恐怖日和 ~ホラー小説書いてます~

見よう見まねでホラー小説書いてます。
たまにグロ等閲覧注意あり

掌中恐怖 第四十話 『風流声』

2019-08-26 13:23:08 | 掌中恐怖

風流声

 マンション五階のベランダで爽やかな秋風に吹かれながらデッキチェアに座ってくつろいでいた。
 テーブルにはビールと好みのつまみ。
 朝っぱらからと妻は良い顔していないが、きょうは日曜だ。何の文句があろう。
 どこかで運動会をやっているのか、風に乗ってそれらしい音楽やプログラムを読み上げる高学年の少女の声が流れてくる。スピーカーの声に混じって父兄や子供たちの歓声も微かに聞えていた。
「がんばれがんばれ」という応援、かけっこやダンスなど次々変化する音楽、迷子のお知らせなど、いろんな声や音が流れて来て懐かしさが込み上げてくる。
 不思議なもんだ。運動が苦手な子供の頃は運動会が嫌で仕方なかったのに、それを懐かしく感じるとは。
 自分に苦笑しながら、やがてうつらうつら眠くなる。
 ぎゃあああああっ
 突然悲鳴が聞こえて目が覚めた。
 な、なんだ?
 風で流れてきたスピーカーの声だ。
 悲鳴だけでなく、逃げろという声や助けてという声、子供たちの泣き叫ぶ声も流れてくる。
 阿鼻叫喚。
 そんな言葉が浮かんだ。
 今まで聞いた事のない凄まじい叫び声が次々聞こえ、思わず耳を塞いだ。
 いったい何が起こっているのだろう。
「これなに?」
 不安な表情で妻が出てくる。
 隣人夫婦もベランダに顔を出したが、お互い顔を見遣るしかない。
 しばらくして何台ものパトカーのサイレンが鳴り響いてくるのが聞こえた。

恐怖日和 第三十話『塞がれた窓』

2019-08-25 12:34:04 | 恐怖日和

閉じられた窓

 ある日唐突に妻が窓ガラスにガムテープを貼りだした。理由を聞いても要領が得ない。毎日一すじずつ、上から順にぴっちりと貼っていく。一つの窓が塞がれば次の窓、大きな窓も小さな窓も、風呂場やトイレの窓まで次々と貼っていく。
 日を追うごとに家の中が暗くなり、やがてほとんどの窓が塞がった。
 妻の精神が病んでいることにとっくに気付いていたが、何を言ってもやめないので、気が済むまでとそのままにしておいた。
 寝室の窓の最後の一すじを貼り終えた後、妻はベッドの上で死んでいた。自殺ではなく病死だった。
 愛人がすぐ家に転がり込んできた。まだ早すぎると思ったが、病んだ妻の言動に悩まされていた日々を癒してくれたのは彼女だし、やっと日陰の身から脱せると喜んでいる彼女を無碍にすることはできなかった。
 ただ、非現実的だとは思ったが、彼女が妻を呪い殺したのではと想像した。
 まさかまさか。この世にそんなことあり得ない。
 悋気の強かった妻と図らずも離れられ、これから来る幸福な未来に思いを馳せて愛の巣となろう寝室の窓のテープを剥がす。
 窓の向こうで妻が覗いていた。
 どの窓のテープをめくっても妻がいるので剥がすことができない。
 明るいが妻の覗く家で愛人と新しい生活を営むか、暗いままだが妻が見えない家で生きていくか悩みに悩んだ。
 いっこうにテープをはがさない私と窓を塞いだ異様な家に耐えられなかったのか、しばらくして愛人は出て行った。
 私は彼女をあきらめたのだ。
 そう期待してテープをはがしてみるも妻は相変わらずそこにいた――
 私はいまだテープをはがせず、妻の怒りも解けることはない。

掌中恐怖 第三十九話 『G死滅計画』

2019-08-25 12:23:03 | 掌中恐怖

G死滅計画


『G死滅計画
 隙間や通り道に一回噴射するだけでOK』
「こう書いてるだけあってすごいのよ。ここの隙間にね、こうやって一回――」
 商品名のラベルを俺に見せてから、妻が小さなスプレー容器に入った薬液を冷蔵庫の間に噴射する。
「ほらこれだけで隠れているGも通りかかったGもいちころなの」
「ホントか?」
 俺はテーブルに新聞を広げながら鼻で笑った。
「ホントよ。もし今Gが出てきても使えるし、もうこれ一本でいいの。心強いわ。
 あっちこっちの隙間に吹き付けとけば、今年はあの黒くて不気味な姿を見なくていいのよ」
 そう言ってテレビやソファの下、茶箪笥の間までシュッシュッシュッと吹き付けていく。
「おい、においはしないけど、なんか喉がいがらっぽいぞ。やり過ぎは人体によくないんじゃないか?」
 喉の異物感に咳払いしながら妻を見る。
「ん? わたしはどうもないよ。それにやり過ぎはだめだっていう注意書きもないわ」
 だが、俺は返事するどころではなかった。喉の奥から何かがぞろぞろと出てくるようで胸が悪い。
「あなたどうしたの? きゃああっ」
 覗き込んできた妻の悲鳴で自分の口からいくつものGが溢れ出ているのに気付いた。ぼたぼたと足元に落ちたGたちは苦しみ悶えている。
 最後の一匹が口から出た途端、俺の意識は途絶えた。

 この殺虫剤により密かに進行していたGの人類乗っ取りは阻止された。
 結果、人口の半分以上が減少。
 また命拾いした宿主もいたが、体内にGがいなくなった後、免疫力が低下し、やがて死亡した。