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税制メールマガジン 第11号

2004年12月24日 | 税制メルマガ
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税制メールマガジン 第11号           2004/12/24
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◆  目次
  1 巻頭言 「量入制出」か「量出制入」か
         ~「財政の論理」のわかりにくさ
  2 税制をめぐる最近の動き
  3 特集 ~平成17年度税制改正案の概要~
  4 編集後記
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1 巻頭言 「量入制出」(入るを量(はか)りて出づるを制す)か「量
出制入」(出づるを量りて入るを制す)か~「財政の論理」
のわかりにくさ

12月は予算の季節。財政について1年で最も世間の関心が高まる時期
であり、広報を担当していますと、財務省担当の記者さんも、財政をどう
わかりやすく市井に報道しようかと苦心され、本当に「書入れ時」でお忙
しくされているのがよくわかります。

 古来、健全財政のこころがまえとして、「入るを量りて出ずるを為(制)
す」と言われます。これは、儒学の聖典である四書五経のうちの「礼記」
の、中国古代の理想とされた政治制度のあらましが記録された「王制」篇
が出典で、竹内照夫先生の全訳によると、以下のとおりです(竹内照夫著
「新釈漢文体系27 礼記 上」)。

「家宰(一国の宰相)が国の費用について計画を定めるのは、必ず年末
に、五穀の収穫を終えてからにする。-まずその国の大小、毎年の収穫を
考え、三十年間の平均収入に基づいて、費用を定める。これが、収入をよ
く見定めてから支出を行なう、というものである。」と(傍線は渡部が付
す)。年末に予算を作るという考えは古来からあるということは非常に興
味深いですし、この考え方も、個別のムダをギリギリ排することからして、
予算編成の現場の実態には即しているように感じます。

しかし、定評ある最新の財政学教科書をみると、財政学の伝統的な考え
方を踏まえ、市場経済との対比から、この点については、以下のように説
明されています(神野直彦著「財政学」7~8ページ)。

「市場経済では、企業であれば企業の売上げ、家計であれば賃金収入、
というように、収入がまず決まり、その収入にもとづいて支出を決める。
というのも、企業の売上げは生産物市場、賃金収入は労働市場というよう
に、市場が収入を決めてしまうからである。そのため市場経済は、「量入
制出の原則」で運営されている。

ところが、財政では収入が市場によって決められるわけではない。財政
は市場メカニズムによってではなく、政治過程で決定されるからである。

そのため必要な支出を決めてから、それを賄う収入を決めることになる。
政治過程で収入を決めるには、必要な支出が決まらない限り、収入の決め
ようがないからである。したがって、財政は「量出制入の原則」で運営さ
れることになる。」と。

実際、毎年夏に、翌年度予算の概算要求にあたっての基本方針が閣議了
解され、まず、大枠での「出づるを量る」ことが行なわれています。

なお、「平成17年度の税制改正に関する答申」(11月25日)では、
「急速に少子・高齢化が進展する中で、経済社会の活力を維持する観点か
ら、例えば税・社会保障負担に財政赤字分を加えた潜在的国民負担率(対
国民所得比)で見て、その目途を50%程度としつつ、政府の規模の上昇
を抑制することが求められている」と指摘しています。国民の負担水準の
観点から、全体としての歳出を抑制し、歳入との均衡を図るという、大き
な意味での「均衡財政」ということには、十分意を用いる必要があると考
えます。上述の礼記の記述で、「国の大小や毎年の収穫」を現代的な視点
で「国民所得」と読めば、マクロ経済政策的な意味合いでは「量入制出」
にも意義があるといえるのではないでしょうか。

税制について意見交換させていただくと感じるのですが、上記のように、
理論的にいうと、「家計・企業の論理」と「財政の論理」は逆になってい
るので、市民感覚からは、さらに「財政はわかりにくい」ことにつながっ
ているのではないかと懸念しております。「政府の規模」や「受益と負担
の関係」などについて、広く議論の共通基盤ができるように、広報の面で
もさらに努力しなければと思う次第です。いろいろな報道も手がかりにし
ていただいて、政府の来年度予算案・税制改正案の内容についても是非関
心をもってみていただけたら幸いです。

少し早いですが、それでは良いお年を!

