予感がする――
レジ台の前に立つ祐子はさっきから妙に落ち着かなかった。
いつも今頃は五時半にパートを終え、自転車に乗って帰宅の途についている。だがきょうは、急用ができた六時勤務の同僚に頼まれ代行していた。
そのことは夫の健夫にすでに電話していたが、塾にいる文也には伝えていなかった。帰ってくるのは九時過ぎ、それから一緒に夕飯をとるので、連絡してもしなくても関係ないと判断したからだった。
きょうは出来合いのお惣菜で済ませちゃおう。でもお味噌汁ぐらいは作らないとね。
あっそうだ。いっそファミレスに行こうかしら。たまにはいいわよね。
ああでも、さっきからこの胸騒ぎはなんなの? あの子ちゃんと塾に行ってるわよね? まさかゲームセンターで補導――なんていやよ。
文也は週二回塾に通い、終了時間の夜九時に健夫が車で迎えに行くことになっている。夕食までお腹が空くだろうから、菓子パンやおにぎりを準備し、会話もできるだけ心掛けていたが、祐子も忙しく、ここ最近ちゃんとコミュニケーションがとれているのか正直不安だった。
まだ早かったのかしら。
塾に行かせることがいいのか悪いのか、文也はどう思っているのか、祐子は常に自問自答していた。
子供のうちは思いきり遊んだほうがいいと健夫は反対していたし、祐子も心のどこかでそう思っている。
だが、中学受験させるなら早いほうがいいとママ友がみんなそう言っていた。
そうよ。大丈夫。間違ってない。母親はね、父親みたいにのんきなこと考えてちゃいけないのよ。文也もしんどいとは思うけど頑張らないと。未来のためだわ。
弾き出す答えはいつもこうだった。
文也もきっとそれに応えてくれている。だからわたしも信頼しなければいけない。塾をさぼって遊ぶなんて絶対しないわ。そうわかっているが胸騒ぎがおさまらない。いったいなぜ?
常に子供を気にかけていなければならないのが母親の務めだ。これといった理由もなく人生が狂う場合もある。ただの気のせいだと思いたいがどうしても不安がぬぐえず、祐子はこれが悪いことへの予兆に思えてならなかった。
まさか緊急の連絡なんて入ってないよね。
塾に通うようになった文也にはガラケーだが携帯電話を持たせている。そのため機械音痴なのに祐子も携帯を持ち、連絡を取り合えるようにしていた。
ロッカーに入れたそれを確かめに行きたくて仕方なかったが、目の前に客が並び始める。
「いらっしゃいませ」
裕子は仕方なく頭の中を仕事モードに切り替えた。