しかぜきょうこの1日1枚+

スペイン在住フラメンコ研究家/通訳コーディネーターによるフラメンコCD紹介

第99回 ルイス・デ・ピカ「タルデス・デ・コリント」

2008-03-23 08:36:41 | カンテ
ルイス・デ・ピカ、っていってもご存知ない人が多いだろう。
1999年に48歳という若さで亡くなってしまったカンタオール。

フラメンコのメッカ、ヘレスはサンティアゴ街、サングレ(現タックスドルト)通りに生まれった、ボヘミアン。歌う詩人。
パウリスタ(ヘレスのヒターノ闘牛士、ラファエル・デ・パウラの信奉者)。
知る人ぞ知る、アルティスタのためのアルティスタ。

知らない人が多いのも無理はない。録音はごくわずか。今は廃盤になっている名盤「フンカレス・デ・ヘレス」(セナドール社/1998年)に収録されたカンティーニャスとブレリアス、あとチャノ・ドミンゲスのアルバム「イマン」におまけのようにほんのちょっぴり。
あとはフラメンコ・ビーベ社からでた彼についての本「エル・ドゥエンデ・タシトゥルノ」付属のCDくらいだ。

私は彼のカンテを何度もライブで聴くことができた。バリオにいくたびに会った。
ムイ・カリニョソで必ずドス・ベシート。いつもにこやかで静かな彼を忘れられない。パコ・デ・ルシアの銅像建立記念のフィエスタでも会った。パコもたかく評価していたに違いない。

このCDも前述の本の付属CD同様、あちこちでのライブ録音をあつめたもの。
録音状態も、歌っているルイスも最高とはいえないが、彼のカンテのエッセンスは感じることができるだろうと思う。
伴奏は今をときめくディエゴ・デ・モラオやペリキン(ニーニョ・ヘロ)ら。





第98回 ヘスース・トーレス「ビエント・デル・ノルテ」

2008-03-23 03:20:02 | ギター
これはもう絶対の自信をもって皆様におすすめしたい1枚。
最近最も驚かされた1枚でございます。

ヘスース・トーレス、といっても知らない人が多いかも。
というのも彼はもっぱら、舞踊伴奏で活躍しているから。
1965年バスク地方はバラカルドの生まれ。最初はクラシックやロックを弾いていたそうな。マドリードにでて、舞踊伴奏を学び、マリオ・マジャ監督時代のアンダルシア舞踊団やアントニオ・ガデス舞踊団などでも弾いていた。日本にもベレン・マジャやイサベル・バジョンの伴奏などで来日している。

なんで、彼の演奏はずっと聴いているわけだし、
テクニックがあるギタリストだってゆーことはわかっていたはずなんだけど、
このアルバムにはほんとびっくりさせられました。
いや~新鮮。ほかの誰にも似ていない。めちゃオリジナル。

しょっぱなのブレリアにまずやられました。なんなんだこれ?って感じ。
ぶっ飛びました。いや、このアルバムの噂はずいぶん前からきいていたんですけどね。でもきいてみなくちゃわかんない。なんでぜひ聴いてくださいまし。
ほんとすごいです。
どこか不安をあおるような、それでいて興奮に導くような。曲が似ているという訳ではないけど、ちょっとカニサーレスの音を思い出させるような。
ちなみにタイトルのカジェ・エスパダはヘススのお父さんが生まれたセビージャはエシハの通りの名前だそうです。
2曲目のマラゲーニャの美しいイントロ。ドラマチックなメロディのこの曲には、今、最も脂ののったカンタオール、ミゲル・ポベーダがハベーラを歌って参加。彼もめちゃいいです。ちなみに二人は、このアルバムにパルマスで参加しているイサベル・バジョンの作品「プエルタ・アビエルタ」でも共演してますね。。。
後半、バンドネオンが参加してアルゼンチン・タンゴ風味となるちょっと不思議なあじわいのタランタ。
エンカルニータ・アニージョが歌っているソレア・ポル・ブレリアはモダンな感じ。
アルバムのタイトル曲、ビエント・デル・ノルテ(北風)はフラメンコのコンパスにしばられていない自由曲だが、フラメンコな味わい。どこか寂しげな感じとのびやかさ。
続くブレリア。指が三つ編みになりそーなファルセータ。舞踊のバックでの共演も多いマヌエル・ガーゴのカンテ、レメディオス・アマジャの妹カルメンと、カルメン・リナーレスのパルメーラ、アナ・マリのコーラスもいいかんじで、テミータとよばれる売れ線狙いのよくあるような曲におちていない。
ビセンテ・アミーゴ以来?、再びギターソロに取り上げられることが多くなってきたサパテアードもいいし、最後の母に捧げたナナまでほんと息をつかせぬ8曲でございまする。

ちなみヘスースがこのアルバムを録音しようと思ったのは、
「つくった曲を忘れないため」
だそーだ。
先のヘレス・フェスティバルでの、初めてのソロ・リサイタルのとき、舞台の上でそういっていた。
「ソロになろうとか考えたわけじゃない」
って、もう、ほんと謙虚で初々しい。

このアルバムを初めて聴いた翌日、会ったので、すごくよかった~、って感想をいったら、ぽろぽろ涙をこぼしていた。(実話)そんなピュアな彼の心がいっぱいにつまった1枚です。