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税制メールマガジン 第63号

2009年06月12日 | 税制メルマガ
税制メールマガジン 第63号              2009/6/12

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◆ 目次

1 巻頭言
2 税制をめぐる最近の動き
3 主税局職員コラム ~ライフスタイルの多様化に応える税制~
4 主税局職員コラム 値うちある国~ロイド・ジョージに思う~
5 諸外国における税制について ~税制を通じて感じるドイツII~
6 編集後記 

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1 巻頭言
 
 我が国の税制改革の流れの中で、今日重要度が増してきた視点の一つとして税制と社会保障との関係があります。
 これは第一には、これまでも御紹介してきたように、高齢化が進む中で増大していく社会保障の財源確保の問題があります。昨年末に閣議決定された「持続可能な社会保障構築と安定財源確保に向けた中期プログラム」では、ほころびが指摘される社会保障の機能強化とともに、社会保障の財源確保に向けた税制抜本改革の方針(道筋・基本的方向性)が示されています。財源確保の主要な財源とされた消費税については、明確に区分経理して年金・医療・介護の社会保障給付と少子化対策だけに充当することにし、負担・還元の関係を明確にしたうえで税制抜本改革の中で検討を進めることとなっています。
 さらに、個別の制度設計を考える上でも、税制と社会保障のリンクという観点が強まっている面が見受けられます。法人税や所得税の負担については、社会保険料の負担とあわせ見て考える必要性が増していますし、また、格差の問題への対応という意味でも、所得再分配面で社会保障制度が果たす役割と税制が果たす役割をより調和させて、今日的問題に有効に応えていく必要性が増しています。
 このような問題意識から最近議論されている論点の一つに「給付付き税額控除」という考え方があります。給付付き税額控除とは、「給付と税額控除を適切に組み合わせて行なう仕組みその他これに準ずるもの」(21年度税制改正法附則104条)と定義されています。つまり、ある政策目的のために経済的支援を行なう際の仕組みとして、税額控除だけでは制度的に対応できない納税額の少ない方・非課税の方にも等しく一定額の支援を行なうようにするものであり、本質的には給付金です。諸外国では、米国、英国、ドイツ、フランスなどにおいて、主として低所得者を対象に、子育て支援や就労支援などを目的として実施されています。具体的にどのようにやるかというと、「給付付き税額控除」というその語感からは、納税額がある方には税額控除という形で負担軽減を行い、そうでない方には給付を行なうイメージが強いのですが、諸外国では、税額控除をまず行なって引ききれない方には残りの金額を給付(非課税世帯には全額給付)する場合もあれば、税金は税金で納税していただいて別に一定額の給付金を一律に給付しているケースもあります(納税者から見ればどちらも基本的に経済効果は同じです)。
 「給付付き税額控除」についてはやや言葉が先行している感もありますが、それ自体が何らかの政策目的を達成するわけではなく、あくまでも「仕組み」ですから、検討に当たっては、第一に何の目的でやるのかという点を詰めることが重要です。また「仕組み」として有効に機能すること、つまり税制という世界と社会福祉の世界を調和させて整合的に行なうことに意義があるので、同じ政策目的を持つ現行の社会保障制度(例えば児童手当や生活保護)との整理が重要ですし、また、税額控除と給付が並立するような場合には現実の執行をどのようにやるかという問題もあります。
こうした問題意識から、政府税制調査会では、給付付き税額控除の実務面の課題などについて諸外国の実態調査を行なうことになり、今週調査団が欧米に出発しています。今後、その調査結果なども踏まえつつ、来る税制抜本改革の中でこの仕組みについても目的に見合った公平で有効な制度設計ができるかどうか検討を行なっていく方針です。
 
                  主税局総務課企画官 宇波 弘貴

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2 税制をめぐる最近の動き
 
(1)下記のとおり、税制調査会が開催されました。
 
 【5月22日(金)】
  第2回スタディ・グループ
   ○有識者ヒアリング(給付付き税額控除制度について)

 【6月2日(火)】
  第3回スタディ・グループ
   ○有識者ヒアリング(マイクロシミュレーション等について)
 
 ・税制調査会の資料等は、下記URLにてご覧いただけます。
  http://www.cao.go.jp/zeicho/index.html

(2)バーミューダとの情報交換を主体とした租税条約の締結交渉を開始
 します。
 ・概要は、以下のURLにてご覧いただけます。
  http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/sy210612be.htm

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3 主税局職員コラム ~ライフスタイルの多様化に応える税制~