主税局広報担当企画官 渡部晶
(参考文献)
・平成17年度税制改正に関する答申
http://www.mof.go.jp/singikai/zeicho/tosin/161125a.htm
・平成17年度予算についての情報
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h17/h17top.htm
・竹内照夫著「新釈漢文体系27 礼記 上」(明治書院 1971年)
・神野直彦著「財政学」(有斐閣 2002年)
・吉田和男著「入門 現代日本財政論」(有斐閣 1991年)
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2 税制をめぐる最近の動き

 12月15日に与党(自由民主党・公明党)が「平成17年度税制改正
大綱」をとりまとめ、財務省においても、19日に平成17年度税制改正
の大綱をとりまとめました(詳しくは、「3 特集~平成17年度税制改
正案の概要~」をご覧ください)。この案については、今後、閣議決定を
経て、来年の通常国会において審議が行われることになります。
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3 特集 ~平成17年度税制改正案の概要~

 平成17年度税制改正案(主に国税関係)の主な内容は以下のとおりで
す。

○個人所得課税
 ・定率減税の2分の1への縮減
  (所得税)  控除率 20%→10%
         控除限度額 25万円→12.5万円
       ※平成18年1月から実施
  (個人住民税)控除率 15%→7.5%
         控除限度額 4万円→2万円
       ※平成18年6月徴収分から実施

○住宅税制
 ・住宅ローン減税等の特例措置の対象として、地震に対する安全基準に
  適合する一定の中古住宅を加える。

○金融・証券税制
 ・いわゆるタンス株について、平成17年4月以降も、実際の取得価額
  で特定口座に受け入れることができるようにする(みなし取得価額で
  の受入れは平成16年末をもって終了)。
 ・特定口座で管理されていた株式について、発行会社の清算結了等によ
  り無価値化損失が生じた場合には、これを株式等の譲渡損失とみなす
  措置を講じる。

○国際課税
 ・不動産取引に対する課税との均衡を図るため、非居住者等の不動産化
  体株式の譲渡益に課税する制度を導入するなど、国際課税の適正化の
  ための改正を行う。

○中小企業関係税制
 ・ベンチャー企業(特定中小会社)が発行した株式に係る譲渡益を2分
  の1に軽減する特例(いわゆるエンジェル税制)の適用期限を2年延
  長する。

○地方分権の推進
 ・三位一体改革の一環として、平成18年度税制改正において、所得税
  から個人住民税への本格的な税源移譲を実施する。平成17年度にお
  いては、暫定的措置として、所得譲与税により1兆1,159億円の
  税源移譲を行う。

○その他
 〔特定非営利活動法人(いわゆるNPO法人)等への支援〕
 ・認定NPO法人の認定要件の緩和等を行う。
 ・所得税の寄附金控除の限度額を引き上げる(総所得の25%→30%)。
 
 〔企業再生関係税制〕
 ・民事再生法等の法的整理及び一定の私的整理が行われる場合に、債務
  者である法人について、資産の評価損益を計上する措置と期限切れ欠
  損金を優先控除する措置を一体的に講じる。
 
 〔教育訓練費についての税額控除〕
 ・教育訓練費の増加額の25%を法人税額から控除する制度を創設する
  (中小企業については、さらに優遇)。
 
 〔社会保険料控除〕
 ・確定申告又は年末調整の際に、国民年金保険料の納付証明書の添付等
  を義務付ける。

 なお、与党の「平成17年度税制改正大綱」においては、次のような今
後の税制改革の道筋が示されています。主税局としても、広く国民のみな
さまの声を聞きながら、今後の税制のあり方について議論を深めていきた
いと思っています。
 ・平成18年度において、わが国経済社会の動向を踏まえつつ、いわゆ
  る三位一体改革の一環として、所得税から個人住民税への制度的な税
  源移譲を実現し、あわせて国・地方を通ずる個人所得課税のあり方の
  見直しを行う。
 ・平成19年度を目途に、長寿・少子化社会における年金、医療、介護
  等の社会保障給付や少子化対策に要する費用の見通し等を踏まえつつ、
  その費用をあらゆる世代が広く公平に分かち合う観点から、消費税を
  含む税体系の抜本的改革を実現する。

