もっとましな嘘をついてくれ ータイ歌謡の日々ー

タイ歌謡について書いたり、うそをついたり、関係ないことを言ったりします。

オレンジジュースと魔法少女

2024年04月27日 09時47分33秒 | タイ歌謡
 タイ人と結婚してるくらいだから、タイ人が好きなのかというと、そうでもない。まあどっちかというと好きだけど、手放しに好きってわけでもない。昔はもっと好きだったのにね。どこの国でもそうだと思うが、数年暮らしていると、その国が持つ毒みたいなのが全身に回って蓄積されていくうち、飽和量を超える瞬間が来る。必ず来る。おれは6年目で来た。ある日プラグにぱちん、と点火したみたいに、もうタイ人がイヤでイヤでしょうがない。TVを見るのもイヤだし、じゃあ余所の国の映画でも観ようかと出かけても、観客のタイ人に辟易してしまう。好きなのは配偶者のタイ人ただ一人という期間が3ヶ月くらいあったかな。
 そもそもタイに住み始めた頃は日本人の同居女性もいて、まさか数年後にはタイ女性と付き合うばかりか結婚するなどと思ってもみなかった。知人との会話で「もうタイの女性と結婚できるタイ語のレヴェルじゃないすか」とおだてられ、「いや。それはない。そんなこと、あるわけない」と、きっぱり答えたのを憶えている。だってネイティヴな日本語の相手ですら意思疎通が難しいのに、それがタイ語でものを考える人だなんて。そんなの、よさこいダンサーと付き合うのと同水準のお仕置きじゃねぇか、と煙感知器のセンサーが防火扉を素早く閉めるみたいに、ぴしゃっと防衛機能が作動した。
 それが、同居人とは離ればなれになってしまい、呼吸と睡眠と食事だけが楽しみな日々を送るうち、おれの奥さんが目の前に現れて、電撃に痺れた。「この人となら、わかり合いたい!」と切実に思った。どんな「しまむら」の服よりも綺麗だったんだもん。アタマも良いし。
 困惑したのはおれの奥さんで、要は「いや……。そんなこと急に言われても……」ってことだ。それまで(この日本人、ゲイに違いないわ。だって他の男と違って、胸の膨らみを見るようなセクハラしてこないし、踝が隠れるようなデザートブーツなんか履いちゃって、なんかズボンなんかもオシャレだし、シャツの下に下着まで着てるんだもん。ぜったいゲイ。間違いなくゲイ)と皆で思ってたというし、だいたい彼女には親の決めた許婚者もいた。許婚者のことは嫌いでも好きでもなかったけど、(べつに気は進まないけど、そのうち結婚させられるのかな)とは思っていたらしい。