 かつて30代は「みそじ」という哀愁ただよう呼ばれ方をしていました
が、いまや「アラサー」に格上げされ、生き易い世の中になったなぁ、と
思っていたのも束の間、あっという間にアラフォーはもう目の前・・・と
いう個人的な焦りを感じつつ、主税局で所得税を担当しています。

 20年前ならば、私の年代の女性は、結婚して2人くらい子供がいて専
業主婦というのが典型的なパターンだったと思いますが、今の時代、私の
ように仕事中心の生活をしている人も決して珍しくありません。同年代の
女友達を見ると、独身で仕事をバリバリしている人、婚活に励んでいる人、
ディンクスを満喫している人、明るく楽しく子育てしているシングルマザー、
仕事をやめて3人の子供を育てている人もいます。中には、旦那さんが仕
事をやめて奥さんの海外赴任についていくというカップルもいます。まさ
に身近なところで「ライフスタイルの多様化」という言葉を実感させられ
ます。

 このように様々な生活環境にある女友達とおしゃべりのテーマは、10
年前は恋愛、美容、ファッション・・・でしたが、今では、婚活、子育て、
健康、間もなくやってくる親の介護問題、そして老後の生活(更にはお墓
の話まで・・・)と、ずいぶんと変わってきました。
 そんな友人たちとの会話の中で、当たり前ですが、その生活環境やライ
フスタイルによって関心事項が違ってきていることを痛感します。例えば、
老後に対する不安というのは個人差が大きい気がします。結婚して子供も
いる人は、やはり子供がいる(=面倒を見てもらえるかも)という安心感
があるせいか、自分の老後に対する不安は比較的少ないようですが、子供
が小さいうちに自分(や夫)に万が一のことがあったら、という不安は大
きいようです。他方で、独身の場合、歳をとって頼れるのはお金だけ、と
までは言いませんが、やはり老後に対する漠然とした不安を抱く傾向にあ
るようです(かくいう私も「おひとりさまの老後」という本をこっそり購
入しました・・・)。でも、昨今の健康ブームや女性特有の疾病に対する
関心が高まっていることもあり、健康に対する関心や不安はみな共通して
持っているようです。

 女性に限らず、こういった将来の不安に備えて、多くの方は何らかの保
険に入っているのではないでしょうか。ここで、(やっと)私の担当する
所得税の話が出てくるわけですが、所得税には、生命保険料控除という制
度があります。これは、生命保険や医療保険などの保険料を支払った場合
には最大5万円の所得控除、また、個人年金保険の保険料を支払った場合
には、別枠で最大5万円の所得控除を適用できるという制度です。

 私の友人たちの例をとるまでもなく、日本人のライフスタイルが多様化
しており、それに伴い保険ニーズ(どのような保険が必要か)も多様化し
ています。専業主婦をして子供が2人いて旦那さんが家計を支えるといっ
た家庭が必ずしも典型的な家族構成とは言えなくなってきていますし、長
寿化が進む中で、これまでの遺族保障への保険ニーズが薄れる一方で、医
療・介護といった分野における保険ニーズが強まっています。このような
社会経済の変化に対応する観点から、平成21年度税制改正では、生命保
険料控除を見直すこととなりました。具体的には、一般生命保険料控除と
個人年金保険料控除の限度額を4万円とするとともに、介護・医療保障に
係る保険料については新たに4万円の控除枠を設け、合計で12万円まで
の所得控除が可能となる仕組みです。新たな制度については、来年、税法
改正を行い、平成24年から適用されることが予定されています。

 税制関係の仕事をしていると聞くと、難しい顔をして法律を読んでいる
というイメージをもたれるかもしれません。でも、本当は、法律の中だけ
でなく、自分の将来を考えたり、友人とのたわいのない会話をしたりする
中にも税を考える上での多くのヒントがあると思っています。所得税は消
費税と同じように全ての人に身近な税の一つです。常に世の中の変化を敏
感に感じつつ、そして、一人の納税者としての感覚や女性としての視点も
大事にして税制を考えていきたいと思います。

                  主税局税制第一課 福田 あづさ

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4 主税局職員コラム 値うちある国~ロイド・ジョージに思う~

