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税制メールマガジン 第 16号

2005年05月31日 | 税制メルマガ
税制メールマガジン 第 16号          2005/5/31

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◆  目次

1 巻頭言 使命(ミッション)の力~グラミン銀行のマイクロ・クレジット

2 税制をめぐる最近の動き

3 若手はこう見る ~これからの社会における消費税の役割~

4 税制コラム ~相続税のはなし~

5 編集後記 


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1 巻頭言  使命(ミッション)の力

~グラミン銀行のマイクロ・クレジット



税制調査会では、4月から、個人所得課税の抜本見直し、及び公益法人制度改革(「民法34条法人」といわれる財団法人・社団法人)にかかる法人税制、関係する寄附金税制について議論・検討を重ねています。この公益法人の問題に関連して、昨年6月に税制調査会基礎問題小委員会が公表した『わが国経済社会の構造変化の「実像」について』では、ボランティア活動など「民間が担う公共」という領域が広がりつつあるという認識やこの活動に個人が主体的に参加することの必要性が示されていました。「民間が担う公共」ということについて、皆さんはどのような具体的なイメージをもたれていますか。



少し個人的な体験から話をはじめさせていただきます。

福岡市・福岡市民は、1990年(平成2年)以来、歴史的地理的な関わりから、アジアの多様な文化・伝統との共生をめざし、アジアの学術・芸術・文化に貢献した方を顕彰する「福岡アジア文化賞」という顕彰事業を行っています。



バングラデシュで30年ほど前にポケットマネー27ドルで創められた「マイクロ・クレジット」の提唱者にして実践者である、グラミン(村落)銀行総裁のモハマド・ユヌス氏に、2001年(平成13年)のアジア文化賞大賞を授与することとなり、私はその担当者として2001年7月にダッカに赴き、氏にお会いし、またダッカから車で約1時間のガジプール地方デシバラ村のグラミン銀行のセンターを訪問して、会員である農村女性のお話を聞く機会を得ました。



日本とは状況も大きく違うバングラデシュの、このグラミン銀行の活動に、まさに「民間が担う公共」を目の前にしたと実感しました。

 

バングラデシュ(ベンガル語で「ベンガルの国」)は、インドの東に位置、首都はダッカ。1971年(昭和46年)にパキスタンから独立し、国土面積14.4万平方キロメートル(北海道の約1.7倍)、人口は約1億3千万人弱(2001年)のかなり人口稠密の国です。国民の大多数はベンガル人でイスラム教徒が圧倒的。いわゆる「貧困開発途上国」であるということや、観光資源に恵まれないなどの理由で旅行ガイドブック「地球の歩き方」が出ていない数少ないアジアの国の1つということが、割合知られていることでしょうか(なお、日本の著名な政治学者ご夫妻がダッカで過ごした日々を活写した「ダッカの55日」が興味深く読めます)。



少々前のものになりますが、旧財政金融研究所の報告書「アジア周辺諸国経済の現状と今後の課題」(2000年(平成12年)6月)の『「発展の兆しと構造的制約」:バングラデシュ』(藤田幸一京都大学東南アジアセンター助教授報告)によれば、この国の官僚制は「小さくて非効率」な政府であり、東南アジアに観察されるような相互扶助と協力を是とする緩やかなコミュニティーもなく、人々の納税意識も極めて低いとのこと。また、「地方行政は極めて脆弱」で明らかに「過小」で、これがこの国でNGOが「はやる」ゆえんであるとされています。なお、一般的には,金融に関して意図的債務不履行が非常に多いことも指摘されています。



このような厳しい状況のもと、少額資金の無担保小口金融を、貧しい農村の人々(主として女性)に供与することで、金融市場へのアクセスを可能にし、貧困層が自ら貧困を抜け出すようにしていこうとするのが、「マイクロ・クレジット」です。日本でも、「金融を手作りする」(日経新聞夕刊連載)という動きもあり、非常に関心を持たれているように思います(女性向けインターネットサイト「カフェグローブ」でもグラミン銀行の活動が紹介されています)。



