食いしん坊ケアマネ の おたすけ長屋!

困ったら、悲しかったら、ツラかったら、
「長屋付き合い」を始めようよ!
現代版人情長屋に寄っといで!

桂枝雀私論・序説

2009-09-17 | 本と落語
今日は午後からずっとYouTubeサーフィンをしていました。
落語、音楽、映画、社会事象…といろいろなモノを愉しみましたが、その中でいちばん感慨深かったのが、天才落語家、桂枝雀の動画です。


落語好きで枝雀を知らない人はいないでしょう。
でも、落語にさほど関心のない人は、桂枝雀といってもピンとこないかもしれません。そういう方には、ぜひYouTubeで『夢のような まだ夢のような』を観てください…とおすすめします。
これは枝雀の七回忌を記念して2005年にNHKがBSで作った番組ですが、噺家だけでく、劇作家、演出家、指揮者などが枝雀を語っています。

そこで語る人たちに共通しているのが「枝雀はモノが違う」という認識です。
単に落語家として「モノが違う」のではありません。表現者として、芸人(芸術家)として「モノが違う」と脱帽しているのです。


桂枝雀は演者として超一流だっただけでなく、創作家や分析者としても高いレベルにありました。
彼の「落語のサゲ(落ち)の分類」「笑いとは何か」に関する分析は、恐ろしく精緻で論理的なものです。

これもYouTubeに上岡竜太郎司会の『EXテレビ』に出演したときのものが残っていますから、ぜひ観て頂きたいと思います。
桂枝雀は、1980年代から90年代を代表する芸人であるだけでなく、最高の知性の一人でした。

私が初めて桂枝雀を聴いたのはNHKラジオで、恐らく1978年のことです。演目は『宿替え』でした、
それまで接したこともない破格な芸風で、たちまち魅了されました。

でも私が本当に枝雀を必要としたのは、それから十年近くたってのことです。


大学を出て勤めた会社を、私は三年で辞めました。
そもそも会社勤めに不適応を起こしていたのですが、学生時代にシナリオ学校にも通っていて、たまたまそこで高い評価をされたことを頼りに、
「私はシナリオライターになります」
といって、辞表を出したのです。

それから巨大なトラックターミナルでアルバイトをしながらシナリオを書き、懸賞に応募を始めました。しかし二年で三作書いて、全て落選しました。
そのころ二十七、八歳で、今の私なら、
「まだまだ先は長い。落胆するな青年よ!」
と言って肩のひとつも叩くでしょう。

でも青年文七はすっかり自信をなくしてしまい、
「これからどう生きたら良いのだろう?」と途方に暮れたのでした。


休みになればノートと筆記用具を持って外出します。両親にも、
「絶対にライターになるから」
と言って会社を辞めたのです。家で休んでいるわけにはいきません。
そうして、神田、高田馬場、銀座、新宿など喫茶店の多い繁華街に行っては無駄にコーヒーを啜ってノートとにらめっこをしてました。

そのとき私の命綱になったのが、桂枝雀の落語でした。
私はバッグにいつもウォークマンと枝雀のテープを入れ、どこに行くときも聴き続けていました。

そのころの枝雀は関西だけでなく全国的な人気を得ていました。
でも、私にとっては「私だけの枝雀」だったのです。私が枝雀の最高の理解者だと思っていました。
こういう「枝雀信者」が大勢いることを後に知りました。そういうところは太宰治に通ずるものがあると感じます、

良家に生まれた太宰と違うのは、枝雀はブリキ職人の家に生まれた庶民だったことです。元来真面目で努力家ですから勉強もできましたが、父親を早く亡くしたために定時制の高校に進み、昼間は働いていました。
でも勉強は怠らず、神戸大学文学部に進学。一年で中退して、桂米朝の門を叩いたのです。

その勤勉や知性ももちろんですが、あまりに落語に打ち込みすぎて、三十三、四歳のとき「うつ病」にかかったことが、精神的に苦しんでいた私にとっての救いでした。
テープを聴いていても、
「この人はただ面白いことを言って受けているんじゃない。鋭い感性と知性をもち、曲折を経たのちにこの芸風に達したのだ」
と思え、共感と明日への希望を呼び起こしてくれるのでした。


桂枝雀は「過剰の人」でした、誰よりも深く笑いの構造を考え、誰よりも過激に実践し、誰よりも早くマンネリを感じて次に行こうとする。

そして、そのあまりに強烈な感受性が、ついに自身の命をも取り込んでしまいました。

1999年3月、桂枝雀は自宅で縊死を図りました。
そのときは命をとりとめましたが、ひと月後、入院先の病院で亡くなりました。

桂枝雀は私の命の恩人の一人だと、勝手に思い定めています。
その恩義に報いるためにも、いつかちゃんとした『桂枝雀論』を書いてみたい…と考えているのです。




にほんブログ村 哲学・思想ブログ 人間・いのちへにほんブログ村














コメントを投稿