13 わわわ~ん!
13
私は怖かった、刃物というものは対峙するだけで、これほどのプレッシャーがあるものだと初めて知った。
だけど、その恐怖という感情とは裏腹に、私の体は動いていたらしい。
「どうして・・・そんなになるまで、誰にも相談しなかったんですか?」
「なんだと? 私の苦悩なんて、誰もわかるはずがないからに決まってるだろ!」
この時の自分の感情なんて、どうなってるかわからなかった。もしかしたら泣いていたかもしれない、鼻水を啜る音で私の声なんて相手に聞こえてなかったかもしれない。
だけど、こんなに思いつめた表情は初めて見た。
探偵という職業柄、追い詰められた人間を多く見てきた。ある人は夫の浮気が心配で、ペットが逃げたなど。
他人からすれば、どうってこと無いような事件だったが。
本人からすれば大問題だという事が、私は知っていた。
「いえ・・、貴方は諦めてただけなんです。どんな辛い目に遭ったかは知りません、だけど、その状況を解決しようとしてた訳じゃない。ただ逃げ回ってただけなんです」
「なんだと・・・、お前・・お前なんかに!!」
「包丁・・・、置いてください」
私に対して包丁を突きつける、このまま近寄れば確実に刺されるだろう。
「置いたら、私を捕まえるんだろ!そうなったら誰も浜松に裁きを与えられない!」
「じゃあ、私が代わりに裁きを与えます」
「そんな事できるはずがない!!」
確かに、私にそんな力はない。だが、話を聞く限り浜松という男を許せない。こういう立場の弱い女性を食い物にする男をよく見てきた、だからこそ短絡的な決断をせず、法的に裁く必要がある。
私は、冴木さんにこの男が裁かれる様を、しっかり見届けて欲しかった。
「そうやって言い訳をする、それが逃げてるって言ってるんですよ!」
その言葉の後、衝動のように彼女に抱きついた。理由はひとつである、彼女は相変わらず鬼のような形相をしていたが、うっすらと涙を流していた。自分の起こした過ちに気づいたのである。
「よし、確保しろ!」
「待って・・ください」
大友さんが動こうとしていたが、私の静止で後ろに下がる。
「おい、何をしてるんだ。おとなしくなってるうちに・・・」
「刑事さん、ちょいとうちの若いのに任せてはくれないですか?」
「悠長に構えて・・、どうなっても知らんぞ」
私はそっと、頭を撫でてから、ゆっくりと椅子へと連れて行き座らせた。
先ほどまでの表情は影を潜めて、今は穏やかな顔をしている。
「どうして、こうなったか。話していただけますか?」
冴木さんは、静かに頷いた。
「私と・・・涼香・・柳涼香さんは、実の姉妹なんです」
私の後ろで待機していてくれている3人は、神妙な面持ちで見ている。
冴木さんの両親は、冴木さんがまだ幼く、そして涼香さんが赤ん坊の時に離婚をしていたらしい。
だが、離婚をきっかけに優しかった父親が暴力を振るうようになってきた、その苦痛は幼少だった冴木さんを苦しめ続けたそうだ。
自分がこれだけ酷い目に遭っている、なら妹も危ないかもしれないと思い、必死に妹の涼香さんを探し続けた。しかし、運命というものは残酷だとしか言いようが無い、中学生の頃にようやく見つけたのだが、妹の涼香の家庭は幸せそのものだった。
現実を目の当たりにした時、冴木さんの心の支えだったものが、壊れた。
それは、愛情が何か別のものになるきっかけとなったのかもしれない。
妹は私とは違う、私よりずっとずっと幸せになる必要がある。いや、ならなければいけない。その為には、私がずっと見守り、そして妹の障害になるものを排除し続けないとならない。
冴木さんの歪んだ愛情は、さらにエスカレートしていった。
その後も涼香さんの事を付けていき、行動を監視し続けていた。
妹の涼香さんもその事に気付き始める、何者かに後を付けられていると自覚し、そして会社に就職して一人暮らしを始めてからも続いたので、困り果てて上司に相談したのだった。
その相手が、今回一緒に旅行に来ている、浜松である。
最初は親身に相談に乗ってくれたのだが、若く綺麗な涼香さんに対して、次第に別の感情が芽生え始めた。若くして出世をして順風満帆な彼にとって、丁度いい火遊び相手として目をつけられてしまった。
浜松はストーカー被害に対して、専門業者がいると言い知人を紹介する。しかし、その業者と浜松はグルで、ロクに仕事もせずに法外な費用を請求してきた。
当然、払い切れるはずもなく、浜松は自分が肩代わりするという名目で金を払う。その事が原因で、毎週のように呼び出しをされ、体の関係を強要されてきたのだった。
その事を知った涼子は、この旅行中に接触をして浜松との縁を切るように言うつもりだったらしい。
「・・・その話が、嘘じゃないという証拠はありますか?」
「証拠、とは言い切れませんが。虐待されていた跡ならあります」
そう言い首筋の髪を書き上げた、そこには何個か火傷の跡がある。涼子さんの父親が付けたものなのかもしれない、生々しい傷跡を見られるのが嫌なのか、直ぐに隠してしまった。
「分かりました、信じましょう」
とても嘘とは思えない、私は自分の直感を信じた。
「なら・・・、なんで殺したんですか。妹さんの過ちを止めるために来た筈でしょう?」
「それは・・・・」
目を伏せる、また首を掻き毟るように触る。
「急に目の前に現れた、姉と名乗る人物の言葉なんて、信じてくれる筈がなかったんです・・・」
寒いですねー
ほんと
キーボードがおかしくなるレベルの寒さですわ