あまりに有名になった一方で、極貧層が融資を受けにくい、不良債権が多いなどの問題点も多々指摘されますが、金融市場が非常に未発達なこの国で無担保小口金融が普及し、いまや約435万人が借り手となって、様々な問題を抱えながらも、柔軟に活動を続けていることは高く評価されるべきことではないかと思います。当時、デシバラ村で案内をしてくれ、私の素朴な質問に対していろいろ意見をかわしてくださったグラミン銀行ナズール氏の、青年らしく、また誇りに満ちた高い使命感にも非常な感銘を受けました。「マイクロ・クレジットが農村に活力や自信を持ち込んだという事実は、それだけでも大いに賞賛に値する」(「開発経済学 貧困削減へのアプローチ」148ページ)という評価の方に深く同意したくなります。



ユヌス氏は、2001年9月、9.11テロ発生のすぐ後に開催された福岡アジア文化賞の授賞式で母国の言葉ベンガル語でこうも述べられました。「人類は月に行きたいと思い、月に行きました。・・もし、何かを成し遂げていないなら、それを成し遂げようとする思いの強さが不足していたからだと考えます。私は、貧困なき社会をつくろうと思えば実現は可能だと信じてやみません。」と。なお、ユヌス氏は、その活動に対して、アジアのノーベル賞ともいわれるマグサイサイ賞をはじめ各国で様々な賞を受賞されています。最近では、昨年6月第9回日経アジア賞(経済発展部門)を受賞されています。

 

今年は、国連が1998年(平成10年)に宣言した国際マイクロ・クレジット年です。この国際年が、このプログラムを促進するきっかけになるよう呼びかけられたものです。アナン事務総長は、この1月、バングラデッシュ政府及び国民に対し、マイクロ・クレジットという、貧困撲滅に対して有益な「武器」を示したことについて敬意を表しました。



まさに、強い明確な使命(ミッション)で適切に経営された活動が、世界的な「貧困撲滅」ということにまで大きな影響を与え得るということに、「民間が担う公共」という領域の可能性の広さを示しているように思います。



主税局広報担当企画官 渡部 晶



・「『金融』を手作りする」(藤井良広編集委員 日経新聞夕刊連載 2005年4月4日~4月28日)



・カフェグローブ 治部れんげ・文「マイクロクレジットという画期的な試みVOL1~2」(2003年8月)

http://www.cafeglobe.com/NEWS/micro/index_030808.html

http://www.cafeglobe.com/NEWS/micro/index_030822.html



・福岡アジア文化賞のサイト

http://www.city.fukuoka.jp/asiaprize/index.htm

なお、今年の第16回受賞者は7月1日に公表され、授賞式は9月15日に行われる予定とのこと。



・「第12回福岡アジア文化賞 2001年」、「2001年(第12回)福岡アジア文化賞講演集」(福岡アジア文化賞委員会事務局)(なお、賞の趣旨から、受賞者は、受賞スピーチを母国語で行い、福岡に留学している当該受賞者の国の学生が日本語に通訳するような運営がなされている。)



・第9回日経アジア賞(日本経済新聞社ホームページ)

http://www.nikkei.co.jp/hensei/asia2004/asia/



・グラミン銀行のサイト

http://www.grameen-info.org/index.html



・近藤健彦著「ODAとマイクロファイナンス」

 (財務省広報誌ファイナンス2004年9月号)

http://www.mof.go.jp/finance/f1609.htm

 

・「アジア外縁諸国経済の現状と今後の課題」(財政金融研究所「アジア外縁諸国の経済情勢研究会」2000年6月)

http://www.mof.go.jp/jouhou/soken/kenkyu.htm



・「マイクロファイナンス読本」(財団法人国際開発高等教育機構 1999年)



・「開発経済学 貧困削減へのアプローチ」

  (黒崎卓・山形辰史著 日本評論社 2003年)



・「特集 南アジアのマイクロファイナンス-原型と最近の革新」(日本貿易振興機構アジア経済研究所「アジ研 ワールド・トレンド」2004年7月号)



・「ダッカの55日」(大嶽秀夫・大嶽洋子著 中央公論新社 1999年)



・「ムハマド・ユヌス自伝 貧困なき世界をめざす銀行家」(ムハマド・ユヌス、アラン・ジョリ著 猪熊弘子訳 早川書房 1998年)



