恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

話数が多くなった小説は順次、インデックスにまとめてます。

小説を検索しやすくするためインデックスを作りました

インデックス 茶倉譲二ルート…茶倉譲二の小説の検索用インデックス。

インデックス ハルルートの譲二…ハルくんルートの茶倉譲二の小説の検索のためのインデックス。

手書きイラスト インデックス…自分で描いた乙女ゲームキャラのイラスト記事


他にも順次インデックスを作ってます。インデックスで探してみてね。



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一夜だけの恋人

2014-06-02 12:59:59 | 吉祥寺恋色デイズ 種村春樹

時々読みに来てくださる方がいるようなので、アメブロの規制に引っかかって削除した部分もオリジナルに戻しました。


吉祥寺恋色デイズ、種村春樹の妄想小説です。
 ネタバレ少しありです。

☆☆☆☆☆
種村春樹
身長:177cm 体重:60kg
血液型:A型 特技:勉強・空手 
性格:明るいしっかりもの。
優しくて明るい爽やか少年。
小さなころからしっかりもので泣いているとお花をくれた思い出がある。


☆☆☆☆☆
 えー、ハル君ルートの続編のラストでは一泊旅行をしたにもかかわらず、ハル君はヒロインに手を出しませんでした。

 ハル君自身が、どうすればいいかやり方がよくわからなかったというのが理由ですが、こんな時女性も初めてだとどうしようもありません。

 で、ハル君の相手が初めてじゃなかったら、めでたく出来てた?というところから、このお話を考えてみました。

 相手は譲二さんルートのヒロインで大学3年くらいで21歳を想定してます。
 ハル君とヒロインは車で出かけた先で土砂崩れによる道路の寸断にあい、とりあえず近くにあった小さなペンションに泊まります。

 このシチュエーションは『特別捜査密着24時』の京橋さんルート本編で、恋人になる前の京橋さんがヒロインに手を出してしまう話(15話中8話目)
(早!!∑ヾ( ̄0 ̄;ノ)からとってきました。

 これくらい追い込めば、さすがのハル君もヒロインに手を出すだろうと。
☆☆☆☆☆

一夜だけの恋人~その1

 大雨のため土砂崩れで動きが取れなくなって、小さなロッジ風の宿泊施設にハル君と泊まることになってしまった。


 簡素なテーブルと椅子が一つとシングルのベッド。



百花「ティーバッグがあるよ。お茶でも飲む?」


春樹「あ、ありがとう。ポットの水は俺が入れてくるよ。」



 ハル君は私の手からポットを取り上げると水を入れにいった。

 ポットのお湯が沸く間、2人でベッドの上に座っている。


 いつもならハル君とはいろんな話ができるのに、こんな狭い空間で2人きりと思うと緊張して何を話していいのかわからない。


春樹「あのさ、佐々木」


百花「ハル君」



 2人で同時に話し始めて口ごもる。



春樹「佐々木が先に言って」


百花「ううん、たいした事じゃないから、ハル君が先に話して」


春樹「今夜、俺はこっちの椅子に座って眠るから、佐々木がベッドを使ってくれていいよ。」


百花「でもそれだとハル君疲れちゃうよ。泊まるの…今晩だけと限らないし…。」


春樹「その時は昼間の間にベッドで寝かせてもらうから…。それより、その…こんなことになってしまってごめんね。」


 ハル君は少し赤い顔をしている。



百花「ハル君のせいじゃないよ。土砂崩れが起こるなんて誰も思わなかったんだし。あのまま雨の中で、車の中に閉じ込められていたらもっと大変だったし。」

春樹「そうだね。とにかく交代でシャワーを浴びて、交代で眠る事にしよう。道路が復旧したらすぐに動けるように。あ、お湯が沸いたみたいだ。」


 私は湯のみにティーバッグをセットしてお湯を注いだ。


 2人でお茶を飲んでいると、少し緊張がほぐれて来た。

雨で閉じ込められた子供時代の思い出話なども出て来て、話もはずんだ。



 でも、話が途切れるとなんだか気まずくなってしまう。

 ハル君はいつも優しくて色々心配してくれる。

相談も気軽にできるし、幼なじみなだけでなく、本当に大切な友人だと思って来た。

 でも、こんなに近くに2人きりで座っているのは…子供時代をのぞくと初めて?

 もし今ハル君に押し倒されたら、私は抵抗できるかしら…。

 あ、私何バカな事を考えているんだろう。ハル君に限って…、そんなことはしないはず…。

 私たちはしばらく無言で見つめ合っていた。ハル君は軽い咳払いをしていった。



春樹「あの…、その…、ジョージさんとは最近うまく行ってる?」


百花「う、うん。譲二さん、相変わらず忙しいけど、ちゃんと気を遣ってくれているから…。なかなかデートにはいけないけど…。」


春樹「そっかぁ…。デートにはいけなくても、いつも一緒に暮らしているもんな。」


 なんだか、ハル君の顔がまた赤くなった。


 もしかして、へんなこと想像している?


 いや、確かにそういうことはしてるけど…。


 でも、ハル君に想像されてると思うとかなり恥ずかしい。



百花「一緒には…暮らしているけど…。時間的にすれ違いも多いし…。あっ、でも、それなりに相手してもらっているから大丈夫…。」


 って、もう意味不明なことをベラベラしゃべってしまう。

ハル君はその間、じっと押し黙っていた。



春樹「佐々木…。俺…」



 その後、沈黙が続く。

 

ハル君の湯のみはいつのまにか空っぽになっている。



百花「あ、お茶のお代わりを入れるね。」



 湯のみを掴もうとした手をハル君に掴まれた。

大きくて、少しごつごつした手。



春樹「佐々木…。俺は…」

☆☆☆☆☆

一夜だけの恋人~その2

ハル君に抱きしめられた。



百花「!」

 驚いたけど、声は出せない。


 ハル君の胸の鼓動が激しく打っている。

ハル君て温かい。


 そしてハル君の抱きしめる力はますます強くなった。



春樹「今まで、我慢して来たけど…。


 俺、佐々木のことがずっと好きだった…。子供のころから。


 そして高校になってまた佐々木に再会してからもずっと…。


 でも、佐々木はジョージさんばかり見つめていて…。

ジョージさんのことが好きなんだって…、見て分かっていたから…。


 俺の気持ちは出さないようにして…、ずっと見守って来た…。


 見てるのは苦しかったけど…。俺は佐々木を見てるだけでいいと思っていたから…。」



百花「…今まで…気付かなくてごめんね。

ハル君がそんな風に思っていてくれたなんて…。


 それなのに悩み事の相談にいっぱいのってもらってて…。

その度にハル君のこと傷つけてたんだよね…。」



 ハル君は私を抱きしめたまま、激しく首を振った。



春樹「そんなことない…。佐々木に相談されて、うれしかったよ。

それもいつも俺に一番に相談してくれるのがうれしくて。」


 ハル君は私の頭を抱えると上を向かせて、優しくキスをした。


 柔らかなそっとふれるようなキス。

私はかすかにイヤイヤをしたけど、ハル君の腕から逃れる事はできなかった。


 ハル君の気持ちに今までなぜ気付くことができなかったんだろう。


 いや、気付いていたら何か変わったろうか。


 譲二さんを好きな気持ちに迷いはできただろうか?