 最近、河上肇の「貧乏物語」(岩波文庫)の付録にある小文「ロイド・
ジョージ」を読んでいて、思い出したことがありました。

 以前、欧州に赴任していた時のことです。夏期休暇でイギリスのウェー
ルズ北部の田舎をレンタカーで走っていたところ、「ロイド・ジョージ博
物館(生家)」という看板が目にとまりました。英国の首相の一人と歴史
で習ったことを思い出したくらいでしたが、歴史上の人物の「お宅拝見」
が趣味となっている私としては、早速立ち寄ってみることとしました。
 黒い屋根で白い石造りの質素な家でしたが、解説をみると、彼は1歳で
父を失い、その後、赤貧洗うがごとしの状況のなかで、母の弟で村の靴屋
をしていた叔父に引き取られたようです。当時のロイド・ジョージの言に
よれば、「我々は、ほとんど新鮮な肉を食べたことがなかった。少年時代
の最大の贅沢は、日曜の朝に卵を半分ずつもらうこと」であったとか。今
から思い返せば、あの小さな家で、一家は大変な苦労をしていたのでしょ
う。
 その後、彼は、四十の手習いの叔父につきあってもらいながら苦学・独
学を重ね、1884年に21歳で弁護士試験に合格。しかし、学費で資金
は底をつき、法服を新調する費用にさえ当惑するほどだったとか・・。
 そして、時は流れて、1909年。第一次大戦を前に、彼は、当時の大
問題であった増税案(累進所得税の導入など)につき、時の蔵相として、
演説をします。少し長いですが、上記「ロイド・ジョージ」より引用しま
す。

 「さて、私は、諸君が私に非常なる特典を与えられ、忍耐して私の言う
ところに耳傾けられたことを感謝する。実は私の仕事は非常に困難な仕事
であった。其(そ)はどの大臣に振り当てられたにしても、誠に不愉快な
る仕事であったのである。しかしその中にただ一つだけ私は無上の満足を
感ずることがある。其はこれらの新たなる課税がなんのために企てられた
かということを考えてみるとわかる。けだし新たに徴収さるべき金は、ま
ず第一に、わが国の海岸を何人にも侵さしめざるようこれを保証すること
のために費やさるべきものである。それと同時にこれらの金はまた、この
国内における不当なる困窮をば、ただに救済するのみならず、さらにこれ
を予防せんがために徴収さるるものである。思うにわが国を守るがために
必要なる用意をば、常に怠りなくしておくということは、無論たいせつな
ことである。しかしながら、わが国をしていやが上にもよき国にしてすべ
ての人に向かってまたすべての人によって守護するだけの値うちある国た
らしむることは、確かに同じように緊要なことである。しかしてこのたび
の費用はこれら二つの目的に使うためのもので、ただ、その事のためにの
みこのたびの政府の計画は是認せらるるわけである。」

 「人あるいは余を非難して、平和の時代にかくのごとき重税を課するこ
とを要求した大蔵大臣はかつてその例がないと言う。しかしながら、これ
はこれ一の戦争予算である。貧乏というものに対して許しおくべからざる
戦を起こすに必要な資金を調達せんがための予算である。余はわれわれが
生きているうちに、わが社会が一大進歩を遂げて貧乏と不幸及び必ずこれ
に伴うて生ずるところの人間の堕落というものが、かつて森に住んでいた
狼のごとく全くこの国の人民から追い去られてしまうというがごとき、よ
ろこばしき時節を迎うるに至らんことを望みかつ信ぜざらんとするもあた
わざる者である。」

 この部分は、今の時代においてもさまざまな含意があるようにも思いま
す。
 ロイド・ジョージについては、ボーア戦争に反対し、第一次大戦を勝利
に導くとともに、健康保険制度を導入するなど「福祉国家」の基礎を築い
たという見方の一方で、人気取りで立場を変えるポピュリストといった批
判もあるようです。ただ、彼のつましい生家を思い浮かべ、また正面から
財源を掲げて議論する姿勢を見ると、社会保障については、ただの「人気
取り」だけでもなかったのではないか・・・とも思います。
 わが国でも、今後の社会保障のあり方が、いろいろな場で議論されはじ
めました。それは、国民負担のあり方とも大きく関係するものであり、国
民的な選択で決していくものです。経済効果や執行上の課題などに加えて、
この国の社会保障の理念のあり方(再分配の哲学、負担の構造、活力との
関係など)を十分吟味した上で、真摯な議論が期待されます。

                   主税局税制第三課長 藤城 眞

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5 諸外国における税制について ~税制を通じて感じるドイツII~

 6月に入り、新生活が始まって2ヶ月が過ぎました。新社会人の方々、
会社にはもう慣れましたか? 早いもので、私が新入省者としてドイツ税
制を担当するようになって一年が経ちますが、この一年間、私がドイツ税
制の調査を行ってきて感じたことを皆様にお伝えしたいと思います。