 てか、何で女の人と同居してんのにゲイなんだよ、と訊いたら、「アーォ↘。ゲイの男とゲイの女が同居するってのは、よくあることでしょ」と普通に言ってて、そうかここはタイだったなと思い直した。あとシャツの下に丸首の下着が覗いてるってのは、日本ではダサいことだが、タイではそれ以前に(なんでそんな暑苦しい格好するわけ?)という常識外れが異常に映るから、そんな変わり者はゲイなのかな、という発想みたいだ。いやだって汗が、という発想はないみたいだ。タイ人あんまり汗かかないもんね。それに猛暑で外気温が体温どころか40℃超えなんてときは保温効果のあるウインドブレーカーみたいなのをきっちりファスナー留めて着込むと、ジャケットが体温を守ってくれるから半袖の薄着よりも涼しいんだが、これもタイ人にはわかってもらえない。
 バンコクでいち度、とても暑い日だったから防寒着を装着して昼食を摂りに外出すると、ぐうぜん後ろを歩いていた日本人観光客がおれを見て「うっわー。こいつ暑くないのかな。ばかなのかな」と二人で話していたので、面白いから振り向いて「いや。暑くないんだよ、この格好だと」と答えると「うわ! 日本人! てかすいません!」と焦っていて微笑ましかった。砂漠の民なんかは、めっちゃ寒かったりめっちゃ暑かったり一日の寒暖の差が半端じゃないから厚着で体温を守るんだけどな。理に適ってるんだけど、タイ人でも「やめて。そんな格好で近寄らないで。こっちまで暑くなっちゃう」って文句言われたりする。
 ちゃんと理由もあるし間違ってないんだが、タイ人の習慣にはないことばかりのヘンなゲイっぽい日本人だというのが、おれの印象だったという。
 おまけに、この日本人ときたら矢鱈とデートに誘ってきて、外人のくせに美味しいお店を知っててご馳走してくれて、ヘンな人だけど面白いから連日のように遊んでるうち、(この人だったら毎日楽しいな)と思ったのが運の尽き。タイ語を真剣に憶えだして、みるみる字も読めるようになって、ぐいぐいプロポーズなんかしちゃってた。力任せみたいに、気がついたら結婚まで持ち込まれてしまった訳だ。まあ、そんないきさつだったから、おれが奥さんを嫌いになることはないんだが、奥さん以外のタイ人が急に鬱陶しく思えた。
 それまでフレンドリーで良い国民性という印象だったのが、距離感を弁えない馴れ馴れしさに思えたし、親切さが大きなお世話に転じてしまい、テキトーなこと言ってケラケラ笑ってるタイ人が好きだったのに、こいつら本当にウソばっかりだよな、と思えてきた。TVなんかで歓声をあげてるタイ人は元々(かわいそうに。ばかなのだな)と鷹揚に眺めていたが、タイ人の歓声を聞くとイライラした。おれの奥さんだけが、そんなことと無縁に相変わらず天使みたいだったのは幸運であり不思議でもあった。
 どうしよう。あなた以外のタイ人がイヤになってしまった、と相談すると、少し考えて「じゃあ、わたしだけ見ていると良いと思う」と言い、「こまったとき、わたしはน้ำส้มคั้นสด(生オレンジジュース)を飲むことに決めている」とオレンジジュースを買いに出かけた。
 でた。オレンジジュース。
「オレンジジュースを飲んだからといって」うちの奥さんはグラスにジュースを注いで持ってきた。「何も解決なんかしないけれど」微笑んだ。「おいしいの」
 少し元気が出て、タイ人の知り合いに会ってみると、それは苦痛ではなかった。「どうやら一人一人のタイの知人は変わらず好きだけど、ประชาชน(民衆)がイヤみたいだ」と、うちの奥さんに打ち明けた。
「あーぅ↘」そういうこと、と納得した顔。「それなら普通です。ふつうのタイ人も、そう思ってるし、わたしも同じ」
 いや。そういうことじゃないんだ。どうタイ語で説明しようかと思いあぐねていた。
「ばかで、下品で。そういうのがイヤなんでしょう?」
 あ。そう。それ。
「私はロシアの民衆を愛しているのに、一人一人が腹立たしくて仕方がない」みたいな事を言ったのはチェーホフだったかプーシキンだったか。あるいはドストエフスキーだったか。みんな言いそうで困るが、おれとは逆だ。一人一人は好きなんである。タイ人、いいやつが多いからね。
 だめな奴が、とことんだめなんだよな。しばらく経って思い当たったが、そんなのタイ人だけの話じゃない。日本人でもそうだし、アメリカンなんてダメな奴は想像を超えてだめだ。毒の飽和状態から数ヶ月で、タイ嫌いは落ち着いたのだったが、奥さんと結婚してなかったら、住居を引き払って日本に帰るか、それとも余所の国に行っちゃうレヴェルでイヤだったな。
 だから今になって冷静に思うと、タイ王国は楽園だと思ってたけど、フツーの国でした、っていう当たり前のことに思い至っただけのことだった。魔法の国なんて、ないのだ。あったりまえのことだが。