(参考)
・「平成17年度税制改正の大綱」(平成16年12月19日 財務省)(概要)
http://www.mof.go.jp/genan17/zei002.pdf
・「平成17年度税制改正の大綱」(平成16年12月19日 財務省)(全文)
http://www.mof.go.jp/genan17/zei001.pdf
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4 編集後記

 「平成17年度税制改正の大綱」がとりまとめられ、主税局としては一
応一段落したという感じですが、今後は、次期通常国会で審議をお願いす
るための税制改正法案の策定作業が本格化していきます。来年も様々な情
報をお届けしていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたしま
す。次回発行は1月下旬の予定です。(あられ)
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ご意見募集のコーナー

 税制調査会では、「少子・高齢化社会における税制のあり方」につきご
意見募集中です。
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答申に盛り込まれていない主な意見

2004年12月17日 | 税制メルマガ
答申に盛り込まれていない主な意見


「平成17年度の税制改正に関する答申」に至る審議過程において、以下のような主な意見が出た。

   
基本的考え方



経済及び財政の現状)


 1990年代以降の国債の高水準での発行にもかかわらず、長期金利が低下を続けてきたのは、金融の量的緩和による資金供給の増加を、国債が吸収する形となっていたことによるもの。国債の大量発行の背景には、バブル崩壊による資産価格の下落によって企業に債務が過剰に発生し、それが不良債権として、最終的に政府部門に付け替えられていくという調整プロセスがあったと考えられる。


 今後、金融の量的緩和政策の出口も問題になってくる中で、これまでのような大量の資金供給や低金利がいつまでも続くことは、期待できない。


 不良資産の処理が最終段階に入り、民間経済活動にも回復が見えてきている。民間部門の債務を肩代わりする形で、いわば「身代わり地蔵」として累増してきた国債の償還については、生産性の改善等により民間部門の収益力をあげ処理原資を確保することとあわせて、国民の負担により対応していくことも必要。


 高齢化に伴う家計貯蓄率の低下や金利上昇という展望を踏まえると、国債管理が課題。徹底した歳出削減や増税、海外からの投資を呼び込むことも考える必要。


 巨額の国債残高は、金利の上昇により歳出増につながる恐れがある。国債残高の水準については、絶対額を減らすのはなかなか難しいので、GDP比でどの程度の水準を目指すのかということになるのではないか。


 郵政事業の改革が議論されているが、この改革は財政改革と密接に関連している。市場に混乱を招かずに郵政改革を進めていくためにも、財政規律に対する信認を確保することが一段と必要になってくる。


歳出・歳入両面からの財政構造改革)


 増税を行うことは、景気が安定的な回復局面に入ったという認識を政府としてマーケットに示すことになるため、財政・金融両面の政策に関係することに留意すべき。


 歳入・歳出両面の取組みについては、税制改革、社会保障制度改革、三位一体改革等の政策全体を総合的に捉えて、複数の選択肢を示しながら、景気への影響などについて議論していくことが必要。


 これまでの公共事業縮減と同様に、今後増税を行っても、景気を抑制する効果はそれほど大きくないのではないか。


 現時点での増税は、巨額の財政赤字による将来の増税を見込んでいる家計にとっては、将来の増税要因の減少に過ぎず、消費の減少には必ずしもつながらない。90年代に比して、現在の経済状況は回復してきており、景気への影響を考慮するあまり、必要な税制上の対応を怠るのは不適当。


 景気の先行きに対する懸念のために必要な増税の議論を進めないことは適当ではなく、議論は進めておき、実施する際に景気に対する影響を改めて判断することが重要。


 財政健全化が持続的な経済成長につながるということには、必ずしもならないのではないか。


 財政健全化を進める際には、税負担水準の引上げを検討する前に、不要な公共投資など無駄な歳出の見直しを行うべき。


地方交付税)