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2 税制をめぐる最近の動き



 5月の税制調査会では、下記のとおり、個人所得課税、非営利法人等に係る税制などについて検討が行われました。

 個人所得課税については、所得の種類と税負担のあり方、世帯構成と税負担のあり方及び納税環境の整備等の検討がなされました。

また、非営利法人等に係る税制については、新たな非営利法人に対する課税のあり方や寄附金税制等の検討がなされたほか、5月20日(金)には東京大学の田中弥生助教授から、官に依存していたシステムからの転換期における非営利組織の役割等について、ご報告をしていただきました。

 これらの論点については、今後も引き続き検討がなされ、6月21日にとりまとめが行われる予定です。

  

【5月13日(金)】

 第28回総会 

・個人所得課税

  ・非営利法人等に係る税制

  ・寄附金税制

【5月17日(火)】

 第35回基礎問題小委員会

  ・個人所得課税

【5月20日(金)】

 第36回基礎問題小委員会・第3回非営利法人課税WG合同会議

・「わが国経済社会と非営利法人」

(東京大学工学系研究科社会基盤学専攻 田中弥生助教授)

・非営利法人等に係る税制

【5月24日(火)】

 第29回総会

・個人所得課税

 ・非営利法人等に係る税制

【5月27日(金)】

 第37回基礎問題小委員会

 ・個人所得課税



・税制調査会の資料は、下記URLにてご覧いただけます。

  http://www.mof.go.jp/singikai/zeicho/top_zei3.htm

 

・これまでの審議の概要等は、下記URLにてご覧いただけます。

 (順次、掲載を行っているため、直近の開催分が未掲載の場合がございます。)

  http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/sy012.htm



・内閣官房行政改革推進事務局(公益法人改革について)ホームページ

http://www.gyoukaku.go.jp/about/index_koueki.html



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3 若手はこう見る ~これからの社会における消費税の役割~



 読者の皆さんにとって、消費税は数ある税金の中でも最も身近な税の一つではないでしょうか。その消費税(諸外国では付加価値税と呼ばれています)が導入されている国としてはEU諸国がよく挙げられますが、実はその他の世界の国々でも広く導入されていることをご存知でしたか?付加価値税制度が世界で広がり始めたのはそんなに古い話ではなく1960年代頃からだそうですが、現在付加価値税を導入している国はEU加盟国をはじめアジアやアフリカの国々など130カ国以上にもなるといわれています。



さて、日本で消費税が導入されたのは1989年ですので、導入から16年が経過しましたが、それでも他の税よりは比較的「若い」税といえるのではないでしょうか。しかし、その税収(10.2兆円)は現在一般会計税収(44兆円)の2割以上を占め、消費税は「若い」ながらも所得税などとともに日本の税制を支える主要な税の一つとなっています。



 少子・高齢化が諸外国で例を見ないほどのスピードで進む中、増大する社会保障給付などの公的サービスをどうやって安定的に支えるかが現在課題となっています。もちろん歳出・歳入両面からのアプローチが必要な訳ですが、歳入面から考えると、政府税制調査会などでも指摘されているように、あらゆる世代が広く公平に負担を分かち合っていくとの観点から、消費税の役割はこれまで以上に重要になってくると思います。



 また、こうして財政全体における消費税の役割が高まれば、同時に消費税に対する信頼性・制度の透明性を高めていくことも重要となります。このような観点から、最近では中小事業者に対する特例措置を見直すなど消費税制度の抜本的な改革も行ったところです。



 「人口が減少していく社会」というこれまで誰も経験したことがない社会をどのように税制面で支えていくのか、その中で消費税はどのような役割を担っていくのか、税制・財政を巡る様々な議論の中で、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。



主税局税制第二課 細田修一


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4 税制コラム ~相続税のはなし~



 今回は、相続税の沿革についてお話します。



 19世紀末以降、国家機能の充実や度重なる戦争の勃発により財政需要が逼迫する中で、所得税の導入や、法人に対する所得税の課税開始などが行われましたが、相続税も、こうした事情をも背景に、明治38年(1905年)に恒久的な制度として導入され、本年(平成17年)でちょうど百周年となります。



