さわやか易

人生も歴史もドラマとして描いております。易の法則とともに考えると現代がかかえる難問題の解決法が見えてきます。(猶興)

(43)現代に活躍するユダヤ人(その3)ボブ・ディラン

2022-09-20 | ユダヤ人の旅

Bob Dylan - Azkena Rock Festival 2010 2.jpg

ボブ・ディラン(1941~)

 

ボブ・ディランの祖父母はロシアのオデッサ(現ウクライナ)とリトアニアからの移民である。ユダヤ人としてはアシュケナジムに属する。父と母は小規模だが絆の強いミネソタのアシュケナジム・ユダヤ人の一員だったという。ボブは1941年5月24日にミネソタ州ダルースに生まれている。1946年、弟デイヴィット誕生、翌年、一家は100キロ北の砂鉄の産地で知られる鉱業都市・ヒビングに転居する。(露天掘り鉄鉱床としては世界一で全米各地のUSスチール工場で鉄鋼に加工される。)

 

ボブは幼少期より家にあったピアノを独習し、ラジオから流れる音楽を聴いて育った。やがて、ギターを覚え、ピアノを弾いて、レコード店に入り浸った。ハイスクール時代はロカビリーの全盛期で、エルビス・プレスリーに憧れ、バンドを組んで、演奏活動を始める。18歳、奨学金を得て、ミネソタ大学に入学するが、半年後には出席しなくなる。ギターとともに音楽に生きることを決心した。

 

 

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ガスリー(1912~67)

ボブはレコードで聴いたウディ・ガスリーの音楽によって生涯を決定づける衝撃を受ける。ガスリーは、戦前に大ヒットした「わが祖国」が有名だったが、一貫した社会主義者で、行き過ぎた資本主義とファシズムに反対する闘志だった。スターになる前は放浪生活も一文無しも経験し、愛憎激しく3度の結婚をした。ガスリーのメロディーとメッセージには人を動かす力があった。晩年はうつ病、ハンチントン病に苦しみ精神病院で死んだ。子供の何人かは歌手になっている。ボブはガスリーの人生の最後の年に訪問して、「私の最後の英雄」と描写し、デビューアルバムには「ウディに捧げる歌」を入れている。

 

20歳の時、ボブはニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジでクラブやコーヒーハウスで弾き語りを始めた。やがてコロンビア・レコードのプロデューサーの目に留まり、レコードデビューする。ロンドンでも「新たなるヒーロー」と評判になる。反戦歌で名をはせたジョーン・バエズにも楽曲を提供し度々共演している。公民権運動が高まるとボブは「フォークの貴公子」として時代の代弁者の言われる。「風に吹かれて」「時代は変る」など数々のヒット曲は世界にとどろいた。ボブの楽曲は時代を動かすメッセージとメロディーがあり、他のアーティストたちによってもその世界は広がった。同世代のビートルズとは互いに交流し影響しあい、ジョージ・ハリスンとは生涯の友になった。

 

Steve Jobs Headshot 2010-CROP2.jpg

スティーブ・ジョブズ(1955~2011)

ボブの音楽には時代を越え、国境を越え、あらゆる分野を開拓するエネルギーがあった。テクノロジーで最先端を走り、IT革命を起こしたスティーブ・ジョブズはボブの音楽を聴いて育った。とくに「時代は変わる」はジョブスを時代の申し子にした。「アップル」を立ち上げ大成功した後に、ジョブスはその「アップル」を追われる。再起を図るジョブスは繰り返し繰り返し「時代は変わる」を聴いた。そしてついに社会の仕組みを変える「スマートフォン」の時代を切り開いた。CEOに返り咲いたジョブスは株主総会で、「時代は変わる」の歌詞を披露している。

 

ボブ・ディランの音楽にはメッセージとともに文学があった。レコードデビュー50周年を迎えた2012年には、「チェンジ!」を唱えて大統領になったバラク・オバマより「大統領自由憲章」が授与されている。オバマ大統領は「正直、本当に大ファンなんです。大学時代にボブの曲を聴いて、彼がこの国の極めて重要な何かを捉えていたので、私の世界が広がっていったのを覚えてますよ。」と語った。2016年10月には、「アメリカ音楽の伝統を継承しつつ、新たな詩的表現を生み出した功績」を評価され、歌手としては初めてのノーベル文学賞が授与された。

「風に吹かれて」

どれだけ砲弾を撃ち込めば、気が済むのだろう

どれだけの死人が出れば戦争を止めるんだろう

いつになったら平和になるんだろう

いつになったら人々は自由になれるんだろう

誰にもわからない、それは風だけが知っている

(猶興改訳)

 

~~さわやか易の見方~~

「風水渙」の卦。渙(かん)は散るである。ちょうど風が吹きわたり全てを散らしてゆく象である。水面を吹く風にのって船は進む。風が吹かなければ進むことはできない。大をなすものは時代の風をとらえることである。

 

音楽は時代とともにある。ボブ・ディランの音楽はまさに時代とともにあった。ベトナム戦争に人々が嫌気がさしている頃、自然と民衆の心とともにボブ・ディランの音楽があった。そして今、ウクライナ戦争の渦中にある。戦争はいつになったら終わるのか。「風に吹かれて」だけではあまりにも虚しい。人類は本当にいつになったら眼が覚めるのか。戦争なんてしている場合じゃないだろう。

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