 地方の行う仕事に対する国の義務付けが残る以上、財源不足は国が補填すべきであって、地方交付税の財源保障機能は必要。


 地方交付税の財源保障機能については、縮小だけでなく廃止も含めるべきではないか。


 財源保障機能の縮小だけをめぐり地方交付税の改革を行おうとしているのではない。財源保障機能の縮小に言及する必要はない。


 地方交付税について実質的な審議をしていないにもかかわらず、財源保障機能の縮小に言及すべきではない。


 地方交付税の財源保障機能の縮小に触れるのであれば、国の関与の廃止・縮減や税源移譲に伴い、結果的に機能が縮小するという点に留意しなければ、財源保障機能について誤解が生じるのではないか。


 補助金改革、税源移譲をすれば、国の関与が縮小し、また地方間の財源格差が拡大することから、財源保障機能が縮小し、財政調整機能が大きくなる。


 地方交付税の本来の役割は財政調整機能であり、不足する部分は自己責任により住民が負担すべき。


 今後、財政再建を進めていく中で、地方交付税の削減は不可欠ではないか。
リ 本来、地方交付税法第6条の3第2項に基づき地方交付税率を上げるべきところ、国の税収不足で実現できない状況にあり、所要の地方交付税額は確保すべき。


社会保障と財政)


 国庫負担は「負担」ではなく保険料負担を下げる「収入」だという考え方が根底にあり、国庫負担割合の増加とともに負担感がなくなり、過大な給付がなされるようになっている。この結果、社会保障財政は悪化しており、人々が真に求めている保障の提供も困難になっている。


 「国が負担する」という感覚的な表現が用いられることが多いが、国は負担の再配分をしているだけであり、最終的には、国民が負担することになるという点を認識すべき。


 国がなすべきことは、保険料を払えない人に対して、代理で負担するということだが、「社会保険」の枠外で手当てすべきであって、最初から給付の一定額を国が負担するということではない。


 経済の低成長、少子化という構造変化により、現在の社会保障制度の前提が崩れてきている。持続可能性の観点から、国が最低限保障する部分以外は全て自己負担にすべき。


 国庫負担は税で賄われるという意味で負担に変わりはないが、社会保険料のみを負担ととらえることが、安易に国庫負担を増やせという議論につながっている。


 国庫負担のみならず、地方負担も含めた公費負担ベースで議論すべきではないか。


税・社会保障負担のあり方)


 今後、公的部門とそれを支える負担のあり方について議論をする際には、政府に対する国民の信頼と社会連帯の意識が重要。


 今後の社会保障や税制のあり方を考える上では、受益と負担の対応関係を明確にする必要。受益が目に見える形であれば、対応する負担についても、国民は納得するのではないか。


 社会保障制度の見直しを進める際には、誰がどの程度の負担をすることになるのか示しながら、国民が広く負担する必要性を訴えていくべき。


 税・社会保障負担のあり方を見直す際には、社会保障負担よりも税負担をより重視すべきではないか。


 土光臨調以来22年間が経過したが、依然として国民負担率は35%程度にとどまっている。これまでの税制改革に際しては、所得税等の減税によりネット増税は行われておらず、また、近年、財政規律に目をつむって大幅な減税を行ってきた。今後は、財政規律の回復という観点も踏まえ、税負担水準の引上げに取り組むべき。
 

税制メールマガジン 第10号

2004年12月01日 | 税制メルマガ
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税制メールマガジン 第10号           2004/12/1

