あるタカムラーの墓碑銘

高村薫さんの作品とキャラクターたちをとことん愛し、こよなく愛してくっちゃべります
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「あのマウンテンゴリラとはどこで知り合ったのかね?」 「動物園」 (旧版p82)

2014-01-22 00:12:01 | 神の火(旧版) 再読日記
気まぐれと言われてもいい。あと2~3回で終わる新版をおいといて、旧版を。
旧版・新版の比較は、のちのちドーンとまとめてやったほうがいいんじゃないか、とコペルニクス的転回。

というわけで、初回とは体裁がガラッと変わってます。
ツッコミはそんなに入れないようにしますので、文章をそのままを味わってください。
ネタバレは当然ありますのでご注意。

***

2007年7月2日(月)の旧版『神の火』 (新潮社)は、p90まで読了。
タイトルは江口さんと島田先生の会話。 島田先生の発言にひねりがないのが、いかにも島田先生らしい。


【今回の名文・名台詞・名場面】

★感情的になるな。感情でミスを犯す奴は最低だ、と鏡の男が言った。島田は口に溜まった歯磨きペーストの唾を鏡に吐きかけ、急いで口を濯いだ。 (旧版p61)

汚れたその鏡、口を濯いだ後で拭いたんでしょうね、島田先生・・・? 旧版の島田先生は、新版と比べてビックリするほど、感情が激しいです(笑)

★「いろいろと難しいね、世間は」
「島田さんも、そんなこと考えはることあるんですか」
「考えた結果が、この人生だ」
「僕は、考えた結果がこのネクタイや」
 (旧版p62)

新版でも取り上げた会話。好きなので、旧版でも引用。

★昔から、自分の手で触れ、目で確かめることの出来るものは、受け入れることが出来ない性分だった。 (中略) 島田の目は、どこまでも実証と分析の目だった。事実は見るものであり、島田は、推測する前に見ずにはおれない目を持って生まれたのだった。 (旧版p69)

島田先生の性格がよく分かる描写ですね。

★「酔っぱらいの理由にするほど、君は楽しい相手じゃないな。鏡を見なさい、鏡を。失恋と破産をいっぺんにやったような顔だよ、今夜は」 (旧版p73)

自分の首を絞めるのが火を見るより明らかであっても、改めて個別に取り上げて、<江口彰彦 名言・迷言集>を作成したいもんですわ。なんかもう、いちいちツボを突いてくる。

★「そんな名前は、当局が勝手に付けたものだ。そんなセンスのない名前を考えた連中の、頭の中身が知れるというものだろう? そこからして、君が関わる価値なんかないと、私は初めから決めていた。そうだ。君には関係のない話だった。学生のお遊びより、さらに低劣な話だった。国家テロも、ここまで来ると本物のキ印だ。だから君には知らせる気もなかった。私の恥だからね」
恥? 原発をテロの標的にするような話に乗ったのが恥か。違う。得体の知れない若造をひっかけるほど落ちぶれたのが恥だ。テロ・グループを使えと言われて、断れなかったのが恥だ。あなたらしくない。江口彰彦のすることではない。あなたの誇りはどうした。理想はどうした。
何かが頭をもやもやと巡った。あなたの恥は俺の恥なのだと自分に呟きながら、島田は呆然と男の静謐な顔を眺めた。原発脅迫マニュアルだと……?
 (旧版p73)

★そういう男の物言いは、確かにあの江口のものだった。皮肉と誇りと自嘲がないまぜになって、どこまでも本当の姿を隠そうとする。一口、二口呷るブランデーが、さらに本当の顔を遠ざける。揺すぶり倒したい衝動を起こさせる、あの江口の顔だった。
この顔にさえ出会わなければ、自分は本来、感情の爆発ということを知らないで一生を終えるタイプの人間だったのだと、ふと考えた。だが、激しい爆発に対しては、それを押さえつける理性もそれなりに鍛えられてきた。
島田は、苦くなったブランデーを無言で噛みしめた。江口は、そ知らぬ顔で自分のグラスを揺すっていた。この二年の年月が、刻々とあやふやな靄になって消えていくのを感じた。その一方で、本当に消さなければならなかったのものは、何ひとつ消えていないのだとあらためて思い知らされた。
 (旧版p74)