 一度キスしてしまうと、もう止められなくなったみたいで、ハル君は何度もキスを繰り返した。


 私に刻印を押すかのように、唇に…頬に…首筋に…。

おびただしいキスを受けて、私の体からは力が抜けていった。



春樹「佐々木、ごめん。こんなことをしてしまって…。」



 それでも、ハル君は私を抱きしめることをやめなかった。

私もハル君の背中に手を回してそっと抱きしめる。



百花「ううん。いいの…。今はなんだかこうしていたい。」



 もちろん、他に恋人がいる身でこんなことをしているのは、とても罪悪感がある。


 でも、この薄暗い部屋の中ではハル君とこうしているのが、とても自然なことに思えた。

 ハル君は私の顔をもう一度、上向かせると私の瞳を覗き込んだ。


 私もハル君をじっと見つめる。

見つめ合う視線が絡まり合って、どうしても外す事ができない。


 こんな真剣で思い詰めたハル君の目を見たのは初めて…。



 ハル君は何も言わずにもう一度キスをした。

今度は舌を入れてくる。


 私がそれに答え返すと、ハル君はちょっと驚いたように舌の動きをとめたけど、その後は積極的に舌を絡まして来た。


 息も付けないような激しいキス。

ハル君の背中にかけた指には力が入る。


 ハル君の情熱的なキスを受けて、こんなにも私のことを好きでいてくれたのだということがよくわかった。


 ハル君の思い詰めた気持ちが感じられて、私はそのキスに応えるしかできなかった。

 ハル君はそのままベッドに私を押し倒すとさらにキスを繰り返した。



春樹「…佐々木。俺もうがまんできそうにない。」


百花「…いいよ…。ハル君なら…」

☆☆☆☆☆

一夜だけの恋人~その3

 私の言葉に、ハル君は驚いたように動きを止めて、私を見つめた。

私もそっと見つめ返す。


春樹「佐々木。ごめん。」


 ハル君は私のブラウスに手をかけた。

ハル君の手で私の姿が次々とあらわにされていく。


 ハル君は下着姿の私を押し頂くように優しく愛撫した。


 私もハル君のシャツのボタンを外す。


 ハル君の肌と私の肌が触れ合って気持ちがいい。

ハル君は私のブラを外すと私の乳房に優しく頬ずりをした。



春樹「佐々木…。寒くない?」


百花「ううん。大丈夫。ハル君が温かいから…」


春樹「佐々木も温かい。」



 肌と肌が絡み合い、足と足が絡み合う。

ハル君の愛撫は優しくて、体がとろけそう。


と、ハル君は動きをとめて、ため息をついた。


春樹「…佐々木、ごめん…。俺、この後どうすればいいかよくわからないんだ…。」


百花「!」


 私を見つめるハル君の瞳は少し揺れている。

私はそんなハル君がとても愛しくなって、ハル君の頭を両手で持つと唇にそっとキスをした。


 そして、ハル君のものをそっと片手で触ってみる。

今まで譲二さんのも手で触ったことはないので、少しドキドキした。


 ハル君のはもう固く熱を持っている。

私が触るとハル君は「うっ」と声にならない声をあげた。


 私はハル君のものをそっと自分の中に導いた。

ハル君が腰を浮かして私の中に挿入する。



春樹「…このまま、動かせばいい?」



 私はそっと囁く。



百花「そうだよ。」



 ハル君はおずおずと動かし始めたが、それは徐々に激しくなっていった。



春樹「…百花、好きだ…百花」



 うわ言のように言うハル君に合わせて、私も声をあげた。


激しく愛し合って、果てた後は2人とも荒い息を吐いていた。

 そして、重なり合ったまま、しばらくそのままでいた。


(ハル君とこんなことになってしまった…。)



 ハル君は私にまたそっとキスをした。



春樹「佐々木…。子供の頃の話だけど…。俺が引越していく佐々木と最後に会った時、佐々木がなんていったか覚えてる?」

百花「あの時ハル君はシロツメクサで冠を作ってくれたよね。お姫さまみたいでとてもうれしかった。」

春樹「…。やっぱり忘れていたんだ…。」


百花「えっ、何を?」

春樹「…いや。もういいよ。」


百花「気になるから教えて。」

春樹「…。俺が『花嫁さんみたいだ』って言ったら、佐々木は『今度会えたら、ハル君のお嫁さんになる』って…。」


 ハル君の頬と耳は真っ赤になっていた。



百花「言われてみたら、そんなことを言ったような気もする…。ハル君はそれをずっと覚えていてくれたんだ…。」

春樹「うん。だから佐々木が戻ってきた時、『覚えてる?』って時々聞こうかとも思ったけど…。佐々木はジョージさん一筋だったし。」

百花「ごめんなさい。」

春樹「あやまることはないよ…。佐々木が俺のお嫁さんになるというのがどういうことなのか、
俺たちは理解していたわけじゃないし。」



 私は黙ってハル君にしがみついた。



 ハル君と恋人になる道もあったのだろうか?


 そうしたら、ハル君といつもこんな風に抱き合ったりして。

今のように罪悪感で胸が痛むこともなかったろうか? 



(でも…。私はやっぱり譲二さんのことが好き。身勝手だけど…。今だって譲二さんに会いたい)



春樹「佐々木、こんなことになってごめん…。でも、ありがとう。佐々木のことを抱けて、俺はうれしかった。」



 私はハル君の胸に顔を埋めた。



百花「私こそ、ごめんなさい…。こんなことしても、ハル君の気持ちには答えられないのに。」

春樹「…それは、ジョージさんとは別れられないってこと?」


百花「…うん。ごめんなさい。」



 ハル君は大きくため息をついた。



春樹「でも、俺。佐々木のこと、忘れられそうにない。佐々木は俺の初めての女(ひと)だから…。」

百花「忘れなくても…いいよ。でも、2人だけの秘密にして…。」

春樹「じゃあ…。…ここにいる間だけ恋人でいてくれる?」


百花「…うん。いいよ。」



 ハル君は惜しむかのように激しくキスを求めて来た。

 

私もそれに答える。


 今度はハル君はさっきのおずおずとした愛撫ではなく、ちょっと強引に私の体を触る。


 乳房を触る手にも力が入って少し痛い。

 


 でもいい、譲二さんを裏切った罪悪感とハル君に応えられられないことへの罪悪感。

それが少しでも薄れるから…。


 ハル君がまた私の中に入って来た。

 私たちは時を惜しむかのように、朝まで何度も交わった。



 一夜だけの恋人。



 ハル君、愛しているとは言わないよ。

私が愛しているのは譲二さんだけだから。


 でも、今だけはハル君の気持ちに応えていたい。


 私って悪い女だよね…。

『一夜だけの恋人』おわり

☆☆☆☆☆


茶倉譲二エピローグ3

2014-06-02 12:50:58 | 吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二

吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二の妄想小説。譲二目線からエピローグのお話を眺めてみました。
ネタバレありです。
 

☆☆☆☆☆
茶倉譲二プロフィール 喫茶クロフネのマスター
身長:183cm 体重:70kg
血液型:O型 特技:歴史語り


 特徴:歴史オタク
ヒロインの初恋の人。公園でサンドイッチをもらったり、抱っこしてもらったりしてた。
本編最終話でヒロインの恋人に。

☆☆☆☆☆
エピローグ3その1
 どこにデートに行くかは百花ちゃんに任せて何も考えてなかっから、とりあえず、俺が観に来たかった『魅惑の三国志展』に滑り込んだ。

譲二「良かったー。ギリギリ間にあったー」
譲二「表参道の『縄文式土器展に』は5時までだったんだけどさ。こっちは遅くまでやってるから、なんとかなるかなって思ってさ」
百花「『魅惑の三国志展』?」
譲二「そう」
譲二「これさ、すごい観たかったんだよねー」
百花「あの…もしかして、六本木や表参道によく来るのって、こういうのを観るために?」
譲二「そうだよ。この界隈は、美術館や博物館がいろいろあるからね」
譲二「あっ!ちょっ…ヤバい。これ、魏書の版本‼︎」

 俺は大好きなものに囲まれて、ちょっと興奮気味だ。

百花「…魏書?」
譲二「ほら学校で習わなかった?『魏志倭人伝』とか。アレとか載ってんの!」
譲二「って言っても、別に三国志正史の中に『魏志倭人伝』ってのがあるわけじゃなくてね…」
譲二「あ!」
譲二「その前に『三国志』と『三国志演義』の違いは分かる?」
譲二「『三国志』は歴史書で、列伝形式。でも『三国志演義』はそれを元にしたフィクションでね」
譲二「だから、たとえばほら…あの有名な赤壁の戦いでもさ、孔明は東南の風なんか起こしてなくてね」
百花「…」

 百花ちゃん、微妙な顔で固まってる…。
 もしかして、引かれた?

