税制メルマガ

税制のメールマガジンです。

税制メールマガジン 第50号 その2

2008年04月08日 | 税制メルマガ
5 元主税局職員コラム~働き方の見直しと子育て支援策の充実に向けて~

平成17年の夏まで税制メールマガジンの編集を担当しておりました
「あられ」です。主税局を離れてから一年半、厚生労働省で子どもの保育
施策を担当してきましたが、この春から滋賀県で引き続き子どもにかかわ
る仕事をすることになりました。

日本では、「少子化が進んでいる」と言われていますが、子どもの数が
少なくなっているにもかかわらず、この10年ほど、保育所を利用する子
どもの数は急激に増えています(平成9年164万人→平成19年202
万人)。保育サービスの供給が需要に追いつかず、日本全国で約1.8万
人もの待機児童(※)が存在しています。
(※)保育所への入所を希望していながら入所できない児童のこと。

都市部では、保育所の定員を100人増やしても待機児童は10人しか
減らないという状況が続いています。女性の就業率が上昇し、近くに保育
所があれば、子どもを預けて働きたいという方々の潜在的な需要があるた
めです。

昨年末、政府は「子どもと家族を応援する日本」重点戦略をとりまとめ
ました。働きながら子どもを育てたいと思っても、長時間労働、女性労働
者の継続就業の困難さ、保育サービスの不足などから、仕事と子育てを両
立できる見通しが立たず、「就業」と「出産・子育て」が二者択一になっ
ていることが指摘されています。重点戦略では、この二者択一構造を変え
るために、「仕事と生活の調和の実現」と「保育をはじめとする次世代育
成支援の社会的基盤の構築」という二つの取組を「車の両輪」として取り
組んでいくこととされています。

平日ほとんど夫と顔を合わせることのなかった私にとって、「仕事と生
活の調和の実現」は本当に切実な問題ですが、それはさておき、私が担当
していた「次世代育成支援の社会的基盤の構築」に取り組むためには、相
当規模の財源が必要です。重点戦略では、国民が希望する出産・子育てを
実現するのに必要な社会的コストは約1.5~2.4兆円と試算されてお
り、このコストについては、次世代の負担とすることなく、国・地方・事
業主・個人の負担・拠出の組合せにより支えることが必要だとされていま
す。びっくりするくらい大きな金額ですが、これで様々な保育サービスが
充実し、安心して子育てできるのだったら・・・。私たち国民の選択の問
題です。

現在、厚生労働省では、「新たな次世代育成支援の枠組み」の構築に向
け、税制改革の動向を踏まえつつ、その具体的な制度設計の検討を始めた
ところです。また、先般、「新待機児童ゼロ作戦」を公表しました。約1.8
万人という顕在化している待機児童はもちろん潜在的な需要も視野に入れ、
希望するすべての人が安心して子どもを預けて働くことができるサービス
の受け皿を確保し、待機児童をゼロにするという目標を掲げ、今後3年間
を集中重点期間として取組を進めることとしています。

今回のコラムでは、子育て支援に関する政府の検討状況の一部を御紹介
しました。子育て中のみなさんをはじめ、子育て行政について御要望や御
不満など多々あると思います。ぜひ声をあげていただき、みなさんと一緒
に子育てしやすい社会をつくりあげていきたいと思います。

・「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議について
(内閣府ホームページ)
http://www8.cao.go.jp/shoushi/kaigi/ouen/index.html

・新待機児童ゼロ作戦について(厚生労働省報道発表資料)
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/02/h0227-1.html

滋賀県健康福祉部子ども・青少年局 原田 真紀子

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6 諸外国における税制の動き
税のモラル~モラルが高いのはどういう人?

