しかぜきょうこの1日1枚+

スペイン在住フラメンコ研究家/通訳コーディネーターによるフラメンコCD紹介

DVD「シナモンとクローブ」

2009-12-18 06:10:26 | バイレ
「シナモンとクローブ」? お料理教室みたいですが
スペイン語だとカネラ・イ・クラボ。日本語だと肉桂と丁字。
スペインではポピュラーな香辛料でいい香、というイメージで使われます。

主演はビセンテ・フェルナンデス。
1974年ハエン県リナーレス生まれで、ラファエル・アギラール舞踊団等で活躍した経歴の持ち主。
2003年に発表したDVD「デ・グラナダ・ア・ヘレス」についでこれが2枚目のDVDとなります。

日本市場を重視し、日本語版のDVDを出したのもこの経験からでしょう。
なんと歌の日本語の訳詩が字幕で出ます!
これはほんと珍しい。
翻訳は完璧とはいかないけれど、こうして字幕をみながら画面をみると
字幕に気をとられて踊りを見落としがちになることもあるにしても
舞踊と歌詞の関係がわかって面白いかも。

そう、
「フラメンコの歌って何を歌っているんですか?」はよくある質問のひとつ。
ほーんといろいろです。で、歌詞の内容と踊りがシンクロすることもあれば全然関係ないこともある。
言葉遊びみたいなものやなぞかけみたいな歌詞もあるし、伝統的なものの中には意味がよくわからないものもある。

カンテはまず
第一に歌詞よりも歌い手がそこにこめるセンティミエント、心を感じるものである、
と思うけど(だから歌詞が分からなくても涙が流れるとか、あるわけですね)
歌詞がわかったらもっと面白い、というところももちろんある。
もっというと踊りは大したことなくても歌詞が良いんで感動、ということだってあるのだ。
っていうか、歌詞のいい悪いよりも、そのときの自分の心にぴったりくるかどうか、ってことだったりする。
同じ歌詞でもメロディや曲種や歌い手によっても変わってくるし、同じ歌い手でも毎日違う風に聞こえることもある。
だからやっぱ一番は心だと思うんだよね。
こっちの心のありかたと向こうのどう歌うかという気持ちのありよう。
フラメンコは心のコミュニケーションなんです。

ラ・アルヘンティーナ「ラス・ミーナス・デ・エヒプト」

2009-12-18 03:24:24 | カンテ
今年25歳の新進カンタオーラ、ラ・アルヘンティーナ。
ウエルバ出身の彼女は3年前にCDデビューした彼女はまたたくまに
ビエナルやラ・ウニオン、スーマ・フラメンカなどおもだったフェスティバルに出演するなど
フラメンコ界の中心に躍り出た。

その彼女の2枚目のアルバムがこの「ラス・ミーナス・デ・エヒプト」。
タイトルは、ロサリア・デ・トリアーナが歌っているソレアの歌詞の一節からとっている。
CD不況もあってか、自らのマネージャーとおこしたレコード会社からの発売だ。

1曲目のタンゴ、2曲目はカンシオン調のブレリアス、とモダンな、いわゆる“いまどき”のカンテCDかと思うのだが
3曲目のソレアがいい。伝統的なソレアと正面むいて取り組んで真っ向な勝負をしている、という感じ。
伴奏のマヌエル・パリージャも、ひたすらカンテをバックアップする重みのある演奏でサポート。
4曲目はカンシオン。現在スペインで再流行しているコプラとかもうまく歌いそうな感じでこなしている。
5曲目のアレグリアスはカディスのギタリスト、リカルド・リベラの作で、地名やバルの名などカディスゆかりのものなども織り込まれたレトラで、元気な曲もカディスらしい明るさをよく表現している。曲もいいが彼女のキャラクターにもあっている?
6曲目はシングルカットされたルンバ。いかにも、ヒット狙い、な感じか。一般に受けそうなつくりではある。
7曲目はナナらしからぬナナ。ちょっとゆっくりめのソロンゴみたいで、舞台作品に使われそうな感じ。
8曲目のブレリアは「ウトレーラとヘレスの間のカサ・ベラで」でタイトルになっているが、フェルナンダ・デ・ウトレーラとパケーラが歌っていたレトラを歌っているのが面白い。先駆者たちのレトラだが真似にならず彼女の感覚で歌っているのが楽しい。知り合いの家でのライブ録音という、その雰囲気も楽しい。最後にちょっとお楽しみも。。。
(この曲はライブでも聴いたが、ライブの方がいい。CDだとカルメン・リナーレス風な発声/歌い方がちょっと気になる)
9曲目はマラゲーニャ。しっかりはしているが、味わいが足りないというのは欲張り過ぎ。
最後はファンダンゴ・デ・ウエルバ。同じウエルバ出身のホセ・ルイス・ロドリゲスのギター伴奏。