ここは新版とほぼ変更なし。 コピペで楽をした(苦笑)

★「浩二くん。君は私を尋問しているのか」
江口は冷ややかな微笑を浮かべたかと思うと、島田のネクタイを摑んだ。「こんなものを締めてるから、息が詰まってくるんだよ。緩めなさい」
島田はネクタイを緩めた。江口は満足そうに微笑み、また飲み始める。
 (旧版p76)

高村作品の男性同士の<隠微>さを暗喩するアイテムの一つ、「ネクタイ」の描写は、長編2作目にして現れていたんですね~。
しかし素直に緩める先生も先生だ(笑)

★江口はソファから身を起こしていた。ブラインドから漏れる薄明かりの中で、初めてその眼球が光った。男は典雅な人差し指を一本、真っ直ぐに伸ばし、島田の眉間に突きつけた。「君と私の傷に触れさせないためだ。最後まで、私たちの誇りは守るのだよ。そのための人生だろう、え……?」

島田は、無言で江口の手を押し退けた。激しく逆らわなかったのは、江口の言葉に同意したためではなかった。江口も自分も間違っている。自分たちがそれぞれ何を望もうと、最後には道は一つになる。そんなことを考えたが、口に出すのは控えた。
 (旧版p77)

一行分、間が空いてますが、これは単行本の表記のとおり、空けているのです。

★江口は飲み続けていた。痩せて枯れた身体が、シャツの下でコソリと音を立てそうな感じだった。そんなにアルコールの火を注いで、何を燃やそうとしているのか。穴という男は、不燃繊維で出来たシーツに火をつけて、火事が起こるのを待っているようなものだ。ロマン主義の冷たい熱狂が、人の心に沁みるのを待っているようなものだ。 (旧版p77)

★「自分のハンカチを汚すほどのことじゃないだろうに」
「ハンカチ一枚惜しむようでは、初めからこんなところには来ませんよ」
「ふむ。それを言うなら、偵察に代償はつきものだと言いたまえ」
 (旧版p81)

★「何も訊くつもりはない。会いたいだけです」
「二十歳の小娘じゃあるまいし……」
そう呟いて江口はホホと笑った。「そういうことは口にしなさんな。四十を越えたら、男は虚勢。女は厚化粧。本音を出して可愛い歳は過ぎたよ、お互いに」
「三十九です」と島田は訂正しながら、自分の言動を恥じた。
 (旧版p82)

江口氏と島田先生の会話は、読んでいて楽しいわ~。正確に言えば、先生をやり込める江口氏が素敵よね。

★「君が残りの人生を捨てる気なら、私が拾おう。君がどこへでも行く覚悟があるなら、私が案内しよう。ただし、道が誤っていたら悪しからず」 (旧版p82)

江口氏、カッコええ~! 再三言ってますが、高村作品「老人キャラクター」でダントツに好きなのが江口彰彦さんです。



2 コメント

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唐突でごめんなさい (からな)
2014-02-06 22:55:19
つるぎさん、こんばんは。
自分でも分からない思考の転換があって、先に旧版をやろう! と。
順序としては、旧版→新版ですものね。

>ハロルド

このハロルドが、作品は違いますが『リヴィエラを撃て』のケリー(伝書鳩)と同じCIA職員だというのが、なんとも・・・。 ソリもウマも合いそうにない二人だ(苦笑)

>日野の大将、ヤバい場面が多いですが、可哀想です。

ああ、確かにご指摘の通りですね。 精神的・肉体的の両方でめちゃめちゃに。


<以下、未読の方はねたばれあるのでご注意>


旧版では島田先生は江口氏を選んでしまうけど、新版では日野の大将が島田先生を<卒業>するんですよね・・・。

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つるぎ (嬉しいです!)
2014-02-06 02:32:21
からなサマ、こんばんは。(おはようかな?)
旧神、取り上げていただいたんですね!
絶版になったのが惜しい、迷場面の多い作品なので、嬉しいです。有難う!

個人的には、島田先生の、労務者コスプレと、先生から取り上げたウオッカを取り上げて飲む、ハロルドが好きです。
旧版では、静かな男ですよねえ、ハロルド。
日野の大将、ヤバい場面が多いですが、可哀想です。
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