譲二「あ…ごめん。さすがに俺、興奮しすぎだよね?」
百花「いえ…ちょっとびっくりしただけで…」
譲二「ごめんね」
譲二「あー、もう…ホントにごめん!」

 頭を抱えてしまう。
 百花ちゃんを喜ばせるためのデートなのに…。

譲二「せっかくのデートなのに、何やってんだろ…俺…」
百花「でも、今日のマスター…何だか可愛いです」
譲二「かわ…っ!?え?なにそれ!?」

 思わぬ百花ちゃんの言葉に俺は混乱した。

百花「なにって、そのままの意味ですけど…」
譲二「ええっ?」
譲二「困ったな…この年になって『可愛い』なんて」
百花「でも、さっきのマスター、遊園地に行った時のリュウ兄みたいでしたよ…」
譲二「それって、つまり『はしゃぎすぎ』ってことだよね…」
譲二「…なんかもう、ホントにいたたまれなくなってきた…」
百花「そんなことないですよ」
百花「それより、コレは何ですか?」
譲二「ああ、それはね!」

 百花ちゃんは、俺を立てるように色々質問してくれる。
 質問されると滔々と話し続けてしまうわけで…、順路に従い、展示内容をガイドして回った。
 百花ちゃんは俺の説明に上手に相槌を打つので、俺はいい気分でしゃべり続けた。


☆☆☆☆☆

 『魅惑の三国志展』といいながら、絵は戦国時代の鎧兜や掛け軸なんかがみえてる。(`∀´)
 譲二さん歴オタと言いながら、三国志ばっかりしか出て来ないのは(一部幕末もあるけど)シナリオの人、三国志しか知らないのかな?

 ま、私が三国志をあまり知らないだけだけど。


☆☆☆☆☆
エピローグ3その2
 『魅惑の三国志展』を出て、反省する。

譲二「…なんかごめんね。結局、俺ばっかり楽しかったみたいで」
百花「そんなことないです。楽しかったですよ」
譲二「そう?」
譲二「でも、百花ちゃんとしては、オシャレなお店とかにいきたかったんじゃない?」
百花「…え?」
譲二「ごめんね。俺、そのテのお店はホント苦手でさ…」
譲二「でも、全然わからないわけじゃないから」
譲二「百花ちゃんが行ってみたいなら、今度考えとくよ…」

 今回は準備不足だったからな…。次回こそリベンジしないと…。

百花「そんな…いいです」
譲二「でも、こういうところ…百花ちゃんとしては、あまり楽しくないでしょ?」
百花「そんなことないです。いつもとは違うマスターを見られるし…」
百花「それに…マスターと一緒にいられるだけで楽しいから」

 そういうと、百花ちゃんはぎゅっと俺の手を握ってくれた。俺も彼女の手を握り返す。
 小さくて柔らかい手…。

譲二「百花ちゃん…」

 そうだ。吉祥寺の夜景を百花ちゃんに見せてあげたくなった。

譲二「じゃあさ、もう吉祥寺に帰ろっか?」
百花「え?」
譲二「本当は、すぐそこの展望台にでも行こうと思ってたけど…」
譲二「もっととっておきの場所が、吉祥寺にはあるから」

 吉祥寺の夜景を眺めるビュー・ポイントに立つ。優しい夜風が百花ちゃんの髪の毛をなびかせている。

百花「綺麗な夜景…」
譲二「なかなかの穴場でしょ。ここ」
譲二「あの、ちょっとキラキラしているのが吉祥寺の駅前」
譲二「もう少しこっち側が、俺たちのいる商店街」
譲二「もちろん、都心の夜景と比べると全然地味なんだけどね。その分、ちゃんと人が生活してるなーって感じがして…なんだか、ホッとするんだよね…」

 百花ちゃんが黙って俺を見つめているのに気付いた。

譲二「ん?百花ちゃん、どうかした?」
百花「なんか…ヘンな感じです」
百花「たった数時間で、マスターのいろんな顔を見た気がします…」
譲二「そう?どんな顔?」
百花「子供っぽい顔とか。今みたいな大人の人だなぁって顔とか…」
譲二「大人の…ひと…かぁ」
 百花ちゃんの髪の毛を優しく梳く。この髪の毛に、頬に、唇に口づけたい…。
譲二「ねえ、百花ちゃん」
譲二「もう少しだけ、大人っぽいこと、してみてもいい?」
百花「…え?」


☆☆☆☆☆
 歴オタのデートコース、私的には楽しいんだけど、興味ない人には苦痛だろうな。
 でも、ヒロインの「いつもとは違うマスターを見られるし…」というのはよくわかる。好きな人のいろんな顔を見られるのはうれしいことだよね。
 特に大人の男性だと思ってた人の少年のようにはしゃぐ姿は新鮮だと思う。



☆☆☆☆☆
エピローグ3その3
譲二「ちょっとだけ…本気出してみてもいい?」
百花「…いいですけど」

 その言葉を聞くと、百花ちゃんの手をぐいっと引きよせた。そしてその唇にキスをする。
 そっと優しく…。
 でもその柔らかい唇から離れることができない。
 百花ちゃんは俺にされるがままになっている。もしかして、ファーストキス?
 思い切って聞いてみよう。

譲二「…百花ちゃん?」
百花「は、はい…」
譲二「あの…こんなこと聞くのもなんだけど…その…もしかして、初めて?」
百花「…わかるくせに…、マスターはイジワルです」
譲二「…」

(やっぱり…!)

百花「マスター?」

 ついニヤけてしまう口元を隠しながら百花ちゃんから目をそらせた。

譲二「…すげー嬉しいなんて…」

 百花ちゃんのファーストキスの相手は俺なんだ!!

 なんだか…全世界に向かって叫びたい!

譲二「なんか、俺、変態かも」

 そして、キスだけじゃなく、百花ちゃんを抱くのも俺が初めての男に…なんちゃって。

譲二「ダメだ。ダメダメ」

 邪な考えよ、去れ!!

譲二「ごめんね。当分もうしないから」

百花「え…」
譲二「すごいイケナイ気分というか…背徳感というか…不道徳というか…」
譲二「ていうか…百花ちゃんが悪いよ」
譲二「そんな拗ねた顔も可愛いなんて…」
百花「そんなこと言われても…それに、私はイヤです…」
譲二「え?」
(今のって?)

百花「マスターは、もう…私にキスしてくれないんですか?」
譲二「…」
百花「そんなの…寂しい」
譲二「潤んだ瞳…上目遣い…赤らめた顔…」
百花「?」
譲二「なんだ、この天然小悪魔…」
譲二「神様、我慢しなくてもいいってことですか?」

 百花ちゃんの頬をそっと撫でた。なんて可愛いんだろう。

百花「マ、マスター?」
譲二「他の男にそんな顔しちゃダメだからね」
百花「そんな、ってどんな顔ですか?」
譲二「男を誘う顔」
百花「ええ!?」
譲二「というか…今日はキスまでで許してあげるけど、次は覚悟してね」
百花「わっ、マスター待って…」
譲二「無自覚でも、今度は我慢してあげないから…」

 そして、俺は彼女を抱きしめると何度もキスをした。


☆☆☆☆☆

 自分がヒロインのファーストキスの相手だと気づいて喜ぶ譲二さん。
 有頂天で…
譲二「なんか、俺、変態かも」
譲二「ダメだ。ダメダメ」
譲二「ごめんね。当分もうしないから」

だなんて、ヒロイン目線で見ていた時にはえらく動揺してるなとしか思わなかった。
 でも、譲二さん目線で見てみると…キスだけでなくそれ以上のことも想像してしまって、それであんなに慌てていたんだね。


☆☆☆☆☆
エピローグ3その4
 翌日、クロフネでは百花ちゃんにいつものごとく理人がじゃれついている。
 理人は盛んに百花ちゃんから俺とのことを聞き出そうとしている。
 百花ちゃん動揺しすぎだよ。ばれちゃうよ。

理人「もしかして、マスターと何かあった?」
譲二「え!?」

 不意に言われて、持っていたコーヒーを落としてしまう。

譲二「うわあっ、コーヒーこぼしちゃった!ぞうきん、ぞうきん」
理人「…マスター、動揺しすぎ」
譲二「ちょ…動揺なんてしてないよ!」
理人「うっそだー」
理人「やっぱり、何かあったんだ~」
譲二「ないない。何もないから!」
百花「そうだよ、りっちゃん。何もないってば!」
理人「ふーん…」
理人「じゃあ、とりあえずそういうことにしといてあげよっかな」

