恐怖日和 ~ホラー小説書いてます~

見よう見まねでホラー小説書いてます。
たまにグロ等閲覧注意あり

掌中恐怖 第三十八話『映画と同じ――』

2019-06-21 12:02:54 | 掌中恐怖

映画と同じ――

 ニュースで見た。
 大きな雹が降ってきた場面。
 テニスボール大の雹がびゅんびゅん降ってきて、家や車に穴をあけた。
 幸い人に被害はなかったけれど、以前観た地球の異変を描いた映画と同じだと思った。
 ニュースで見た。
 今までに見たことない大型台風が甚大な被害をもたらした場面。
 木や電柱がなぎ倒され、たくさんの家が倒壊し、何人か死者が出た。
 以前観た自然災害パニック映画と同じだと思った。
 ニュースで見た。
 大地震が起こり、言葉にできない被害をもたらした場面。
 たくさんの死者、行方不明者が出た。自分の住む地域には影響はなかったけれど、テレビを見てただ涙を流すしかなかった。
 以前観た映画と同じだと思ったが、これは映画ではない。
 ニュースで見た。
 竜巻に吹き飛ばされる車や建物。電線が引きちぎれ、灰色の渦に青い火花を散らす。
 ニュースで見た。
 ゲリラ豪雨。突然、恐ろしい量の雨が町に降る。
 道が泥川になり、茶色い濁流が文明を飲み込む。
 山が崩れ、土砂が家とそこに住む人々を飲み込む。
 これらも映画の一場面ではない。
 ニュースで見るいろいろな災害。
 数か月おきが、数週間おきになり、やがて数日おきになってくる。
 地球の危機を描いた映画と同じ異変の前触れが現実にやって来ているのだ。
 ノイズの走るテレビでニュースを見た。
 死んだ人間が死んだまま生き返り、人々を襲う場面。
 何かの研究施設がある一地方から始まったこの事件はだんだん地域を拡大していた。
 子供の頃、一緒にゾンビ映画を観た気の弱い弟は、もしこんなことが現実に起こったら喰われる前に自殺すると怖がっていた。
 こんなの映画じゃんと笑った自分に、「現実に起こるかもしれないだろっ」と憤った弟は先日、子供の頃の宣言通り自ら死を選んだ。
 自分は武器を手にゾンビと戦いながら、辛うじて日々を生きている。 
 せまりくる大災害とゾンビ。
 行きつく先は人類の滅亡、地球の最後。
 以前観た映画の主人公のような毎日。
 だが、これは映画ではない。
 目の前にある現実だ。

掌中恐怖 第三十七話『天使のお迎え』

2019-06-20 12:24:59 | 掌中恐怖

天使のお迎え

「生きづらい世の中になったわ」
 すべてに疲れきったキミコはマンションの屋上から下界を見下ろした。
 だが、死ぬ勇気もない。
 首を引っ込めて大きなため息をつくと漫画の吹き出しのような白い息が出た。
 目の前をはらりと白いものが落ちていく。
 あ、初雪だ。
 そう思って空を見上げたが、落ちてきたのはそれ一つだけ。
 しかも落ちたはずの初雪がふわふわと目の前に漂っている。
 キミコは捕まえようと手を伸ばしたが、白くて丸いものは意思を持っているかのようにすっと離れた。
 これ何? 生き物?
 もう一度そっと手のひらを近づけた。やはり不自然な動きで逃げる。
 首をひねってじっと見ていると丸い形が変形し始め、頭と胴に別れてクリオネのような形になった。背から翼が生え羽ばたくのも一緒だ。
 ええっ天使? まさかね。新種の虫かしら? かわいいっ。
 やっぱ天使かも。わたしをこの世から救いに来てくれたのかな?
 そう思いながら、もう一度手を伸ばす。
 突然、つるんとした顔が真横にぱっくり割れた。赤い断面に尖った白い粒がびっしり並んでいる。
 口? と思った瞬間、それは人差し指の先に食らいついた。
「ぎゃっ」
 手を振りまわすと飛ばされたのか一瞬いなくなったが、人差し指の肉が引き千切られている。
 指を押さえ戸惑うキミコの前に血まみれの『天使』がふわふわ戻ってきた。
 それに気づいて全速力で屋上の出口に向かって走ったが、脚の激痛で転んでしまった。ふくらはぎの肉を『天使』がはぐはぐと抉っている。
 負けじとつかみ取ろうとするキミコの喉笛に『天使』が飛びついた。肉を食みながら体内へと潜り込んでいく。
 空を仰いで転がるキミコは次から次へと降ってくる雪に気付いた。それらすべて自分の上に舞い降りてくる。
 死にたくない、助けて。
 心からそう思ったが、外からも中からも食い尽くされ、かじられていく眼球で最後の空を見ているしかなかった。
 
