kirekoの末路

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シナリオ【再会】-5

2006年10月24日 18時02分43秒 | NightmareWithoutEnd
PM10時40分 多目的研究施設ガイア1F 西通路

果てしない闇の中を任務のため走り出す隊員達が
エレベーターの作動に手間取っていた時、
すべての命を刈り取るために、死神は隊員達に
蛇の首を九つ持つ神話の生物の名を持つ奇形の化け物
【ヒュドラ】を差し向ける。

陰鬱で奇怪な化け物が垂らす死を意味する不気味な水滴の音が
静寂な通路に共鳴して嫌がおうにも耳につく。

そして隊員達に死を覚悟させるには
十分過ぎるほどの光景が目の前に広がった。

人間の体がまるで隊員達の恐怖を煽るように
ヒュドラの巨大な九つの蛇の頭に肢体を食らわれ
残った胴体は丸呑みにされたのだ。

己の目を疑いつつも、何度も心の中で覚悟していたはずの
『不条理な現実』を目の当たりにすることで
人間はすべての神経を一瞬凍らせる。


それは純粋な恐怖への表れ。誰にも止めることのできない恐怖への反応。


しかしそれを振り払って感情を爆発させるものがいた。
化け物を見るや否や、いつの間にか体を瞬時に化け物のほうへ向け
加速をつけて走り出した綾香、その人だ。

瞬間的に彼女は一つの感情に支配される。
おびただしいほどの化け物への憎悪。
すでに人間としての己の限界など考える余地もないほど
彼女は憎悪を増幅させて、化け物へと駆けていく。

神話の生物の名を持つ化け物に、人間としての彼女の抵抗が始まる。


ズドドドッズドドドッ!

綾香の持っていたMP5Kカスタムから轟音をあげ数十発の弾丸が放たれる!
開け放たれた銃口からはまるで堰を切ったように火花が上がり
同時に硝煙と火薬の匂いがあたりに立ち込め始めた。


「・・・ビュュヒュゥゥゥ・・・ヒュゥゥゥ・・・」
風が共鳴するような不気味な声が上がると
弾丸はヒュドラの右胸と左足に当たるが、小さな爆発が起きると共に
褐色半透明な化け物の体に吸い込まれるように形状がわからないほど変形し
まるで蒸発するようにボロボロになっていく。

そのゼリーのようなヒュドラの体から少量の蒸気が立ち上ると
嫌悪な腐臭があたり一面に漂ってくる。


ピチャ・・・ピチャ・・・

何事も無かったようにヒュドラは綾香たちの方へと歩を進めてくる。
ゼリー状の体内から少しずつ垂れている奇怪な褐色の水滴が床に落ち
静寂になった通路全体を響かせている。
九つの蛇はニョロニョロと活気に動いていて、
四方八方にその長い首を伸縮させている様は
貪欲に次の獲物を探しているという感じだ。


スッ・・・カチャッ・・・


「喰い足りなかったようね…いいわ、ありったけ注ぎ込んでやるわよ!」
すばやくマガジン抜き、予備マガジンを入れ替えると
再びMP5Kカスタムを構える綾香。
Kウイルスに犯された脅威の化け物用に製造された特殊火薬弾丸でさえも
利かなかった相手だというのに、綾香の表情は嘲笑するような卑下た笑みを
浮かべている。


ガッ・・・グッ!!


「待て!QUEEN!奴は一筋縄でどうにかなる相手じゃないぞ!」
後ろから走ってきたパイが綾香の肩に手をかけグイッと引き止める。


「だからこそ『狩り甲斐』があるってものよ!」
しかし、綾香はそれを振りほどくように肩をしならせると
パイの手を強く振り払い、ヒュドラのほうへ再び銃を構え持っていた
MP5Kカスタムを撃ち放った。


ズドドドッズドドドドドドドッ


ガガッ!ガチッ!チュイン…ジュワァ…!


