しかぜきょうこの1日1枚+

スペイン在住フラメンコ研究家/通訳コーディネーターによるフラメンコCD紹介

エンリケ・モレンテ「モレンテ」サウンドトラック

2011-06-26 18:45:21 | カンテ

昨年12月亡くなったエンリケ・モレンテ。

それは本当にあまりにも突然のことでいまだに信じられない。

去年の彼を追った映画「モレンテ」のサントラ版。

5月22日、日刊紙エル・パイスの付録として9.95ユーロという破格の値段で発売されたもの。

エンリケと面識のあったアーティストやジャーナリストのエッセイやコメント、収録曲の解説、歌詞なども収録したCDブックとなっている。

曲の順番は必ずしも映画に登場する順番ではない。彼の最後の録音「エル・アンヘル・カイード(墜ちた天使)」を最後にもってきたのは正解。映画でもエンリケがジャズピアニストの伴奏で熱唱するこの場面にきゅんとなって思わず波だったけど、この曲の作者、アントニオ・ベガもこの曲が最後の録音だったことなど思うと感慨深い。

幕開きはアルバム「パブロ・デ・マラガ」の最後を飾った「アディオス・マラガ」。ピカソや詩人マリア・サンブラーノ、そしてレポンパ、チャケータ、フアン・ブレバ、アンヘル・デ・アロラら、マラガゆかりの人たちの名が歌い込まれたエンリケの作詞作曲。続くアレグリアス、マラゲーニャスとともに、ブイトラゴでのライブ録音。アレグリアスは伝統的なものからオリジナルなものへと軽快なリズムで歌い綴るのが壮快。生命力に満ちあふれたアレグリアスだ。マラゲーニャはトリアーナ出身の名手、ラファエル・リケーニ。「一瞬、はっとさせるところがあるから、あれだけでいいっていう気になるんだよね」と昨年、ラ・ウニオンのフェスティバルで会ったときに語っていたエンリケ。そのときの公演でリケーニのギターにおおっ!と驚嘆した一瞬があった私は激しく反応し、おやっという顔をしたエンリケと目があった。昨日のことのようなのに。

次のブロックはグラナダ。エンリケのタンゴと長女エストレージャのカンシオン・ポル・ブレリアス、長男ホセ・エンリケのソレア、次女ソレアのソレア・ポル・ブレリアで、これはアラブ風呂内での録音だ。タンゴでは娘たちのささやくようなコーラスも美しい。エストレージャについてはいうまでもないだろう。当代きっての人気フラメンコ歌手。声質で毛嫌いする人もいるようだが、歌詞のメロディへの載せ方や節回し、コンパス感など父ゆずりの素晴らしさ。息子は父の舞台でコーラスをつとめていたが、数年前ソロできいたときより格段にうまくなっている。が一番の驚きはソレアだろう。彼女も父のアルバムでコーラスやソロを歌っていたが、ここではスペインの現代詩人の詩をソレア・ポル・ブレリアのリズムにのせ完璧に歌っている。ささやくように語るようにしっかり歌詞をききとれるはっきりとした発音。華やかな姉とはまたひと味ちがった、おとなしいタイプなのが面白い。

リセウでのライブからはやはり「パブロ・デ・マラガ」収録の「アウトレトラト」「ゲルニ=イラク/シギリージャ」そしてタンゴ。「アウトレトラト」はピカソの手紙がもとになっていて、最初はソレア・ポル・ブレリアのリズムで歌われ、それがソレア・アポラーに続いていくという構成。見事のひとことである。「ゲルニ=イラク」の最初はラップ風にリズムに乗って話すエンリケ。そこからシギリージャへと進む構成の巧みさ。ゲルニカの悲劇を表現するにはやはりシギリージャの叫びだろう。最後の部分は幻の名作「ア・オスクーラス」のシギリージャ。映画「カルロス・サウラのフラメンコ」でカニサーレスの伴奏で歌った、マノロ・サンルーカルの弟イシドロ・ムニョス、オリジナルのシギリージャをモレンテ風にレマタールし、最後は義弟アントニオ・カルボネル、妻の妹の夫ガバーレらのコーラスからおいあげていく。最後はタンゴ。このタンゴのエネルギー!生命力に満ちてロルカのモチーフなどを歌い上げる。

そして最後は「墜ちた天使」。彼自身の挽歌となってしまったこの曲の深み。最後のピアノはどこか東洋的な響きも感じさせる。。。。

 

エンリケについての私の気持ちは以前、このブログで話したときと変わらない。

映画もいつか日本でみられるようになってほしいと切に願うが、その前にこの1枚。

フラメンコを、スペインを、音楽を愛する人、必聴です。