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税制メールマガジン 第9号

2004年11月08日 | 税制メルマガ
税制メールマガジン 第9号
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税制メールマガジン 第9号           2004/11/8
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◆  目次
  1 巻頭言 ~一万円札の福澤諭吉~
  2 税制をめぐる最近の動き
  3 課長のひとりごと ~「実像把握」レポートから~
  4 特別寄稿 ~税源移譲はゼロサムゲームから脱却を~
      慶應義塾大学経済学部助教授 土居 丈朗
  5 ちょっと一息 ~「腐敗の防止に関する国連条約」と税金の関係っ
            てなあに?~
  6 編集後記
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1 巻頭言 ~1万円札の福澤諭吉~

 9月21日の税制調査会総会・基礎問題小委員会合同会議からはじまった秋の税制調査会の審議ですが、今後の中期的な取り組みを視野にいれ、6月に公表した『わが国経済社会の構造変化の「実像」について』(以下『実像』と略します。)の成果も踏まえて、個人所得課税・消費課税・資産課税など各税の現状や今後の課題について積極的な意見交換が行われています。11月に入りまして、17年度税制改正に関する議論が開始されたところです。

 11月1日に新日本銀行券が発行(改刷)されました。皆さんのお近くでも流通しはじめたでしょうか。財務省の中で、通貨を担当している理財局によれば、しばらくの間、新旧両券が同時に流通して、発行開始後2年程度でほぼ新様式券に入れ替わるのではないかとのことです(財務省広報誌「ファイナンス8月」)。

 このうち、新たに肖像として採用された樋口一葉、野口英世については、ゆかりのある地域での反応も含め、いろいろ報道もなされていますし、これを機会として、新たに関連する本も出版されています。肖像としては、変更がなかった1万円札の福澤諭吉は、この改刷を機会に、特に、関心が深まるという事態にはないようですね。

 『実像』では、第6のキーファクトとして、『社会と「公共」に対する意識』をあげ、『今日、町内会などの伝統的な地縁集団の機能が弱まる一方、社会の多様化が著しい中、様々な社会の問題に柔軟に対応していくためには、「政府が担う公共」はもとより「民間が担う公共」に個人が主体的に参加していくことが求められている。』と指摘しています。

 新しい視点で、「公共性」ということがあらためて問われ、「公共哲学」という学際的な取り組みもさかんに行なわれようとしています。福澤諭吉は、このような「公共哲学」を語る場合、日本の歴史の中で欠かせない人物のようで、税制調査会でお話を伺った山脇直司東大教授の最近の著作『公共哲学とは何か』でも、「民の公共」を重視する福澤諭吉の『国民主義的公共哲学』について言及がなされています。

 読書の秋ということもあり、もう1つ、北岡伸一東大教授(現:国連代表部次席大使)の著作から引用させていただくと、「現在、日本では第三の開国といわれている。しかし、日本人が自ら決定し、実行したという点において、より重要なのは、第二の開国すなわち戦後改革ではなく、第一の開国すなわち明治維新である。閉塞状況にある日本で、したがって、われわれが振り返るべき時代は明治維新であり、振り返るべき人物は福澤諭吉ではないだろうか。」(『独立自尊』「はじめに」)とされています。

 福澤諭吉は、一辺倒の評価が難しい、明治期の日本の歴史に大きな影響を与えた偉人ですが、前向きな元気のでる日本を考えていく上で、また、「民間が担う公共」ということを考えていく上で、おおいに振り返るべき人であることは間違いがないようです。

 なかなか財布に落ち着いてみることがない1万円札ですが、たまには、使う前に、福澤諭吉の肖像をじっくり眺めながら、これからの日本、また、「公共」のあり方について想いをはせると、あとで後悔する衝動買いなど防げるかもしれませんね。

                 主税局広報担当企画官  渡部 晶

・税制調査会基礎問題小委員会『わが国経済社会の構造変化の「実像」について~「量」から「質」へ、そして「標準」から「多様」へ~』(平成16年6月)
http://www.mof.go.jp/singikai/zeicho/tosin/160622.htm

・日本銀行の「お金について」のサイト
http://www.boj.or.jp/money/money.htm

・財務省広報誌『ファイナンス8月号』(平成16年8月)の「新日本銀行券の発行(改刷)について」(大内聡)
http://www.mof.go.jp/finance.htm
(平成16年8月号のところをクリックしてください)

・北岡伸一著『独立自尊』(講談社 平成14年)

・山脇直司著『公共哲学とは何か』(ちくま新書 平成16年)
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2 税制をめぐる最近の動き

 今回は税制調査会の10月の審議状況をお伝えします。

 10月の税制調査会は、基礎問題小委員会2回、総会1回というペースで、計8回開催されました。

 10月初めは外部の有識者や委員の方より、国債発行と経済との関係や、社会保障と財政について、プレゼンテーションが行われ、財政に関する基礎的な部分の議論を行いました。その後、それを踏まえ、10月末まで国税、地方税の各個別の税目ごとに一通り主要な議論がなされたところです。

