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公務員の特権

2006-09-15 00:55:28 | 日々のニュース
飲酒運転に対するエントリが毎日のように続きますが、昨日のエントリに対して破壊王子さんからTBをいただきました。
公務員のぬるい措置や甘い態度について批判されております。
で、まあ、飲酒運転に対する醜い抵抗については私も何とも情けなく思う限りではあるわけですが、そうした流れを受けて公務員制度に対する批判もぶつけられております。まずは引用。

小室先生(重ねていうが哲哉じゃないぞ)は日本は官僚が支配する国に成り下がったと嘆いた。これは戦前から連綿と続く流れである。高級官僚であるということで、下士官クラスなら死を賜る事件・事故を起こしておきながら、栄転・昇進した話もある。時代は下って総量規制通達という愚策により、国民の財産をあっという間に減らした旧大蔵省の役人は何のお咎めもなく2年前に死んだが、天下り先で社葬まで営まれたそうだ。支那ではないがこ奴の銅像でも作って唾でも吐きかけるくらいしてもいいと思うが。

つまりこの国は公務員か非公務員かで行政が差別的処分をしているのだ。公務員でもキャリアとノンキャリア、国家と地方で違いがあるというだろうが、特典付に変わりはあるまい。もはや上からだとか下からだとかいう話ではない。全体が腐って見えるのだがアタシの目は節穴かな?

これで民主主義国家でございますと、どの口でいうのか?基本的人権(アタシはこれにも民主主義にも懐疑的だけれども)とは万民に平等にある物じゃないのか?こうも違いがあることに論理的説明が出来るのか?ただでさえ行政権力の先鋒にいるくせに、この特権意識はなんだ。どこが三権分立だ。全て役人が食い込んでいることの証明じゃないか。これで北の将軍様の専制国家をどの口で笑えるか。


この部分についてですね。
まず、別の国にありながら似たようなことを書いた人もおられますのでそちらを紹介。

特権はまさしく平等の対立語であり、官僚はまさしく民主の天敵である。官吏が自ら進んで自分の特権的階級を制限し、行動の自由を享受することを控え、糾弾に対し法廷に出頭して答える日が来たならば、中国は一夜のうちに真の民主的国家に生まれ変わることができるであろう。しかし現在はまだそのときではないようである。もし人民が自由を得たら官僚や軍閥は今のように自由でいられないだろう。もし人民が犯すべからざざる民主を獲得したならば、官僚達は編集者を逮捕したり、新聞社を閉鎖したり、また自分の頭痛を治すため他人の頭を切り落とす自由がなくなるのである。
(中略)
こうした観念が中国人の意識の奥深く根を下ろしている。不正は官僚自身だけに限らず、熔樹の根のように四方八方に向かって伸びていき、遥か数里の遠きにまで達する。おまけにその大きく張り出した枝に作られた木陰の下に集まるすべての人間身の上にまで及ぶのである。中国人はこうした熔樹の木と争おうという気持ちは起こさず、ただなんとか自分もその木陰の下に潜り込んで甘い汁を享受しようとするだけである。中国人はアメリカ人のように官僚を弾劾したり、あるいはボリシェビキの党員のように金持ちの家屋に火を放って燃やしたりはしない。中国人は手段を講じて権勢家の門番にでもなって、彼らの威光を享受したいと考えるだけである。(「中国=文化と思想」 林語堂著 講談社学術文庫)


この林語堂という人が上の論文を書いたのは1935年(つまり中華民国の頃ね)だそうですが、まあ、何というか今の日本と照らし合わせてもそんなに変わらんなという気がしてなりません(弾劾するか火をつけるか門番になるかの違いは別として)。ちなみにこうしたことを受けて「こうした(特権を享受する)現代の官僚を公僕と呼ぶのは民主に対する冒涜である」とも。警察官を公僕というあたりからして、日本は民主国家ではないということですね(笑)
ただ一方で林語堂は官僚制度について以下のようなメリットもあると説いております。
官僚制度の唯一の取り柄は中国に世襲的階級制度と貴族的階級制度を生み出さなかったことである。中国の官僚階級はヨーロッパの地主貴族のように世襲できる階級では決してなく、中国ではいかなる家系であれ、永遠に貴族であることはできない。
(中略)
これと同時に科挙制度は才能ある人間を社会の低層から引き上げる役目を果たしてきた。中国の科挙の試験は乞食と娼婦の子供以外は誰でも参加することができたばかりではなく………才能さえあれば誰でもこれを享受でき、富裕な家の子弟だけが利益を独占してしまうようなことはなかった。この意味では中国では誰に対しても平等に機会が与えられていたと言うことができよう。


