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世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

18.夢のある店

2005年09月26日 | 物語
 私の店には不幸な人しか来ない。
 今日も不幸な人が店に入ってきた。
 マスターは快く迎える。
 「いらっしゃいませ。」そのお客様は男の人で、ボサボサ頭でスーツがクシャクシャだった。
 「何もかも忘れられるお酒下さい。」いきなり悲しそうにマスターに頼んだ。
 「失恋でもされたんですか。」マスターが聞く。
 「僕の話を聞いてくれますか。マスター」男の人が強い口調で言った。
 「えぇいいですよ。喜んで聞きましょう。」マスターは答えた。男はため息を一息つくと話し出した。
 「今、いや一年前の事なんですけど、忘れられなくて。実は彼女と別れてしまったのです。」そういうと男は泣き出した。
 「このウィスキーを飲んで落ち着いて下さい。」マスターが手際よくグラスにウィスキーを注ぐと優しい瞳で言った。
 男はグラスに入ったウィスキーを一口飲むと続きを話し出した。
 「彼女は元々足が不自由でした。医者からもう歩く事すら出来ないと言われたときはショックを受けました。それだけならよかったんですけど、親からも親戚中からも反対されて、仕事もろくに手につかなくなってしまって。彼女と別れるしかなかった。あれから仕事はうまくいって社長までなった。僕は彼女よりも、社長のイスをとってしまった。」男は話が終わると拳を握りしめていた。
 その話しをずっと頷きながら聞いていたマスターが答えた。
 「彼女はきっとあなたの事を今も待っていると思いますよ。これからもずっと待ち続ける事でしょう。今からでも遅くはない。彼女はあなたの言葉を待っている。やり直してみてはどうでしょうか。」
 「僕はどうしてこんな事をしたのだろう。」男は急に走って店から出て行った。

 その翌日、またあの男が店に入ってきた。今度は車イスの彼女と一緒だった。
 「マスター。彼女と正式に結婚する事に決めました。」男は照れて言った。
 「そうですか。それは良かった。今日は私のおごりです。三人で祝いましょう。」
 「二人を祝してカンパーイ。」
 「マスター。この店はまるで看板の文字のようだ。夢が湧くと言うか何と言うか。彼女とこうやって飲んでいられるのもマスターのおかげです。本当にありがとうございました。」男と彼女がマスターに礼をした。
 「これからも、二人で仲良くやってくださいよ。」マスターが励ました。
 その言葉に感動して、二人は涙を流した。
 「それでは、今日は帰ります。ありがとうございました。」
 「また、来てください。」男と彼女は、笑顔で帰って行った。

 そしてまた新しいお客様がドアから入ってくる。今度はどういった物語だろうか。マスターは、いつも快く迎える。
 「夢のある店ブルーアースへようこそ。」
 

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