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◆  目次

  1 巻頭言 ~ノーベル賞受賞式を前に~

  2 税制をめぐる最近の動き

  3 課長のひとりごと ~「実像把握」レポートから(その2)~

  4 特集 ~税制調査会「平成17年度の税制改正に関する答申」~

  5 若手はこう見る ~社会保障制度を支える社会保険料と税~

  6 編集後記

=================================



1 巻頭言 ~ノーベル賞授賞式を前に~ 



 11月25日に税制調査会は「平成17年度の税制改正に関する答申」をとり

まとめ、石会長が小泉総理大臣に提出しました。これから年末にかけて歳

入も含め予算編成が本格化していくことになります。



 ところで、例年予算編成もまっさかりとなる、12月10日、この日はノー

ベルの命日で、ノーベル賞授賞式・晩餐会がはれやかに行なわれます。ノ

ーベル賞、今年は、日本の受賞者がでなかったのは残念でしたね。



 経済関連の、ノーベル経済学賞受賞者は、10月11日に公表されています。

90年代に先進国の経済政策で主流となった、財政政策や金融政策で、健全

なルールないし目標を設定し、その枠組みの中で政策を運営していくとい

う「目的・ルール設定型マクロ経済政策」の普及などに大きな理論的貢献

のあったキドランド・米国カーネギーメロン大学教授とプレスコット・ア

リゾナ州立大学教授に授与されるとのことです。



 この今年のノーベル経済学賞受賞者のご研究とも関連しますが、昨年末

に出版された『マクロ経済政策の「技術」』(林伴子著)は、著者(現在

内閣府経済社会総合研究所主任研究官)の経済開発協力機構(OECD)

経済動向審査委員会でのご活躍を踏まえた好著として、また、よく新聞な

どでも話題になるインフレターゲッティングや財政再建の「技術」につい

て諸外国の実例を手際よく紹介されていて、その実務者的な筆致が魅力的

なこともあり、われわれのような仕事をしている者の間で広く読まれてい

ると思います。「技術」は、努力によって身につけることも可能であると

いうことで、将来にも希望が持てそうです。



 最近、仕事柄、日本の財政問題についてエコノミストの方々などと意見

交換したりする必要もあって、この本を読み返していますが、「財政再建

開始のタイミング」という章で、以下のような記述にぶつかりました。日

本の財政再建のタイミングに関する指摘です。



 『財政再建のタイミングはいつか。それは、カナダなどの例でもみたよ

うに景気が底を打ったらすぐである。ただ、最近の日本の景気は輸出に左

右されやすく、米国経済のリスクなど下ぶれリスク要因に注意しなければ

ならず、景気の潮目を読むのは必ずしも容易ではない。』(同書169ペー

ジ)とされ、結局、『・・現在、景気判断は非常に難しい局面にある。た

だ、財政再建に向けて必要な準備の期間を考えると、少なくとも今から具

体的な準備を始めるべきである。景気が底を打ったのを確認してから準備

する「バックワード・ルッキングな政策運営」では遅い。ましてや、例え

ば「物価上昇率がプラスになるまで財政再建を待つ」といった余裕が今の

日本の財政にあるとは恩われない。「危機的状況」に追い込まれて財政再

建するよりも、手堅い経済見通しときっちりしたリスク要因判断に基づく

「フォワード・ルッキングな財政政策運営」を強く期待したい。』(同書

170ページ)と昨年末に指摘されていたのです。

 

 税制調査会での議論を振り返ると、日本の財政が持つマクロ経済へのリ

スクの側面の議論がかなり時間をさいて行われたと思います。10月1日の

税制調査会基礎問題小委員会では、『国債暴落』などの著作でも著名なみ

ずほ証券投資戦略部チーフストラテジストの高田創氏がプレゼンテーショ

ンをされ、日本において、国債を含めての財政問題について、いまのとこ

ろ、資金的には国内で完結し、「外圧」などが存在しないということを踏

まえ、「日本人というものがある面ではガバナンスが問われている」とい

うお話がありました。



 私にとっては、今年の税制調査会の議論の中で最も強く印象が残った場

面の1つでしたが、前述の林氏の指摘とあわせ、今回の税制調査会答申は、

日本の財政について、時期的にもいろいろ考えてみるよい契機となるので

はないでしょうか。今後、マクロ経済政策の「技術」が浸透し、「日本人

のガバナンス」による経済政策運営が世界的に高く評価され、その結果と

して、ノーベル経済学賞受賞者が日本から出たというようになれば、本当

にいいですね。



                 主税局広報担当企画官  渡部 晶



・ノーベル賞について(国立科学博物館「ノーベル賞100周年記念展」

(2002年3月から6月)より)

http://www.kahaku.go.jp/special/past/nobel/index.html



・ノーベル財団(英語のHP)

http://nobelprize.org/



・日本経済新聞10月19日付朝刊29面「経済教室」(河合正弘東大教授

「2004年ノーベル経済学賞」)