春を迎え、甲子園では高校球児たちの熱闘が繰り広げられました。
一方、ドイツの税の世界でも熱闘が繰り広げられています。というのは、
最近、ドイツでは大規模な脱税事件が発覚し、税務当局が脱税の捜査に躍
起になっているからです。何しろ、追徴税額が3億~4億ユーロ(約490
億円~650億円)と言われていますから、重大な事件です。蛇足ですが、
ドイツ政府は、情報提供者から脱税に関する情報を500万ユーロ弱(約
8億円)で買ったそうです。(このことについては、ドイツ国内でも賛否
両論ありますが、ドイツ連邦財務省は、「良い投資であった」とコメント
しています。)

こうした中、ドイツ連邦財務省のウェブサイトに、「税のモラル―自発
的な納税と脱税の緊張関係」と題する報告書が掲載されました。この報告
書は、「脱税はいかなる場合にもしてはいけないことである」と考える人
の割合によって税のモラルを測定しようとしており、いくつかの興味深い
分析や主要先進国の国際比較がなされています。いくつかご紹介しましょ
う。

― 他の納税者の行動を信頼している人ほどモラルが高い!?
他の納税者は皆正しく納税する、と考えているグループほど脱税に対す
る見方が厳しく、税のモラルを高く持っているようです。特に、ドイツや
デンマークではその傾向が強く現れています。

― 政府を信頼している人ほどモラルが高い!?
他の納税者に対する信頼と同じことが政府に対しても言えるようです。
ほぼすべての国において、脱税に対して厳しい見方をしている人の割合が、
政府を信頼していないグループよりも、政府を信頼しているグループにお
いては10~20%程度高くなっています。

― 宗教を大切に思う人ほどモラルが高い!?
宗教を大切にしているグループとそうでないグループでは、脱税に対す
る見方が大きく異なっているようです。ドイツでは、脱税に対して厳しい
見方をしている人の割合が、宗教を大切だと考えないグループよりも、宗
教を大切にしているグループにおいては25%以上高くなっており、カナ
ダでは30%以上、フィンランドでは50%以上高くなっています。

では、この報告書の中で、最も税のモラルが高いとされている国はどこ
でしょうか?

・・・答えは、我が国、日本です。

「脱税はいかなる場合もしてはいけないことである」と考える人の割合
によって税のモラルを測定することが適切かどうかはともかくとして、こ
の調査で見た税のモラルは主要先進国中、日本が突出して高く、80%以
上の人が「脱税はいかなる場合にもしてはいけない」と考えているようで
す。ちなみに、ドイツではそのように考える人の割合は60%弱となって
います。

納税者間の信頼関係、政府と国民との信頼関係、信仰心(人間と神仏と
の信頼関係?)・・・。人間が作り出した「制度」には、こうした極めて
人間的な要因が影響している面があるように思います。心機一転の春、最
も身近な制度の一つである税制を通じて、「国のかたち」を考えてみるの
も一興ではないでしょうか。

主税局調査課 篠原 健

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7 編集後記

平成16年3月に始まった税制メルマガは、今号で通算50号になりま
した。そこで、税制メルマガの創刊当時に編集を担当されていた「あられ」
さん(原田さん)に、久しぶりに原稿(「働き方の見直しと子育て支援策
の充実に向けて」)を書いてもらいました。今後の日本にとって最大の課
題は、長年言われていることですが、一層の少子高齢化に対応した経済社
会の構築だと思います。そのために、国・地方・事業者・個人それぞれが
それぞれの責任を果たしていく必要があります。
(高宮)

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ご意見募集のコーナー

政府税制調査会では、今後の審議の参考にさせていただくため、広く国
民の皆様から、御意見を募集しております。

http://www.iijnet.or.jp/cao/kanbou/opinion-zeicho.html

当メールマガジンについてのご意見、ご感想はこちらへお願いします。

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税制メールマガジン 第50号

2008年04月04日 | 税制メルマガ
税制メールマガジン 第50号   2008/4/8-----------------------------------------------------------------

◆ 目次

1 巻頭言 
2 税制をめぐる最近の動き
3 お知らせ~租税特別措置の課税関係について~
4 主税局職員コラム~米国生活で知ったこと~
5 元主税局職員コラム~働き方の見直しと子育て支援策の充実に向けて~
6 諸外国における税制の動き
税のモラル~モラルが高いのはどういう人?
7 編集後記