 理人は鋭い。こやつには気をつけないと…。


 みんなが帰り、2人だけになって、百花ちゃんに前から気になっていたことを聞いてみた。

譲二「百花ちゃん、日本に戻って来たこと後悔してない?」
百花「え?」
譲二「たまにね…気になるんだよ」

譲二「なんだかんだ言っても、百花ちゃんはまだ高校生だし…本当はご両親の元にいた方がいいんじゃないのかな…ってね」

百花「…そんなことないです」

百花「確かにお父さんやお母さんに会えないのは寂しいけど…ここにはみんながいますから」

譲二「ハルに一護に…タケにリュウ、それにりっちゃん」
譲二「みんな、百花ちゃんの王子様だもんね」

 遠い昔、ちっちゃな百花ちゃんが言っていた言葉を思い出した。

百花「え…?」
譲二「…あれ?」

譲二「りっちゃんは、お姫様だったっけ?」

百花「もしかして、今の…私が小さかった頃の話ですか?」

譲二「そうだよ。百花ちゃん、自分でそう言ってたんだよ?覚えてない?」

百花「…覚えてないです」

百花「『大きくなったらお姫様になる』って言ってたのは覚えているんですけど…」

譲二「そっか…」

 小さかったものなぁ。忘れてしまったのか…。じゃあ、俺を王様だって言ったのも忘れてしまったかな。

百花「ごめんなさい。忘れてしまって…」

譲二「何言ってるの。謝ることなんてないよ」

譲二「俺だって、百花ちゃんとの思い出、全部覚えているわけじゃないし」

百花「でも…」

譲二「もともとね、思い出を全部覚えているなんて、無理なことなんだよ」

譲二「でも…例えばね」

譲二「俺が覚えていないことを百花ちゃんが覚えていてさ」

譲二「百花ちゃんが忘れてしまったことを俺が覚えていたらさ」

譲二「2人でこうやって話をするだけで、思い出が2倍になるじゃない?」

譲二「1人ぼっちでいる時よりも…ね?」

百花「確かにそうですね」

譲二「だからね。恋人でも友達でも、思い出話が出来る相手がいるってことは、きっと幸せなことなんだよね」

百花「思い出がたくさん増えるから?」

譲二「そういうこと」

百花「じゃあ、ずっと一緒にいてくださいね」

百花「10年経っても20年経っても…ずっと側にいてくださいね。マスター」
譲二「…」

(百花ちゃんにずっと側にいて欲しいと言われるのはすごく嬉しい!
 とても幸せな気分…をぶちこわすのはその『マスター』っていう呼びかけだ。)

譲二「…あのさ、そろそろやめない?その『マスター』っていうの」
百花「え…?」
譲二「その…さ」
譲二「せっかく付き合っているわけだし。そろそろ呼び方変えてみない?」
百花「…『譲二さん』とか?」
譲二「ハハッ。いいねー、それ」
譲二「もう一回呼んで?」
百花「譲二さん…」
譲二「うんうん」
百花「譲二さん…」
譲二「…」

(好きな子に名前で呼ばれるなんて…。このくすぐったい感覚。)

百花「譲二さん…?」
譲二「…なんか、いろいろヤバくなってきた…」
百花「?」
譲二「ごめん。俺、今すごいニヤけてるでしょ?」
百花「はい…」
譲二「でも、やっぱり嬉しいんだよねぇ…好きなコに名前で呼ばれるのって」
百花「じゃあ、これからたくさん呼びますね。『譲二さん』って」
譲二「うん、ありがとう」
譲二「じゃあ、これ…一緒に飲もうっか」

お揃いのマグカップに入れた温かいココア。
 今日もその中にラム酒を入れてある。
 俺のはたっぷり、百花ちゃんのにはちょっぴり。

譲二「ではでは。今日もお疲れ様、かんぱーい」
百花「かんぱい」

 俺たちの距離はほんの少しずつだけど、縮まっている。

 百花ちゃんはまだ若いのだから、焦らなくていい。
 百花ちゃんが少しずつ大人の女性になっていく姿を…俺は側で見守ろう。

 それが俺の特権だから…。

エピローグ3おわり

☆☆☆☆☆

譲二さんの
「俺が覚えていないことを百花ちゃんが覚えていてさ」
「百花ちゃんが忘れてしまったことを俺が覚えていたらさ」
「2人でこうやって話をするだけで、思い出が2倍になるじゃない?」
という
言葉が大好きです。


茶倉譲二エピローグ2

2014-06-02 12:48:55 | 吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二

吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二の妄想小説。譲二目線からエピローグのお話を眺めてみました。
ネタバレありです。
 

エピローグ1
のつづき

☆☆☆☆☆
茶倉譲二プロフィール 喫茶クロフネのマスター
身長:183cm 体重:70kg
血液型:O型 特技:歴史語り


 特徴:歴史オタク
ヒロインの初恋の人。公園でサンドイッチをもらったり、抱っこしてもらったりしてた。
本編最終話でヒロインの恋人に。

☆☆☆☆☆
エピローグ2その1
 昨夜はなかなか眠れなかったのに、朝は早く目が覚めてしまった。

 色々考えてみたことをまとめてみる。

 俺は百花ちゃんがイギリスから帰ってきて、一緒に暮らせることが、ただただ嬉しくて毎日満足して暮らしていたんだけど…。
 もしかしたら、百花ちゃんは不満だったんだろうか…?

 考えてみたら、恋人になったにも関わらずデートにも連れて行ってあげてない。
 高校生ってそういうことにすごく憧れてるんじゃないだろうか?
 まぁ、俺は店があるからというのを今まで言い訳にしてきたけど、それじゃ、だめだよな。

 今度の土曜日にでもデートに誘ってみよう。

 それと…、これは俺自身の問題なんだけど…。百花ちゃんに、どこまで手を出していいものか…。

 大人同士の恋人なら、会うたびにキスして、お互いの気持ちを確かめ合って、その成り行きでベッドを共にしたり…って、俺は何を考えているんだ!

 そこまでいくと、百花ちゃんはやっぱり引いてしまうよね…。まだ未成年だし…、高校生だし…。

 ああー。結局、恋人同士になっても、百花ちゃんにどこまで触れたらいいのか、悩んで悶々とすることになるとは…。

 いやいや、とにかく先は長いんだから、焦って怖がらせちゃだめだ…。
 気をつけよう。
 俺って結構馴れ馴れしくボディタッチしてしまうからな…。

☆☆☆☆☆
エピローグ2その2
 今日は朝食の準備も早く終わった。そろそろ起こしに行こうかと思っていると、百花ちゃんが降りてきた。

百花「おはようございます…」
譲二「おはよー。ご飯できてるよ」

 ん? 少し元気がない…?かな?

百花「…はい」
譲二「じゃ、食べよっか。いただきます。」
百花「いただきます」

 よし! 思い切って誘ってみよう。

譲二「ねえ、百花ちゃん」
百花「はい」
譲二「今度の土曜日、学校は休みだったよね?」
百花「はい、そうですけど…」
譲二「じゃあさ、デートしよっか」
百花「え…っ」
百花「それって、アレですか?また一輪挿しの買い出しとか…」

(いや、参ったなぁ。俺って、そういうデートしかしないと思われてる?)

譲二「違う違う。デートはデート。普通のデート」
百花「…」

 百花ちゃんはきょとんとしている。

譲二「よくよく考えてみたらさ」
譲二「百花ちゃんと普通にデートしたことなかったなぁと思って。どうかな?」
百花「どうって…」

 オジサンな俺と一緒なところを人に見られるのが嫌だとか?

譲二「やっぱ、こんなオジサンとデートじゃイヤ?」
百花「イヤじゃありません!」
百花「ていうか、マスターはオジサンじゃありません!」
譲二「ハハ…ありがとう」
譲二「じゃあ、どこに行こっか?」
百花「マスターが普段行くところに行ってみたいです。」
譲二「俺が行くところ?」

(いつもの所に百花ちゃんと行く?結構楽しいかも…)

譲二「でもなあ…」

(俺が行くのは歴史関係の催し物ばっかだから、百花ちゃんは絶対興味ないよね。)

譲二「六本木とか表参道とか…百花ちゃんがいっても面白くないだろうしなぁ」
譲二「そうだなぁ、…遊園地…動物園…」
譲二「ねえ、高校生って、普通こういう時にはどこに行くんだっけ?」

(もうそういうの忘れてしまったな…)

百花「…あの!」
百花「デートコース、私が決めてもいいですか?」
譲二「百花ちゃんが?」
百花「はい。任せて欲しいんです!」
譲二「そう?じゃあ、お願いしようかな」

 まあ、百花ちゃんが行きたいところを選んでくれるだろうから間違いはないだろうし、初デートとしては楽しく過ごせるかも。

☆☆☆☆☆
エピローグ2その3
 夕方、百花ちゃんを囲んでりっちゃん、ハルと一護、タケがコソコソ何かを話している。
 何だろう?気になる。

譲二「ちょっとちょっと。5人でこそこそ何やってんの?」
譲二「俺も混ぜてよ!」
理人「ダーメ!マスターはあっち行ってて」
譲二「うわ…今、反抗期の子供を持った親の気持ちがすごいよく分かった」