・『マクロ経済政策の「技術」』(林伴子著 日本評論社 2003年12月)



・税制調査会第20回基礎問題小委員会(平成16年10月1日)議事録・資料

http://www.mof.go.jp/singikai/zeicho/top_zei3.htm

(「基礎問題小委員会」をクリックして下さい。)



・『国債暴落』(高田創・住友謙一著 中公新書クラレ 中央公論新社

 2001年11月)



・カナダの財政再建「カナダの財政再建について」(刀禰俊哉)

(財務省広報誌「ファイナンス」平成16年5月号)

http://www.mof.go.jp/finance/f1605.htmから、ご覧下さい。

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2 税制をめぐる最近の動き



 政府税制調査会の11月の審議状況をお伝えします。



 11月の税制調査会は、個人所得課税(国・地方)の課題、企業年金課税、

組合事業における課税関係及び環境税などについて議論がなされ、その後

「平成17年度の税制改正に関する答申」(平成16年11月25日)のとりまと

めに向け、審議がなされました。



 ※ なお、これまでの審議の概要は下記URLにてご覧いただけます。

http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/sy012.htm

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3 課長のひとりごと ~「実像把握」レポートから(その2)~



 今回は経済と国民負担についてご紹介します。政府(国と地方公共団体)

は、皆さんに納めていただく税と社会保険料を財源として、公共サービス

を提供しています。それぞれが国民所得に占める割合を租税負担率、社会

保障負担率といい、合わせて国民負担率といっています。日本経済を家計

にたとえれば、家計の収入のうちどれくらいを政府が行う公共サービスの

ために負担しているかという数字です。



 「実像把握」レポートでは、戦後の日本の経済社会を大きく3つの時代

に分けてとらえています。終戦から1970年代半ばまでが第一期で高度成長

の時代、1970年代半ばから1990年までが第二期で安定成長の時代、1990年

以降が第三期でバブル崩壊以降の低成長の時代です。社会保障負担率は、

社会保障の充実と近年の高齢化の進展で、戦後、一貫して少しずつ上昇し

てきていますが、租税負担率は時代とともに変化しています。



 第一期は、高度経済成長に伴う自然増収を減税で相殺したため、18~19

%程度でほぼ安定していました。石油ショックを経て第二期に入ると、福

祉国家への転換や景気対策などもあって財政需要が拡大し、自然増収を取

り込んでいったため、租税負担率は上昇し、1990年頃には28%程度と第一

期よりも10%程度高まりました。その後、第三期に入ると、株・土地など

バブル的要因による税収の落ち込み、景気の低迷、累次の減税により、租

税負担率は低下傾向をたどり、2004年度には約21%となっています。



 そこで、これに社会保障負担率を加えた国民負担率は、第一期に微増、

第二期に上昇して約38%まで達しましたが、第三期は微減で、現在約36%

という動きです。1982年、臨時行政調査会(いわゆる土光臨調)は、将来、

国民負担率が50%よりかなり低位にとどめることが必要と提言しましたが、

当時から20年経った現在もまだ36%ですから、余裕しゃくしゃくのように

も見えます。



 ところが、実は、日本は財政赤字が大きいのです。これは将来、税で賄

わなければならないので、潜在的な国民負担だと考えられます。そこで、

これを加えた「財政赤字を含む国民負担率」をみると、約45%と50%に近

づいているのです。



 国家のあり方として、アメリカは「低福祉・低負担」、イギリス、ドイ

ツ、フランスは「中福祉・中負担」、スウェーデン等の北欧諸国は「高福

祉・高負担」といわれますが、この並びで考えれば、日本は「中福祉・低

負担」で、「中」と「低」の差が財政赤字ということになります。財政赤

字が拡大していけば潜在的「負担(ふたん)」が顕在化して「破綻(はた

ん)」になってしまいます。経済・社会への影響をにらみながら、一歩ず

つ着実に財政赤字を減らしていくことが求められていると思います。



                   主税局調査課長  羽深 成樹

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4 特集 ~税制調査会「平成17年度の税制改正に関する答申」~



