--Katabatic Wind-- ずっと南の、白い大地をわたる風

応援していた第47次南極地域観測隊は、すべての活動を終了しました。
本当にお疲れさまでした。

ボイラー故障

2006-04-20 | 南極だより・施設備品
昼間は春の嵐でした。
雨がザーッと降ったかと思うと急に晴れてまた雨になる。
風が強くて、気付いたら若葉までもがたくさん落ちていました。
最終的には快晴になり、空気が澄んでとても気持ちがよかったのですが、車は雨粒のあととホコリと葉っぱで見事なデコレーション?になっていました。
それでは渡井さんからの南極だよりです。
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2006年4月19日(水) 快晴 ボイラー故障

観測棟の暖房は、外においてあるドラム缶からJP-5燃料を屋外大型タンクにハイスピーダーというポンプで汲み上げ、そこから自重で室内にある小型タンクに落とし、それを燃やしてボイラーの温風で温めている。

昨晩21時頃突然警報が鳴ってボイラーがダウンしてしまった。
リセットをかけたところ復旧したのだが小一時間ほどでまたダウン。
今度は何度リセットをかけても復旧しなくなってしまった。

さすがに夜なので機械隊員にお願いすることもできない。
しかしながら外の気温は常に零下なので室内温度も相当低下してしまうだろう。
生憎観測棟の中には水を使用している矢吹さんの装置があって、それが凍ってしまうと装置が使いものにならなくなってしまう。
観測機器が発生する熱もあるが、ボイラーのスイッチが普段数十分おきに入ることから、観測機器だけでは室内の温度を保てないことは明白だ。

そこで一計を案じた。
電力を食うことから観測棟では同時に運転をすることを禁止されている装置がある。
そのうちの一つが大容量のコンプレッサーだ。
少々電気がもったいないが背に腹は変えられない。
一晩中コンプレッサーを運転することにした。
装置が心配な矢吹さんは観測棟に泊まりこみだ。
凍え死ななければ良いが…
まぁ布団もあるので大丈夫ではあろう。

翌朝、観測棟に出勤すると意外にも室温は20℃程度に保たれていた。
コンプレッサーの発熱量は相当なものなのだ。

1ヶ月ほど前、このボイラーの基盤を新品に交換して不具合が生じたことから、今回もまた基盤に原因があると僕は疑っていた。
機械の室田さん、藤原さん、高松さんに原因究明と修理をお願いする。
ボイラーがはじき出すエラーコードから考えられる原因は5つ。
それを一つ一つつぶしていくのだ。

あれこれ試行錯誤した結果、原因は5つの中の5つ目。
外気をファンで吸い込みボイラーに送るのだが、この外気の送り込みを確認できないとスイッチが入らず、エラーが出るようになっている。
この外気はプラスチックのチューブを通ってセンサー送られる。
で、こともあろうにこのチューブがボイラーの電熱部にあたって溶けてしまい、空気が流れなくなってしまったのだ。
このチューブを観測用のタイゴンチューブに交換して修理完了。
#たまたま適当なチューブがなかったのだ。
普段触ったことのない機器であろうのに、ちゃんと原因を特定して短時間に修理してしまう機械隊員には恐れ入る。

ちなみにボイラーのメーカーはムロタ。
あれ?聞いたことのないメーカーですね??
ロゴもなんだか手書きであるような???


-----本日の作業など-----
・論文
・海氷状況定点観測
オングル海峡の開氷域拡大 青々と海面をたたえていた 三つ岩まではいっていない
・フロン分析用大気採取
・クライミングボード
・CO2, CH4, CO, O3濃度分析システムチェック
・温室効果気体分析用大気採取
・炭素同位体比分析用大気採取
・二酸化炭素精製
・各種書類提出

<日の出日の入>
日の出  8:14
日の入  16:43
<気象情報4月19日>
平均気温-9.9℃
最高気温-6.3℃(0003) 最低気温-14.4℃(2240)
平均風速7.4m/s
最大平均風速12.9m/sENE風向(0500) 最大瞬間風速17.0m/s風向E(0509)
日照時間 5.8時間

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こういうトラブルってあるものなのですね。
新発が壊れたら・・と考えたことはあったけれど、それぞれの棟のボイラーが壊れるなんて何故か特別なことという気がしていました。
そして、夜中のことまで考えていませんでした。
普段の生活の中では家を空けるときには暖房を消していくのは当たり前で、誰もいない部屋に暖房をつけたままにしておくことがなかったせいかもしれません。
夜に観測棟を離れるときに暖房をつけておくということがイメージできていませんでした。
考えてみれば部屋の中には観測装置があって、その一つ一つがみんな寒冷地用になっているわけではないのですよね。
しかも水を使っている観測装置となればなおさら氷点下になるのは危険。
一晩室温が保ててよかった。

翌日の機械隊員さんのすごさは今までも感じるところが多かったのだけれど今回もですね。
私の職場でも修理はたいていメーカーの人が来るので、自社製品を修理するということですが、昭和基地ではそうはいかない。
多様なメーカの多様な機器を一手に引き受けてくれるところがすごいなぁと毎回思います。
ん?でも「ボイラーのメーカーはムロタ」でしたね??
ということは自社製品だったのですねー!!
しかも社長自ら修理にきてくれたのですか?
他のお二人もそれぞれ社長さんですか?
今度それぞれの自社製品を紹介してくださいね。
それにしても、毎日コンプレッサーのお世話にならずにすんでよかったよかった。

今回の南極だよりで思ったのは、アクシデントがあっても創意工夫して乗り切るということ。
コンプレッサーはまさか暖房代わりに使われるとは思っていなかっただろうし、タイゴンチューブはボイラーの外気取り込みに使われるとは思っていなかったと思うのです。
南極観測は1次隊の時からいろいろな創意工夫があったことが今まで読んだ本にも書かれていて、容易にほしいものが調達できるところではないだけに、そういうことがとっても大事なんだなぁと改めて思いました。

あと、ハイスピーダーというポンプがどんなものか知らなかったので調べてみました。
家庭用のストーブに灯油を入れる簡単なポンプよりずっと立派だけれど、ハンドルがついているところを見るとまさか手動?
ハンドルをクルクル回して使うのでしょうか?
なんだか大変そうなのですが、そのうち感想を聞かせてください。

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