 相続税導入後、物納制度の導入(昭和16年)や税率構造の変更など多少の改正はありましたが、最初の大きな改正は終戦直後の昭和22年の改正でした。この改正では、民法改正と軌を一にして、家督相続と遺産相続を区分して課税する制度を廃止したほか、贈与者の一生を通じた贈与財産の累積額に課税する贈与税を創設し、さらに税務署が税額を通知する賦課課税方式を廃止して、納税者が自主的に税額を申告する申告納税制度を導入しました。続くシャウプ勧告に基づく昭和25年の改正は、さらに踏み込んで、課税方式を遺産課税方式(被相続人の遺産全体に課税する方式。アメリカ、イギリスが採用)から遺産取得課税方式(相続人が取得した遺産に課税する方式。ドイツ、フランスが採用)に変更するとともに、富の再分配を図る観点から、相続税を贈与税と一本化して一生の贈与を累積して相続と合わせて課税するという方法(一生累積課税制度)を採用しました。この一生累積課税制度は、主に執行上の理由から3年後の昭和28年に廃止されています。

 

 昭和33年には、遺産取得課税方式を基本としつつ、相続税の総額を法定相続人の数と法定相続分によって算出し、各相続人の取得財産額に応じて課税するという日本独特の制度(法定相続分課税方式)が創設され、現在に至っています。それまでの仕組みのもとでは、仮装分割による租税回避が横行したほか、農地や事業を一子が相続した場合に累進課税によって税負担が大きくなるなどの弊害がありましたが、法定相続分課税方式では、遺産総額が一定であれば税負担総額も一定となる上、法定相続分での税額計算となるため累進緩和による税負担減にもなるなどの利点があるとされています。



 近年の相続税の負担水準についてみると、バブル期における地価の異常な高騰などを受けて、累次にわたり減税や特例の拡充が行われた結果、昭和63年の抜本的税制改革以前には、最高税率75%、基礎控除額3,600万円(法定相続人が4人の場合)であったのが、今では最高税率50%、基礎控除額9,000万円(法定相続人が4人の場合)となっています。その後の地価の大幅な下落もあって、相続税の負担は大きく緩和されており、現在では、死亡者100人当たり4.5人と、多額の資産を相続したごく限られた方にのみ負担を求める税となっています。



 平成15年度税制改正においては、高齢者の保有する資産を次世代に円滑に移転するため、相続時精算課税制度が創設されました。これは、相続時に精算することを前提に、将来相続関係に入る親から子への贈与について、贈与税を大幅に軽減・簡素化し、贈与を行いやすくする制度です。平成15年分、16年分の贈与税の申告状況をみると、この制度が大いに活用され、資産の有効活用が図られているものと評価できます。



 相続税については、所得税などとあわせて税制全体としてどのように再分配を行っていくのか、また、公的な社会保障が充実して高齢者を支える財政支出も増大する中で、高齢者が遺した資産についてどの程度の負担を求めるのかなど、その時々の経済社会状況や目指すべき社会像等を踏まえながら、検討していく必要があります。



 主税局調査課 原田 真紀子



・税制メールマガジン第3号(平成16年5月31日)

3 旬の話題 ~相続税・贈与税の一体化措置とその効果~

http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/merumaga/merumaga160531.htm



・税制メールマガジン第6号(平成16年7月30日)

4 若手はこう見る ~老後扶養と税負担~

http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/merumaga/merumaga160730.htm


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5 編集後記

ゴールデンウィークを利用して、イタリアを旅してきました。イタリアでは、都市間の鉄道も、市内のバスや地下鉄も、乗り降りの際、駅係員や乗務員による改札がありません。切符を買って、備え付けられた機械で自分で改札を行います。ガイドブックによれば、時々車掌がまわってきて、切符を持っていないと高額の罰金を科せられるとのこと。ヨーロッパ諸国ではこうした形式が多いと聞きます。多少の不正乗車があっても、改札のために駅員を配置したり自動改札機を設置したりするより、コスト・パフォーマンスがよいのかもしれませんが、国民相互の「信頼関係」がなければ成り立たないものだと思います。日本ではこれとは全く違うシステムを採用しているわけですが、これは、日本人の律儀な性格によるものなのか、人口が過密だからなのか、そもそも日本と欧州諸国の社会構造が違うのか、いろいろと考えさせられました。次回発行は6月下旬の予定です。(あられ)


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ご意見募集のコーナー



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