 税制調査会では、昨年10月の小泉総理大臣の諮問を受け、本年9月から、

平成17年度税制改正について中期的な課題も視野に入れながら審議をして

きました。その審議の結果が、11月25日の総会において「平成17年度の税

制改正に関する答申」としてとりまとめられ、小泉総理大臣に提出されま

したので、その概要をご紹介します。



 今回の答申は、向こう数年間にわたり取り組むべき税制改革を展望しつ

つ、平成17年度税制改正にあたっての指針を示したものであり、これを受

けて、現在、政府・与党で具体的な議論が始まっています。今月中旬には

平成17年度税制改正についての案が固まり、来年の通常国会において審議

がなされることになります。



(1)基本的考え方

○経済及び財政の現状

 近年、さまざまな構造改革の推進により、民間経済の体質強化が実現さ

れつつある。原油価格の動向等に留意する必要はあるが、国内民間需要が

着実に増加していることから、今後とも景気回復が続くと期待される。

 他方で、わが国の財政は、長期債務残高が増大し、先進国中最悪の危機

的状況にある。このような財政状況を放置すれば、財政の持続可能性に対

する信認低下を背景とした金利上昇によって、経済全体の健全な発展が阻

害されることとなりかねない。



○持続可能な公的部門の構築に向けて

 ①聖域なき歳出削減とともに、広く公平に負担を分かち合い、安定的な

歳入構造を確立するなど「歳出・歳入両面からの財政構造改革」、②地方

行財政の効率化とともに、補助金改革、交付税改革、税源移譲を含む税源

配分の見直しからなる「国・地方の三位一体改革」、③受益と負担のバラ

ンスを図る観点から、給付面の抜本的見直しとあわせ、現在世代の負担水

準の引上げを図るなど「税・社会保障負担のあり方の改革」を進め、21世

紀にわたり持続可能な公的部門を構築していくことが重要。



○今後の税制改革

 歳出改革や民需主導の持続的な経済成長を実現していくこととあわせ、

必要な公的サービスの費用を広く公平に分かち合うため、所得・消費・資

産等の多様な課税ベースに適切な負担を求めつつ、全体としての税負担水

準の引上げが必要。個人所得課税の本来の機能(財源調達機能と所得再分

配機能)の回復と、消費税率の引上げが今後の税体系構築の基本となる。



(2)個別税目の課題

○個人所得課税

 ・税源移譲

 三位一体改革の一環として、平成18年度までに、所得税から個人住民税

への本格的な税源移譲を行うこととされている。応益性などが求められる

個人住民税については所得割の税率のフラット化を行うことを基本に、所

得税については税率構造・控除双方の見直しを視野に、具体的な移譲の方

法について今後検討を重ねていく必要がある。



 ・定率減税

 現在の経済状況は、定率減税が導入された平成11年当時と比べ、著しく

好転してきており、引き続き各般の構造改革が実を結んでいけば、民需主

導の経済成長が持続することが期待される。また、税源移譲とあわせて、

国・地方を通じた個人所得課税の抜本的見直しを平成18年度までに行う必

要がある。

 したがって、定率減税は平成18年度までに廃止すべきである。その際、

経済への影響を考慮すると、平成18年度税制改正において一度に廃止する

よりも、段階的に取り組むことが適当であり、平成17年度税制改正におい

ても縮減を図る必要がある。



○消費税

 今後の税体系構築にあたっては、国民の理解を得る努力を払いつつ、消

費税の税率を引き上げていくことが必要である。

 消費税率の水準が欧州諸国並みである二桁税率になった場合には、軽減

税率の採用の是非が検討課題となる。しかし、制度の簡素化等の観点から

は極力単一税率が望ましい。

 税率を引き上げる際には、社会保障の給付水準との関係を明確に説明す

ることが必要である。



○環境税

 環境税導入の是非については、国・地方の温暖化対策全体の中での具体

的な位置付けを踏まえて検討する必要がある。今後、温暖化対策全体の議

論の進展を踏まえ、国民経済や産業の国際競争力に与える影響をはじめと

する多くの論点をできる限り早急に検討しなければならない。



 ※ 以上の概要は、税制調査会「平成17年度の税制改正に関する答申」

の主なポイントをまとめたものです。このほか、金融所得課税の一体化、