チャイムの音が鳴る。

竜蔵「ジョージ、聞いたか?」
竜蔵「今度の商店街の寄り合い、今週の土曜日に変更だってよ」
譲二「ええっ?今週!?」
譲二「だって、アレだろ?寄り合いって、あの健康ランドに一泊する奴だろ?」
譲二「それが、なんでそんな急に…」
竜蔵「肉屋のオッサンが予約した日を間違えてたんだってよ」
竜蔵「…それで、今からだとキャンセル料が発生すっから、今週に変更だと」
譲二「ええっ?」
譲二「なんだよ、それ」

 あーあ、結構楽しみしてたのにな…。百花ちゃんとの初デート。それに…百花ちゃんも楽しみにしてくれてたのに。

譲二「ごめん、ホントごめんね、百花ちゃん」
百花「いいですよ。そんな…」
譲二「お詫びに健康ランドのお土産、買って来るから」
譲二「ホント、ごめんね?」
百花「そんな…気にしないでください」

 百花ちゃんは優しいからそういってくれるけど、なんとか埋め合わせを考えないとな。

☆☆☆☆☆
 次の日、またあいつらは百花ちゃんを囲んで店の角に固まっている。俺は声をかけた。

譲二「また今日も秘密の話?」
譲二「寂しいなぁ…誰もカウンターに座ってくれないなんて…」
理人「だって、マスターには関係ない話なんだもん」
春樹「関係なくはないだろ」
春樹「譲二さん、今度の土曜日、佐々木を借りてもいい?」
譲二「え?」
春樹「みんなで遊園地に行こうってことになったんだ」
譲二「あ…」

(ああ、そういうことか。俺とデートできない百花ちゃんを慰めてくれるつもりなんだ…。)

譲二「そう…なんだ…?」
竜蔵「ジョージは健康ランドでジジイたちの相手をして来いよ」
理人「百花ちゃんは、僕たちにまかせて」
譲二「…分かった」

(悔しいけど、仕方ない)

譲二「楽しんでおいで。百花ちゃん」

 百花ちゃんが楽しいのが一番だしな。それに5人いれば、牽制し合って誰かが抜け駆けすることもないだろう。

☆☆☆☆☆
エピローグ2その4
 土曜日、百花ちゃんたちは遊園地へ、俺は健康ランドへ出かけた。
 話し合いが終わったので会長に談判して、なんとか宴会は抜けさせてもらった。
 急いでクロフネに戻ると、百花ちゃんはまだ帰ってなかった。

チャイムが鳴る。

百花「…マスター!?」
譲二「おかえり、百花ちゃん…」
百花「どうしたんですか?今日、泊まりだったんじゃ…」
譲二「ハハッ、帰ってきちゃった」
譲二「どうせ話し合いは、夕方で終わりだったし。それに…」
譲二「やっぱ、百花ちゃんと一緒にいたいからね」
百花「…マスター」

 潤んだ瞳で俺を見つめてる。
 邪念が浮かんできそうだったので、慌てて言った。

譲二「ってことなんだけど。もう疲れちゃった?」
譲二「もし疲れてないなら、これから俺とデートしない?」
百花「します!デートします!」
譲二「良かった」
譲二「実は行きたい場所があってさ」
譲二「ちょっと遠いんだけど…六本木まで付き合ってくれる?」
百花「え…?」

エピローグ2おわり

 

エピローグ3へ
☆☆☆☆☆


 六本木といっても、ヒロインがイメージする六本木と譲二さんが行きたい六本木は違うんだよね。(`∀´)


茶倉譲二エピローグ1

2014-06-02 12:45:59 | 吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二

吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二の妄想小説。譲二目線からエピローグのお話を眺めてみました。
ネタバレありです。
 

☆☆☆☆☆
茶倉譲二プロフィール 喫茶クロフネのマスター
身長:183cm 体重:70kg
血液型:O型 特技:歴史語り


 特徴:歴史オタク
ヒロインの初恋の人。公園でサンドイッチをもらったり、抱っこしてもらったりしてた。
本編最終話でヒロインの恋人に。

☆☆☆☆☆
エピローグ1その1
 百花ちゃんが日本に帰って来て、また平穏な日々が続いている。

 一護にタケ、ハルにリュウ、りっちゃんといつものメンバーも集まってきた。それぞれが思い思いに注文をだす。

譲二「リュウとタケはメニューにないものを頼むんだから…」
理人「あっ、フードメニューが増えてる!カルボナーラだ」
譲二「そうだよ。クロフネ久々の新メニュー」

 カルボナーラは百花ちゃんが俺のために考えてくれたメニューだからね。こんな風に少しずつ百花ちゃんとの思い出のものが増えて行くとうれしいな。

理人「じゃあ、僕、それね」
春樹「俺もそうしようかな。一護は?」
一護「仕方ねーな。新作だし、喰ってやるか」

 一護は相変わらず素直じゃない。

譲二「じゃあ、コーヒー2つに、特製ランチにハニートーストに、カルボナーラ3つね」
百花「マスター、手伝いましょうか?」

 百花ちゃんは気が利くなぁ。

譲二「いいよいいよ。百花ちゃん、今、忙しいでしょ」
百花「忙しいってほどじゃないですけど…」
竜蔵「…ん?お前、なに書いてんだ?」
百花「手紙だよ。お父さんとお母さんに」
理人「ふーん」
春樹「手紙って、たまにもらえると嬉しいよなぁ。メールとはまた違った感じがして」
百花「でも、改まって書こうとすると、なかなか内容が浮かばないんだよね。」

 リュウとタケに「野菜」「漫画」と吹き込まれて、迷走する百花ちゃん。

理人「じゃあさ。マスターとのこと、書けばいいんじゃない?」
百花「え?」
理人「『お父さん、お母さん。今日も私は、マスターとラブラブな毎日を過ごしてます』とかさ」
一護「バカ。それはマズイだろ」
春樹「そうだよ。りっちゃん…」
理人「あー、二人とも何を想像してんの?やーらしー」
竜蔵「な…っ、百花、お前、まさかジョージとハレンチなこと…」
百花「してないよ!してるわけないじゃない!」
理人「え~、ホントに?どうなの、マスター?」
譲二「さあ、どうでしょう?」

 ここはあいつらを牽制するためにも曖昧にしとかないとね。

理人「うわぁ…なんか余裕っぽーい」
譲二「ハハッ。これでも大人ですから」

 百花ちゃんの気持ちを確かめてから、確かに俺には余裕がある。
 百花ちゃんが俺のことを好きな上に、イギリスと日本に離れているわけでもなく、毎日一緒に過ごせているんだからな。
 ライバルがうじゃうじゃいるとはいえ、これはかなりのリードと言えるだろう。

譲二「はい、まずはコーヒー二つ」



☆☆☆☆☆

 エピローグを彼氏目線で見直してみた。
 本編の恋の苦しみみたいなのから比べるとラブラブで楽しい話になった。
 というか、譲二さん目線でみると、エピローグの譲二さんは浮かれて地に足がついていない状態だった。(^ε^)♪


☆☆☆☆☆
エピローグ1その2
 夕食は百花ちゃんと2人でラブラブ。

譲二「は~い、百花ちゃん。今日の夕飯はカレーライスね」
譲二「っていっても、お店のあまりものなんだけど」
百花「ありがとうございます!いただきます」

 可愛い百花ちゃんを眺めながら、食べる夕食。なんて幸せなんだろう。しかも、百花ちゃんは俺が作ったものを食べてくれるんだぜ。

譲二「…おいしい?」
百花「はい!」

 返事も元気があって可愛い。

譲二「良かった」
譲二「そういえばカルボナーラね、なかなか人気だよ」
百花「ホントですか?」
譲二「うん。今日はりっちゃんたち以外に5皿も出たよ」
百花「このまま人気が出てくれるといいな…」
譲二「大丈夫だよ。百花ちゃんが提案してくれたメニューだからね。」

 百花ちゃんは俺にとって幸運の女神だ。

譲二「きっと、すぐに人気メニューになるよ」
百花「マスター…」

 その潤んだ瞳で見つめる姿がまた可愛い…。

譲二「はい、百花ちゃん、食後のコーヒー」
百花「ありがとうございます」
百花「…」
譲二「…なに?どうかした?」
百花「いえ…なんでも…」
譲二「またまた~、嘘ついちゃって」
譲二「今、このカップ、見てたでしょ」

そう、百花ちゃんとのペアのマグカップ。これを使えるのは百花ちゃんの恋人だけ、つまり俺だけなんだ…。

百花「…マスター、ちゃんと使ってくれてるんだなーって思って」
譲二「そりゃ、使いますよ。なんたって、百花ちゃんとペアだもん」
譲二「それに、これを使うのは俺の特権だしね」
百花「ふふっ。そうですよね!」

笑った顔も可愛い!