果てしない轟音と嫌悪な蒸気が通路全体に共鳴と充満を促し
ヒュドラの周辺には蒸気で白い霧のような爆煙が巻き上がり
その周りの壁はヒュドラの蛇の首にあたったて跳弾した思われる
弾丸の跡がヒシヒシと残り、床には得体の知れない褐色の液体が
ビタビタと大小さまざまな池を作り、薄汚く広がっている。


シュウシュウ・・・カランカランカラン・・・


ズゥゥゥン・・・


MP5の先端から火花と轟音が鳴り止むと、
水蒸気と爆煙から巨大な影が沈むように倒れ、巨大な物体が
地面に落ちる音が聞こえた。
うっすらとヒュドラの特徴的な蛇の首あたりがぐったりしているのが見える。


「…これで終わり?意外とあっけなかったわね」
大きな影が倒れこむのを見た綾香は「つまらない」と言いたそうな表情で
後方で立ち止まっているパイのほうに向かって体の方向を変えると
空になったマガジンを無造作に床にポロッと落とす。


キィィィィン・・・・


「…?(なにこの音?)」
綾香は聞きなれない音を耳にする。


キィィィン・・・・


「…そうか、撃ちすぎて耳鳴りがするのね」
さっきまでフルオート射撃を行っていたMP5Kから立ち上る
煙を見てようやく綾香は自分の耳の鼓膜が共鳴し
聞こえにくくなっていることに気づいた。
スッと方耳を左手でふさぐと、なるほどたしかに
音叉で軽く叩いたような共鳴音が聞こえる。


「やったわよACE。化け物を倒したわ」
綾香がパイに向けて手を上げ、少なからずな笑みを浮かべる。
彼女は自分の心の中で『憎き化け物を倒した』という
言いようもない達成感に包まれていたいたのであろう。


「おい!…後ろを見…奴…まだ……QUEENッ!」
パイはこちらに向かって何か合図をするように
せせこましく手と指を使って指示をしているが
今の綾香の耳には殆ど聞き取れなかった。
どうせパイの話を聞かなかった事に対する、
どうでもいい皮肉の台詞だろうと綾香はフッと笑顔のまま
持っていたMP5Kに手をやる。


スチャッ…


再び空になったMP5のマガジンを手ごたえで感じた綾香は
素早く次のマグチェンジを行おうとした…








…その時、パイの絶叫ともいえる大声が通路中に響いた。



「化け物はまだ生きてるぞッ!」




「な!?」
その声が聞こえるや否や、後ろからとてつもない轟音と共に
何かがうごめいている気配を感じた綾香は即座に後ろを振り返った。



フシュァァァァ!・・・フシュゥゥゥッ!



今まで死の静寂を守りきっていたヒュドラが爆煙の中から抜け出し
ゼリーのような体は弾丸が当たったことで変形したのだろうか
まるでいびつに膨らんだ風船のような体型になり
今まで手であったものは足へと変化し、四足歩行動物のような動きで
再びその奇怪な体をしならせ、両足を床に弾かせ
九つの蛇の頭をくねらせて綾香の方へ突っ込んでくる!





「く…!そっ!」
間に合わないと思って地面を思いっきり踏み込み後ろへバックステップ
しながら急に銃を構えようとした綾香だったが、
化け物のスピードはそれを上回るほどに格段に上がっており、
まるで獲物を付けねらう恐ろしい肉食獣のようなスピードで
こちらの動きを捕らえ、蛇の首をしならせ銃を支えている
綾香の左手に襲い掛かった!



フシュァァァァァァ!!



「間に合わな…!」













うぐッ…ああああああああ!!







おびただしい鮮血が通路へと放たれると同時に綾香の絶叫が通路に木霊した。
巨大なヒュドラの蛇の頭の一つがギラギラと光らせた牙を突きたて
綾香のか細い左腕に噛み付いたのだ。



「QUEEN―――ッ!!!」
パイは絶叫すると通路の床を蹴り上げ、化け物に飛び込むようにジャンプした!



ガシンッ!ダラララララッッ!



「ち…QUEENから離れろ!!!化け物め!!!」
パイは空中で、とてつもない痛覚に絶叫する綾香に噛み付いている蛇の頭の
根元めがけて、手に持っていたUZIカスタムを構え撃ち放った!



ダンッ!ダンダンダンダンッ!ボンッ!!!



ヒュドラの蛇の頭の根元をUZIカスタムから発射された
特殊弾薬が貫通し、瞬時に小爆発を起こした!
緑とも赤とも見分けのつかない気色の悪い液体が
再び通路の床をぬらす!


