海軍大将コルシンカの航海日誌

ロシアの作曲家リムスキー=コルサコフについてあれこれ

『管絃楽法原理』(その1)

2020年10月01日 | 著作
リムスキー=コルサコフの名著とされる『管絃楽法原理』(邦訳)を入手しました。
海外では「Principles of Orchestration」のタイトルで現在も版を重ねているようですが、邦訳は私の知る限り、太平洋戦争を挟んで数回刊行されたのちは久しく絶版となったままです。



彼の主な著作としては、この『管絃楽法原理』のほかに、自伝と『和声法要義』があり、いずれも邦訳があります。
自伝も『和声法要義』も『管絃楽法原理』同様、戦後しばらくまでは刊行されていましたが、現在では古書でしか入手することができません。

私も『管絃楽法原理』は手に入れたい書籍ではありましたが、これは自伝や『和声法要義』と違って結構な価格で取引されており(数万円ほどの場合もざら)、なかなか手出しができませんでした。
そこで、もう30年以上も前になりますが、私は公立図書館にあった『管絃楽法原理』を借り出し、大学のコピー機でひたすらコピーしまくったものです(本が傷むので本当はよくないのでしょうけど)。
そのコピーは、今でもファイルに綴じて大切に保管しています。

芥川也寸志のエッセイだったか、当時の日本の作曲家はリムスキー=コルサコフの『管絃楽法原理』でオーケストレーションを学んだとか。
現在では音楽関係の書店で見かけることはなく(絶版なので当たり前ですね)、残念ながらわが国ではこの分野での教科書としての立場は完全に廃れてしまったようです。

廃れた理由として何かの本で読みましたが、譜例として引用しているリムスキー=コルサコフ自身の作品は、《シェヘラザード》や《スペイン奇想曲》などのよく知られた管弦楽曲以外に、ほとんど知られていない歌劇からのものが多く、ロシア以外の学習者にはあまり役に立たないことが一因としてあったようです。



これもうろ覚えですが、海外のある作曲のコンクールで、審査員の一人が講評で「リムスキー=コルサコフをもっと学ぶべきだ」というようなことを言っていたことがありました。
このような発言が出てくるくらいですから、『管絃楽法原理』の地位の低下は日本に限ったことではないようです。

とはいえ、ネット社会が進行するのと合わせて彼の『管絃楽法原理』も再び脚光を浴びているような感じもします。
まずオンラインで「Principles of Orchestration」を紹介する英語のサイトをご紹介します。
このサイトは、本文の記述に合わせて譜例とその音楽が同時に学べるという優れもの。
(原著にはないモーツァルトやチャイコフスキーの譜例もあります。)

Forum: Principles of Orchestration
Principles of Orchestration by Nikolay Rimsky Korsakov online orchestration course - Garritan Interactive

管弦楽法云々は実は私にはよくわからないのですが、譜例に示されたリムスキー=コルサコフの知られざる作品(の断片)を聴けるというのは、マニア的には結構うれしいものでした。
全曲盤のない歌劇《セルヴィリア》の譜例は数例しかありませんが、何回も繰り返し聴いたものです。

さて『管絃楽法原理』は絶版となったままと書きましたが、最近(といっても数年前)になって、オンデマンドによる新訳が発売されているようです(私は未入手)。

管弦楽法の基本 (日本語) オンデマンド (ペーパーバック)
Nikolai Rimsky-Korsakov(amazon.co.jp)

「試し読み」を覗いてみましたが、翻訳が現代語に改められており読みやすくなっているのではないでしょうか。
もっとも、私などは旧仮名遣いの、ところどころ読めない字が登場する文章を通じてリムスキー=コルサコフ像が形成されてしまっていることもあり、新訳の「やさしい」文書で読むとかえって違和感を感じてしまったりします。
ぜいたくな悩みですね。