 魔法の国で思い出した。魔法少女のアニメには、必ずと言っていいほどに某かの小動物みたいなのが出てくることが多いと思う。きっぱりと断言してないのは、全ての魔法少女ものを知っているわけではないからで、でもおれが見たことのある魔法少女ものには漏れなくヘンな小動物が登場していた。おれが知っている最初は「ひみつのアッコちゃん」のシッポナという猫かな。
 あれはマスコットみたいな感じだったが、その後の魔法少女ものでは飾り物というだけでなく、人語を操るように進化したものも多い。使い魔、ってことなんだろうか。実在の小動物に似てるけど言葉を喋る時点で、もうわけがわからない。
 鳩っぽい使い魔が「ポッポー。こ、これは! 怒りが頂点に達して愛の力で救いたい、と決心したときに発動する、あの! ウルトラエンジェルパワーだクルッポー」とか、魔法少女本人も知らないようなことを説明してくれるから、狂言回しの役割もあるんだろう。いきなり感が凄い。いきなりの説明で、「愛の量が80%に達しただブー。あともう少しブヒブヒ」とか言っちゃう。なんていうか露骨に間接的。昔の若大将シリーズの「エレキの若大将」で、ソバ屋の出前持ち役の寺内タケシが岡持片手に「あ! これがエレキってやつかい? ねぇ若大将。オイラにも弾かせてくれよぅ」とせがんでモズライトみたいなダッサいギター構えた途端にデケデケデケデケと、いきなり上手い、あの感じに似てる。
 もうひとつ、魔法少女の持つコンパクトや杖なんかのアイテムを女児向け玩具として売り出すと共に使い魔的なヘンないきものもぬいぐるみなんかで売ったりするから、そういう需要の皮算用もあったんだろう。
 ただ、それより時代が進むと使い魔的なものが曖昧になって出現するケースも増えた。曖昧な小動物っぽい奴は異世界ものに登場することも珍しくないんだが、どういうことかというと、それまで原型が実在の動物っぽかったのがあからさまに架空の生き物になり、やがてモヤモヤしたものだったり光の粒の塊だったりすることもあって、「これが神のご加護なのです」とか言ってるうちは、まあそんなもんかと思っていたが、「くぅー」とか「ぽっぽろー」とか言ってて、もうこうなると狂言回しの役割も解説も放棄している。「くっくー」「そうか。パワーアップしたってことか!」「くぅー」なんて、主人公が解説したりして、こいつは何のためにいるのか、と一瞬考えた。強烈にヘンだから、「なんだこりゃ」とか「いねぇわ。こんなのいねぇわ」と思うんだが、それでいいのだ。使い魔がヘンテコだと、ツッコミがそっちに集中するために「なんで少女が魔法を?」とか「いやいや異世界に飛ばされるとか、ないわー」とか思ってる暇がない。目くらまし役だよね、あれは。とんでもなく大きなウソを、ポンと投げ出しておけば、他のウソがリアリティーを帯びるという手法。
 あと、「くぅー」とか「ぴぽぱぽー」みたいな意味のないと思われる台詞を言う声優が、新人なんかじゃなく有名どころのベテラン実力者だったりすることも珍しくなく、(やっぱ重要なんだ)と思いはするが、(なんだこりゃ)の気持ちのほうが強い。
 こういうのも結論が出ない話題で、有り体に言って「ジジイ、もっと考える事ぁ他にあんだろうよ」ってことに尽きる。まあ、ตัวตุ่นจะขุดหลุมขนาดเท่าตัวมันเอง(モグラは自身の大きさの穴を掘る)という、おれが作ったタイ語の諺どおりマジメな議論は名だたる論客に任せて、おれは重箱の隅だけ突いてりゃいいってことだよね。これには理由があって、おれは背が低いんだ。背の低い奴がエラソーなこと言うわけないだろ。おれの奥さんなんか、おれよりもずっと背が低いんだぞ。しょうもないこと言ってくすくす笑い合ってるのは必然なんだよ。
#เพลง ต๊ะ ตุ่น ตวง (ต้นฉบับ เวอร์ชั่นใหม่)HD
 これね。ตุ่น(モグラ)で曲を検索したら出てきたんだけど、聴いてて何言ってんだかぜんぜんわかんない。これ、タイ語じゃない。MVに出て歌ってる女の頬が「おてもやん」みたいに白丸に塗られてて、これはてっきりビルマの「タナカ」っていう日焼け止めの化粧だなと思ったが、歌声にビルマ語特有の、ふにゃふにゃしながら弾けてる感じがない。でも巻きスカート穿いてるしなぁ、と思いながら見ていると映し出される街角の看板の文字がビルマ文字じゃなくてアルファベットだ。これはマレー・インドネシア語だな、と見当をつけてググったらインドネシアの歌手なんだそうだ。穿いてる巻きスカートはビルマのロンジーじゃなくてマレー・インドネシア語で言うサロンだね。タイ語ではโสร่งと書いて、やっぱりサローンと読む。そうか。頬の白塗りもビルマのタナカは木の皮を粉にした物で、生成り色だもんね。
 歌手はUpia Isil(ウピア・イシル)というインドネシア人。タイでは少数派の朗々と歌い上げるタイプだが、歌い方が下品。曲のタイトルต๊ะ ตุ่น ตวง(タ・トゥン・トゥアン)は意味のない言葉だそうで、歌詞にも意味なんてない。要約すると水浴びをしてなくて臭いかもしれないけど、誰にも迷惑なんかかけてない、と言っている。いや迷惑だっての。
 タイ語訳の歌詞があったから、それを和訳してみたけど、その後で(これ必要なかったんじゃ)と思った。いちおう載せておく。

