私は地球で楽しく遊ぶために生きている

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女達の恋愛事情 キリカの場合~3~

2015-11-22 03:19:25 | ミステリー恋愛小説
テーブルに置いてる文庫本を見る。「人間失格」太宰の代表作だ。
キリカも読んだが、何を言おうとしているのかさっぱり訳がわからない。
結局悲観的女好きの男が酒に溺れた話ではないか。
太宰を愛する慶にはとても言えない感想だが。
「太宰の小説はー何が好き?」
慶のそばにいたいという不純な動機で入ったサークル、
まさか中学時代の授業で読んだ走れメロスだけだなど口がさけてもいえない。
「私も人間失格好きです」そう言うと慶は微笑んだ。
キリカは注文したアイスコーヒーを飲み、悲しい表情で呟いた。
「太宰の本読むと人間て弱くて、醜いと思うわ。死にたくなっちゃう」
すると慶の表情が途端に曇った。
「うーん、そうかな。太宰の退廃さは人間が根底にある琴線を突いている」
キリカは行き当たりばったりの太宰論を悟られたような気がして恥ずかしさで
消えてしまいたい心境になった。
その時背後に声が聞こえた。
真世が分厚い本を抱えていた。
偽太宰論を続けなくていいことにキリカは安堵した。
真世は自然に慶の隣の席に座った。
能面、無表情の真世の顔が柔らかくなった。

続く…