4月18日中国新聞天風録より
「奥の細道」の旅の途中、芭蕉は日本三景の宮城県・松島に立ち寄った。しかし感動のあまり句を詠めなかった逸話がある。海に浮かぶ盆栽のような島々。10年前に遊覧船で巡った折、地元の人が「自然が生んだ奇跡」と誇らしげに話したのを思い出す
大津波は海岸沿いのまちを次々にのみこんだ。そんな中で松島の景観はほぼ無傷。旅館などが集まる対岸の松島町は水に漬かったものの、家屋の多くが残った。260余りの島が波の力を弱めたらしい。「奇跡的だった」と町役場はいう
大型連休に向け、住民挙げて復旧を急いでいるそうだ。海水が手前で止まった国宝の瑞巌寺は既に門を開き、遊覧船も近く運航を復活する。被災地でつち音が響き始める中で「松島から元気を広げたい」との頑張りは頼もしい
三景の一つである宮島も7年前、災害に見舞われた。台風で世界遺産の厳島神社が大きく壊れ、観光客が大幅に落ち込んだ。義援金を届けてくれたのが松島の人たちだ。にぎわいを取り戻した神の島で「今度は恩返しを」と支援の機運が高まっている
「一丸となって日本三景の復興を」と松島町は宣言した。芭蕉の愛した緑なす島々と、朱の大鳥居。ともに日本人の心の古里だ。奇跡の復活を目指す「旧友」にエールを送りたい。
以上
積善山・桜・海