まだシャワーを浴びていない
ター トゥントゥン タ トゥントゥン
それでも見た目は美しい
ター トゥントゥン タ トゥントゥン
シャワーを浴びたら どうなるかな
きっともっと美しくなる
ひゃあああ

他の人が私を見たら
(化粧の)生地を厚く塗っているのがわかっちゃう
でも私の匂いを 嗅いだら
とても臭いので ショックを受けるかもね

ハンサムな男が通り過ぎたら
無視するわ
ひゃあ
でも 私を見ているのが老人なら
私はただ静かにしる

ただね 重要なことは 私は誰にも迷惑をかけてないということ
たまに冗談も言うけれど
たとえ他の人が 私を狂っていると思っていても
私の心は 幸せよ

 おれ苦手なんだよね。インドネシアの歌って。ガムラン音楽もいまいち好きになれないし。サロンパスみたいな味付けのサルサパリラを使った料理も、できれば食いたくない。おれにとって苦手なタイ人の雑味を丁寧に煮出すと、こんな感じになっちゃうのか、だからこういうテイストが好きなタイ人もいて、そこそこヒットしちゃう。

 ところで世間はゴールデンな週間に突入か。4月に入社した新人が我に返る時期だ。タイにも(イヤだけど空気読んで行動すっか)という人はいる。ウソじゃない。けっこういる。でも、我慢するのは身体に悪いと思ってるから、忖度や我慢の限界のリミットが低い。リミット超えたら(よし。我慢したし、もういいよな)と、あとは好き勝手やっていいという生活の知恵が働く仕組みだ。タイ人の、こういうとこが良いし、人によってはイヤになる。
 タイでは新卒が一斉に就業する時期というものがなく、というのも大学→就職の場合でも学生がインターンで職業訓練しながら、個別に「じゃあ、8月の締め日から社員ということで」みたいなことが多いからだ。あと一つの企業に長く勤めることの美徳なんて料簡はなく、条件が良ければどんどん転職するのが常識だから、賑々しく入社式なんかするわけもない。
 そもそも学校の年度はじめという概念もなく、日本では4月の第一月曜なんかだろうが、タイでは決まってなくて、5月中旬から6月くらいの所が多いかな、という程度だ。要は暑季が落ち着いてから。暑季のピークが4月半ばのタイ正月だからね。
 他の国じゃどうか知らないが、タイのコーヒー農園ではコーヒーの花が咲くのが、日本の黄金週間の頃だった。あとライチが旬だから、この時期にタイに行く人は食べなきゃ損だ。

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