 皆様は「ドイツ」と聞いて、どのようなイメージを持たれますか? ビ
ールやウィンナーの国、バッハやベートーヴェンといった音楽家を生み出
した音楽の国、「赤ずきんちゃん」や「ヘンゼルとグレーテル」を始めと
したおとぎ話の国・・・様々なイメージがあると思います。私がドイツ税
制を調査していて、ドイツに対して抱いたイメージは「緻密で几帳面な国」
でした。私がそのように感じるきっかけとなったドイツの税制をいくつか
ご紹介しましょう。

その1:子女控除と児童手当
 日本における扶養控除に類するものとして、ドイツには子女控除があり
ます。これは、原則18歳未満の子供一人につき、年間6,024ユーロ
(約91.0万円)の所得控除が適用される、というものです。一方、同
様に原則18歳未満の子供に対して、第一子の場合、年間1,968ユー
ロ(約29.7万円)の補助金が支給されるという制度もあります。それ
が児童手当です。ドイツでは、子供を扶養することに対して、上記のよう
な配慮が講じられていますが、各納税者にはその二つのうち、どちらか一
方の制度のみが適用されることになっています。児童手当と子女控除の二
重取りということはありません。確定申告の際、税務署が各納税者にとっ
てどちらが有利になるかを判定し、有利な方が適用されるのです。いかに
もドイツらしい、緻密な制度設計だと思います。

その2:違憲判決と税制
 ドイツの税制を調査していると、たびたび目にする言葉があります。そ
れはドイツにおける憲法問題の最高裁を意味する「連邦憲法裁判所」とい
う言葉です。ドイツでは、税制上の措置が憲法に違反するのではないかと
裁判が行われ、連邦憲法裁判所の判決を受けて制度が変更されることがあ
ります。例えば、通勤費控除の適用は、2007年1月より、片道21km
を超える通勤の場合に限定されていましたが、昨年末、連邦憲法裁判所よ
り、憲法上の規定である「法の下の平等」に反するという理由から違憲判
決が下されました。その判決を受け、通勤費控除に関しては、通勤距離の
制限がなかった2006年までの制度が復活することになりました。この
ように税制に関する裁判例からも、ドイツ国民の税制に対する関心の大き
さをうかがい知ることができるような気がします。

 上記以外にも、税制改正の流れや所得税額の計算方法などからも、ドイ
ツの国民性を感じ取ることができます。過去のメルマガにて紹介されてい
ますので、ご興味をもたれた方は是非確認してみてください。

 さて、来月以降、新入省者のK君がドイツ税制調査を担当する予定です。
私も新たな担当国を持つことになるかもしれませんが、そこでは一体どの
ような発見ができるのか、今から楽しみです。また新たな発見を皆様にお
伝えできるよう、そして何より日本の税制の発展に資することができるよ
う、日々調査を行っていきたいと思います。

(参考)
主要国における基礎控除、配偶者控除及び扶養控除等の概要(未定稿)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/051.htm

税制メールマガジン第40号
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/merumaga/merumaga190531.htm#e

税制メールマガジン第20号
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/merumaga/merumaga170930.htm#d

                     主税局調査課 林 ひとみ

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6 編集後記

 梅雨の季節となりました。雨降りの日々が多くなってきますが、是非、
お体にはお気をつけください。
 さて、先日、2008年合計特殊出生率の発表がありました。1.37
となり、3年連続で上昇とのことです。少子高齢化が進む中、こうしたニ
ュースは嬉しいものです。これまでの好景気を受けたものとのことで、当
面厳しい経済情勢が続く中、なかなかこれ以上の増加は難しいのかもしれ
ませんが、やはり子どもを産み育てるということは次世代を育んでいくう
えでもっとも大事にしたい分野です。かくいう私も家に妊婦を抱える身で
すが、新しい家族を迎えるにあたり、ずいぶん支出が増えていることを実
感しています。妊婦検診の無料化など、出産支援も拡充しているなと感じ
ますが、出産・子育て世帯の消費性向の大きさに着目した新しいビジネス
モデルが生まれて、経済が循環し、消費の起爆剤になるようになると良い
なと感じる今日この頃です。
 来月は7月上旬発行予定です。お楽しみに。

                             (和田)

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政府税制調査会では、今後の審議の参考にさせていただくため、広く国民
の皆様から、ご意見を募集しております。

http://www.cao.go.jp/zeicho/iken/iken.html

当メールマガジンについてのご意見、ご感想はこちらへお願いします。

mailto:mg_tax@mof.go.jp

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http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/merumaga/merumagaback.htm

(注)当メールマガジン中、意見にわたる部分は執筆者の個人的見解であ
   り、政府・財務省の見解を表すものではありません。

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