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山本兼一さん『利休にたずねよ』

2009-01-16 20:08:26 | 読書
昨日発表された2009上半期の直木賞は


天童新太さん『悼む人』と山本兼一さん『利休にたずねよ』のダブル受賞。


天童さんの受賞はEXILEのレコード大賞受賞みたいな感じ?ですが


一方、歴史小説である『利休にたずねよ』の受賞は、

驚きであるとともに、歴史小説を読み続けている私としては

喜ばしい結果でもありました。



利休切腹の場面から徐々に時間を溯り

「たかが茶の湯」に命までもを賭した情熱の根源に迫る本作。



『利休の死』については、これまで多くの作品で取り上げられ、

さまざまな解釈が示された結果、


芸術家と権力者との対立という基本構造は、周知のものになったものの


反面、何を書いても新鮮さには欠けてしまう―という状況にあります。



本作では、そうした難しい題材に

利休が生涯愛用した香炉と、想い続けた女性を登場させることで

新たな息吹を吹き込むと同時に


(美術史の世界では確実視されている)

朝鮮半島に由来する、利休の美意識の本質に迫る意欲作です。



本作のように、実在の人物・できごとに架空の人物を交えて描く作品は

ややもすれば、描きすぎていたり、あざとくなってしまいますが

本作では、本筋に関係のないエピソードや描写を極力省いているため

そうした俗っぽさを感じさせません。



また、年を追う構成だと切腹という結末がわかるのに対し

時を溯らせることで緊張感を最後までキープ。

加えて、雑誌で連載されていたこともあり、

各章ごとに見せ場が作られていることも

読者を飽きさせない理由の一つでしょう


文体も歴史小説ならではの重厚感と、現代の読者に向けた読み易さを併せ持つもの


こうした諸要素を見ると、歴史小説として直木賞を受賞するにふさわしい作品と思いました。




本書を読むにあたっては、ある程度の予備知識は要するし、

歴史小説を読んでいるほど楽しめる作品だと思うので

どなたにでも―はオススメできませんが


『へうげもの』などを読んでいる方であれば

熱烈にオススメします。



なお、本作は

各17ページ程度の短編連作集の形式をとっているので

何が書かれているかを理解できるのであれば

途中から読み始めるのもありかと思います(←というかそっちをすすめたい)



個人的に特に好感を持ったのは、

黒楽・赤楽茶碗の作者・長次郎の視点から描かれる『白い手』、『木守り』、エピローグにあたる『夢のあとさき』

とくに『白い手』は、その清新な淫靡さにぞくぞく。

この章を念頭に、もう一度読み返すと

本書からは、侘びさびとはかけ離れたエロチシズムが漂います。




また、


「それは、私が決めることです。私の選んだ品に、伝説が生まれます」

ヴァリニャーノは、老人の言葉に、美の司祭者としての自身を聞き取った。


―というシーン(『鳥篭の水入れ』)も

それまでほとんど登場していなかった利休が、

一瞬ですべてを呑み込むような存在感を放つすごい場面、

ヤバイ―です