--Katabatic Wind-- ずっと南の、白い大地をわたる風

応援していた第47次南極地域観測隊は、すべての活動を終了しました。
本当にお疲れさまでした。

長頭山

2006-12-08 | 南極だより・自然
<この記事は12月9日に書いています(あ、0時を回り12月10日になってしまいました)>
昨日は仕事が遅くなったので、一緒に仕事をしていたメンバーと軽く食事に行きました。
食べたのはもつ煮込みうどん。
この店のもつ煮込みは塩味で絶品なのです。
臭みを消すために使われているのはニンニクで、食べたあとは自分でも分かるくらいニンニク臭いのです。
帰りがけに飲酒の検問で止められました。
「これに息をかけてください」との言葉に、お酒を飲んでもいないのに、かなり動揺してしまいました。
今日も家で仕事をして、夕方から昨日の分のこの記事を書き始めたのですが、嵌ってしまいました。
面白かったです。
それでは、渡井さんからの南極だよりです。
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2006年12月7日(木) 曇り 長頭山


ラングホブデのランドマークは長頭山だ。
ドーム状の山容は昭和基地のある東オングル島でも高台に登ればみることができる。
が、長頭山は一つのピークから成っているのではなく、おおよそ3つのピークから成っている。
複雑な形をしていることから見る場所によって形を変える。
その形成過程には氷河変動と環境変動が大きく関わっているようだ。

ピークはその中の真ん中の山にある。
海岸線から奥まっているところにあるので、頂上まで行くには1時間から1時間半ほどかかる。

先日訪れた時には北側の小湊からc340の山の東側裾をトラバースして間の谷に入った。

このまま谷を西進し、今度は東に折り返すような感じで尾根にのれば楽であるが、時間もかかるので北側斜面中ほどにあるルンゼを詰めることとした。
幸い岩の凸凹が結構あるので手を使うこともほとんどない。

水くぐり浦から頂上を目指すことも可能である。
こちらからと最初の登り始めが急であるのと、距離が長くなるのであるが、登り返しのないこと、足場がしっかりしていることから1時間ほどで登れるようだ。

頂上からはシェッゲと同様、360度の展望が広がる。
ドラム缶回収オペの際訪れた時には、気温が高めだったこともあって、いつまでも飽きることなく眺めていられた。


#東オングル島を望む
海氷の真ん中にあると頼りないくらい


#頂上からスカルブスネス方面

-----12月7日本日の作業など-----
・O3変動解析
・除雪(1夏前 using AVANCE)
・CO2, CH4, CO, O3濃度分析システムチェック
・エアロゾルゾンデ深夜放球待機

<日の出日の入>
日の出 なし  
日の入  なし  
<気象情報>
平均気温-0.3℃
最高気温2.4℃(1442) 最低気温-2.4℃(0420)
平均風速7.5m/s
最大平均風速21.1m/s風向NE(0930) 最大瞬間風速27.2m/s風向NE(0941)
日照時間 3.2時間

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長頭山
赤の実線は今回登ったルート、破線は楽なルート(?)
(私が文から読み取ったので合っているかは不明)

長頭山は昭和基地から容易に見えることから、今までもなんども文中には出てきていました。
しかしその全貌は「南極だより」で今まで明かされることはなかったのでした。
有名でいて、よく分からないところのひとつでした。
よく分からないと言っても、どんな形なの?とか、どんな風景なの?とか、そういう疑問しかなく、ここにたくさんの秘密が隠されているとは思いませんでした。
いろいろ調べている中で、最も興味深かったのは極地研NEWS no.173 極地豆事典「地形が語る南極の氷床変動と環境変動の歴史」でした。
47次越冬隊員の三浦さんによって書かれたものです。
三浦さんは、今次の大型プロジェクトのひとつである「後期新生代の氷床変動と環境変動(リッツオ・ホルム湾における海底堆積物の掘削)」(第47次南極地域観測実施計画の概要)のリーダーです。
海底からも、長頭山の地形からも「氷床変動と環境変動」が読み取れるのですね。
この長頭山の記事は読んだだけでは知識不足の私にはすぐには理解できません。
ということで、例によって読み解くために渡井さんからもらった写真を使ってみました。

#写真をクリックすると大きくなります
まずは、右に長く伸びている標高の低いところがどうしてできたのかについてです。
今は露岩域となっているこのラングホブデの長頭山を覆うほど南極氷床が拡大していたことがあり、氷床が移動しながら岩盤や堆積物を引きはがすこと、それを運ぶことによって地面が少しずつ削られてできたと書かれています(※氷床は南極大陸の真ん中から海のほうへ移動し氷山となって海へ流れ出ます)。
岩盤を削りながら移動している?
そういえば、これって底面氷のこと?と思い当たります。
「ハムナ氷瀑」で紹介しましたが、白岩孝行:氷河のページには「ハムナ氷瀑の右手の露岩に露出する大陸氷床の底面氷。上半部は通常の氷床氷であるが、下半分の約7mは氷床と基盤岩との相互作用の結果、基盤岩から取り込まれた岩石を含み、 また、気泡が少ない透明氷であるため黒く見える」(底面氷について書かれているページ)と書かれており、地形を見ることと、実際に削られた岩盤を調べることと両方からアプローチしていることも分かりました。

次には、写真では正面になっている急な斜面のことです。
近くで見ると滑らかな斜面なのだそうですが、これはひとつめに書いた時期よりもあとに小規模の氷床拡大があって浸食されたものと書かれています。
黒くなっているのは、氷床が運んできた岩屑が残っているからで、黄緑の破線で半分囲んだ赤い岩盤が見えているところは、岩屑が崩落してしまったところなのだそうです。
斜面の下方では黒い岩屑のついた岩盤は、氷床の後退後に海が侵入してきたこと、土地の隆起によって海水の高さが低くなったことで、海浜砂に覆われています。
その海浜砂の上に先ほどの崩落した岩屑があると書かれています。

#小湊の貝の化石
渡井さんからも写真が届いていますが、岩屑を覆う海浜砂に含まれる貝の化石の年代測定の結果から、急斜面を作った氷床の再拡大時期は少なくとも4万年前より古いこと、海浜の隆起や岩屑の崩落は1万年前以降だと分かってきたということでした。

大昔の環境の変動といえば、南極氷床の掘削から分かるというのが有名で(私が無知だっただけかもしれませんが)、地形からも分かるということを考える間もありませんでした。
こうやって露岩という目に見える場所から環境の変動が分かるなんて、すごく面白いと思いました。
そして、あの大きな氷床の下で、氷河の下で、少しずつ少しずつ歴史を刻んでいると考えると、南極は、いえ地球は想像を絶するような悠久のときを生きているのだと思うのでした。

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