譲二「…あー、もう」
譲二「百花ちゃんってば。ホント、可愛いんだから」

 毎日惚れ直してしまう。あー、俺ってなんて幸せなんだろう!

☆☆☆☆☆

 そして夜。

譲二「じゃあ、俺、もう寝るから」
譲二「おやすみ。百花ちゃん」
百花「おやすみなさい…」

 百花ちゃんがイギリスに行ってしまった時のことを思い出すと、なんて幸せなんだろう。

 独りじゃない。寝る前にちゃんと「おやすみ」と言ってもらえる。しかも百花ちゃんの可愛い声で。

☆☆☆☆☆

 朝は、「おはよう」という相手がいて、しかもそれは可愛い百花ちゃんだ。

 朝食は2人で差し向い。百花ちゃんは俺の作った朝食を美味しそうに食べてくれる。そして、俺が作った弁当を持って学校へ出かける。

 世界中でこれほど幸せな男は他にいないだろう。毎日がバラ色で楽しくてたまらない。
 彼女が学校に行っている間も鼻歌を歌ったり、独りでニヤけて過ごしている。



☆☆☆☆☆
 確かにヒロインに去られて1人で過ごした2ヶ月間は寂しかったはず。とくに最初の1ヶ月はね。
 浮かれている譲二さんですが、対するヒロインは恋人になったのに、恋人らしいこと…キス一つしてくれない譲二さんにちょっと不満気味。


☆☆☆☆☆
エピローグ1その3

時計をみる。そろそろ百花ちゃんが帰ってくる時間だ。

 チャイムの音がして、
百花「ただいま~」
譲二「おかえり。ちょうど良かった!」
譲二「百花ちゃん、ちよっと留守番しててくれる?銀行に行ってきたいんだ」
百花「分かりました」
譲二「じゃあ、あとはよろしくね。帰りにアイス買ってきてあげるからね」
百花「そんな…いいですよ」
譲二「いいのいいの。ご褒美ご褒美」

 彼女は店番までしてくれる。あんまり客は入らないけど、コーヒーのオーダーくらい、百花ちゃんはこなせるからね。機転もきくし…。

 しかし、…あと少しというところで、ATMは閉まってて、無駄足だった…。

譲二「ただいま~。まいったよ~。ATM、もう閉まってたよ~」

 クロフネに帰るといつの間にかりっちゃんが来てて、百花ちゃんにじゃれついていたようだ。

 俺を見て2人で固まっている。

2人「! !」
百花「マ、マスター、これは…!」
譲二「…って、りっちゃん、来てたんだ?」
理人「う…うん…」
百花「おかえりなさい…」

 バツの悪そうな2人。

譲二「なに?どうしたの、二人ともへんな顔して」

 (ここで変にヤキモチを妬いてみせても大人げないからな。)

百花「いえ…」
理人「べつに…」
譲二「そう?」

 まあ、俺の顔をみてドギマギするようじゃ、理人も口ばっかりで大したことはないな。
 なにせ、百花ちゃんは「俺のことが大好き」なんだから。
 大人の余裕だ。


 チャイムが鳴ってタケがリュウの妹の梨乃ちゃんを連れてきた。リュウに保育園の迎えを頼まれたらしい。

梨乃「リノ、じょーじのおうちのアイスがたべたいの」
剛史「だってさ」
理人「マスター、梨乃ちゃんがアイス食べたいって」
譲二「え?アイス?」
梨乃「じょーじ、こんにちは!」
譲二「ああ、こんにちは。梨乃ちゃん。じゃあ、ちょっと待っててね」
梨乃「うんっ。タケちゃんといっしょにまってるね!!」

 梨乃ちゃんはタケにべた惚れなんだ。
 昔の俺と百花ちゃんを思い出さなくも…ない。しかし…。

譲二「はーい、梨乃ちゃん。お待たせ」
梨乃「ありがとう。じょーじ」

もぐもぐ

譲二「おいしい?」
梨乃「うんっ!」
梨乃「はい、タケちゃんにも。あーん…」
剛史「いや、いらねーし…」
梨乃「あーん…」
剛史「…じゃあ、もらう」
理人「…タケ兄と梨乃ちゃん…10年後にはふつうに付き合ってたりして」

 (おっ、理人の大胆発言。)

百花「ええっ!?」
剛史「ありえない。マスターじゃあるまいし」

 (タケ、それを言いますか…? 確かに俺も今一瞬思ったけど…。)

譲二「ちょ…なんか、すごいイケナイことしてる気分なんだけど…」

 (うーん。やっぱり百花ちゃんには俺ってオジサン過ぎる?)

 またチャイムが鳴って、今度はリュウが入ってきた。

 リュウは梨乃ちゃんにお礼を言わせる。
梨乃「じょーじ、ありがとう」
竜蔵「それから、タケにも!」
梨乃「タケちゃん、ありがとう…」

ちゅっ! おっ、梨乃ちゃんがタケにキスした!

竜蔵「うお!?梨乃!?」
梨乃「じゃーね。タケちゃん、バイバーイ」
剛史「うん」

 ハレンチな云々と言いながらリュウが帰って行く。

理人「梨乃ちゃん、積極的だねぇ…」
百花「うん…」
理人「タケ兄は顔色ひとつ変えてないけどね…」
百花「うん…」

 (あー。10年前は俺たちもあんなだった。)

  (でも、もし百花ちゃんにキスされていたら、俺は赤くなっていたぞ、絶対。
   タケは俺よりクールだな…。)

☆☆☆☆☆
エピローグ1その4

  寝る準備をして、戸締まりの確認のため1階に降りると、店にはまだ百花ちゃんがいた。

譲二「…あれ?百花ちゃん、まだ起きてたの?」

 今日店を閉めた後、百花ちゃんは何かで悩んでるみたいなんだよな。

譲二「もしかして、眠れない?」
百花「はい…」
譲二「じゃあ、ココアでもいれよっか。俺も、何か飲みたかったし…」
百花「あの…!」
百花「だったら、エッグノックがいいです」
譲二「そう?じゃあ、そっちにしよっか」

☆☆☆☆☆

譲二「お待たせ。はい、どうぞ」
百花「…」
譲二「…どうかした?」
百花「あの…ラム酒…」
譲二「え?入れるの?」
百花「…少しだけ」
譲二「うーん…じゃあ、本当にちょっとだけね」
譲二「はい、どうぞ」
百花「ありがとうございます」

譲二「ところで、どうしたの?こんな時間まで起きてるなんて…」
譲二「もしかして、悩み事?」
百花「…」
譲二「あれ?違った?」
百花「…あの」
百花「マスターって、明里さんの他に好きだった人、いますか?」
譲二「うん、いるよ」
譲二「今、目の前に」
百花「!」

驚いた顔も可愛い。

譲二「だって、言ったじゃない。俺、百花ちゃんのこと、好きだって」
百花「マスター…」

 2人でじっと見つめ合う。百花ちゃんが潤んだ目で見つめてくれる。

百花「あの…他にはいましたか?」
譲二「他って、百花ちゃんと明里以外ってこと?」
百花「はい」
譲二「うーん…」
 
 ここは本当のことをいっちゃうと、百花ちゃんに引かれるよね。

譲二「そりゃ、この年ですから、まあ…それなりに?カナコ先生とか…?」
百花「じゃあ、あの…その人たちと…」
譲二「その人たちと?」

 何が言いたい?百花ちゃん。

百花「キ…」
譲二「キ?」
譲二「…百花ちゃん?どうかした?」
百花「いえ、その…その人たち、キレイでしたか?」
譲二「まあね…」

 うーん。色々思い出すとヤバいからなぁ…。この話題はなるべく変えてと…。

譲二「でも、あと10年もしたら、きっと百花ちゃんのほうが美人になるよ」
百花「!」

 10年後の大人な百花ちゃん…。想像するだけで楽しい。

譲二「それはそれで、楽しみだなぁ…なんてね」
百花「…10年後も、まだそばにいてくれますか?」
譲二「もちろん、そのつもりだよ」

 ただし…、

譲二「百花ちゃんが、そばにいさせてくれるならね」
百花「…そばに?」
譲二「だって、そうじゃない?」

 何しろ、俺はオジサンだし…。百花ちゃんの周りには若い男がウヨウヨしてるからな…。

譲二「百花ちゃんに他に好きなヤツができたら、さすがにそばにはいられないじゃない」
百花「そんなこと、ありえません」
譲二「そう?」
百花「10年経っても20年経っても、私はマスターだけが大好きです」
譲二「ハハッ。そっかぁ…ありがとう」
百花「ホントです!だって、マスターは特別なんです!」
百花「マスターは、私の…初恋の人だから」
譲二「えっ?そうなの?」

 それはじーじが? それとも百花ちゃんの初恋は高校生になってから?