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私は怖かった、刃物というものは対峙するだけで、これほどのプレッシャーがあるものだと初めて知った。
だけど、その恐怖という感情とは裏腹に、私の体は動いていたらしい。
「どうして・・・そんなになるまで、誰にも相談しなかったんですか?」
「なんだと? 私の苦悩なんて、誰もわかるはずがないからに決まってるだろ!」
この時の自分の感情なんて、どうなってるかわからなかった。もしかしたら泣いていたかもしれない、鼻水を啜る音で私の声なんて相手に聞こえてなかったかもしれない。
だけど、こんなに思いつめた表情は初めて見た。
探偵という職業柄、追い詰められた人間を多く見てきた。ある人は夫の浮気が心配で、ペットが逃げたなど。
他人からすれば、どうってこと無いような事件だったが。
本人からすれば大問題だという事が、私は知っていた。
「いえ・・、貴方は諦めてただけなんです。どんな辛い目に遭ったかは知りません、だけど、その状況を解決しようとしてた訳じゃない。ただ逃げ回ってただけなんです」
「なんだと・・・、お前・・お前なんかに!!」
「包丁・・・、置いてください」
私に対して包丁を突きつける、このまま近寄れば確実に刺されるだろう。
「置いたら、私を捕まえるんだろ!そうなったら誰も浜松に裁きを与えられない!」
「じゃあ、私が代わりに裁きを与えます」
「そんな事できるはずがない!!」
確かに、私にそんな力はない。だが、話を聞く限り浜松という男を許せない。こういう立場の弱い女性を食い物にする男をよく見てきた、だからこそ短絡的な決断をせず、法的に裁く必要がある。
私は、冴木さんにこの男が裁かれる様を、しっかり見届けて欲しかった。
「そうやって言い訳をする、それが逃げてるって言ってるんですよ!」
その言葉の後、衝動のように彼女に抱きついた。理由はひとつである、彼女は相変わらず鬼のような形相をしていたが、うっすらと涙を流していた。自分の起こした過ちに気づいたのである。
「よし、確保しろ!」
「待って・・ください」
大友さんが動こうとしていたが、私の静止で後ろに下がる。
「おい、何をしてるんだ。おとなしくなってるうちに・・・」
「刑事さん、ちょいとうちの若いのに任せてはくれないですか?」
「悠長に構えて・・、どうなっても知らんぞ」
私はそっと、頭を撫でてから、ゆっくりと椅子へと連れて行き座らせた。
先ほどまでの表情は影を潜めて、今は穏やかな顔をしている。
「どうして、こうなったか。話していただけますか?」
冴木さんは、静かに頷いた。
「私と・・・涼香・・柳涼香さんは、実の姉妹なんです」
私の後ろで待機していてくれている3人は、神妙な面持ちで見ている。
冴木さんの両親は、冴木さんがまだ幼く、そして涼香さんが赤ん坊の時に離婚をしていたらしい。
だが、離婚をきっかけに優しかった父親が暴力を振るうようになってきた、その苦痛は幼少だった冴木さんを苦しめ続けたそうだ。
自分がこれだけ酷い目に遭っている、なら妹も危ないかもしれないと思い、必死に妹の涼香さんを探し続けた。しかし、運命というものは残酷だとしか言いようが無い、中学生の頃にようやく見つけたのだが、妹の涼香の家庭は幸せそのものだった。
現実を目の当たりにした時、冴木さんの心の支えだったものが、壊れた。
それは、愛情が何か別のものになるきっかけとなったのかもしれない。
妹は私とは違う、私よりずっとずっと幸せになる必要がある。いや、ならなければいけない。その為には、私がずっと見守り、そして妹の障害になるものを排除し続けないとならない。
冴木さんの歪んだ愛情は、さらにエスカレートしていった。
その後も涼香さんの事を付けていき、行動を監視し続けていた。
妹の涼香さんもその事に気付き始める、何者かに後を付けられていると自覚し、そして会社に就職して一人暮らしを始めてからも続いたので、困り果てて上司に相談したのだった。
その相手が、今回一緒に旅行に来ている、浜松である。
最初は親身に相談に乗ってくれたのだが、若く綺麗な涼香さんに対して、次第に別の感情が芽生え始めた。若くして出世をして順風満帆な彼にとって、丁度いい火遊び相手として目をつけられてしまった。
浜松はストーカー被害に対して、専門業者がいると言い知人を紹介する。しかし、その業者と浜松はグルで、ロクに仕事もせずに法外な費用を請求してきた。
当然、払い切れるはずもなく、浜松は自分が肩代わりするという名目で金を払う。その事が原因で、毎週のように呼び出しをされ、体の関係を強要されてきたのだった。
その事を知った涼子は、この旅行中に接触をして浜松との縁を切るように言うつもりだったらしい。
「・・・その話が、嘘じゃないという証拠はありますか?」
「証拠、とは言い切れませんが。虐待されていた跡ならあります」
そう言い首筋の髪を書き上げた、そこには何個か火傷の跡がある。涼子さんの父親が付けたものなのかもしれない、生々しい傷跡を見られるのが嫌なのか、直ぐに隠してしまった。
「分かりました、信じましょう」
とても嘘とは思えない、私は自分の直感を信じた。
「なら・・・、なんで殺したんですか。妹さんの過ちを止めるために来た筈でしょう?」
「それは・・・・」
目を伏せる、また首を掻き毟るように触る。
「急に目の前に現れた、姉と名乗る人物の言葉なんて、信じてくれる筈がなかったんです・・・」
寒いですねー
ほんと
キーボードがおかしくなるレベルの寒さですわ