というわけで,若手カンタオーラがたっぷり楽しめる1枚となっておりまする。
オフィシャルウエブ
http://www.lasminasdeegipto.com/
では試聴可能なほか、レトラなどもダウンロードできます。こういうのも今っぽいよね



ダビ・ラゴス「エル・エスペホ・エン・ケ・メ・ミロ」

2009-12-07 04:51:07 | カンテ
ダビ・ラゴス、待望の初ソロCD。

1973年へレス生まれ。歌い手のアギラール・デ・ベヘールは従兄弟、叔父にアギラール・デ・ヘレス。兄にアルフレド・ラゴスというフラメンコ一家に育ち、こどもの頃から歌い始め10歳で初舞台。叔父に導かれプロとなり、95年にはドミンゴ・オルテガのグループで新宿「エル・フラメンコ」出演のため初来日。後、ドミンゴをはじめ、ベレン・マジャ、アドリアン、ルイシージョ、クリスティーナ・オヨスらの伴唱で活躍。オヨス舞踊団での活躍で注目され、2002年のビエナルでは舞踊伴唱だけでなくソロのリサイタルも行った。ホアキン・グリロ、イスラエル・ガルバン、パストーラ・ガルバン、アンドレス・マリン、マヌエラ・カラスコ…一流の舞踊家たちと数多く共演している実力派。

1曲目は熱血ブレリア。パケーラ・デ・ヘレスに捧げたもので、タイトルからして「ブレリアの女王」。
めちゃくちゃのりがいいしドライブ感がすごい!オリジナルのレトラもいい。言葉がはっきりきちんと聴こえてくるのもいい。
そう、彼はシンガーソングライターならぬカンタオールアウトールなのである。

2曲目はイスラエル・ガルバンの闘牛をテーマにした作品「アレーナ」のタンゴ。
最初の部分はミゲル・ポベーダの、後半はアルフレドの音楽だというが、ゆっくりとしたリズムでしっかりきかせてくれる。

続くはカンテ・デ・レバンテもオリジナルのレトラで、僕は好きに歌いたい、と訴える。
伴奏のギターが美しく彩ってしっとりきかせる一曲。そう、カンテのアルバムって伴奏とのバランスもポイントです。
高い音も深みを失うことなく見事にこなしているのはさすが。

再びのブレリア。1曲目と比べると今度はかなりゆっくりめ。でも落とすところや曲がるところがいやー、巧い、うまい。
最後の趣が変わるところも自然でいいし。

マラゲーニャも彼の美しい響きをもった声によく似合う。これもギターが最高。
彼といい、テレモートといい、今、マラゲーニャに注目!なのかも。
古いマラゲーニャをもちろんベースにしているのだけど、彼らしさ、というのがでているんだよね。お見事。
お手本通りというだけでない熱唱です

アレグリアスもカディスの町の風が香って来るような感じ。リガールという、つなげ方がめちゃうまい。
メリハリも利いていて、踊り手でなくても踊りだしたくなってくるような感じ。

7曲目。ミロンガ風にはじまってブレリアになる。これも彼の声質とよくあっている。歌い回しのうまさも特筆もの。

8曲目はゲストのフェルナンド・デ・ラ・モレーナのトリージャにはじまるソレア。二人で歌い継いでいくかたちはフィエスタの雰囲気。二人は声質も、キャリアも、年代も、何もかも違うわけだけど、ヘレスはヘレス。
フェルナンドもいいが、ダビの熱唱も決してフェルナンドに負けてない。
こういうのを聴くとやっぱフラメンコはヒターノもパジョもないねえ、結局はフラメンコは愛。
フラメンコ好きは皆ファミリー、って気になるのでありました。

最後のトナーはシギリージャ風に終わるのが面白い。古いカンテなのに彼が歌うと古い中にも新しさがきこえてくるのが、これまた面白い。


というわけで、古いフラメンコを愛し学び、自ら新しい息吹を吹き込んでいくダビ・ラゴス。
2年前、このCDは録音にも入っていなかったのに、批評家協会の新人ディスク賞を授賞したというエピソードもあるダビ。
(リストにあった名前をみてCDを聴かずに投票した人が多かったってことですね)
デビューアルバムとは思えない、すばらしい出来のアルバムでございます。
カンテ好きはぜひ1枚!