百花「そうです!だから…」

 百花ちゃんはカウンターに手をつくと、背伸びをして俺の頬にキスをした。

譲二「!」
百花「おやすみなさい!」
譲二「え!?ちょ…百花ちゃん!?」

 百花ちゃんは呆然としている俺を残して階段を駆け上った。

☆☆☆☆☆

 戸締りを確かめ、電気を消して2階にあがる。
 ドアを閉め、電気を消してベッドに横になる。

(で…、結局百花ちゃんは何を悩んでいたんだろう?)
 それより…。

百花『10年経っても20年経っても、私はマスターだけが大好きです』
百花『マスターは、私の…初恋の人だから』

 さっきから百花ちゃんの言葉が頭の中でずっとリフレインしている…。
 それと頬に残る柔らかい唇の感触…。
 ヤバい! ! 俺、今晩眠れるだろうか? !


エピローグ2へ
☆☆☆☆☆

 このエピローグは大好きだし、書いていて楽しかったです。ひたすら、ラブラブでのろけの連続ですからwww。

 


雄飛~譲二さん大学時代

2014-06-02 12:39:11 | 吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二

吉祥寺恋色デイズ、茶倉譲二が大学生時代の妄想小説です。
 ゲーム上にはない話です。ゲーム上で語られる思い出話をかき集め、色々妄想した結果のお話です。
 前作『雌伏』に引き続き、ヒロインは出てきません。(*⌒∇⌒*)

☆☆☆☆☆
茶倉譲二プロフィール 喫茶クロフネのマスター
身長:183cm 体重:70kg
血液型:O型 特技:歴史語り


 特徴:歴史オタク
ヒロインの初恋の人。公園でサンドイッチをもらったり、抱っこしてもらったりしてた。

 この話の頃の譲二さんは20~22歳、W大学2~4年。たぶん経済学部。サークルは歴史学研究会に所属。
☆☆☆☆☆

ゆう‐ひ  【雄飛】


雄鳥が大空に飛び上がるように、大きな志をいだいて盛んに活動すること。


『デジタル大辞泉より



☆☆☆☆☆

雄飛その1

 未希とのことがあった後、俺は少しずつ変わっていった。


 いや、俺そのものというより、他人に見せる俺のキャラが変わったと言う方が正確だろう。


 未希とのことを俺は恥じていた。


 幸い俺たちの仲が本当はどうだったかを知る人間は明里1人であり、明里はあの後間もなく海外に留学していったから、そのことを面と向かって言う人間はいなかった。



 それからは、いろんな女の子とも気軽に話すようになった。


 そういう時には、ちょっときわどい話も出来るお調子者の譲二君というイメージになるように努めた。

 

気軽にデートにも誘って、軽いランチはするけれども、相手には極力本気にさせないように気をつけた。



 それが返って安心感を生むのか、本命の彼氏についての相談なんかも女の子たちからよく受けた。



 それでも、やっぱり合コンの後などに意気投合して、最後までいってしまう子はいた。

そんな時、未希に教わったテクニックは絶大で、その子たちは面白いくらいメロメロになった。

 しかし、そのうち、そんな風に女の子を夢中にさせてしまうというのが、ちょっと怖くなった。


 「酒の上での勢いだよ。」とごまかして、なんとかその場は納めたが、酒は飲み過ぎないように気をつけるようになった。



 あの後未希は退部して、別なサークル(男がたくさんいる)に移っていった。



 歴史学研究会は、3年になって部長になった俺のキャラが軽くなったことと歴史ブームの後押しもあって、勧誘した女の子が次々と入ってきて、結構華やかなサークルへと様変わりした。


 私生活では、チャラチャラしていたが、授業はなるべく真面目に出ていた。勉強もしっかりするようにしていた。


 3年になるとそろそろ進路も真剣に考えないといけないが、俺は茶堂院グループの企業にコネで就職するのだけはどうしても嫌だった。


 3年の夏休みにはどこかの会社にインターンシップに行く必要があったが、茶堂院グループ内の企業だけには行きたくなかった。



 そこで、メル友の良子さんにその相談をしてみた。


 良子さんはご主人の佐々木さんを紹介してくれて、佐々木さんの会社にインターンシップで受け入れてもらうことになった。

☆☆☆☆☆

雄飛その2

 そんな忙しい毎日の中で、時間を作って『黒船』に通って、マスターと話をしたり、店を手伝ったりするのが俺の生きがいになっていた。



 ただ仲良くなった女の子を『黒船』に連れてくるようなことはしなかった。

『黒船』は唯一、俺が俺らしくいられる場所だったのだ。



 そんな日々が続いたある日、俺は前々から疑問に思っていたことをマスターに聞いてみた。


譲二「マスター、この店の『黒船』という名前の由来についてなんですけど」


マスター「ああ、私は幕末が一番お気に入りだからね」


譲二「それは以前にも聞きました。でも、その幕末の中でもなぜ『黒船』なんですか?」


 マスターはニッコリ笑った。



マスター「さすが譲二君だね。そこに目をつけたか…。」



 マスターは軽い咳払いをして話し始めた。



マスター「少し長くなるが…。


 譲二君も知ってる通り、ペリーが浦賀に来航して通商を求めたのが1853年。


 その約60年前に林子平という人が


『日本のように海に囲まれた国は軍艦に乗ればすぐ攻め込まれる。


江戸の日本橋から中国、オランダまで境なしの水路である。


だから大砲を備えたりして、海の守りを固めるべきだ』


というようなことを表した書物を咎められて、松平定信に投獄された。」


譲二「林子平の『海国兵談』でしたっけ?」



マスター「ああ。松平定信の石頭のことは置いておくとして、ペリー来航の60年前にその危険性を予見した人がいた。これはすごいことだ」



譲二「はい」

マスター「それなのに日本はペリー来航まで、何もせずに太平の世にあぐらをかいて惰眠を貪っていた。」

譲二「そうですね」

マスター「だからね。


今、何も無いからといって、先の備えを怠るべきではないという自戒の意味も込めて名付けたんだ。


 人間は今が安楽だと先の備えをしようとはしない。


 そして、『黒船』がやってきて初めて、なんとかしようと行動を起こしてじたばたする。人間なかなか変われないがね。」


譲二「『黒船』にそんな深い意味があったなんて…。ありがとうございます。」



マスター「まあ、こんなことを長々と話しても、興味のない人には引かれるだけなんで、簡単に幕末が好きだからで通してるんだけどね。


 本当の意味について話したのは譲二君が初めてだよ。」

 


 この日のマスターとの会話は俺の心に残った。


 そして時々思い出して反芻するうちに、俺にとって掛け替えのない記憶となって行った。

☆☆☆☆☆

雄飛その3

 3年も後期に入り、そろそろ就職活動にも取りかからなければという頃だった。



 『黒船』のマスターが突然倒れて入院した。


 俺はお見舞いに行ったが、マスターは意識が戻らないまま、1週間後に亡くなった。


 葬儀は商店街の人たちの手でひっそりと行われた。



 『黒船』のドアには、「本日休業」の札がかけられたままだった。俺は店で時々会ったことのある商店街の森田さんに会いに行って、話を聞いた。



 森田さんによると、マスターには家族がいたが、その家族とは疎遠で十数年も行き来がなかったのだそうだ。


 今回入院したときも、葬儀を出さなければならなかった時も連絡しても、「うちにはもう関係がないから」というそっけない返事しかなかったそうだ。



 そして、マスターには借金もあったらしく、『黒船』は近々売りに出されることになるだろうということだった。


森田「あそこは町内の人達の憩いの場でもあったから、閉めてしまうのは寂しいけどねぇ。」


 そういって、森田さんは寂しそうに笑った。



 『黒船』が無くなってしまう。

今まで、思いもしなかった出来事に俺は打ちひしがれた。

 

☆☆☆☆☆

雄飛その4

 『黒船』が無くなってしまう…。


 俺は良子さんにメールをした。


〈ご無沙汰しています


先日はインターンシップ先を紹介していただいて、ありがとうございました。


ところで、あの『黒船』のマスターが病気で突然亡くなられました。



マスターが亡くなったこともショックですが、『黒船』も売りに出されるようで、店が無くなってしまうのは正直辛いです。

せめて店を壊すことなく、誰か引き継いでくれる人がいればいいのですが。


『黒船』を継いでくれそうな人を良子さんは知らないでしょうね。

譲二 〉



〈おどろいています


あの『黒船』のマスターが亡くなられたとのこと、大変驚いています。


店が無くなってしまうのも寂しいですね。


『黒船』の新しいマスターになってくれる人ですか?