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1 巻頭言

この「税制メールマガジン」は、平成16年3月の創刊以来、月一回のペースで発刊を続け、今号で50号となりました。創刊当時は、定期配信登録数が1万人弱でスタートいたしましたが、その数は年々増加し、現在、当初の倍以上の2万人を超える方々に登録いただいています。ちなみに、同じ電子媒体である「税制ホームページ」(財務省ホームページ内に設置)へのアクセス数は、16年度で約43万件に対して、19年度は70万件弱に達しています。ご覧頂いている皆様に改めて感謝申し上げる次第です。
当メルマガの内容は、創刊時より、「税制をめぐる最近の動き」「諸外国の税制の動向」「主税局の職員によるコラム」が基本となっています。
「主税局職員コラム」では、局幹部や若手が日ごろ感じていることや苦労話など自由に執筆しています。4年間で延べ107人が執筆しており、主税局の職員は大体150名ですので、各年度、在籍職員の約6人に1人が執筆していることになります。
また、「巻頭言」については、広報担当の企画官が執筆しています。私で5代目になりますが、その時その時の担当のカラーが出ていると思います。私は、「公共サービスを賄うための費用を皆でどう分担していくか」ということを考える際に有用な資料をご紹介したい、という思いで毎号執筆しています。読者の皆様からは、「疑問に思っていたことがわかりやすく解説されていた」といった御意見も頂きますが、「巻頭言なのだからもう少し肩の凝らない内容にしては?」といった御意見も頂いています。耳障りの良いことばかりを並べても理解は深まりませんが、かといって堅苦しさが先に立って結局「疲れそうなので読まない」ということであれば意味がありません。そうした思いで、できるだけ関心を持っていただける内容になればと考えています。
巻頭言に限らず、当メルマガの内容につきまして、例えば「こういうコーナーがあれば良い」などの御感想をお待ちしています。皆様の御意見も参考にしながら、より多くの方に読んでいただけるよう、努めてまいりたいと考えています。
ところで、メルマガは50号という区切りを迎えましたが、「区切り」ということでいえば、消費税が、1989年(平成元年)4月の導入以来、4月で20年目に入りました。
消費税導入を含む当時の税制改革は、給与所得に税負担が偏り、サラリーマンの重税感・不公平感が募ってきているといった指摘等を踏まえ、所得課税を軽減し、消費に広く薄く負担を求めること等により、所得・消費・資産に対する均衡のとれた税制を構築することを目指して行われました(税制改革法(昭和63年)、政府税制調査会答申など)。
消費税は、その後、税率引上げや制度の見直しを経ながら、時々の景気動向に左右されにくい安定的な財源となっており、税収規模でみても、所得税・法人税に次ぐ主要税目となっています。(なお、経済動向や税制改正(減税など)といった要因により、所得税・法人税が減少した影響で、税収額合計でみると平成2年度の水準を一貫として下回っていることは以前お示ししたとおりです。)
ところで、「消費税導入」という書き方をしましたが、20年目を迎えるということは、今の若年層や子供たちからすれば、消費税も所得税や法人税と同じく、物心ついた時から存在する税金ということになります。世代によって、「それまでなかったところに新たに導入された税金」なのか「他の税と同じく元々ある税金」なのかという違いにより、消費税に対するイメージや感じ方が違うということは言えようかと思います。
いろいろ雑駁に書きましたが、今後社会保障サービスなどの「受益」が増え続けることが見込まれる中で、現在でもアンバランスな状況にある「受益」と「負担」を適正化するために、歳出面と並行して、この「成人」を迎える消費税を含めた税制全体をどうしたらよいか、現世代で考え実現していくべき大きな課題だと思います。
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政府が1月23日、本通常国会に提出をいたしました「所得税法等の一部を改正する法律案」につきましては、現在、未成立の状況に至っております。(4月8日現在)(なお、同法案において適用期限の延長等を措置している租税特別措置の課税関係につきましては、当メルマガ3のお知らせをご覧ください。)
この法案は、平成20年度の税制改正の内容を定めたものであり、予算の歳入面の裏付けとなると共に、国民の安全・安心を確保し、地域を活性化させ、成長力を強化する観点から重要な内容が盛り込まれております。
政府としては、歳入確保とともに、国民生活や経済取引の安定確保に向け、一日も早い法案の成立に向け最大限の努力を講じていく方針であり、国民の皆様や関係者の方々におかれては、引き続き、御理解と御協力をお願いする次第です。

