掌中恐怖 第四十三話『ストーカー』 2020-07-07 04:37:02 | 掌中恐怖 ストーカー 彼女はその話を聞いて驚いた。 あの男性はストーカーなのだという。彼氏のいる女性に横恋慕しているそうだ。スマホを駆使し何通もメールを送信し、付きまといながら熱い視線を送り続けているらしい。 女性も彼氏もそのしつこさに迷惑してはいるが、負けることなく戦っているという。 三人とももうすぐ百歳に手が届くというのにどうりで元気なわけだ。 介護士は日誌にどちらも頑張れと書きながら、微笑んだ。
掌中恐怖 第四十二話『投稿動画』 2020-05-26 02:28:57 | 掌中恐怖 投稿動画 もしもし? あら久しぶり。 いま? パソコンで動画見てる。 ううん、映画じゃないよ。わたし最近、料理とか手芸とか工作? そんな動画にはまってんの。 そうそう。手元映して作り方説明するやつ。見てると面白くてさ。 別に女子力高めようなんて思ってないよぉ。そんなんもとから持ってるしさ、なんてね。 でさ、こういうのってだいたいみんな顔出してないじゃん。作り方見せてるんだから当たり前なのかもしれないんけど、今見てる動画、顔見えてるんだよね。 わざと? ははは、ちがうちがう。そんなんじゃなくて、工作に使ってるツルツルテカテカのシートに作者の顔が反射しちゃってるんだよ。編集中、気付かんかったんかな――顔出しNGならヤバいよね。 そっ。丸映り――でもね、この顔ちょっと変なんだよね。あ、ブスっていう意味じゃないよ。ほんと、ほんと。けなしてないって。わたしそういうの言わない人だから――そうだったっけ? 覚えてないわ―― まあ薄っぺらいシートが歪んでそう見えてるだけかも――にしてもすごく変――っていうか、怖い顔――ん、これホント 歪んでるから、だよね? え、やだっ。顔の後ろにも顔がいっぱいある? ちょっ、ちょっと待って、キモいからパソコン切るわ―― うん、もう消したよ――えっなに? だからちゃんと切った―― ウソっ――わ、わたしの顔――画面に反射してるわたしの顔が――さ、さ、さっきのと一緒―― 嘘じゃないよっ。何笑ってんの? いやだっ後ろにも顔が――あ、やだっ、やだっ、やだっ、や―――― 悲鳴が聞こえた後、中学時代にわたしをひどくいじめた女の声はもう二度と聞こえてこなかった。
掌中恐怖 第四十一話 『赤いパーカー』 2019-09-12 11:11:17 | 掌中恐怖 赤いパーカー 隣室から出てきた女性のパーカーを見て驚いた。わたしと同じものを着ていたからだ。 「ど、どうも――」 お互い気まずい空気が流れ、苦笑を交わす。 値踏みするようにしばらく見合っていたが、先にその女性がバッグを大事そうに抱え足早に去って行った。 せっかくフードを被って顔を隠していたのに、ばっちり見られてしまった。でも、それはお互い様ってことで。 凶器の包丁を隠したバッグを大事に抱え、わたしも家路を急いだ。
掌中恐怖 第四十話 『風流声』 2019-08-26 13:23:08 | 掌中恐怖 風流声 マンション五階のベランダで爽やかな秋風に吹かれながらデッキチェアに座ってくつろいでいた。 テーブルにはビールと好みのつまみ。 朝っぱらからと妻は良い顔していないが、きょうは日曜だ。何の文句があろう。 どこかで運動会をやっているのか、風に乗ってそれらしい音楽やプログラムを読み上げる高学年の少女の声が流れてくる。スピーカーの声に混じって父兄や子供たちの歓声も微かに聞えていた。 「がんばれがんばれ」という応援、かけっこやダンスなど次々変化する音楽、迷子のお知らせなど、いろんな声や音が流れて来て懐かしさが込み上げてくる。 不思議なもんだ。運動が苦手な子供の頃は運動会が嫌で仕方なかったのに、それを懐かしく感じるとは。 自分に苦笑しながら、やがてうつらうつら眠くなる。 ぎゃあああああっ 突然悲鳴が聞こえて目が覚めた。 な、なんだ? 風で流れてきたスピーカーの声だ。 悲鳴だけでなく、逃げろという声や助けてという声、子供たちの泣き叫ぶ声も流れてくる。 阿鼻叫喚。 そんな言葉が浮かんだ。 今まで聞いた事のない凄まじい叫び声が次々聞こえ、思わず耳を塞いだ。 いったい何が起こっているのだろう。 「これなに?」 不安な表情で妻が出てくる。 隣人夫婦もベランダに顔を出したが、お互い顔を見遣るしかない。 しばらくして何台ものパトカーのサイレンが鳴り響いてくるのが聞こえた。
掌中恐怖 第三十九話 『G死滅計画』 2019-08-25 12:23:03 | 掌中恐怖 G死滅計画 『G死滅計画 隙間や通り道に一回噴射するだけでOK』 「こう書いてるだけあってすごいのよ。ここの隙間にね、こうやって一回――」 商品名のラベルを俺に見せてから、妻が小さなスプレー容器に入った薬液を冷蔵庫の間に噴射する。 「ほらこれだけで隠れているGも通りかかったGもいちころなの」 「ホントか?」 俺はテーブルに新聞を広げながら鼻で笑った。 「ホントよ。もし今Gが出てきても使えるし、もうこれ一本でいいの。心強いわ。 あっちこっちの隙間に吹き付けとけば、今年はあの黒くて不気味な姿を見なくていいのよ」 そう言ってテレビやソファの下、茶箪笥の間までシュッシュッシュッと吹き付けていく。 「おい、においはしないけど、なんか喉がいがらっぽいぞ。やり過ぎは人体によくないんじゃないか?」 喉の異物感に咳払いしながら妻を見る。 「ん? わたしはどうもないよ。それにやり過ぎはだめだっていう注意書きもないわ」 だが、俺は返事するどころではなかった。喉の奥から何かがぞろぞろと出てくるようで胸が悪い。 「あなたどうしたの? きゃああっ」 覗き込んできた妻の悲鳴で自分の口からいくつものGが溢れ出ているのに気付いた。ぼたぼたと足元に落ちたGたちは苦しみ悶えている。 最後の一匹が口から出た途端、俺の意識は途絶えた。 この殺虫剤により密かに進行していたGの人類乗っ取りは阻止された。 結果、人口の半分以上が減少。 また命拾いした宿主もいたが、体内にGがいなくなった後、免疫力が低下し、やがて死亡した。