ちなみにこのアルバムの発表記念ミニコンサートの模様はこちらのブログ、フラメンコ最前線で



http://noticiaflamenca.blogspot.com/2009/12/blog-post_07.html

アントニオ・マイレーナ「ヒターノ・イ・アンダルース」

2009-12-03 20:44:40 | カンテ
アントニオ・マイレーナ生誕百周年を記念して制作されたCDブック。
写真や系図などで彼の人生と功績を振り返る。
CDの方は未発表のライブ録音を8曲収録。
観客のハレオや拍手なども入り、スタジオ録音のアルバムとは全く違う臨場感が味わえる。

個人的には最後に収録されたマイーレナ・デル・アルコールのプリミティブなサエタ(今のサエタのようにシギリージャ/マルティネーテのリズムで歌われるものではなく、民族音楽系にちかいもの)を興味深くきいたが、
「もっと歌っていたいけど。これで72歳だよ」というしゃべりが入った81年のウトレーラのフラメンコ祭、ポタへ・ヒターノで歌ったブレリアも面白い。
でも歌なら最初のトナーや、ソレアがおすすめ。

12月10日にはセビージャのマエストランサ劇場でオマージュ公演が行われます。

エンリケ・モレンテ「モレンテ・フラメンコ」

2009-12-02 19:14:56 | カンテ
オープニングはナナ。このナナだけはスタジオ録音の新曲。
愛娘ソレアのやさしいボーカルではじまる。
ソレアの声は姉エストレージャをもっとやわらかくやさしくした感じだ。
ブレリアのリズムにのって聖週間の行進曲アマルグーラのメロディで
「おかあさんはみんな 悲しく、苦しい」
とはじまるこの曲は戦争で息子を失った母親たちに、母親を失ったこどもたちへの
やさしく強いフラメンコな反戦歌。心にしみてくる。
こどもたちのコーラスも自然でいい。

続くタンゴのノリの良さ!
伴奏のダビ・セレドゥエラはパコ・デ・ルシアのファルセータをパコよりも早く!弾く。
そのすごさ! これはギタリスト諸君絶対必聴!
エンリケの声ののびといい、コーラスの間の良さ、バランスの良さといい文句なし。
元気が出るタンゴだ。

続くソレアは長年伴奏をつとめていたペペ・アビチュエラの過不足ない素晴らしい伴奏での熱唱。モレンテというとモデルノ、という印象がある人もこれを聴けば、意見が変わるのではないだろうか。声をはり、そのあとの落ちて行くところの見事な感覚。
フラメンコの根っこの部分をきっちり押さえているからこそのできばえだ。

そしてファンダンゴ・ナトゥラレス。
ファンダンゴというとフラメンコ・フェスティバルで歌い手たちが好んで歌う、フラメンコ版都々逸的カンテ。
エンリケのライブでファンダンゴを聴いた印象があまりないのだがこれも素晴らしい。
かつてのファンダンゴの名手たちをほうふつとさせる出来。
昔ながらの歌詞を、これもめりはりをつけて、歌詞が心に届くように歌っているのだ。
テクニックのためのテクニックではない,心の表現のテクニック。
伴奏のペペ・アビチュエラも最高。

グラナイーナの伴奏はフアンとペペのアビチュエラ兄弟。
前奏の美しさといったら。グラナダの風景が目の前にうかんでくる。
朗々とうたいあげ、最後にモレンテ風というか、微妙な節回しをきかせてくれるのがまたいい。。。

アルハンブラ宮殿はカルロスキント宮殿で録音されたアレグリアスもペペ・アビチュエラの伴奏。
ストレートに歌い上げる正統派アレグリアスだが
これもレトラのメロディの載せ方などにモレンテ風な歌い回しがあるのもうれしい。

が、なんといってもこのアルバムの中で最も素晴らしいのはセラーナだろう。
伴奏は天才、ラファエル・リケーニ。
どこかクラシック音楽的な前奏からしてオレ!を叫ばずには聴かれない。
エンリケが親交あつかったカンテの名匠、師ペペ・デ・ラ・マトローナの歌っていたというセラーナをまっすぐ歌う
おちていくところのうまさといったらない。
それによりそうギターのすごさがこれまた。。。。鳥肌もんである。
こんなにアーティステッィクでオーセンティックなセラーナがかってあっただろうか。
これもギタリスト絶対必聴です。

次のティエントも伴奏はリケーニ。セラーナと同じときに、グラナダのアラブ風呂で録音されたもの。
エンリケの声の使い方は名人技だが、これも伴奏がめっちゃフラメンコで素晴らしい。

ペペ・アビチュエラ伴奏のマラゲーニャ、そして重みと深みのあるソレアで心をふるわせ、最後に再び「ナナ」だ。
最初のバージョンとは別の 、前々作「ペケーニョ・レロッホ」のメロディもかおをみせる長いバージョン。


モレンテ・ファンはもちろん、モレンテ嫌いの人もぜひ聴いてください。
モレンテがどんだけフラメンコを愛しているか、知り尽くしているか、絶対これでわかるはず。
ギタリストにはギターを聴くだけでもおすすめと申し上げます。