 今後は、来年度(平成17年度)税制改正に向けた、さらに深度ある議論がなされていき、11月末を目途に来年度(平成17年度)税制改正の答申が取りまとめられる予定です。

○10月の開催状況
 【平成16年10月1日(金)】 
  第20回基礎問題小委員会(税財政の現状と課題、社会保障と財政)

 【平成16年10月5日(火)】 
第16回総会(税財政の現状と課題、社会保障と財政)

 【平成16年10月8日(金)】 
第21回基礎問題小委員会(個人所得課税)

【平成16年10月12日(火)】
第22回基礎問題小委員会(消費課税、環境税)

【平成16年10月15日(金)】
第17回総会(個人所得課税、消費課税、環境税)

【平成16年10月19日(火)】
第23回基礎問題小委員会(法人課税、国際課税)

【平成16年10月22日(金)】
第24回基礎問題小委員会(資産課税、金融所得課税)

 【平成16年10月26日(火)】
  第18回総会(法人課税、国際課税、資産課税、金融所得課税)  

  ※ なお、これまでの審議の概要は下記URLにてご覧いただけます。
   (順次、掲載を行っているため、直前開催分が未掲載の場合があります。)
    http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/sy012.htm
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3 課長のひとりごと ~「実像把握」レポートから~ 

 私は今年の7月に主税局に異動してきました。前任からの引継ぎでまず目にとまったのが、今年6月に税制調査会がまとめた「わが国経済社会の構造変化の『実像』について」(いわゆる「実像把握」)でした。以前に当メルマガでもご紹介しましたが、このレポートは「あるべき税制を考えるには、まず、経済社会の状況をしっかりと押さえるべきだ」との観点から、人口、家族、就労、分配、価値観といった様々な切り口から現代日本の実像に迫ろうとしたものです。

 レポートを読んで、あらためてショックだったのが「人口減少」と「高齢化」のスピードです。人口は2006年に1億2770万人でピークに達し、その後減少に転じて、2050年には約1億人になってしまいます。1960年代に逆戻りです。しかも、その時には3人に1人が65歳以上になってしまうのです(今は5人に1人)。仮に1.29という出生率が急に2に増えたとしても、人口増加に転ずるには何十年もかかるので、人口減少という流れは当分止まりそうにありません。

 人口減少、高齢化というと活力がなくなってしまうようですが、悲観論ばかりでもありません。日本は世界有数の技術大国、経済大国であり、一人当たり国民所得を高い水準で維持していくことが可能です。中国やアジアの発展は日本にとってはマーケットを拡大するチャンスでもあります。
就労が多様化し、高齢者になっても社会との関わりを持つようなライフスタイルが広がっていくかもしれません。2050年、生きていれば私は92歳。果たしてどんな世の中になっているのでしょう。

 このレポートからは、人々の「生活様式や意識の変化」もみてとれます。例えば、「夫婦子二人」という家族は1980年代までは世帯の4割を占めていましたが、2020年には4分の1に減り、「夫婦のみ」とか「単身」といった「子供のいない世帯」が全世帯の半分になると予想されています。「家族」のイメージは大きく変貌しています。

 仕事を巡る環境もそうです。パート、アルバイト等の「非正規雇用」が増加し、会社に対する帰属意識が薄れてきています。仕事志向から余暇志向へ、未来志向から現在志向へ、一億総中流意識のゆらぎといった意識変化も現れています。

 今後の税制改革の検討に当たっては、このような「実像」を踏まえていきたいと考えています。

 余談になりますが、このレポートの中には「各種組織、制度等に対する信頼度」というアンケート結果が載っています。それによれば、信頼度の高い順に、医師、新聞、郵便局、テレビ、警察官、学校の先生と続き、「中央省庁の官僚」は11番目、下から3番目です。もって銘すべし。精進に励まなければと思った次第です。

 皆さんも、「実像」レポートをパラパラめくってみると色々な発見があるかもしれません。

                   主税局調査課長  羽深 成樹

・税制調査会基礎問題小委員会『わが国経済社会の構造変化の「実像」に ついて~「量」から「質」へ、そして「標準」から「多様」へ~』(平成16年6月)
 http://www.mof.go.jp/singikai/zeicho/tosin/160622.htm
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4 特別寄稿 ~税源移譲はゼロサムゲームから脱却を~
              慶應義塾大学経済学部助教授 土居 丈朗

 現在、地方の税財政改革である「三位一体改革」が進められている。この改革に含まれている税源移譲の行方は、わが国における今後の国と地方の税制の姿に大きな影響を及ぼす。確かに、地方分権を進めるためには、地方税の増強は不可欠である。しかし、現在の税源移譲の議論には、分権時代に自律しようとする覚悟が影を潜め、自治体側の「甘えの構造」が垣間見られるような気がしている。

 今進められようとしている税源移譲は、国税と地方税のゼロサムゲームの色彩が強いようである。つまり、国税を減らして地方税を増やすことを示唆している。しかし、国家財政は、地方財政とともに、悪化している現状では、地方税の増強だけのために国税収入を安直に減らしてもよいとい
う時代ではない。