主税企画官 田島 淳志
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2 税制をめぐる最近の動き
(1)「国民生活等の混乱を回避するための租税特別措置法の一部を改正する法律」が可決・成立しました。
・内容は、下記URLにてご覧いただけます。(衆議院ホームページ)
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/g16901008.htm
※租税特別措置の課税関係については、3のお知らせをご覧下さい。
(2)日中租税条約に規定する「みなし外国税額控除」は中国の国内法改正後も引き続き適用されることが、日中両国の税務当局間で確認されました。
・概要は、下記URLにてご覧いただけます。
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/sy200326ch.htm
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3 お知らせ~租税特別措置の課税関係について~
適用期限が到来した租税特別措置の課税関係について、財務省ホームページに掲載しております。その主な内容について、お知らせいたします。
・財務省ホームページ:http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/sy200331.htm
(1)揮発油税及び地方道路税の税率の特例
揮発油税及び地方道路税の税率の特例は、平成20年3月31日に適用期限が経過しました。平成20年4月1日以降製造場から移出する揮発油については、本則税率が適用されます。
詳しくは、下記の財務省ホームページをご覧ください。
・http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/sy200331/200331a.htm
(2)適用期限が平成20年5月31日まで延長された租税特別措置
平成20年3月31日に適用期限が到来した租税特別措置のうち、以下のものについては、「国民生活等の混乱を回避するための租税特別措置法の一部を改正する法律」が成立し、その適用期限が平成20年5月31日まで延長されました。
<1> 特別国際金融取引勘定において経理された預金等の利子の非課税(所得税・法人税)
<2> 外国金融機関等の債券現先取引に係る利子の課税の特例
(所得税・法人税)
<3> 土地の売買による所有権の移転登記等の税率の軽減等
(登録免許税)
<4> 入国者が輸入するウイスキー等に係る酒税の税率の特例(酒税)
<5> 入国者が輸入する紙巻たばこのたばこ税の税率の特例(たばこ税)
<6> 引取りに係る揮発油の特定用途免税(揮発油税・地方道路税)
<7> 引取りに係る石油製品等の免税(石油石炭税)
(3)上記(1)及び(2)以外の租税特別措置
現在、通常国会に提出している「所得税法等の一部を改正する法律案」において適用期限の延長等を措置している租税特別措置のうち、上記(1)及び(2)以外の措置については、適用期限が経過いたしました。
これらの具体的な適用関係については、所轄の国税局及び税務署にお問い合わせいただくようお願いいたします。
※ 政府としては、歳入確保とともに、国民生活や経済取引の安定確保に向け、一日も早い法案の成立に向け最大限の努力を講じていく方針であり、国民の皆様や関係者の方々におかれては、引き続き、御理解と御協力をお願いする次第です。
※ 「所得税法等の一部を改正する法律案」(政府提出法案)の内容については、「平成20年度税制改正の要綱」
http://www.mof.go.jp/seifuan20/zei001_a1.htm
「所得税法等の一部を改正する法律案」 http://www.mof.go.jp/houan/169/st200123h.htmをご覧ください。
※ 国税庁ホームページ http://www.nta.go.jp/sonota/sonota/osirase/topics/data/h20/6512/index.htm
及び税関ホームページ http://www.customs.go.jp/news/news/20080401/index.htm
もご覧ください。
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4 主税局職員コラム~米国生活で知ったこと~
主税局調査課長の川上です。調査課は、「租税に関する政策の基礎となる事項並びに内国税及び外国の租税に関する制度の調査及び研究に関すること」、「租税に関する制度の中長期的な観点に立った企画に関すること」(財務省組織令)などを所