フジュ!・・フジャアアアア!!


ヒュドラは絶叫を上げると綾香の左腕を離し
その巨大な蛇の頭を床や壁に向けてのた打ち回らせる。


ドンッ!ガンッ!ガシャンガシャンッ!


あたり一面にブルーの蛍光灯や、研究室のドアを開けるために用意された
簡易型機材がけたたましい音を立ててバラバラの破片になって
床に落ちていくのが見える。
すさまじい粉塵が首が動くたびにおこり、
ヒュドラのゼリーの体は崩れ、しばらくすると再び蛇の頭は
物静かに床にズシンという大きな音を立てて崩れる。



「ぐッ・・・ああああああ!!!!」

「おい!くそっ!…QUEEN!」
遠目からでもわかる綾香の左腕から流れる鮮血。
流れ出す血量と大きく開いた傷痕から見てもその危険性は、
日ごろナイフなどの殺傷武器を使っているパイからすれば
致命傷とでも呼べる大きな傷であることは明白だった。


「あぐッ…!ぐッ…!」

「QUEEN!大丈夫なんて聞かないぞ!泣いて喚いてもいいから今は走れ!」
蛇の頭に噛み付かれた左腕から血を流しながら
その場に痛覚を堪えるように体を震わせている綾香に駆け寄ったパイは、
綾香を見ると一言だけ一喝するように声を上げると
無傷である右手をとり、そのまま綾香に肩を貸すと
立ち上がらせ、背負うように早足で進路を変え、
隊長達の待つ警備員詰所へと走ろうとした…


タッ…タッ…タッタッタッ…



しかし、走り始めたその瞬間
何か大きな液体が物凄いスピードでパイ達を横切るのが見えた。



ビシャッ!ジュワジュワワワワッ!!!




液体は重厚で強固そうな床に落下放物線を描いた後ぶち当たり
その床は多量の蒸気を発生させながらそこだけポッカリ穴の開いたように融解してしまう。


そして、パイは恐る恐る液体が放物線を描いてきたと思われる場所、
つまり後方に倒れているはずのヒュドラのほうへ目をやった。



フシュルルルッ!フシュゥゥゥゥゥッ!!




「こ、この化け物・・・!不死身かッ!」
パイの眼前に広がる巨大で奇怪な形態の生物。
いつも強気な発言や行動で他の追随を許さなかったはずのパイが
思わず、その恐怖に一瞬顔が引きつってしまっている。


パイの中で刹那『絶望』という言葉が浮かぶ。
このような生物がこの世に存在すること、それこそ絶望ではないか。



生物と呼ぶにはおぞまし過ぎる
その巨大な蛇の頭を持つ化け物の姿は
先ほどパイのUZIで受けた銃弾で、再びゼリーのようなボディが変化し
すでに形状は動物からアメーバに近くなっているようにも見える。



フシュルルルル・・・フシュシュシュ・・・



九つの蛇の首をまるで愉快そうに躍らせているヒュドラ。
パイの肩には、今にも絶命してしまいそうな綾香が一人。


「…絶体絶命か…」
ポツンとつぶやくパイは綾香のほうを見る。


「ッ!…え…ACE…は…やく…わたし…ぐ!…置い…て…逃げ…て!」
綾香は激痛に耐えながらも、パイに向けて
一つ一つの言葉を精一杯言い放った。
自分の油断と独断が招いた危機。
過失は自分にあると認め、早くパイをレン隊長の元へ
少しでも『絶望を和らげる』場所へと向かわせるべきだと思ったからだ。


「ふっ…」
パイは綾香の顔を見ると、何かを悟ったようにスッと
綾香を通路の壁の影に立てかけるように置いた。


「生き残るぞ…必ずな!」
必死の状況で、パイは思いつめるような表情を浮かべると、
何か覚悟を決めたように深呼吸をし、氷のような表情を再び張り詰め始めた。



「馬鹿げた悪夢に終止符を打ってやるよ!こい化け物!!!」
UZIカスタムを構えると、パイは化け物めがけて絶叫するように言い放った。



フシュルルルルルッ!!!




巨大な化け物の体が再び
通路を共鳴させるような咆哮をあげながらパイに向かって動き出した!