醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより   1180号   白井一道

2019-09-08 11:02:37 | 随筆・小説



   政治災害に苦しむ国境の島・対馬


  年間40万人の韓国人客が激減、長崎・対馬の静かすぎる夏    藤中 潤 日経ビジネス記者



「売り上げは9割くらい下がったのかな。いつもだったら船を待つ韓国のお客さんが買い物に来てくれて、会計待ちが長くて諦める人もいるくらいなのに」。韓国・釜山への航路がある長崎県対馬市北部の比田勝港近く。アイスクリームや飲み物、土産品を販売し、イートインスペースを備えた商店を営む天瀬弘子さんは出航を待つフェリーに目をやり、そうつぶやいた。
日曜日の夕方ともなれば「出国手続きの行列がターミナルから道路にずっと続いていた」(天瀬さん)。8月最後の日曜日となった25日の夕方は、430人が乗れる高速旅客船の出航まであと1時間を切ったというのに、港に集まった旅行者は100人にも満たないようだった。
 福岡市から北に約100㎞の玄界灘に浮かぶ国境の島・対馬。古くから漁業などが盛んだが、2018年は41万2782人の外国人が訪れるなど観光の島でもある。外国人観光客の99%以上は福岡市よりも近い約50km北の韓国から訪れる。対馬市のまとめでは、韓国人観光客は2010年に6万人ほどだったが40万9882人にまで急増した。
 それとともに旅行客向けの商店も増加。天瀬さんの店も、もともとは電器店として使用していたが、旅行者の増加を目の当たりにして、3年ほど前に旅行客相手の商売を始めたばかりだという。ホテルなどの宿泊施設も増えており、人口約3万人の島に小規模の民宿などを合わせると100軒を超える宿泊施設がある。日本の他の地域と同様に過疎化が進む中、地価上昇の動きさえもあった。
 だが、この夏、日韓関係の悪化で状況は一変している。比田勝港では韓国と結ぶ旅客船の減便が相次ぎ、市南部の厳原港を発着する韓国便は全便運休になった。法務省の出入国管理統計によると、減便が始まった今年7月に比田勝港から入国した外国人は1万4891人で、昨年同期の2万3382人から5000人近く減少している。
 韓国人観光客の減少は島内各地に打撃を与えている。島の南部に位置し、市役所などもある市中心部の厳原地区。ホテルやショッピングセンター、免税店などが立ち並ぶこの地域では、ホテルや商店の出入り口はもちろん、郵便局や工事の看板にまであらゆるところにハングルの表記がある。ただ人波はまばらで、買い物帰りの地元住民の姿がほとんどだ。
「この通りは韓国の人たちがいつもいっぱいだったのに、今はさっぱり。ホテルもずっと満室続きだったけど、団体客のキャンセルが続いてガラガラ。大打撃ですよ」。ホテルに勤める50代の女性は説明する。ホテルの館内に人の気配はなく、「この状況が続けば経営は立ち行かない」と表情を曇らせる。
 状況は韓国資本の宿泊施設も同様のようだ。厳原地区の高台から海を臨むホテル。ここは対馬と韓国を結ぶ船便を手掛ける韓国の会社が経営する施設だ。韓国人の従業員は「7月以降、宿泊客が大きく減少している。今日に関しては韓国からのお客さんは1人もいない」と話す。
 島内の店舗では環境変化に対応する動きも見られる。
 「あそこは日本人が入ると注意されるんですよ」。近所の住民らがそう話していた韓国人観光客向けの免税店。記者が身分を明かさずに「日本人ですが大丈夫ですか」と入店すると、住民の言葉に反して店員は「どうぞゆっくりご覧になってください」と丁寧な対応で迎えてくれた。
 免税店内の商品にはハングルで書かれたタグが付けられている。店内にいる客は韓国人とみられる3人だけだった。免税店の対応を先の住民らに伝えると「信じられない」と驚いていた。
 住民らは口々に「韓国バブルは弾けた」と話す。また「今さら日本人を島に呼び込もうとしてもうまくはいかない」と指摘する人もいる。韓国頼みになっていた対馬の観光ビジネスを見直す時が来ているのかもしれない