このあたりも日本は同じですね。科挙の代わりが国公一種になったと考えればいいわけで。
で、まあ、これは以前総裁選のエントリの時にちょっと触れましたが、例えば総裁選に出ている面々はこれは貴族階級といってもいいわけですね。安倍も谷垣も麻生も全員二世三世議員です。小泉だってそうですし、まあ人気を必要とする政治家商売の場合は自力でなるより先祖の威光も借りた方が有利なのは間違いありません。例えば彼らの息子が首相になりたいと思えば、我々よりも遥かになれる可能性が高いわけです。
しかし、公務員になるのは必ずしもそうとは言えませんね。基本的に各自治体や国家公務員試験に合格さえすれば、誰でも官僚や公務員になれるわけですし、そうなれば特権を享受することができるわけです(無論特権自体の是非は別ですが、1935年の中国と今の日本とで似たような状況である以上、結局はなくならないと見ていいのでは)。つまり特権だと批判していても一応、それらを等しく享受しうる可能性がある点では平等であるといえそうなわけです。

破壊王子さんがいみじくも書かれていますが、「アタシは相変わらず一人者だが、倅なり娘が出来たら公務員になれと勧めよう。こんな特典があって民間でカツカツ生きるなんて損だもんな。」というのはある意味、日本が機会においては平等であるということを示しているのではないかとも取れるわけです。
別にまあ、官僚や公務員を擁護するつもりもないですが、特権があるから≠平等でもないのではという見方はあるわけで。

こんなことを言う私はすなわち不祥事もみ消しなどに対する特権は批判しつつも結局最終的には「結果的に不正なんてどこにでもあるさ。全部なくなるもんでもないやね」と門番に立つわけですが、皆さんは糾弾されるのか火をつけるのか、さて…?

ちなみにこの本、結構ウイットに飛んだ世相斬りが多くて、現在の日本にも通じるところがあるので一度は読んでみたら面白いのではとは思います。まあ、新品だと1,400円とちと高いですので、中古くらいの方がいいですけどね。
ちなみにこんなことも書いています。
中国人が過去二千年にわたって道徳の陳腐な議論を飽くことなく繰り返してきたにもかかわらず、国家の道徳的状況を替えることができなかったばかりではなく、賢明で廉潔な政府の出現も見なかった事実を中国人は直視すべきである。もし道徳的感化がいくらかでも役に立っていたならば、中国はすでに聖人の楽園になっていたはずであることを、中国人はまたはっきりと認識すべきであろう。
道徳を用いて政治を改革しようという思想や議論がなぜかくも流行するのか、特に官僚たいが語るときにはとりわけ力が入るようだが、これはこうした改革が少なくとも誰に対しても害になることがないことを彼らは知っているからである。実際においては道徳の向上を高らかに叫んでいる大人先生にかぎって、その良心に疚しいところがあるようである………「仁義は美徳である」と我々が言えば彼ら(官僚)は「全くもって仁義とは美徳そのものである」と言うのであり、もとより誰に対しても害になるはずがない。他方、私は官吏が法治による政府について語るのをいまだかつて耳にしたことがないが、もしそれを口に上せば「よろしい、我々は法律によってあなたを起訴し、監獄に送ってやろう」と答えるに決まっているからだ。

いかがでしょう。総裁選の先生方。


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4 コメント

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"φ(・ェ・o)~ (ゼシカ)
2006-09-15 02:56:42
この辺ってすごく意見が分かれますよね。

確かにうちの親なんかも就職の時に

「公務員」をやたら口ばしってました。

色んな意味で「特権」があるからでしょうけど。

不正は確かに公務員に限らず、表立って出てないことが多いですよね。
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紹介ありがとうございます。 (破壊王子)
2006-09-15 05:56:24
元々シナにおける官僚制度は貴族たちに対する皇帝側の武器でした。皇帝(特に高祖・太祖と呼ばれる人)は実力でのし上がった場合が多く、貴族からみればどこの馬の骨かわからないヤツでしたから。

ところが宋の頃には貴族そのものが居なくなってしまった。でも官僚のライバルは存在しました。宦官です。

まがりなりに2000年以上を乗り切ったのにはこういう緊張感があったためでしょう。

果たして今の日本の官僚にライバルはいるでしょうか?

二世・三世議員共といえども官僚に法案作って貰うのですからライバル関係があるかどうか(苦笑)

まあ彼らにしか期待できないのが現状かもしれません。

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>ゼシカ様 (川の果て)
2006-09-15 09:52:25
なれば安全という意識があるのは、逆に言うとやっぱり欲しいっていう本音も見え隠れしている部分があるわけですからね。全くなくそうというのは結局のところ無理なのではと林語堂は言っていて、わたしもそうなのではと思う次第です。
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>破壊王子様 (川の果て)
2006-09-15 09:55:31
確かに宦官もいましたね。ただ、宦官も子孫は残せないので、結局特権は皇帝を除いて次代には引き継げないという意味では公平とはいえそうな気がします。

そうすると皇室に宦官を召抱えてもらって官僚と対抗させるのがよろしいですかね(笑)



頼りきりなくせに表向き敵対関係を装っているわけで茶番というより他ないですよね。
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