 さらに言えば、国税を減らす形での税源移譲は、懸命になって移譲してもらったかと思いきや、それと同じ結果が別の方法で得られるようなことだったりする。仮に、税源移譲が実現した(例えば、現行の消費税5%の
うち、地方消費税分を1%から3%とする)としても、移譲後に地方財政と無関係に国が独自に税率を上げる(先の例では、国税分が4%から2%になった後に、全体の税率を8%にして国税分を5%とする)ように税制改正が行われれば、結局は何のために国税を地方税にしたかわからない結果に堕する。

 それよりかは、地方税を増税するか減税するかは国とは独立に地方自治体の独自の判断で決めるという姿勢で臨んだほうがよい。つまり、国税からの税源移譲を棚ボタ式に落ちてくるのを口を開けて待つ(否、棚の上のボタ餅を懸命に突っついて落とすように税源移譲する)よりも、必要な税源は国税と無関係に地方税の税率を引き上げる形で行うべきである。税率を主体的に決めることによって、地方自治体が健全な財政運営を志向し、自ら財政責任を果たさなければならない。地方の債務がこれだけ累増した
今日、自治体が独自の判断で増税を行う覚悟なくして、地方分権の全うはあり得ない。分権時代においては、隣の市町村が税率を上げないのに自分だけ税率を上げることはできない、といった旧時代的な横並び意識は許されない。

 「三位一体改革」にはこれまでに試みられなかった画期的な取り組みが多いだけに、これからの時代の国と地方の税制の構築にも、改革の趣旨がよりよく反映されるべく、単なる国税と地方税のゼロサムゲームから脱却して、自律的な財政運営を促すものにして頂きたいものである。
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5 ちょっと一息 ~「腐敗の防止に関する国連条約」と税金の関係ってなあに?~

 腐敗といっても、腐った食べ物のことではありませんよ。国連の条約は、贈収賄等の「腐敗」の問題に国際的に対応するために作られたもので、日本は昨年12月に署名しています(条約は未発効であり、日本は締結に向けて検討中です)。また、OECDにおいては、1999年に発効した「外国公務員に対する贈賄防止条約」や、関連する勧告があります。わが国を含め、35ヶ国が参加しています。

 法人税や所得税といった所得に対する税金は、経費の額が多ければそれだけ払う税金が少なくなりますが、こうした条約や勧告は、税金の計算にあたって賄賂を経費として差し引かないように各国に求めています。

 懲役や罰金はもちろんのこと、税金が重くなることでも、賄賂を「割にあわない支出」にしようというわけです。

 実は、日本では、OECDの勧告が出される前から、日本と外国の公務員の区別なく、支払った賄賂は税金の計算上経費にすることはできないことになっています。

そもそも、賄賂のようなヤミのお金を支払った会社は、誰に払ったか分かることを恐れて相手先の氏名を明らかにしないかもしれませんね。こうした費用は租税特別措置法(62条)で「使途秘匿金」といいます。経費として差し引くことができないのはもちろんですが、通常の法人税に加え、
支払い額の40%の税を追加して払うことになります。

 また、会社が支払った相手先を明らかにしていた場合でも、経費として差し引くことはできません。租税特別措置法(61条の4)において、交際費等は、通常は法人税の計算上経費にはできないと規定しています。会社の支払った賄賂はこの交際費等に含まれることになります。

 個人事業者が外国の公務員に賄賂を支払った場合も所得税の計算において経費にはなりません。所得税法(37条)は、控除できるのは収入を得るため直接に要した費用としていますが、賄賂のような不正な支出は収入を得るために直接必要な費用とは考えられないからです。

 裁判でも、法律で支出が禁止されているような費用の損金算入は許されていないんですね。

 日本企業も各国企業も、国際社会で公正な競争をしてほしいものです。そのために、税金の面においても、ちょっと変わった役割が国際的に期待されているんですね。

                            (ニコロ)
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6 編集後記

 つい先日、財務総合政策研究所の「少子化の要因と少子化社会に関する研究会」の会合を傍聴したのですが、そこで紹介されたデータの中に、ショッキングなものがありました。正規労働者として働いていた女性が、出産後、どのような就業形態をとっているかというデータです。男女雇用機会均等法が施行された直後(1987~90年)に学校を卒業した女性(均等法世代)については、その前の世代と比較すると、出産後も正規雇用として働く割合が増加しています。しかし、バブル崩壊後に卒業した女性の出産後の就業形態をみると、均等法世代に比べ、正規雇用が減少する一方で、非正規や無業が増えており、均等法世代の前の世代と同じ水準に戻ってしまっているのです。他方で、働き盛りの男性の長時間労働が増えています。一人ひとりがゆとりある生活を送っていくためには、男性、女性双方の働き方の見直しが、大変重要なポイントのように思われます。柔軟な働き方が可能になれば、家事・育児を含めた生活面でも余裕がうまれてくるので
はないでしょうか。次回発行は12月上旬の予定です。(あられ)

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ご意見募集のコーナー

 税制調査会では、「少子・高齢化社における税制のあり方」につきご意見募集中です。
http://www.mof.go.jp/singikai/zeicho/iken/iken.htm

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