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恋愛ブログ

世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

20.ギャンブラー 4

2006年05月06日 | ギャンブラー
 車の中で、ミドリがどういう生活を送っているのか聞いた。ミドリは大学生で、バイトをしながら通っているという話しだった。
 40分くらい話していると、明りがボンヤリついているクラブの前に着いた。このクラブには、友達とよく踊りに来ると言っていた。
 俺は車を駐車場らしいジャリ道に止めて、ミドリと店に入る事にした。
 だぼっとしたパンツを履いて、バンダナをはめている愛想いい男がドアの前に立っていて、金を払うと、手にスタンプを押された。
 これが通行手形と言うわけか。店内に入ると、ラップ系の音楽が騒音のように響いていた。
 周りを見渡すと人だらけで、何が何だか分からなかった。
 踊っている奴もいれば、ドリンクを飲んでいる奴もいる。ファッションも奇抜な感じだった。
 ここはどうやら若者しか来たら駄目な所らしい。
 立ち止まっていると、ミドリがドリンクを持って来ると合図したので、「踊ってなよ」と耳元で囁いて、代わりに俺がドリンクを取りにカウンターへと行った。
 ミドリは、音楽に合わせて楽しそうに踊っていた。かわいい子が踊ると絵になっていた。
 俺は、カウンターのゴツイ男に適当に酒を注文をした。ありとあらゆる酒が置いてあるように感じた。
 頼んでいると、ふと、カウンターの椅子に座っている女性に目が行った。赤い帽子をかぶっている女性。どこかで見覚えがある顔だった。うつむいているが、確かにノリコだった。こんな所で何をしているのか気になった。
 隣に座って話しかけた。
 「ノリコ。こんな所で何をしてるだ?男とどこか行ったんじゃなかったけ?」
 「ふられちゃってね。」酒を飲んでいるせいか普段のノリがいい彼女ではなかった。
 「ノリコでもふられる事があるんだね。知らなかったよ。ふる男は見る目がないんだね。」
 「それって、なぐさめているの?」
 「そうだよ。俺、ノリコが好きなんだぜ。知らなかったのか?」
 「本当?今日はそのまま受け止める事が出来そうね。」
 「どんどん、受け止めちゃっていいよ。」
 「それにしても、私達いつもどこかで逢っているわね。運命って事かしら。」
 「そうだよ。運命の赤い糸さ。たぐり寄せれば、あら不思議ぴったりとノリコと俺の小指がくっ付くという訳さ。」俺は小指を立てて見せた。ノリコも合わせるように小指を立てていた。小指を見つめると、遠くを見つめていた。
 「そうかもね。今日は、何から何まであなたに甘えられそうだわ。今から、どこか行かない?」
 「うむ。どうしたもんかな。」ミドリの方を向くと、知らない男がミドリと仲良さそうに踊っていた。そこだけステージが切り取られたかのような繊細で激しいダンスをしていた。
 ここはどうやら、俺が来る様な所ではないらしい。
 「別にいいかな。」と呟くと、ノリコの手を握り外に出た。 
 「今振り向いた彼女と来てた訳じゃないの?」
 「来てたけど、俺には若すぎだ。ノリコの方がやっぱりグッと来るんだ。」
 「私はなぐさめられているって訳ね。」
 「今まで出会った中で、ノリコが一番だ。」
 「ありがとう。」ノリコが大きな目から涙を流していた。あのノリコが泣いているのだ。あれほど高飛車な女が泣くとは、よほど辛い事でもあったのだろうか。
 俺達は、騒音がうるさいクラブを後にして、静かなBARで飲み直すことにした。


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