管しており、政府税制調査会や経済財政諮問会議の窓口も務めています。総勢14人の比較的小所帯ですが、私以外の3補佐、3係長全てがネーティブに近い高度の英語力を持ち、係員もドイツ語、フランス語の文献に精通するなど、国際派知的集団?として抜本的税制改革論議を支えています。
かく言う私は、これまで国内で税制や予算の仕事が長く、省内でもかなり少なくなった純粋「国内派」に近いのですが、2000年から2002年にかけて、米国ニューヨークでコロンビア大学の客員研究員として、外から日米の経済・財政を研究する機会を得ました。その際の経験、特に「生活」体験が、今の仕事に役に立っています。
私が参加したコロンビア大学の数々のイベントで最も印象に残っているのが、学生が主催した当時の「上院議員候補」ヒラリー・クリントンの演説会です。彼女はウォール街に戻ったルービン元財務長官と、当時私は恥ずかしながら知らなかったウオーレン・バフェット(今年ビル・ゲイツを抜いて世界一の資産家にランクされた伝説の投資家、アフリカ支援などに巨額の私財を投入していることでも今や有名)を伴って大学に乗り込んできました。彼女が、開口一番、夫のクリントン政権の最大の業績として誇ったのが、fiscal discipline(財政規律)という言葉です。予算執行が何度かストップするなど議会の状況は容易でなかったが、厳しい歳出歳入改革を一貫して粘り強く進め、金利低下を実現したことが、冷戦終結とIT革命による技術革新と相まって、民間活力を引き出し、1990年代の米国経済の空前の繁栄をもたらしたという内容でした。もとより政治的修辞は割り引いて考える必要はありましたが、財務省からの赴任者として正直まぶしく感じました。
私の米国「生活」のハイライトは、長男が現地で生まれたことです。その際、一番困ったのは、出産直後の長男の医療保険のことでした。
米国には高齢者や低所得者を除く一般をカバーする公的な医療保険がなく、民間保険を一から探さなければなりません。保険会社に拙い英語で電話するのですが、大概は「話し中」で、たまに出てきた早口の自動音声は何を言っているか聞き取れず、半日がかりでようやく通じたら、分厚い電話帳のような医者のリストが送られてきました。米国ではコストを下げるため、リストに載っている医者にしか支払わない医療保険が多いためです。小さなアパートの部屋が「電話帳」で一杯になり、一時は途方に暮れました。最終的に医者に限定のない留学生向けのかなり安い保険を見つけることができましたが、それでも月々6-8万円は支払ったと思います。
実際医者にかかった後の手続きも大変でした。いったん全額を医者に支払った後、保険会社に1件1件申請書を書いて郵送し、保険会社は医者に確認し審査した後で、初めて振込がされます。なかなか振込がされず、そのフォローアップは帰国後もインターネットや国際電話を通じて半年近くにも及びました。米国でしっかりした企業で働く一番のメリットは保険だと聞いたことがありましたが、自ら費やした時間とお金を振り返り、実感しました。ちなみに米国では、お産での入院は48時間以内、風邪で医者が診てくれるのは1週間後(だいたいそれまでに治っている)、というのが通常です。
いろいろな公的システムが必ずしも個人に優しくない米国では、各人は逞しくならざるを得ず、お年寄りや障害を持つ方、妊婦なども例外ではありません。他方、ハンディを持つ人が自分で何かを頑張ってやろうとする際、辛抱強く見守り助ける姿勢が、社会的マナーとして定着していることも印象的でした。幼い子供連れへの暖かい眼差しもそのひとつです。妻は、長男をベビーカーに乗せてニューヨークの街を歩き回りましたが、どこに行っても人々が道を譲ってくれ、丁寧に扱ってもらえました。ただ1回、マンハッタンの真ん中にある日本人客ばかりの日本書店に立ち寄った際だけ、ベビーカーを押しのけて我先に行こうとする人ばかりで店に入るにも一苦労し、ショックを受けていました。
それぞれの国、社会には、いいところと悪いところがあります。米国自身、財政状況等については、その後また大きく変わってきています。日本も今、財政健全化に向けた歳出歳入一体改革に取り組んでいるところです。持続的な社会保障制度・少子化対策の給付と負担のあり方については、社会保障国民会議などで議論が続いています。今後の議論は、いよいよ日本という「国のあり方」を問うものになってくると思います。他国のいい面を採り入れ、他国の悪い面を教訓としながら、日本社会を少しでも改善していければと思います。 
主税局調査課長 川上尚貴

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