だったら、譲二君がなってしまえばいいんじゃないかしら?


譲二君は『黒船』のメニューを一通り出せるんでしょ?


コーヒーの味も「『黒船』のマスターのコーヒーと同じだったよ」って、主人が言っていたわよ。


インターンシップの時に、昼休みに会社のみんなにいれてくれたんだって?

良子 〉



 良子さんのメールを読んで驚いた。俺が『黒船』のマスターになる?


 今まで思いつきもしなかったが、一度その考えに取り付かれると、なんとかやれるんじゃないかと思えてきた。

 

☆☆☆☆☆

雄飛その5

 俺が『黒船』のマスターになる?



 『黒船』を借金ごと買い取らなければならないが…。


 幸い俺には小さい頃からコツコツ貯めていたお金があった。

親や親戚からもらうお年玉やお小遣い、それに俺名義の債券や株の配当なんかもあって、かなりまとまった額になっていたのだ。


 俺は駄目元で森田さんに相談にいった。

しかし、森田さんが教えてくれた金額は俺の金では到底賄えないものだった。


森田「譲二君が継いでくれたら、マスターも喜んでくれるだろうけどねぇ。

わしたちもあの店が存続してくれたら、どれだけうれしいことか…。しかし、仕方がないねぇ。

わしらにもう少し余裕があれば、いくらか融通してあげられるんだが。」



俺はがっくりして、詳細を良子さんにメールした。

良子さんからは直ぐ返信が来た。



〈残念ね



お金の問題はどうしようもないわね。

私も自分のお金に余裕があれば、なんとかしてあげたいけれど…。

ところで、お祖父様の茶倉会長には相談してみた?


一代で茶堂院グループを大きくした人だから、厳しい見方をされるかもしれないけど、譲二君が『黒船』をどれだけ大切に思っているかを示して、心からお願いしたら、事業資金を出して応援してくれるんじゃないかしら?

良子 〉

 
 じいさんに相談する…。


 俺には思いもよらないことだった。

しかし、本当に『黒船』を継ぎたいのであれば、もうそれしかないのもよくわかった。



 俺はじいさんにアポを取って時間を空けてもらった。

☆☆☆☆☆

雄飛その6

 約束の日、スーツを来てじいさんの部屋を訪ねた。


緑太郎「譲二がわざわざ会いに来てくれるなんて珍しいな。なんだ?」


譲二「実はお願いがあってきました。」


 俺は『黒船』のマスターのこと、その『黒船』を自分が継ぎたいこと、そのための資金を援助して欲しいことを話した。


 森田さんが出してくれた『黒船』の決算書や固定資産税とかの資料もじいさんに渡した。


 じいさんは俺の話を聞きながら、資料に目を通した。



緑太郎「わしは事業家だ。成功の目のあるものにしか投資はしない。」

譲二「俺のコーヒーとサンドイッチを食べてください。」



 厨房を借りてコーヒーを入れた。

用意して来たサンドイッチと一緒にじいさんにだした。



緑太郎「これをわしに食べろというのかな?」

譲二「『黒船』のマスター直伝です。マスターも生前自分の味と変わらないと太鼓判を押してくれました。」


 じいさんはだまってコーヒーを飲み、サンドイッチを食べた。


 難しそうな顔をしていたが、目は笑っていた。



緑太郎「譲二、おまえは大きくなってから、ずっとわしに楯ついてきたから、おまえの手作りのものを食べられるとは思わなかったよ。」

緑太郎「経営者の立場から見れば、この喫茶店の経営では大きな利益を産むことはないとわかるし、そんな先のないものに可愛い孫を継がせたくはない。

お前にはもっと大きな事業を手がけて欲しい。」

譲二「しかし、じいさん…」

緑太郎「いや、まて。
 わしも昔は色々と夢があった。金を儲けることを一番の目標にしていたが、それだけではなかった。
 お前はわしのことを守銭奴とでも思っているかもしれないが…。
 金を儲けることで社会のためになることをやりたいという夢もあったんだよ。
 お前が必死に説明する様子を見ていて、若い頃の自分を思い出したよ。」

緑太郎「お前が一生懸命に存続しようとしている喫茶店は、吉祥寺の商店街の人たちにとっては大切なものなんだな。
 そのためにどうしても喫茶店をやりたいというなら、わしはお前の夢に投資しよう。
 若い頃は一見無駄に見えるようなことも経験したほうが後々のためになる。」

譲二「じいさん…、ありがとう…ございます。」

 俺は深々と頭をさげた。

緑太郎「それにお前のコーヒーとサンドイッチはうまかったよ。ありがとう」


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 祖父の緑太郎さんにしたら、中学生の頃は叱ってもまともに答えることすら出来なかった孫(私の創作ですけど)が、自分のやりたいことのために資料を持ってプレゼンテーションまで出来るようになったのは、胸が熱くなるくらい嬉しいことだったと思います。


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雄飛その7

 大学の合間に森田さんと連絡をとりつつ、『黒船』再建の準備は進んだ。

店の傷んだところにも手を入れた。


 ただ店名は『黒船』のままでは畏れ多いので、カタカナの『クロフネ』として看板も新しくした。

 前のマスターがなくなって半年後、新装喫茶『クロフネ』は開店にこぎつけた。

 そんな時、良子さんから電話があった。



良子「譲二くん、開店おめでとう」

譲二「先日は立派な花とお祝いをありがとうございました。」

良子「もう少し近かったら、クロフネに行けるんだけど、百花の習い事や塾の送り迎えが忙しくてなかなかいけなくてごめんね。」

譲二「百花ちゃんは元気ですか?」

良子「ええ、この頃随分女の子らしくなって来て、身長ももう少しで私が追い越されそう。」

譲二「年賀状の写真はいつも見てますが、町で偶然すれ違ってもわからないでしょうね。」

良子「ところで、クロフネ開店したけど、譲二君は大学もあるのに大丈夫?」

譲二「はい、とりあえず平日は授業のない時間帯と夕方以降、土日は終日開けるようにしてます。かなり変則的ですけど」

良子「それじゃあ大変ね。卒論の準備なんかもあるんでしょ。」

譲二「ええ、お客さんの切れてる時間とか、夜中とかにやるようにしてます。でも、就活ももうしなくていいわけですしね。」

良子「体を壊さないように気をつけてね。若いと言っても無理はしちゃだめよ」

譲二「はい。気をつけます」

 
 とうとう俺が『クロフネ』のマスターになった。

この俺が…。

 カウンターをそっと撫でる。

 ここには俺の青春の思い出がいっぱい詰まっている。

 あのやさしかった『黒船』のマスターとちょっと変な百花ちゃんの思い出。


 マスターにはもう会えないけど…、あの百花ちゃんに会える日は来るだろうか?

 百花ちゃんにも、またいつかサンドイッチをごちそうしたい。

 百花ちゃんは俺を覚えていてくれるだろうか?

雄飛おわり


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いやー、ひとまず大学時代の話が終わりました。(;^ω^A
譲二さんがクロフネのマスターになるくだりは是非とも書いておきたかったので…。
大学を卒業して企業に就職してからだと、クロフネのマスターの経験がえらく短くなってしまうので、卒業前にマスターになってもらうことにしてみた。