 下では初雪を喜ぶ子供たちの歓声が聞こえている。
 だが、それらはすぐ絶叫に変わった。

掌中恐怖 第三十六話『恨霊』

2019-06-18 10:54:40 | 掌中恐怖

恨霊

 信じていた親友に好きな女性を奪われた僕は絶望のあまり自室で首を吊った。
 死んでも消えない怨みと未練が僕をこの世に留め、住んでいた部屋は事故物件となり、誰も借りることがなくなっていた。
 久しぶりに開いたドアからあの頃より少しだけ年を取った親友が入ってきた。涙を流し謝罪しながら持参した花束を置く。
 馬鹿かお前は。
 このまま知らん顔してれば僕の恨みはここに留まるしかなかったものを、お前はわざわざ僕を連れ出しに来た――
 奴との間にできた幼い娘を抱く彼女はあの頃と全然変わっていなかった。
 さてどんな手段で恨みを晴らしていこうか。
 少女が僕に手を伸ばす。僕を見上げ「にーたん、にーたん」と無邪気に笑う。あの頃の彼女の笑顔によく似ていた。
 霊にも涙が出るのだろうか。実際は何も出なかったけれど何かが溶けて流れていくのを感じる。
 これからずっとこの子を見守っていこうと僕は決めた。

掌中恐怖 第三十五話『小鳥が飛んだ日』

2019-06-12 11:55:46 | 掌中恐怖

小鳥が飛んだ日

 君と結婚したかったのに――
 ソファにもたれ、藍子がこちらを見ている。
 だが、その大きな瞳はもう僕を映していない。
 僕だけじゃなく、この世界を映さなくなってしまった。
 たったいま僕が首を絞めて殺したからだ。
 藍子の首は驚くほど細く小鳥をつかんでいるようで、乾いた小枝の折れる音がした。
 けんかしたわけじゃない。ただ、空しかった。
 やっと決心し思い切ってプロポーズしたのに、なぜか藍子ははぐらかした。その後、何度試みてもはっきりした返事がもらえない。 
 嫌なら嫌で断ってくれたら、こんなに空しく哀しい気持ちにならなかったかもしれない。
 いっそひどい女だったらよかったのに。
 我の強い自己中な女だったら、求婚を鼻で笑うような女だったら、僕はこんなに君を愛さなかっただろう。
 自分のものにできないのなら、いっそ殺してしまおうと思うほどに――
 飛びかかって首を絞めると藍子は何かの冗談だと思ったのか楽しそうに笑った。
 だが力を緩めない僕を見て、驚きと恐怖で顔を歪め一筋の涙を流した。
 ぱくぱく口を動かすばかりで、やがて藍子は息絶えた。
 自ら彼女を消しておきながら後悔が生まれる。
 ああ――たとえ罵りの言葉でもいい、もう一度声を聞きたい。
 ばかだ。僕は。
 結婚できなくてもよかったじゃないか。
 生きて存在しているだけで、それだけでよかったじゃないか。
 なんてことをしてしまったのだろう。
 でも、もう遅い。
 カタン。
 ドアポストに何か投函される音がした。郵便配達人の足音が遠ざかっていく。
 ふらふらと立ち上がって取り出し口をのぞくと封筒が入っていた。宛先に見慣れた藍子の文字があった。 
 わけがわからない。なんなんだ、こんなタイミングで。これはいったいなんなんだ。
 未来を予見した藍子が僕を責めるために送ってきたものなのか?
 もつれる指で開封した手紙に膝が崩れた。
 藍子は自分の誕生日にプロポーズして欲しかったのだ。
 鈍感な僕はそれに気づかなかった。
 藍子の誕生日――ああ今日だ。独りよがりの憎しみに大事な彼女の誕生日さえ忘れていた。
 業を煮やして手紙をしたためる藍子の可愛いふくれっ面が目に浮かぶ。
 だがもうそれを見ることは叶わない。
 僕はなんてことをしてしまったのだ――

          *

 あれからずっと藍子と一緒にいる。
 どんな姿になろうとも、僕らはもう夫婦なのだから――


掌中恐怖 第三十四話『容疑者』

2019-06-11 11:23:59 | 掌中恐怖

容疑者


「誘拐した少女をどこへやった。さっさと吐くんだ」
 刑事が机をどんっと叩くと向かいに座った男がおえっと胃の内容物を吐き出した。
「わっ、汚ねえっ。そんな意味で言ってんじゃねえ、まじめに答えろっ。
 ったく、誰か雑巾持ってきてくれないか」
 舌打ちしながら刑事は部下の持ってきた雑巾で机の上の吐瀉物を拭きよせゴミ箱に落とそうとした。
「ん? なんだこれ」
 赤黒い液体の混じった吐瀉物の中には噛みつぶされた眼球や耳のような肉片が混じっていた。