相続税、法人課税、国際課税、酒税、企業年金等に関する税制などについ

ても提言がなされています。詳しくは、答申本文をご覧下さい。

http://www.mof.go.jp/singikai/zeicho/tosin/161125a.htm

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5 若手はこう見る ~社会保障制度を支える社会保険料と税~



 年金、医療、介護、生活保護など社会保障制度は私たちが安心して暮ら

していくための大切な基盤であり、私たちは社会保険料と税の負担を通じ

てこの制度を支えています。



 ところで、「社会保険料」と「税」にはどのような違いがあるでしょう

か。どちらも負担をするという点において同じようなものだと答える友人

がいました。本論とは離れた回答ですが、ある意味重要なポイントを指摘

しています。社会保障制度の負担を議論する際には、税・保険料ともに国

民の負担であるという大前提を忘れてはいけないからです。



 この点に関して、10月の税制調査会での田近教授(一橋大)のプレゼン

テーション「日本の社会保障と財政」は、非常に興味深い内容でした。

「国庫負担は収入だという考え方が、日本の社会保障財政と人々の真に求

めている保障の提供を困難にしている」という副題がその内容を端的に物

語っています。社会保険の財源として投入される国庫負担は、国民の負担

である税によってまかなわれているにもかかわらず、負担感を直接感じな

いことが、社会保険制度の過大な給付や財政悪化の問題を引き起こす原因

になっているというものです。



・田近教授のプレゼンテーション資料

http://www.mof.go.jp/singikai/zeicho/siryou/kiso_b20c.pdf



 再び、「社会保険料」と「税」の違いに話を戻します。税制調査会の答

申「わが国税制の現状と課題」(2000年7月)では、

『社会保険料は、国民生活の安定を損なうリスクに対して、自立した個人

が社会連帯の精神を基礎として支え合うもので、給付を受けるために納付

が求められるなど、給付と負担が強く関連付けられている点で、租税とは

異なる性格を有しています。』と整理しています。



 社会保険料は負担しない限り給付を受けることができないので、制度に

対する国民の自主性が確保できると言われています。一方、税は負担能力

に応じた課税が可能であり、また負担した水準に関係なく、国民が給付を

受けることができます。



 現在政府は、社会保障制度について一体的な見直しを行い、平成18年度

を目途に結論を得るため様々な議論をしています。見直しの論点の1つに、

「税・保険料の負担や給付のあり方」が挙げられています。これは、「社

会保険料」と「税」の特徴を十分踏まえた上で、経済や社会のあり方など

様々な観点から税・社会保険料の負担と給付を検討し、社会保障制度を将

来にわたって持続可能なものにしていくという大変難しい問題です。私た

ち、そして将来世代が安心して暮らしていくための大切な基盤を守ってい

くために、現在行われている議論はとても重要な意味を持っています。



                     主税局調査課  角田享介

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6 編集後記



 12月は来年度の国の予算や税制の案が決定される時期であり、みなさん

も新聞やテレビでこうした話題を目にすることが多くなるのではないかと

思います。税制改正案の具体化の作業が最終段階に入るこの時期は、主税

局にとって一段と緊張感が増し、また活気づく時でもあります。まさに

「師走」という言葉がぴったりあてはまるかもしれません。次回のメルマ

ガ(12月下旬発行予定)では、平成17年度税制改正案の概要についてお届

けする予定です。(あられ)



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ご意見募集のコーナー



 税制調査会では、「少子・高齢化社における税制のあり方」につきご意

見募集中です。

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